Interview

桐谷健太がトランスジェンダーの彼女と築く家族の形。映画『彼らが本気で編むときは、』で迎えた転換期とは

桐谷健太がトランスジェンダーの彼女と築く家族の形。映画『彼らが本気で編むときは、』で迎えた転換期とは

『かもめ食堂』(06)や『めがね』(07)などの荻上直子監督の最新作『彼らが本気で編むときは、』は、トランスジェンダーの女性〈リンコ〉と、彼女の恋人〈マキオ〉、その姪っ子〈トモ〉が織りなす、たおやかであたたかい物語。荻上監督自身、「私の人生においても、映画監督としても、第二章の始まりです」と語る本作は、マイノリティに対する視線や考え方がフラットでどこまでも優しい。本作で〈マキオ〉を演じて新境地を拓いた桐谷健太に、作品のことから昨年の音楽活動のこと、そして2017年の展望まで、たっぷり話を聞いた。

取材・文 / 熊谷真由子 撮影 / 三橋優美子


斗真を支えて、できるだけ負担を少なくしたいという想いで〈マキオ〉に臨んでいました

最初に台本を読んだ感想はいかがでしたか?

純粋に良い本だなと思いました。状況説明をするようなセリフがたくさんあるわけでもなく、空気感や匂いや役者の表情で、観ている人たちを物語の世界観にいざなうような映画らしい映画の脚本という印象でした。完成作を観たときは、脚本を読んだときよりも泣いてしまいました。

肝になるのは生田斗真さん演じる〈リンコ〉との関係性だったと思います。

斗真とはもともとドラマで共演していて、その打ち上げの場でキスも経験済みでした(笑)。この作品にもキスシーンがありますが、斗真との普段からの距離感の近さも功を奏したと思います。2人でいるときに沈黙があっても苦にならないから、気を遣って喋ったりしなくていいし、役に入っているときはお互い役者なので〈リンコ〉さんと〈マキオ〉として役をまっとうしながら現場にいて。脚本を読んだとき、斗真は〈リンコ〉さんに合うだろうと思ったんですよね。もちろん、斗真自身は、座り方や声など、何度も監督と相談しながら調整していって大変だったと思いますけど、そんな斗真を支えて、できるだけ負担を少なくしたいという想いで〈マキオ〉に臨んでいました。基本的には側にいてあげることしかできなかったけど、斗真が悩んでいるときは「大丈夫だよ」とか「キレイだよ」とか「そのまま自信持ってやったらええんちゃう?」みたいなことは言っていました。俺、この作品で性格的にも、役者としても、変わったなと思いました。

それはどういう意味で変わったのでしょう?

いままでは「俺が目立ったる!」みたいな意気込みで作品に臨んでいたんですが(笑)、今回は、俺がそんな気持ちでいたら、その時点でもう〈マキオ〉じゃない。〈マキオ〉は自分が前面に出るわけではなく〈リンコ〉さんの側にそっといるタイプだから、その感覚が自然と自分の中に入ってきたというか。俺が「支える」と言ったらおこがましいけど、そういうふうに思っている自分に、自分でもちょっと驚きました。とにかく斗真が美しく見えたらいい、監督が満足してくれたらいいと思っていました。こういう役がきたタイミングと、年齢的に自分がそういう意識になれるタイミングが重なったんでしょうね。だから斗真とはお互い、「この作品がターニングポイントになるかもな」なんていう話もして。僕はまたここから新しい道ができたという意味で、“ゴーイングポイント”って言っているんですけど(笑)。

役作りとしてはどんなことをされたのでしょうか?

まず、身近にいるトランスジェンダーの知人から話を聞きました。そのとき、日本はまだまだ理解が少ないから、トランスジェンダーの人とちゃんと付き合っていこうとする人は相当の覚悟をしていると思う、という話を聞いて、〈マキオ〉は柔らかい物腰とは裏腹に実はすごく男らしいんやなと思いました。劇中でも〈リンコ〉さんのためにちゃんと抗議するし、主張する。見た目や喋り方がオラオラ系の人のほうが雄っぽいと思われがちですけど、普通にフワっとそこにいるだけの〈マキオ〉は、〈リンコ〉さんにとって誰よりも頼りがいがある男性。〈リンコ〉さんが大好きな人というイメージが沸いてきました。それに女性の弱さも本能的にわかっている優しい人という印象も受けました。自分のお姉さん〈ヒロミ〉が子供〈トモ〉のことをほったらかしにしても声を荒げて怒ったりせず、「トモはコンビニのおにぎりが嫌いなんだ」というひと言で表現する。そういうのがどんどん腑に落ちていって、〈リンコ〉さんを愛する気持ちを核に、無垢な〈マキオ〉を構築していきました。

荻上直子監督からはどんなことを言われましたか?

クランクイン初日は、川辺で〈トモ〉と一緒に自転車を押しながら帰るシーンだったんですが、テストで「ちょっと笑顔が多すぎますね」と言われたんです。僕はそのとき、〈マキオ〉がすごく優しい人だというのをその笑顔で説明してもうたと気がついて。〈マキオ〉は優しい人ですけど、それをわざわざ見せようとするのは良くない。もっとフラットにいればいいと、監督のその言葉で思えたんです。〈マキオ〉は〈トモ〉のことを子供扱いしないし、〈リンコ〉さんのことも最初から女性として接している人。よく「トランスジェンダーの人と付き合う役は難しくなかったですか?」と聞かれるんですけど、〈マキオ〉はただ人間として、女性として、〈リンコ〉さん自身が好きで、“トランスジェンダーの人”だとは思っていないんです。

自分からアイデアを出したシーンなどは?

〈リンコ〉さんと〈マキオ〉のキスシーンはもともと台本になかったんですが、自分から言いました。〈マキオ〉として〈リンコ〉さんをギュッとしてあげたいなと感じたので。監督もちょうどそういうシーンが欲しかったようで、やりましょうとなりました。

荻上監督の演出で印象に残っていることは?

監督は、ここはこうしてくださいと具体的には言わないんですよ。「何かが違うんでもう一度お願いします」みたいな。でもそう言われたときは、理屈じゃなくて、そうやんな、って思う。監督が「もう一回」って言いそうだなと思うときは本当にそうなったし、これは良かったなと思うときはOKが出たので、そのへんの波長はすごく合ってたと思います。長回しやワンカットが多かったんですが、特に〈マキオ〉のお姉さんが乗り込んでくるシーンをワンカットで撮ったのは、自信と勇気と信念がないとできないし、監督の根性にも感服したし、演じる側としてもすごく楽しかったです。

役者さんによっては、具体的にどこを変えたほうがいいのかを聞きたい方もいると思いますが、桐谷さんはどういうタイプの役者なんでしょうか?

そうですね。たしかに、「何をどうすれば?」と言ってはる人もいましたし、そういう攻防も僕自身は楽しめました。監督は「言葉で説明するほど人間は単純じゃない」とおっしゃっていたことがあるんですが、そのとおりだと思います。例えば、俺自身が良くなかったという状態でもう一回ってなったら、どういう点がダメなんやろと考えるけれど、監督はどちらかと言うと全体の空気を見てはるんですよね。ご飯を食べるシーンで言うと、「みんなと一緒にいるときのご飯を食べる感じが何か違う」とおっしゃって、もう一度撮ってOKが出たときは、演じているうちに、すごく自然にそこにいる気になれて、気づいたらカットがかかっていた。監督によっては、部分的なところを細かく演出される方もおられるし、本当に十人十色。だからその世界観に合わせながら、監督を信頼する。そして自分の直感を大切にする。具体的に言わない監督なら自ら何かを感じ取ろうとするだろうし、話し合うほうがいいときもあるだろうし。例えば井筒(和幸)監督みたいに「もっと面白いことやれ!」って考える隙も与えず、「もう一回!」みたいな人もいますし(笑)。でもいろんなタイプの監督がいるから、いろいろな演技や表現が出てくるので、いろいろな人と反応して、もっと新しい自分と出会いたいです。

今回の作品の前と後で、トランスジェンダーや子育てに対する意識が変わりましたか?

俺は近くにそういう友達がいたから最初から違和感はなかったんですけど、そういう友人たちは自分がほんまにつらかった経験とか想いを、簡単に他人に言ったりしないじゃないですか。もしかしたらこの映画よりもっとつらい想いや疎外感を感じながら生きてきたかもしれない。〈リンコ〉さんは〈マキオ〉がいるだけでものすごく幸せだけど、こんなふうに理解してくれる人はいないかもしれない。俺の友達もこういう経験をしてきたんかな、というところに想いを馳せました。子育てに関しては、〈マキオ〉の気持ちで言うと、母親のことがあるからお姉ちゃんの痛みもわかるんですよね。でも〈リンコ〉さんが「人間としてちゃんと育てていかないといけない」と言ってくれることにも共感する。人間はひとりでは生きていけないから、ちょっと余裕を持って苦しんでいる誰かを救ってあげられたりしたら、もっと世の中が変わるのかもしれないと思いました。

母親と子供のあり方も考えさせられますね。

〈リンコ〉さんを見て「あんな人と付き合っちゃダメよ」と嫌悪感を示すお母さんもいれば、〈マキオ〉のお姉ちゃんみたいに子供がいるのに男を追って家を出てしまうお母さんもいる。〈リンコ〉さんみたいに子供を産めない人は母親にはなれないのか?ということを世に問うてるところもありますよね。俺はこの映画は母親の話だと思いました。母親の話ってことはみんなの話。誰にでも母親はいるわけだし、母親がいなければ自分もいないわけだから。

桐谷さんご自身はお母さんとの思い出はありますか?

親ってびっくりするくらい子供のことをわかってくれてるんやなと思います。こないだ、ドキュメンタリーの仕事でベネズエラの秘境みたいなところに行ったんですよ。あまりにも自然が近くにあって、喜びもあった反面、恐怖もあって、昔の人たちが自然に対して畏怖して祈ったりするのが理解できたんです。そういうなかで、ある夜、テントにいたらめっちゃ怖くなってきてしまって、俺、こんなにビビりだったんかと思っていたら、出発前にオカンが「これ持ってき」って渡してくれたお守りに付いていた鈴が鳴ったんですよ。地球の反対側にいるのに、俺のこと想ってくれてるやんって、感謝の気持ちで泣けてきました。

2016年は音楽活動も活発で、『日本レコード大賞』や『紅白歌合戦』にも出場されましたが、桐谷さんとしては、これほどまでに歌が支持されたことについてはどう思われますか?

以前、CDを一枚出したんですが、CMプランナーの方がその僕の歌を聴いてくれていたことと、僕が三線を弾けることを知っていてくれて、「CMのキャラクターにぴったりだから浜辺で歌ってほしい」と言われて。BEGINさんの曲もすごく良くて、これが二週間、テレビで流れると聞いて、純粋に嬉しくて「やったー!」くらいしか思っていなかったんです。そしたら動画の再生回数がすごいことになって、「え? そうなん?」と思っていたら、「え、『FNS歌謡祭』……?」「え、『紅白』……!?」みたいな(笑)。気がつけばすごいことになっていたという感覚でした。

ご本人としても驚かれたんですね。

ある人に「お前がやってきたことは変わってない」「歌も三線も前からやっていたことで、それを気づいてもらえたのはお前の努力の賜物だよ」と言ってもらえたときは、すげー嬉しかったし、ありがたかったです。まさか『紅白歌合戦』に出られるなんて思いもしていなかったですから。むしろ前にCDを出したときに「これで『紅白』出られたらいいな!」とか冗談で言っていたくらいです(笑)。あと、実感としては、“何万ダウンロード突破”といった数字よりも、外で会った子供たちや、おじいちゃんおばあちゃんが声を掛けてくれたことが、リアルに歌が広がっていることを感じられました。「大事な人が天国に行ってしまったんですけど、その人のことを思ってこの歌を歌うだけで救われます」ということを言ってくれた人もいて。だから歌うときは毎回、気持ちを込めて歌っています。2016年は素敵な音に溢れていたというか、面白い経験ができた年でしたね。歌番組もそうですけど、声優の仕事(『ターザン:REBORN』)もやらせていただきましたし、〈日本ダービー〉では13万人の前で国歌独唱させていただきました。もしかしたら俺のことを歌手だと思っている人もいるかもしれないけど、もはや、なんでもいいです(笑)。もともと音楽も演技も好きだから、どっちを取るとかじゃないし、どっちも繋がっていると思っているし。いろいろな顔を持ちながら、楽しくやっていけたらいいですよね。「『海の声』がヒットしたから、次もやらな!」っていうことではなく、巡り合わせがあればまた歌いたいですし、自分の中で言葉が生まれれば歌詞も書くだろうし。

では最後に、2017年の展望もお聞かせください。

明るく楽しい年にしたいですね。あまり具体的には考えていなくて、毎日を楽しく生きて、仕事に関しては遊び心を忘れず全力でやれば、想像しているより面白い未来にいくんじゃないかなと思っています。だからこそ具体的に目標を掲げるより今を大切に生きるというほうが自分らしい。遊びながら全力でやっていたら、去年も『紅白』出場という想像していないことが起きたし。面白いことがあったら、そこに飛び込んでいけるバイタリティを大事にしていたいですね。

映画『彼らが本気で編むときは、』

2017年2月25日公開

小学5年生の〈トモ〉は荒れ放題の部屋で母親〈ヒロミ〉と二人暮らしだが、あるとき、母親が男を追って姿を消してしまい、叔父の〈マキオ〉のもとを訪ねる。〈マキオ〉の自宅には同棲中で料理上手の恋人〈リンコ〉がいて、2人は〈トモ〉のことを優しく受け入れてくれる。もともとは男性だったという〈リンコ〉に戸惑いながらも〈トモ〉は母親との暮らしにはなかった家庭の温もりに安らぎを覚え、次第に信頼を寄せていく。そんな〈リンコ〉もまた〈トモ〉のことを本当の子供のように思い始めるが、〈トモ〉の母親が戻ってきたことで、3人の同居生活は終わりを迎え……。
※第67回ベルリン国際映画祭 パノラマ部門・ジェネレーション部門 正式出品作品
※文部科学省選定作品(少年向き・青年向き・成人向き)

【脚本・監督】荻上直子
【出演】
生田斗真 桐谷健太
柿原りんか
ミムラ
小池栄子 門脇麦 柏原収史 込江海翔 りりィ 田中美佐子
【配給】スールキートス

オフィシャルサイトhttp://kareamu.com

©2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

桐谷健太

1980年生まれ、大阪府出身。ドラマ『九龍で会いましょう』(02/EX)で俳優デビュー。『ゲロッパ!』(03/井筒和幸 監督)で映画初出演を果たす。以降、多くのドラマや映画に出演し、2011年には第35回エランドール賞の新人賞を受賞。『アウトレイジ ビヨンド』(12/北野武 監督)では第22回東京スポーツ映画大賞の男優賞に輝いた。その他の代表作に【テレビドラマ】『ROOKIES』(08/TBS)、大河ドラマ『龍馬伝』(10/NHK)、【映画】『オカンの嫁入り』(10/呉美保 監督)、『くちびるに歌を』(15/三木孝浩 監督)、『GONIN サーガ』(15/石井隆 監督)、『バクマン。』(15/大根仁 監督)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(16/宮藤官九郎 監督)などがある。また、auのCM「三太郎シリーズ」(15~)では浦島太郎役で人気を博し、「2015年度CMタレント好感度ランキング」男性部門で第1位を獲得。そのCMの楽曲「海の声」で第58回日本レコード大賞の優秀作品賞などに輝き、第67回NHK紅白歌合戦に初出場を果たした。

桐谷健太オフィシャルサイト

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