シミルボンの本棚  vol. 11

Interview

早大漫画研究会幹事長が推す漫画はやっぱりスゴかった!(前編)

早大漫画研究会幹事長が推す漫画はやっぱりスゴかった!(前編)

漫画家の弘兼憲史氏やさそうあきら氏、ゲームデザイナーの堀井雄二氏――日本が誇るサブカルチャー、漫画やゲームを支える人材を輩出してきたのが早稲田大学漫画研究会(早大漫研)。早稲田大学の数あるオタク系サークルのうちでも、60年以上の歴史を持ち、老舗サークルのひとつだ。そんな早大漫研を今支えているのはどういう人たちなのか。代表者である幹事長らに、これまでの漫画を中心とした読書人人生や若いオタクの今を聞いた。


集まっていただいた早大漫研の方々。

「オタク友達」を求めて早大漫研へ 『げんしけん』への憧れも

今日はお忙しい中ありがとうございます。今回は「読書人」にフォーカスした企画なので、まずそれぞれ漫画を読み始めたきっかけと早大漫研に入ったきっかけをお伺いします。

犬飼徹さん(以下犬飼) 前々幹事長の犬飼です。昔から漫画が好きで小さい頃は「週刊少年ジャンプ」や「コロコロコミック」を読んでいました。それからもっといろいろな作品を読みたいと思い、ブックオフとかに行っていろいろな漫画を買いあさって今に至る、という感じです。漫研に入ったのは、やっぱり趣味を語れる友達がほしいなと思って。自分の一番の趣味が漫画なので、趣味の合う友達ができたらなという期待がありました。

向山航さん(以下向山) 前幹事長の向山です。僕の場合は、物心ついたときには家に『ドラえもん』が何巻かあって、それを読んだのが漫画に興味を持ったきっかけ。あとは姉の影響。たまに姉の部屋に勝手に入って漫画を読んでいました。

漫研に入ろうと思ったのは?

向山 4歳から高校までずっと柔道をやっていたのですが、全然周りに漫画好きな人がいなくて。漫画好きと知り合いたかったので、大学では柔道はサークルだけにして、漫研にも入りました。

織笠愛生さん(以下織笠) 現幹事長の織笠です。僕が漫画好きになったのは親の英才教育の賜物かと。「ちょうどいい年頃」のときに、「ちょうどいい感じ」の漫画を手に届くところに置いてくれていて。どんな感じで興味の矛先をブックオフの棚に向ければいいのかを教育されたのでしょうね、きっと。

向山 親が漫画好きだったの?

織笠 そうですね。『金色のガッシュ!!』『からくりサーカス』『ONE PIECE』『BLEACH』とかは全巻お父さんが買い揃えてくれて。助かるわ~ほんと。

織笠さんが早大漫研に入った理由は?そこまで英才教育を受けていたらわざわざ漫研に入らなくても漫画を楽しむ環境としては十分なのでは?

織笠 高校まで周りにオタクがいなくて、誰とも漫画のことをしゃべれないから悲しく一人で帰って、そのままブックオフに行って時間をつぶす…みたいな負のスパイラルを繰り返していたんですね。でもさすがに早稲田の漫研にはしゃべれる奴がおるやろうと思って。同士を求めて、ですね。『げんしけん』(注1)みたいなこともあり得るのではないかと。

(注1)木尾士目の漫画作品。大学のオタクサークルを舞台にした日常をコミカルに描く漫画。様々なタイプやジャンルのオタクが登場する。

好きな漫画やジャンル、三者三様

早大漫研に集まった、同世代。しかし過去の経験などの違いから、好きなジャンルやお薦め作品は三者三様。それぞれの熱い思いとともに語ってくれた。

自己紹介のあとは作品トークへ

みなさんの今のおすすめジャンル、2016年に面白かった作品は何でしょうか。

織笠 僕はジャンル問わずなんでも読むんですけど、やっぱりアクションとかファンタジーは楽しいですね。今年は『圧勝』『秘密のレプタイルズ』が面白かった。

犬飼 『堕天作戦』もいいよね。

織笠 『堕天作戦』は『ファイアパンチ』より先に『ファイアパンチ』みたいなことをやった作品ですね。

犬飼 『ファイアパンチ』はつまんねーよ。

織笠 なにを言っているんですか、2巻を早く読んでくださいよ!

犬飼 読んだわ。

織笠 なぜこの文学的試みがわからない…!!

向山 俺を挟んで揉めないでよ。


ファイアパンチ

ファイアパンチ

著者:藤本タツキ
集英社

織笠さん、『ファイアパンチ』のおすすめポイントは?

織笠 まず1話の疾走感がやばいんですよ。「そこからの展開が云々」とか前々幹事長にグチグチ言われるんですけど…

犬飼 つまんない。

織笠 で、2巻でトガタっていうキャラクターが出てくるんですよ。そのトガタが映画を撮り始めようと言い出すんです。主人公のアグリ、こいつを主役に映画を撮ろうと。そこで主人公に見開き1ページで「俺が主人公になる」って言わせるんですよ。主人公なのに「自分が主人公だ」って言わせてるんですよ?つまり小説内における小説内小説みたいなものの、漫画版。しかも視覚効果という意味では小説内小説よりもはるかにわかりやすい。 漫画における主人公なのに、作中の同じストーリーの中を歩んでいるはずが、カメラの、トガタのフィルターに通されるだけで、アグリの主人公性が揺らぐんです。アグリはトガタの求める主人公像を強制されるし、それで葛藤する部分もあるんですけど。

「主人公性が揺らぐ」って表現、面白いですね。

織笠 普通、読者って主人公ってハッキリ言われなくても、こいつが主人公なんだって無意識に自覚してますけど、その自覚は一体どこから来てるんだろうなと考えるきっかけになるんじゃないかなって。あとアクションも絵もうまいし。もう3点ぞろいですね。凄い漫画だと思います。

そんな『ファイアパンチ』推しの織笠さんの「人生の1冊」は何でしょうか。

織笠 「新世紀エヴァンゲリオン」が精神の根幹なんですけど…

犬飼 それ、アニメじゃん。

織笠 はい。なので恋愛観のほうでいこうかなと。で、この2冊を持ってきました。


すんドめ

すんドめ

著者:岡田和人
秋田書店



惡の華

惡の華

著者:押見修造
講談社



『すんドめ』と『惡の華』はどんな風に恋愛観に影響を?

織笠 歴代幹事長でメンヘラなのは僕だけで、周りの男性どもはみんなEXILEみたいな人たちなんですよね。つまり自分から媚びへつらわない。一方で僕はどうあがいても女性に媚びる生き方しかなかったみたいな感じで。なんで僕はこんなEXILEたちとは違うんだろう、同じ男なのに。っていう感じになっていたところで、この漫画ですよ。

犬飼 キモいな。

織笠 媚びへつらっている男でもモテるのかな、みたいな。

犬飼 それ、自己投影してるよ。

織笠 ですね。実際に読み返してみると、これは僕みたいな男だった作者たちの自己願望の投影なのかもしれないと思います。

犬飼 そうだろ。

向山 絶対そうだろ。

織笠 たとえ願望でしかなくても、俺と同じような虐げられてきた男がこんなにいたんだっていう仲間意識が芽生えて「僕は一人じゃない」って嬉しくなったんです。

犬飼 漫画読んで「一人じゃない」ってヤバいな。

では次は向山さん。2016年のおすすめは『バトルスタディーズ』ですね。


バトルスタディーズ

バトルスタディーズ

著者:なきぼくろ
講談社



向山 これ、元PL学園の高校球児が描いた漫画なんですよ。なかなかこういう甲子園出場者が描いた漫画は見たことがなくて。PL学園は不祥事で野球部がなくなったんですけど、それでもいまこれをやっているということがすごく面白い。フィクションって一応書いてありますが作者の高校時代の実話が混ざっているみたいで。結構体罰のことなんかも描かれていて。僕、高校時代に柔道やっていたんで、結構通じるものがありました。洗濯物とか日常生活のルールとかもすごく厳しくて。一年生は一番下だから、先輩と会ったら絶対挨拶するとかなんとか、先輩のいうことは絶対みたいな。水を飲んじゃいけないとか。

向山さんの柔道部も厳しかった?

向山 僕の高校はここまで厳しくなかったんですが、部活動での暴力や体罰に批判が集まる今、この厳しさを連載するのかと驚きました。昭和の練習を現代風に描いているのもすごく面白いですよね。もちろん純粋に野球漫画としても面白いですよ。走塁の仕方とか、バッティングの仕方とかも細かく描いてあるんで。

そんな向山さんの“人生の一冊”は何でしょうか。

向山 『ブラック・ジャック』です。病院とかにペーパーコミックス版で置いてあったのを小学校の時に読んだんですけど、1話完結なんで、どこから読んでも面白くてハマりました。小学生から大人まで楽しめるのがいいですよね。小学生の頃に読んで、大人になった今また読むとちょっと話の内容とか見方が変わったりして。ああ、やっぱりすごい深いこと言ってたんだなとか。手塚治虫は天才だったんだっていうことがとてもよくわかります。20ページぐらいに深い物語をまとめあげるというところもすごいです。


ブラック・ジャック

ブラック・ジャック

著者:手塚治虫
秋田書店



では最後に犬飼さん。

犬飼 最近はちょっとアングラっぽいのが好きです。今はギャンブルものの『嘘喰い』がすごく好きで。あと『カイジ』などを描かれた福本伸行先生の漫画も好きですね。結構グロいのとか、ギャンブルものとかダークなものを好んで読みます。2016年に一番面白かった漫画もやっぱり『嘘喰い』です。中でも「エアポーカー編」が今まで読んだギャンブル漫画の中でも一番すごい。水中で酸素をかけて戦って、負けたら水中で死ぬっていうギャンブル戦なんですが、話の密度も水中の泡の描き込みも週刊連載とは思えないくらい濃い。とにかくただただ面白いから面白かったとしか言いようがないですね。


嘘喰い

嘘喰い

著者:迫稔雄
集英社



犬飼さんの人生を左右した漫画は?

犬飼 福本伸行先生の『天 天和通りの快男児』っていう麻雀漫画です。実は有名な麻雀漫画の『アカギ』ってこの『天』のスピンオフ作品なんです。『天』ではアカギの主人公、赤木しげるの老年期が描かれます。赤木は最後アルツハイマー病になって麻雀がわかんなくなっちゃうんですよ。で、明日には自分が自分でなくなる前におれは死ぬと決意して自殺という形での安楽死を選ぶんです。その死の前に赤木はそれまで戦った仲間や敵を呼んで、一人一人と対話をするんですが、それが単行本3巻分ぐらい続く。麻雀漫画なのに3巻分ぐらい対話だけっていう。それって異例のことですよね。でも全然つまらなくなくて、むしろそこが全18巻のうちで一番好き。最後の赤木の台詞がほんとかっこよくて、俺もこういう風に生きようと思いました。


天 天和通りの快男児

天~天和通りの快男児

著者:福本伸行
竹書房



取材・文 / マンガナイト

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