シミルボンの本棚  vol. 16

Review

『逃げ恥』ロスの皆さまへ、『回転銀河』はもう読んだ?

『逃げ恥』ロスの皆さまへ、『回転銀河』はもう読んだ?

お正月も明けた頃、近所のTSUTAYAに行ってみると、マンガレンタルには「映像化マンガ特集」コーナーができていた。そして、ど真ん中にズガーン!と並ぶ『逃げるは恥だが役に立つ』。見事に全巻、ありったけ貸し出されていた。私は感慨を抱かずにはいられなかった。「海野つなみ、良かったネ…!」と。(なにさま!?)

海野つなみのマンガを初めて読んだのは小学生の頃、友達が買っていた雑誌「Amie」に連載されていた『Kissの事情』という高校を舞台にしたオムニバス作品だった。吹き出しのなかの「(笑)」も、まるっこくてカワイイ文字も、天真爛漫な主人公たちも、キスにまつわるドキドキほんわかな話も、なぜか全てしっくりきた。「Amie」誌上では『NERVOUS VENUS』(早稲田ちえ)、『CLOVER』(CLAMP)も好きで「友達よ、早くAmieを買って貸してくれ」と思っていたのだが、残念ながら休刊になってしまう。
その後もふとした瞬間に、あるワンシーンやセリフなどが、自分でも不思議なほど鮮明に蘇ってくることがあり、どうしても『Kissの事情』をもう一度読みたくて探した。が、絶版…復刊ドットコムでリクエストすらした。当時、新刊以外の海野作品は既に手に入りにくく、KCから復刊したときは小躍りして手に入れたものだ。

そして『回転銀河』との出会い…海野つなみが!高校を舞台にしたオムニバス!?この雰囲気、まさに『Kissの事情』!!と喜び勇んで買い求めた。作者本人が〈この話を作った時、「これは私の20代の代表作になる」と、なんだかわからないですが興奮したことを覚えています〉と一巻後記で書いているが、私も読み終えたとき、興奮していた。「これは私の海野つなみベストマンガになる」と。 実は『Kissの事情』のベースに、既に『回転銀河』の構想があったという。そうかなるほど、やっぱりハマるしかないネ!


 

回転銀河

著者:海野つなみ
講談社

わたしたちは、秘密の恋をしている――。病気療養で、しばらく家族と離れて暮らしていた衿子(えりこ)。2年ぶりのわが家で彼女が出会ったのは、見違えるほど成長した弟の晴明(はるあき)だった……。姉と弟の危うい恋愛を描いた「イノセント・インセスト」ほか、3編を収録。高校生たちの恋愛模様を繊細なタッチで描く、珠玉のオムニバスシリーズ!!


『回転銀河』は、時に舞台となる高校を飛び越えて「あの話の主人公だったひとの彼女」が主人公となって物語が展開されたりする。二人の視点がわかることで、よりお互いの物語も深まる。
1巻の2話目「ぼくの惑星」の主人公は、1話目の脇役キャラで、本人も自分が脇役キャラと自覚している冴えない男子。この2話目が、実は『回転銀河』のスタンスを明確に語っていると思う。「脇役」でも「男子」でも、キラキラした女子の恋愛と同じように光が当てられていく。事実、私は「冴えない男子」の話がどれもとても心に残っている。時に痛々しく、あまりに切ない。しかし「ハッピーエンドではないハッピーエンド」とでも呼びたい、救いを残して終わる優しさがあり、読者も励まされるのだ。
反面、「美しき双子の悪魔」と呼ばれる天野兄弟という超マンガ的キャラがいる。際立った存在が、周りにどう影響を与えるか実験しているような側面もおもしろい。あまりに現実離れしているので、彼ら自身の話になると感情移入が少し難しくなるが…

今まで友達にオススメしてきたマンガのなかで、男女共に『回転銀河』ほど人気のあった作品はないように思う。オムニバスで、それぞれ違う人物の違うエピソードなのに「これは私だ」と思うことがしばしばあった。恋愛、友情、そして名付けられないような感情を掬い取ることが巧みで、すっとこちらの心に触れてくるような作品。誰もが「これは私だ」と感じてしまう話がひとつはあるのではないだろうか。

実は私は一年三ヶ月パリにおり、昨年末に日本に戻ってきた。大学時代に『回転銀河』をオススメしてから、同じくすっかり海野ファンになっていた友達が「知ってる?いま海野つなみが大変なことになってるんだよ」と嬉しそうに言ったことが忘れられない。「逃げ恥ブーム」は私たちにとって「海野つなみのサクセス・ストーリー」なのだ。
多くの人がドラマ原作者として海野つなみの作品を発見しただろう。その人たちに是非『回転銀河』にも手を伸ばしてもらいたい。世界はゆるやかに、しかし確実に、なんてあたたかく繋がっているのだろうという感覚を共有できたらと願ってやまない。

文 / マンガナイト(山口文子)

Powered by シミルボン

site_logo

vol.15
vol.16
vol.17