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“記憶すべき”90年代J-POPの宝物、L⇔Rの全音源を改めて検証する

“記憶すべき”90年代J-POPの宝物、L⇔Rの全音源を改めて検証する

今年デビュー25周年を迎えたL⇔R。その全アルバムがリマスタリングされ、レーベルの枠を越えて先ごろ同時リイシューされた。昨年末に、メイン・ソングライター黒沢健一の逝去が報じられ、相次ぐL⇔R関連のリリースにも感傷的な思いにとらわれるファンは少なくないだろうが、むしろそれだからこそ彼らの音楽を長く聴き続けるべきだろう。90年代に登場した“記憶すべきバンド”としてその音楽的成果を、ここでは彼らにも大いに影響を与えた洋楽の歴史的文脈と当時の同時代的潮流を踏まえながら、岡村詩野氏が詳細に解説し、その音楽的奥行きを紹介する。 

文 / 岡村詩野


  黒沢健一は最初からある種の裏方指向を持ったソングライターだった。
 健一に最初に会ったのはファースト・フル・アルバム『Lefty in th Right』のリリースに際しての取材の場だったと思う。当時は60年代や70年代の作品が堰を切ったようにCD化されていた頃。入手困難の音源を聴けるようになった喜びを、目を輝かせながら語る横顔は、ミュージシャンというよりも、愛好家のそれであり、研究者のそれでもあった。そして彼は言う。「僕、歌うのも好きだけどいい曲をたくさん作りたくて」。

 その時に思い出したのが“ブリル・ビルディング”のソングライターたちの在り方だった。キャロル・キング/ジェリー・ゴフィン、バリー・マン/シンシア・ワイルらに代表される50年代から60年代にかけて活躍したアメリカの職業作詞作曲家たち。歌い手に応じた、言ってみればクライアントを最初から視野に入れた曲作りに、健一はどこかで憧れていたのかもしれない。実際、ポリスター・レコード所属時代、とりわけ『LAUGH+ROUGH』くらいまで、健一はL↔︎Rというバンドに曲を提供する感覚だったようなところがある。あるいは、自分が歌うのに、仲間がそれを演奏するのに、なかなか追いつかないくらいに難儀なアレンジやコード進行に埋没してしまいがちだったと言ってもいいだろうか。

 だが、L↔︎Rはそれをなんだかんだで実践できるバンドでもあった。一つには岡井大二や、牧村憲一という“大人”がデビュー当時からプロデューサーとしてしっかりバック・アップしていたこと。特に四人囃子でのキャリアもあった岡井はサポート・ドラマーとして最後までバンドの一員であり続けた。彼らの理解がなければ、まだ20代前半なのに50年代や60年代の職業作家的な資質を持つ健一を表舞台に引き上げることはできなかったかもしれない。

 そしてもう一つは、健一が類い稀な歌唱力と声量の持ち主だったことだ。彼らが活動を開始した頃は渋谷系音楽の絶頂期で、社内レーベルこそ違えど(L↔︎RはWiTS)、同じポリスターにはリスナーとしての知識やセンスも豊富なフリッパーズ・ギターやカジヒデキのブリッジもいた(ゆえにフリッパーズ周辺にいた嶺川貴子が加入する流れもできた)。だが、健一は彼らや他の同系ミュージシャンの中では最初から群を抜いて歌える人だった。いかにソングライターとして難題をもう一人の自分につきつけても、それをポップスとしてわかりやすく表現できてしまう包容力が彼のボーカルにはあったのである。

 ポニーキャニオン移籍後は健一のそうした歌い手としての力量を生かすような曲が一気に増えていく。耐久性のあるフィジカルな音作り、多少攻撃的な演奏になっても健一の声は決して負けない。加えて、声質自体ソフトだから“張る”感じには決してならず、持ち前のポップス指向が後退して聞こえることもなかった。「HELLO,IT’S ME」「KNOCKIN’ ON YOUR DOOR」といったヒット曲が生まれたのは、どういう人が歌いそれを聴くのかを意識して作れる職人性と、それを体現できる表現者としての器という両者のバランスが頂点でようやく拮抗できる状態になったことを証明してもいるだろう。

 ポップスとはポピュラーであってこそのものだ。そういう意味で「KNOCKIN’~」をヒットさせたソングライターとしての健一はその役目をキチンと果たしたわけだが、表現者として、バンドとして、その頃の彼らが幸せだったかどうかはわからない。ただ、ビーチ・ボーイズやデイヴ・クラーク・ファイヴの話をして目を輝かせていた最初に会った時の健一を筆者は今も時々思い出すのみだ。

『L』

 91年11月25日にリリースされたファースト・ミニ・アルバム。今回のリマスター再発盤全作品に封入されているプロデューサー、岡井大二によるライナーノーツ(インタビューの聞きおこしをまとめたもの)にも書かれているが、当時筆者も本作を最初に聴いた時、2曲目「Love is real?/想像の産物」にまず心を動かされた。そこには曲そのものの良さ以上に、録音に対する強烈な主張があったからだ。ハーパース・ビザール『フィーリング・グルーヴィー』、ミレニウム『ビギン』といった、室内作業を半ば偏執的に突き詰めて制作された60年代後半のポップスを模した曲を書こうとするソングライターは決して少なくない。だが、その時代のレコーディング技術への強い関心を伺わせる音処理を現代のポップ・ミュージックの枠組みの中で指向する若者など当時の日本にはまだほとんどいなかった。それを実感させてくれたのが「Love is real? 想像の産物」。わけてもドラム、ボーカル、鍵盤のエコーを生かした高音の立体的な広がりはただごとではない。

 フィル・スペクター作品のような「Bye Bye Popsicle/一度だけのNo.1」は健一と秀樹による共作、中期10ccを思わせる「PACKAGE…I missed my natural パッケージ」は秀樹作詞、健一作曲。それ以外は健一の作詞作曲。ドラムの岡井大二を含め、管楽器やシンセなどを担当するサポート・メンバー5名が参加しているが、演奏はもちろん健一、秀樹、木下裕晴の3名が中心だ。目標は大瀧詠一と山下達郎のスタジオ作品。今なおそうひそやかに宣言しているような1枚だ。

ポリスター盤 PSCR-9284 ¥2,000(税別)
1.Bye Bye Popsicle 一度だけの No.1
2.Love is real? 想像の産物
3.PACKAGE… I missed my natural パッケージ
4.A GO GO
5.Northtown Chiristmas


『Lefty in the Right〜左利きの真実』

『L』から僅か5カ月後の92年4月25日に発表されたファースト・フル。その『L』に収録されていた3曲がここでも聴けるが、左右チャンネルを逆にしたような別バージョンが選ばれている。ひと月後の5月25日には「LAZY GIRL」がシングル・カットされた。

 録音技術をじっくり耳で楽しむ側面と、フックの効いたメロディや粋なアレンジにワクワクさせられる側面。その両者が素晴らしいバランスで成立しているのが本作で、筆者は今もってしても彼らの最高傑作と認識する。しかも、一つ一つの曲に明確なテーマがディレクションされているため、ただいい曲の寄せ集めになっていない。中でも改めて注目しておきたいのは山下達郎をお手本にしたようなボーカル多重録音で聴かせるドゥーワップ・スタイルの「With Lots of Love Signed All of Us/ロッツ・オブ・ラブ」。黒っぽさをストレートに見せることは殆どなかった彼らのポップスとしてのブラック・ミュージック音楽指向が垣間見える小品ながらも重要な1曲だ。

 子役俳優の経験があり、カヒミ・カリィとファンシー・フェイス・グルーヴィー・ネームというユニットでオムニバス『Fab Gear』にも参加していた嶺川貴子がコーラスと鍵盤で参加。それをきっかけに正式メンバーとなったことでガール・ポップの華やいだ風合いも加わり、ポップスとしての敷居が低くなっているのもいい。基本は健一と秀樹の名前で細かく分かれてクレジットされているソングライティングだが、「Holdin’ Out[You & Me together]/ホワッツ・ラブ」のみ“LR”名義になっている。

ポリスター盤 PSCR-9285 ¥2,800(税別)
1.Lazy Girl
2.7 Voice
3.Bye Bye Popsicle 一度だけの No.1 [version] 
4.Holdin’ Out (You & Me Together) ホワッツ・ラブ
5.Love is real? 想像の産物 [version]
6.Motion Picture
7.I Cant’ Say Anymore アイ キャント セイ
8.PACKAGE・・・ I missed my natural パッケージ [ALTERNATE MIX]
9.With Lots of Love Signed All Of Us ロッツ オブ・ラブ
10.[Fresh Air For My] Dounut Dreams ドーナッツ・ドリームス


『LAUGH+ROUGH』

前作から今度は7カ月で届いたセカンド・フルで92年11月16日発売。これで1年の間に2枚のフルを含む3作品がリリースされたことになる。10代の頃から健一が書いていた曲がまだこの時点では多数あったとはいえ(先行シングルで、本作ではボーナス・トラック扱いの「(I Wanna)Be With You」は健一がデビュー前にヤマハのコンテストに出た時の曲)、アレンジ、音決め、録音に時間をかけるタイプのバンドにしては驚異的なスピードだった。

 しかしながら、本作はやや肩に力が入ってる印象もあり、実際に「RIGHTS AND DUES」のコラージュ的アレンジなどは過剰とも思える懲りよう。もちろん聴いていて刺激的だが、健一の人なつこいメロディが素直に生かされていないのは何とも歯痒い。1曲目のリプリーズが本編最後に用意されていたり、9曲目と11曲目が連作になっていたりと構成もこだわっているが、一方で彼ららしいデイヴ・クラーク・ファイヴ「I CAN’T STAND IT/気分は限界」の小気味のいいカバーは埋もれてしまっているし、ガレージっぽい攻撃的な演奏の曲との距離をとり切れていないのも惜しまれる。嶺川貴子がソングライティングに加わりリード・ボーカルもとった「(too many flowers and mirrors)IN MY ROOM」は、その後の彼女のソロ作の前哨になるような良質な音響ポップだが、この並びの中ではやや浮いてしまって聴こえたりも…。

 とはいえ、1曲1曲の質は高く、頭で描いたアイデアを完全に具現化することができるようになったことを証明してもいる。それだけに聴いていて痛々しい作品だ。

ポリスター盤 PSCR-9286 ¥2,800(税別)
1.LAUGH SO ROUGH
2.YOUNGER THAN YESTERDAY 迷宮の少年たち
3.BABY BACK
4.PUMPING ’92 素敵なパンピング
5.RIGHTS AND DUES
6.(too many flowers and mirrors)IN MY ROOM イン・マイ・ルーム
7.WHAT “P” SEZ? はっきりしようぜ
8.I CAN’T STAND IT 気分は限界
9.PASSIN’ THROUGH pt.1 ’73 追憶の日々
10.ONE IS MAGIC(and the other is logic) 魔法と理屈
11.PASSIN’ THROUGH pt.2
12.LAUGH SO ROUGH(reprise) [BONUS TRACKS]
13.(I WANNA)BE WITH YOU ビー・ウィズ・ユー


『LOST RARITIES』

デビュー・ミニ・アルバム『L』に、未発表曲を合わせた11曲入りとして93年6月25日にリリースされた。目玉は関係者にのみプロモーションとして配られていたモノラル・ミックス集『R』から2曲「BYE BYE POPSICLE/一度だけのNO.1」「NORTHERN CHRISTMAS」が含まれていること。まだゴツゴツと骨が剥き出しになったままのこれらモノラル・バージョンを聴けば、彼らがその後いかに“化粧”を施して『L』へと辿り着いたかがよくわかる。今日、モノラル・バージョンやデモなどを追加してのデラックス・エディション再発は珍しくなくなったが、当時、プロデューサーの岡井大二や牧村憲一ら“大人たち”のディレクションもあっただろうにせよ、彼らは20年以上前に、それも活動初期の段階でそれをすでにやっていたことは特筆に値するだろう。

 加えて本作の大きな特徴は、架空のラジオ番組仕立てになっていることだ。番組テーマ曲を模したオープニング曲に始まり、曲と曲の間にジングルのような短い英語ナレーションが挿入されるようなアイデアに至るまで、まだラジオが何よりの娯楽だった時代へのオマージュのような構成には素直に拍手を送りたくもなる。無論、大瀧詠一の『ゴー・ゴー・ナイアガラ』あたりを彼らが視野に入れていただろうことは想像に難くなく、さらに番組テーマ風のオープニング曲が山下達郎もかくやのドゥーワップであることからも、日本のロック、ポップスの黎明期から時代を引っ張ってきた大先輩たちへのリスペクトが明確に表出された1枚と解釈することもできるだろう。こういう作品を作らせたら水を得た魚のように生き生きとする彼らなのだった。

ポリスター盤 PSCR-9287 ¥2,800(税別)
1.RADIO L⇔R
2.TUMBLING DOWN 恋のタンブリング・ダウン
3.BYE BYE POPSICLE 一度だけの NO.1
4.LOVE IS REAL? 想像の産物
5.PACKAGE… I missed my natural パッケージ
6.A GO GO
7.NORTHTOWN CHRISTMAS
8.RAINDROP TRACES 君に虹が降りた
9.I LOVE TO JAM [BONUS TRACKS]
10.BYE BYE POPSICLE (CRUSIN’ MIX)
11.NORTHTOWN CHRISTMAS (MONO MIX)


『LAND OF RICHES』

イギリスではプライマル・スクリームがローリング・ストーンズを手がけていたジミー・ミラーと組んだ。これより少し遅れて、アメリカからはスワンプ・ロックとヒップホップを出会わせたようなベックがブレイク。日本でも小沢健二がスライやベティ・ライトの作品を様々なアングルから引用するようになる。60年代~70年代のアーシーなアメリカン・ロック、ソウルを多くの音楽家たちが一つの指針にしていたそんな時代。L⇔Rも例外ではなかった。それが93年12月20日に当時は2枚組として発表された本作である。

 実際にディスク2(当時)はLAでトラック・ダウン。ベックの実父でもあるデヴィッド・キャンベルが「EQUINOX」のオーケストラ・アレンジを手がけていたりする。そんなアメリカへの憧憬が曲調にハッキリ現れたのが、ジミー・ミラーが制作に絡んだスペンサー・デイヴィス・グループの「アイム・ア・マン」を下地にしたような1曲目。さらに2曲目はビーチ・ボーイズ、3曲目はバカラック/デヴィッド風…といった具合だ。嶺川貴子が作詞作曲した「CIRCLING TIMES SQUARE/さよならタイムズスクエア」だけは、当時のロウ・ファイやUSインディー感があって興味深い。

 レーベル仲間だったスパイラル・ライフの石田ショーキチと車谷浩司が「CAN’T SIT DOWN/エディサンセット&ブレイザーズのテーマ」に、高野寛が「U-EN-CHI/遊園地」に参加するなど横のつながりも出てきていたし、木下裕晴がソングライティング・クレジットに登場するなど充実しているように見えたが、本作を最後に嶺川が脱退。バンドは大きな転機を迎える。

ポリスター盤 PSCR-9288 ¥2,800(税別)
[FACE-A]
1.LAND OF RICHES-1
2.NOW THAT SUMMER IS HERE 君と夏と僕のブルー・ジーン
3.AMERICAN DREAM
4.CRUSIN’ 50 ~ 90’S
5.CIRCLING TIMES SQUARE さよならタイムズスクエア
6.RED & BLUE
[FACE-B]
7.THINGS CHANGE ~
8.EQUINOX
9.TELEPHONE CRAZE
10.CAN’T SIT DOWN エディサンセット&ブレイザーズのテーマ[Instrumental]
11.U-EN-CHI 遊園地
12.LAND OF RICHES-2


『LACK OF REASON』

ここには「REMEMBER」と「HELLO,IT’S ME」という2つのシングル曲が含まれているが、前者は7万枚、後者に至っては実に30万枚をセールスしたという(封入された岡井大二のライナーノーツより)。シングル・ヒットが連発していた時代だったとはいえ、耳の肥えた音楽ファンをも唸らせるこの若手バンドがそこまで売れていたとは驚くばかりだ。

 男所帯に戻り、レーベルも移籍して本作を94年10月21日に発表(初回限定盤はアナログ・レコードを想定しての2枚組だった)。前作『LAND OF RICHES』のように意識的にアメリカをデフォルメすることもなく、気分一新、3人で自由にやりたいことをやった作品といったところで、本来のポップ・フリークぶりが無理なく随所から顔を出すあたりはデビュー当時を思い出させたりもするほどだ。とはいえ、演奏と表現はよりダイナミックになってきていてバンドとして着実にキャリアを重ねていることを実感するし、特にもともと歌唱力のあった健一のボーカルはすっかり自信をつけている印象もある。単独で作詞作曲した「EASY ANSWERS」、健一が作詞した「PARANOIAC STAR」など木下メインで作られた曲が、この時代と符合したようなオルタナティヴ・ロック・スタイルの起爆力を引き出しているのもいい。

 音がやたらとシャープで金属的なものへと変化していること、前述のシングル2曲以外は、割とリフやフレーズを断片的に繋げたような曲が増えていることもこの時代の特徴か。けれどこの記号的な聴かせ方がこの後の全国ブレイクを引き出すのだ。

ポニーキャニオン盤 PCCA-50259 ¥2,800(税別)
1.Society’s Love
2.REMEMBER
3.Stay While
4.Catch The Tube/地下鉄で行こうよ
5.It’s Only A Love Song
6.Easy Answers
7.Theme Of B.L.T.
8.Seventeen
9.Paranoiac Star
10.Keep The Circle Turning
11.HELLO,IT’S ME(Album Mix) [EXTRA TRACK]
12.HELLO,IT’S ME(Single Mix)


『Let me Roll it!-25 th Anniversary Complete Edition-』

何と言ってもフジテレビ“月9”ドラマ『僕らに愛を』の主題歌としてシングル・チャート初登場1位を獲得した「KNOCKIN’ ON YOUR DOOR」である。伸びのあるメロディ、フックの効いたフレーズ、心憎いアレンジ、高い歌唱力…ヒット・ポップスに必要な要素すべてがここにあると言ってもいい。結局、95年12月16日にリリースされた本作からはその曲を含む4曲がシングルとして発売された。ついにバンドとしてのピークがやってきたのである。

 けれど、不思議なことにここには溌剌とした姿は100%感じられない。それどころか、歌詞、歌、演奏のあちこちに翳りや重ささえ散見される。秀樹作詞作曲で自らボーカルもとった「僕は電話をかけない」、木下作詞作曲の「HANGIN’ AROUND」「OVER&OVER」など健一以外のメンバーによる曲の質もどんどん高まっているのに、初期の頃のような無邪気に音楽を楽しんでいる様子が伝わってこないのが聴いていてとても苦しい。内容がいいだけに、なんとも悩ましい。

 意地悪な言い方をすれば、でもそうやって頂点で苦悩し始めている様子が垣間見えるからこそ本作は魅力的だ。例えばボブ・ディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」をお手本にしたようなフォーキーな「TALK SHOW」(健一作詞作曲)。良質なポップスを聴かせるバンドというイメージが彼らを形成していることは紛れもない事実だが、この曲を聴くと、結局はそのイメージに健一はどこかで苦しんでいたのかもしれないということに気づく。鬱屈して悶々とする憎悪のようなものが静かに渦巻くこの曲には、そんな本音が透けてみえる。

ポニーキャニオン盤 PCCA-50260 ¥2,800(税別)
1.MAYBE BABY
2.GAME
3.BYE
4.DAYS
5.僕は電話をかけない
6.TALK SHOW
7.HANGIN’AROUND
8.KNOCKIN’ON YOUR DOOR
9.OVER&OVER
10.DAY BY DAY
11.LIME LIGHT [EXTRA TRACK]
12.KNOCKIN’ON YOUR DOOR(Single Mix)
13.BYE(Single Mix)
14.DAY BY DAY(Single Mix)
15.GAME(Single Mix)
16.DAYS(Alternate Mix)


『Doubt』

木下が作詞作曲した曲が3曲、秀樹が作詞作曲したものは2曲、健一と秀樹が歌詞で共作した曲も2曲…と、これまでになく健一の負担が軽くなっていて、プログラミングの使用が露骨にわかる曲も増えている。残念ながら、バンドで力一杯聴かせる醍醐味やスリルやアイデアを具現化させていくことを無邪気に面白がっているような姿はもはやほとんど感じられない。97年4月16日にドロップされたこの最終作は、ファンではなくても聴き続けるのがややしんどい1枚だ。

 健一の得意としてきたウィットに溢れた軽やかな“ボーイ・ミーツ・ガール”な歌詞はいつのまにか影を潜めてしまった。一方で目にとまるのが“急ぎたくない”“慌てない”といった胸中を示唆するような表現だ。そんな壊れかけの心に鞭を打つかのように、商業オルタナ時代の横風を受けたような無闇に硬質な音が響く。もちろんシングルにもなった「STAND」などは彼らの持ち味が生かされたメロディックな佳曲だ。けれど、旋律の良さ、健一の豊かな情緒を伴った歌を無機質な音質がぶち壊してしまっている。

 古田たかし、小田原豊といったプロフェショナルなドラマーまでが参加。ドラマーであってきた岡井大二も最後までプロデュースした。だが、健一による走り描きのイラストは、今も“嘘だ!”をつきつける。もうLもRもない。これが僕らの本当にやりたいことなのか? “to be or not to be”。しかも、CDを外すと見える“Believe”のささやかなメッセージ。ブックレットの中で、3本の矢を金髪の少年がまっ二つに追ってしまっている写真も何とも象徴的だ。そして2016年12月、我々はもう二度と彼らの新作を聴くことができなくなってしまったのである。

ポニーキャニオン盤 PCCA-50261 ¥2,800(税別)
1.STRANDED
2.NICE TO MEET YOU
3.アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック
4.First Step
5.COUCH
6.雲
7.FLYING
8.僕は君から離れてくだけ
9.ブルーを撃ち抜いて
10.直線サイクリング
11.そんな気分じゃない
12.STAND


L⇔R

1990年、黒沢健一、黒沢秀樹の兄弟と木下裕晴の3人で結成。翌91年にミニアルバム『L』でデビュー。92年、嶺川貴子が加入するも、94年のレコード会社移籍と同時に脱退した。95年5月にリリースしたシングル「KNOCKIN’ON YOUR DOOR」がチャート1位を獲得。翌96年には初の武道館公演を実現した。97年に活動休止を宣言し、その後メンバー3人はそれぞれソロ活動を続けている。2016年12月、黒沢健一が脳腫瘍のため逝去。バンドは、これまでに13枚のシングルと7枚のアルバム、1枚のミニアルバムを発表。すべての作品のプロデュースを岡井大二(ex.四人囃子)が担当した。

黒沢健一オフィシャルサイトhttp://www.k-kurosawa.com
黒沢秀樹オフィシャルサイトhttp://hideki-kurosawa.com

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