Interview

松本若菜、映画『愚行録』でキーマン。”含みのある”難役に挑み新境地へ

松本若菜、映画『愚行録』でキーマン。”含みのある”難役に挑み新境地へ

犯人が捕まらないまま1年が過ぎた一家惨殺事件に興味を持った週刊誌記者。複数の証言者から話を聞いていくうちに、殺されたエリートサラリーマンや、その美しい妻の過去の“愚行”が次々と露呈していく。その真相は二転三転し、他人を語っていた証言者たちの本性や“愚行”をも露わになっていく……。直木賞候補となった傑作ミステリーを原作に、ポーランド国立映画大学で演出を学んだ石川慶が長編監督デビューを飾った映画『愚行録』。“殺された妻”であり、物語のカギを握る〈夏原友季恵〉を演じた松本若菜に、難役に挑んだ心境や、石川監督独特の演出法などを伺った。

取材・文 / 大谷弦 撮影 / 三橋優美子
ヘアメイク / 前原享羽子(emu)
スタイリスト / 川部優花


まさにそれが狙い。10人中8人が悪い女だと思ったとしても、あとの2人は『そんなに?』って思える

映画を観させていただきましたが、〈夏原〉は非常に印象深いキャラクターでした。

原作小説と映画の脚本を比べると、〈夏原〉のイメージが結構変わっているかもしれません。原作のほうは主婦になってからの〈夏原〉も多く描かれているんですけど、映画では大学っていう狭いコミュニティの中での〈夏原〉像がメインになっています。

劇中で〈夏原〉が通っている大学では付属校から上がってきた生徒が“内部生”、大学から入ってきた生徒は“外部生”と呼ばれ、その間には見えない壁がある。〈夏原〉は外部からの入学ですが、その美貌と育ちの良さで内部生に“昇格”しているという設定です。

〈夏原〉は女性としての魅力もあると思いますけど、すごく気を遣うし、空気を読んで、その空気を自分のものにして活かすことができるから、誰からも人気がある。そういう意味ではガッツのある女性だと思うんですよ。

松本さん自身も共感できる部分はありますか?

私は面倒くさいことが嫌いなタイプなので、そういう女性同士のマウンティングみたいなことがあったら「あぁ、面倒くさい」って、そこから離れてしまうと思います(笑)。私の学生時代は、仲の良い友達はいるけど、どこかのグループに属してるっていう感覚はなかったですね。私だけじゃなくて、学校全体がそういう感じでした。だからこそ、この映画に出てくるような大学が実際にあるって聞いて怖くなりました。そういう学校に行かなくて良かったって思いました(笑)。

劇中で〈夏原〉は“悪い女”とも言われますが、腹黒いわけじゃなく、無邪気に行動をしてるだけのようにも感じます。

まさにそれが狙いだったんです! 撮影前から石川監督と「〈夏原〉のことを、10人中8人が悪い女だと思ったとしても、あとの2人は『そんなに悪いのかな?』って思えるキャラクターにしよう」って話し合ってたんです。〈夏原〉を“悪い女”として演じるのに、目線の動きだとか、語尾を悪くするとかで、嫌な女のイメージにするということだけでなく、何を考えているかわからないような雰囲気を出したくて、観客の方に「あれ?」って思わせるような笑顔とか、含みを持たせた演技にチャレンジしました。

ナチュラルだけど、ある面では悪いことをしてるような。

この作品の中で、〈夏原〉はそれぞれの回想シーンでしか存在してないんですよね。中村(倫也)さんが演じた〈尾形〉の中では、すごく気も遣えて、素晴らしいパーフェクトな女性。臼田(あさ美)さんが演じた〈宮村〉からしてみたら、「あんな悪い女はいない」ってなる。だからこそ、本当の〈夏原〉はこういう人っていう芯となる部分はあえて作らずに、それぞれの登場人物から見た“夏原像”を演じていました。撮影中は大丈夫かなって迷った部分もあったんですけど、仕上がりを観て「〈夏原〉ってこういう人だったんだ」って、演じた私もあらたな発見があるぐらいでした。

石川監督の演出はいかがでしたか?

撮影に入る前に、石川監督と3回ぐらいミーティングさせていただいて、キャラクターを掘り下げていったんです。それでも〈夏原〉に関しては監督もずっと悩まれていて。撮影が始まって現場で段取りしてからも「うーん、〈夏原〉どうしよう」って考えて、その場でいろいろ試行錯誤しながら進めていったんです。そういう撮影方法は初めての経験だったので、すごく新鮮でした。

〈夏原〉が感情を表に出すシーンは衝撃的でした。

あのシーンは、この映画の中で、よりあきらかに〈夏原〉の意志が出るシーンだと思っていて、台本を読んだときから大好きでした(笑)。それこそ、〈夏原〉はずっと“思い出の中の人”だったから、私の中で感情移入がすごく難しかったんです。でも、あのシーンの〈夏原〉の行動はすごく理解できたんですよ。普段は感情を隠している人が、初めて本心を見せた瞬間だったと思うんです。そのあと取り繕って「全然平気」って言っちゃうあたりが人間らしいなって思って、〈夏原〉のことを愛せたんですよね。

松本さんにとって、今回の〈夏原〉役は大きなものとなりましたか?

私は『仮面ライダー電王』で女優デビューさせていただいたんですけど、そのイメージが本当に強くて。ずっと覚えていただいていることはすごく嬉しいんですけど、女優としてそれで良いのかなって悩んだこともあったんです。最近は、それはそれとして、あまり考えないようにしてたんですけど、この『愚行録』と出会えて、ようやくあらたな一面を見せることができたんじゃないかって思います。純粋に、すごい作品だなって思いますし。

観た人から感想が聞きたくなる作品ですよね。

それは思いますね(笑)。原作が好きな方の感想も聞きたいですし。また、妻夫木(聡)さんや満島(ひかり)さんも、いままでとちょっと違う印象の役を演じてらっしゃるんです。それぞれの俳優さんのファンの方たちの感想も聞きたいですね。映画は凄惨な事件を扱ってますけど、自分たちの身近に起きてもおかしくないそれぞれの“愚行”が描かれているので、誰かに感情移入してもいいし、俯瞰(ふかん)で「こういう人間っているよね」って観るのもいいと思うんです。でも、どこかで「これって私もそうだな」って思った瞬間から、背筋がゾクゾクしてくるんですよね。

本作のキャッチコピーにある「仕掛けられた3度の衝撃」も、本当に衝撃的でした。

3度どころか10度くらい驚きますよね(笑)。映画冒頭のシーンから衝撃ですよね。あのような嫌らしさも含めた人間性っていうのがすごく怖いし、ずっとドキドキします。私、脚本も読んで、映画にも出てるのに、試写を観ながら驚きっぱなしでした(笑)。そういう映画ってあまりないと思います。

〈夏原〉が悪女なのかどうかも、観客それぞれにどう感じるか、ですね。

ぜひ感想を聞かせていただきたいです。私、今年でちょうどデビュー10周年なんです。このタイミングで『愚行録』に携われたのが、私の中では何かやっぱり必然的な出会いだったんじゃないかなって思ってますし、すごく自信にも繋がってます。そんな作品を、これからみなさんに観ていただけると思うと感無量ですね。

松本若菜

1984年生まれ、鳥取県出身。
2007年に『仮面ライダー電王』(07~08/EX)で女優デビュー。2009年の映画『腐女子彼女。』(兼重淳 監督)で初主演を務め、多数の映画やドラマで活躍中。近年の主な出演作に【映画】『駆込み女と駆出し男』(15/原田眞人 監督)、『GONIN サーガ』(15/石井隆 監督)、主演作『×××KISS KISS KISS』(15/矢崎仁司 監督)、『ディアーディアー』(15/菊地健雄 監督)、『無伴奏』(16/矢崎仁司 監督)、『屋根裏の散歩者』(16年/窪田将治 監督)などがあるほか、2017年は本作以外にも【映画】『母 小林多喜二の母の物語』(2月25日公開/山田火砂子 監督)、『コスメティックウォーズ』(3月11日公開/鈴木浩介 監督)、『ケアニン~あなたでよかった~』(初夏公開/鈴木浩介 監督)が公開待機中。また、【テレビドラマ】『稲垣家の喪主』(3月18日放送/WOWOW)、【舞台】『わらいのまち』(3月30日~上演/宅間孝行 演出)にも出演が決定している。
オフィシャルサイト

映画『愚行録』

2017年2月18日全国公開

エリートサラリーマンの夫〈田向浩樹〉と美人で完璧な妻〈友季恵〉、そしてかわいい一人娘。絵に描いたように幸せな家族を襲った一家惨殺事件は、犯人が捕まらないまま1年が過ぎた。 週刊誌の記者である〈田中武志〉は、改めて事件の真相に迫ろうと取材を開始。殺害された夫の会社同僚〈渡辺正人〉、妻の大学同期だった〈宮村淳子〉、そして〈淳子〉の恋人であった〈尾形孝之〉、大学時代の〈浩樹〉と付き合っていた〈稲村恵美〉と、それぞれにインタビューを敢行していくが、関係者たちの証言から浮かび上がってきたのは、理想的と思われた夫婦からはかけ離れた実像と、証言者たちの思いもよらない姿だった。こうして取材に打ち込んでいく〈田中〉であったが、自身は、妹〈光子〉が育児放棄の疑いで逮捕されるという問題を抱えていた……。

【監督・編集】石川慶
【原作】貫井徳郎(創元推理文庫刊)
【脚本】向井康介
【出演】
妻夫木聡 満島ひかり
小出恵介 臼田あさ美 市川由衣 松本若菜 中村倫也 眞島秀和 濱田マリ 平田満
【音楽】大間々昂
【配給】ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野
オフィシャルサイト

©2017「愚行録」製作委員会


原作本 『愚行録』
愚行録

貫井徳郎 (著)
東京創元社

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