恋するB級ドーナツ盤~45回転のときめきと昭和の匂いを求めて~  vol. 8

Column

この昭和ミステリー歌謡を聴け!

この昭和ミステリー歌謡を聴け!

さて、今回は昭和歌謡の中でもかなりレアなジャンルにフォーカス。
だーれが殺したクックロビン〜♪で「パタリロ!」を思い浮かべる人は多いけれど、実は昭和歌謡にも……!
目のつけどころがひと味違う、ドーナツボーイズの好評連載!


ゴロー これまで昭和歌謡の系譜をいろいろ聴いてきたわけですが、そのほとんどは恋の歌なんですね。

シロー そもそも「故郷を想う」っていうのもある種の恋なわけで、そういう意味では、歌謡曲のほとんど恋愛の歌って言っていいだろうね。

ゴロー でも、文芸や映画の世界には、ミステリーってすごく多いじゃないですか。それを考えると、ドーナツ盤にもミステリーの世界が刻印されてるんじゃないか。今回、そう思って、いろいろ探してみました。

シロー ほう。ミステリーねえ。殺人事件? 謎解き? すぐには、思いつかへんなあ。

ゴロー 題して、「このミステリー歌謡を聴け!」。まずは「本格ミステリー歌謡」から行きましょう。本格ファンなら、タイトルを聞いただけでドキッとするでしょう。織井茂子「誰がロビンを殺したか」(1960年発売、木下忠司作詞・作曲)。
織井茂子は岸惠子・佐田啓二主演の映画版『君の名は』の主題歌を歌って有名になりましたが、十代の頃から童謡歌手として活躍していました。作詞・作曲の木下忠司は、映画監督・木下惠介の弟で、映画やテレビドラマの音楽を数多く手がけています。
物悲しいメロディーと歌声で、一気に黄金時代の本格ミステリーの世界にもっていかれます。

昨日ロビンが 殺された
こま鳥 ロビンが 殺された
飛んでる処を 殺された
誰がロビンを 殺したか

 私が見たと 鳩が言う
すずめが弓に 矢をつがへ
飛んでるロビンを 射ったのを
この目で見たと 鳩が言う

シロー まさしくマザー・グースやね。英国の子ども向けの伝承歌謡ね。お芝居や小説、いろんなところに引用されている。

ゴロー そうです。この「誰がクック・ロビンを殺したか」という童謡は、本格ミステリーのモチーフのひとつ、「見立て殺人」に使われることが多いんですね。つまり童謡の内容に沿って、殺人事件が行なわれていく。

シロー アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』もそうやったね。

ゴロー 横溝正史の『悪魔の手鞠唄』も有名です。
で、この「誰がロビンを殺したか」がとても効果的に使われているのが、本格ミステリーファンのオールタイムベストに必ず顔を出すS・S ・ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』。弓術選手のロビンが、胸に矢が刺さった状態で殺されているのが発見され、これを皮切りに、僧正を名乗る謎の人物の手による連続殺人が始まっていきます。犯人はなぜ、童謡殺人を行なっていったのか?

シロー よし、わかった!(ポンと手を叩く) 犯人は織井茂子のファンだった!

ゴロー また古いネタを(笑)。
『僧正』以外にもイーデン・フィルポッツ『誰が駒鳥を殺したか』なんて、そのものズバリのタイトルのミステリーもあります。実はこちらの本、1960年に創元推理文庫で翻訳出版されていて、それを読んだ木下忠司が感銘を受けて、この曲を作ったのではとボクは勝手に考えていまして。ちょうど同じ年に出ていますし。

シロー それは明らかに妄想やな。映画やドラマの音楽以外で木下忠司というのは意外やが、織井茂子は木下惠介『カルメン純情す』の主題歌も歌ってるから、その縁かも知れない。『誰が駒鳥を殺したか』は古書価8000円をつけてる古本屋もあるな。

ゴロー そのせいで長い間、読めなかったんですが、2015年に同じ創元推理文庫で新訳『だれがコマドリを殺したか』が出ました。すごく面白いので、ぜひ織井茂子の歌声をフィーチャーしたプロモ動画を作って、若い人たちにアピールしてほしいですね。

シロー ドーナツボーイズのプロデュースということで……まあ、無理やな(笑)。

ゴロー そこをなんとか(笑)。次は「少女A」ならぬ、「謎の女B(1967発売)。タイトルからして、ミステリーっぽいでしょう。歌手の曾我町子さんは初代「オバケのQ太郎」の声をやられていた方。テレビの戦隊ものにも多数出演され、特撮界の女王と呼ばれたことも。晩年は国立市でアンティークショップをやられていたようで、エキゾチックな服装で、街を闊歩する姿も見かけられたようです。

シロー 国立はぼくが日頃うろつく街で、曾我さん、見かけたことあるよ。ちょっと魔女みたいやったけど、かっこよかった。あの格好で、オバQの声を出してたとはなあ。

ゴロー 作詞・作曲はジャズ・ヴィブラフォン奏者の平岡精二さん。

シロー いやあ平岡精二は、日本のヴィブラフォン奏者の第一人者ですよ。作った曲は多くないけど、「爪」「学生時代」なんかは、スタンダード・ナンバーになっている。

ゴロー どっちも歌唱はペギー葉山ですね。「爪」はいろんな人が歌ってます。しかし、いったい謎の女Bとは?

謎の女B ぼくをAとする
AとBがある夜逢った
暗いある酒場 たばこの煙がたちこめてる
あやしいムード
BはAとチークダンスを踊りながら
耳のそばでこんなことをなやましげにいった

シロー なんだか数学の公式みたいな歌やな。すぐには頭に入って来ない。ちょっと黒板で説明して(笑)。

ゴロー いや、そこまでのことは(笑)。3番目の歌詞には、さらに謎の男Cも登場します。

AはBの部屋へ入った ピンクのカーテン
大きなベッド そして男の上着があった
さては誰か男がいる これをかりにCとすると
CはBの恋人かもしれない
Aは思った こいつぁやばいぞ

ゴロー で、最後はちょっとした落ちがあって、「おしまい」とつぶやいて終わります。1920年代から30年代にかけてのモダニズム時代の「ミステリーコント」といったおもむきです。当時の探偵小説作家たちの活躍の場となっていた雑誌『新青年』に載っていてもおかしくない。

シロー 「A地点からB地点まで」という「ぼんち」の歌はあったけど、アルファベットで抽象化することで、洒落た感じを狙ったのかもな。しかし、ヒットは難しいよ。

ゴロー いえいえ、この曲、最近では和モノとして人気があるようで、キノコホテルがカヴァーしています。さて、ミステリーに欠かせない要素に、暴力表現というのがありますよね。

シロー バイオレンスは、歌謡曲には合わへんのやないの。

ゴロー ボクもそう思っていたんですが、こんなドーナツ盤が見つかりました。大ヒット曲「骨まで愛して」のあとにリリースされた、城卓矢「なぐりとばして別れようか」(1967年発売)。

シロー DVやないの(笑)。城卓矢は「骨まで愛して」というヒット曲もあるけど、肉体派やね。「骨まで愛して」と言う女性を「なぐりとばして別れようか」って、ヒドすぎるやん。

ゴロー そうかもしれません。ジャケットに「ロマン演歌 “パンチ”シリーズ第1弾」とあります。作詞が川内和子さん。城さんの叔父にあたる作詞家・川内康範さんの奥さんです。作曲編曲は実兄の文れいじ(北原じゅん)さん。

恋をしたなら 楽しいはずが
なんでこんなに 苦しみばかり
今じゃあの娘が 苦手になった
いっそ いっそ いっそ
なぐりとばして なぐりとばして 別れようか

シロー たしかにパンチはあるけど、ちょっと暑苦しいなぁ。窓開けて(笑)。

ゴロー ちなみにB面は「忘れるものか」。A面でなぐりつけて、B面でちょっぴり後悔している(笑)。

シロー 盤をひっくり返さないと、本音がわからない(笑)

ゴロー これも前回やったオモテとウラで一つの、コンセプト・シングルと言えるかもしれません。まあ、暴力表現の希有な例ということで。
続いて、男の未練つながりで、あおい輝彦「薔薇の殺意」(1974年発売、門谷憲二作詞、あおい輝彦作曲)。1960年代後半から1970年代にかけて、アメリカン・ニューシネマが世を席巻しました。『俺たちに明日はない』『卒業』『イージーライダー』『バニシング・ポイント』……反体制の若者が刹那的に暴走するモチーフが繰り広げられましたよね。この楽曲はまさに「ニューシネマ歌謡」と言っていいでしょう。なにしろ映画『卒業』のように、結婚式の教会に乗り込んで行きます。しかもその手には……。

白いドレスに赤い薔薇をつけて
あなたが消える教会の扉
幸せそうにほほえむ二人
僕の右手にナイフが光る

シロー えっ、殺しに来たわけ?

ゴロー そうなんです。そして事を成し遂げた途端……

白いドレスを血に染めながら
冷たくなったあなたを抱いて
二人で進む十字架の前で
僕の背中に数発の銃弾

この世でひとつの
愛に生きてみたいんだ

ゴロー 「薔薇の殺意」というタイトルは、その後、ルース・レンデルほか、さまざまな翻訳ミステリーの邦訳タイトルに使われていきます。
そして、ミステリー界最大のキャラといえば、なんといってもシャーロック・ホームズでしょう。今だったらホームズ・ソングが歌われてもおかしくないですよね。ホームズ役を演じたベネディクト・カンバーバッチはピンク・フロイドの楽曲を歌ったりしているぐらいですから、彼が出したっていい。でも、昭和歌謡にホームズものはあるのか? あったんです! ヴィーナス「シャーロック・ホームズを捕まえて」(1979年、息吹圭一郎作詞、マイケルK.中村作曲)。

シャラララララ・シャラララ
シャーロック・ホームズ、あなたに聞いてもらいたいことがあるの
とても困ったことが起きたわ 
わたしを助けて
わたし“ルパン”にいかれちゃってるの
ところがあいつの心が解らない
彼を今すぐ逮捕して 
お願い、シャーロック

シロー ピンク・レディーが歌ってもよかったんじゃないの? ヴィーナスと言えば「キッスは目にして!」しか知らんけど、その前にこんなの出してたんやね。

ゴロー 曲調はディスコっぽいから、今もけっこう人気があるらしいですよ。必ずしもシャーロック・ホームズ的なミステリーの要素があるわけじゃなく、まあ、「シャーロック・ホームズ」という言葉の響きに乗っかっているわけですけどね。

シロー そりゃ「金田一耕助」よりは音に乗りやすいよね(笑)。まあ「ホームズ歌謡」の珍品。

ゴロー ということで、ミステリー歌謡といえば忘れちゃいけないのが郷ひろみと樹木希林「林檎殺人事件」(1978年発売、阿久悠作詞、穂口雄右作曲)!

シロー 出ました。テレビドラマ『ムー一族』の劇中歌で、「お化けのロック」に続く第2弾。劇中歌と言っても、ドラマの中身と関係なく、郷ひろみと樹木希林が変装して、いきなり出てきて踊りながら歌う。マンガチックな効果もあって、これはヒットしましたよね。

ゴロー モダンチョキチョキズやモーニング娘。もカヴァーしています。キャッチーですね。聴いてみましょう。

アア哀しいね 哀しいね
殺人現場に林檎が落ちていた
がぶりとかじった歯形がついていた
捜査一課の腕ききたちも
鑑識課員も頭をひねってた
霧に浮かんだ真赤な林檎
謎が謎よぶ殺人事件
アア パイプくわえて探偵登場

シロー 「アア哀しいね 哀しいね」と、普通サビになるフレーズを最初に持ってくる。じつに洒落てますよ、作りが。この二人に何かやらせよう、というところから逆算して、演出の久世光彦が遊んだのだと思う。「捜査一課」とか「鑑識」とか、硬い言葉でしょう。漢語の専門用語で。普通は歌詞に出て来ない。

ゴロー 歌詞は阿久悠さんですね。これ、じっくり聴くと、けっこう謎めいています。歌の2番で、登場した探偵は落ちていた林檎の歯型に3つの虫歯のあとがあることから、犯人はキャンディ好きだと推理して、尾行の末、おびき出すことに成功します。闇にまぎれて現われたのは大きな男で、なぜか探偵はパイプをくわえて失神してしまう。なにか変ですよね。

シロー 林檎の歯型から虫歯とわかるとは! この探偵、歯科医の免許を持ってたかもね(笑)。阿久悠という感じするねえ。この曲を聴いても、リズムに乗った言葉遊びみたいなものが面白くて、理屈やないんと違うかな。言葉のイメージが優先されるというか。

ゴロー それが昭和歌謡の面白さのひとつでしょう。今になって、いろいろ読み解くことが出来る。ひとつの解釈しかできない作品って、面白くないじゃないですか。

シロー 漱石『三四郎』の恋愛観を深読みで論じる、みたいなね。知的な遊びやね。

ゴロー ネット上では、いまだにこの「林檎殺人事件」の詞の解釈をめぐって、それこそさまざまな推理が披露されています。なかには「もともと死体はなかった」というユニークな説も。謎解きはこれからも継続されていくでしょう。シローさんもぜひ挑戦を!

シロー 林檎が木から落ちて来て、歯にぶつかって気絶して、しかしそこで万有引力を発見する、ってどうかな?

ゴロー それじゃあ、ニュートンじゃないですか!

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ドーナツ・シロー

1957年大阪府出身。上京して30年近くになるが、大阪弁がいっこうに抜けない。「シロー」はB面で、A面では古本と昭和に関する著作多数のライター。

http://d.hatena.ne.jp/okatake/

ドーナツ・ゴロー

1958年、名古屋市出身。B面の「ゴロー」としては「100円レコード・ハンターとして全国行脚中。A面は、某社の編集者という噂あり。

構成・村崎文香  協力・おうちギャラリー“GALLERY BIBLIO”

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