Interview

林遣都&東伸児監督が映画『しゃぼん玉』にある大自然と市原悦子の包容力を語る

林遣都&東伸児監督が映画『しゃぼん玉』にある大自然と市原悦子の包容力を語る

数々のベストセラー小説を輩出してきた乃南アサの同名小説をもとに映画化した『しゃぼん玉』。親の愛を知らずに育ち、老人や女性といった“弱者”を狙って犯罪を繰り返す青年〈翔人〉が、逃亡途中に老婆〈スマ〉を助けたことがきっかけに、〈スマ〉をはじめ村の人々のあたたかみに触れ、変わっていく姿を描いている。
映画の舞台となったのは、日本三大秘境の一つと言われる宮崎県北西部の村・椎葉村(しいばそん)。限りなく深い山々の景色、恵まれた自然の素材を活かした郷土料理も映画に彩りを添え、素朴な人の優しさが、素晴らしい原風景と相まって沁みてくる。
〈翔人〉を演じたのは、NHKの連続テレビ小説「べっぴんさん」ではプロを目指すドラマー、『精霊の守り人』では皇太子を支える英才の星読博士など、幅広い演技を見せる林遣都。メガホンをとった東伸児監督はこれまで「相棒」シリーズを手掛け、本作が長編デビューとなる。二人に本作への想いや、〈スマ〉を演じた市原悦子とのエピソードを語ってもらった。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / キセキミチコ


難しいからこそ、チャレンジした

後から沁みてくる映画だと思いました。大自然の風景、そこで生きる人々の営み、登場人物の人間性、絡み合った心情が実体験のように刷り込まれて、ふとした時に思い出され、心の芯がほどける。まっすぐな想いで丁寧につくられた映画らしい映画だと思いました。
東監督にとってはこれが初の劇場公開監督作品になるわけですが、乃南アサさんの原作を選ばれた理由は?

東伸児監督 「この作品がやりたい」と最初に企画を持ってきたのは、実はプロデューサーなんです。4年くらい前です。そこから、原作を読ませてもらって、映像化できたらいい映画になるぞ、と思った。一方で、難しいなとも思いました。
翔人のモノローグという小説のかたちも映画にすること自体難しいし、それ以上に「いい話」って、難しいじゃないですか。教育映画的になるおそれもあるし、“泣ける”だけの作品になるおそれもある。それじゃダメだと思いました。
逡巡するなかで、でもやっぱりこれをちゃんと映像にできたら素敵な映画になるんじゃないか。そんな想いが強くなってきました。チャレンジしてみたい、と。

主人公の伊豆見翔人は過ちを犯してたまたま宮崎県のある村に辿り着く。〈翔人〉役を林遣都さんに決められたのは?

 林くんくらいの20代半ばの役者さんって、凄く前からオファーしないと普通空いてないんです。今回たまたま、本当にたまたまなんですけど、直前にダメもとでオファーしたら、本命の林くんが空いている、と! たぶん1年前にオファーしていたらダメだったと思います。もの凄くラッキーでした。

林さんはこの映画の話がきたとき、いかがでしたか?

林遣都 原作を読んで、もう、やらない理由なんてないと思いました。とにかく決まったときは嬉しかったです。
最初に登場した瞬間から、二十数年どんなふうに生きてきた人物なのかということを観る人に考えさせなければいけない。凄くやりがいのある役。役者として、こういう役に巡り会えることはなかなかないので、気合も入りました。

イメージや実体験でやってはいけない

実の親に愛されずに育った主人公の中には世の中に対する怒りが充満しています。実際、やってきたことも倫理に反すること。でも、林さんが演じると、根っこにはピュアで優しい部分があることが感じられる。観客は主人公を心配し、幸せになってほしい、と願わずにはいられない。主人公像というのは、監督との共同作業でつくっていったのですか?

 クランクインする前はよくよく話しました。でも、入ってからは、林くんの考えに任せました。
スケジュール的にも順番に撮っていくことができたので、やりやすかった面もあったと思います。でも、本当に林くんは〈翔人〉になっていたので、僕がどうこう言う必要はまるでなかったです。

 最初に、監督から作品に対する想い、〈翔人〉に対する想いを伝えていただいて、自分の実体験だったりイメージで演ってはいけない、と思いました。無駄なことは何もない、と思って、犯罪心理の本を読んだり、実際の通り魔事件を調べてみたりもしました。
原作では、〈翔人〉は相当荒れているというか、行くところまでいっちゃっている若者。監督には、そこまでやらなくていい、と言われました。映画として見せるとき、「どういう変化をしていくか」が大事だと思いました。
実際、現場に入ってみないとその変化は体感できないと思っていました。現場に入る前に、ここでこんな変化が起こる、というのを決めてはいけない、と。
〈翔人〉っていうのは、ひと言で言うと凄く哀しい若者です。だから、救いようがいくらでもある。まだ、それに出逢っていないだけ、経験していないだけで。何かを感じとる才能みたいなものがこの子にはあるんじゃないか、と現場で改めて感じました。だからそういう瞬間を、感じて、見せられたらいいなと。

〈翔人〉が縁側に座って空と山を眺めて「いい天気だなぁ…」というシーン。観ているこちらも深呼吸できるような、大自然の包容力が感じられるシーンでした。都会で暮らしていると感じにくい、お日様が昇ってその日一日が始まって働いてごはんを食べて……という自然のサイクルが映像からからだに入ってくる。それらが〈翔人〉に変化をもたらすことが体感としてわかります。

 「やり過ぎない」「描きすぎない」ことをとても意識しました。もっとわかりやすく撮ることもできただろうけど、それはやらない。「この表現でわかってください」と、祈る想いで撮りました。
林くんは見事にそれを助けてくれました。林くんが縁側に座っているところを撮れば、その存在感でアップを撮る必要がない。本当に助けられましたね。

 本当に深呼吸したくなるような、気持ちの良い場所だったんです。食べるものも、ものすごくおいしかった。きのこ、山菜、ごはん、採れたての野菜……。撮影で食べたものも、撮影以外で食べたものも、本当にどれもおいしかったんです。
ずっと民宿みたいなところに泊まっていて、撮影に行くときにお弁当を持たされるんですが、それが映画に出てくるお弁当そのままで。撮影中、からだがどんどん元気になっていくのを感じました。

市原さんの“スマ”に感動しっぱなし

頑な〈翔人〉の心を大自然とその恵み、「ぼうはええ子じゃ」と世話をする〈スマ〉が溶かしていく。〈スマ〉を演じる市原悦子さんには、何か注文などされたのですか?

 市原さんは、何か言えば、返ってくる人。でも、何が返ってくるか、わからない(笑)。だから注文なんてほとんどしていません。実は、原作のイメージと市原さんは違います。でも、市原さんにお願いしたいと強く思っていた。体調がお悪いと聞いていたけれど、実際お会いしてみたらお元気だったので、天にも昇る気持ちでお願いしました。
「二人の咎(とが)か」という台詞があるんです。脚本書いているとき、ずっとしんみり言う台詞だと思って書いていた。それを市原さんは、しんみりでなく、笑いながら言うんです。そう来るんだ! って、びっくりしました。そんな一つ一つが、とても楽しい現場でした(笑)。
市原さんが〈スマ〉をやるってことは、こういうことなんだ、としみじみ思いました。一緒にやる林くんは大変だったでしょうけど、楽しかったんじゃないかな?

 クランクインする前に東京でお会いしたとき、「難しい役ですね」と言われて、「しっかりやりなさい」というメッセージだと受け取りました。実際現場に入ってからは、役とは別のところで感動しっぱなしでした。市原さん、台詞じゃないところで泣いたり笑ったりの喜怒哀楽が凄いんです。
撮影中、映画に関係のない話はほとんどしなかったんですけど、常に僕を〈翔人〉として見てくださっていました。ありがたかったのは、監督とシーンについて打ち合わせをするときに「この子はね」という話し方をしてくださったこと。「いまこの子はこういう気持ちで」とか、「私は彼にこういうふうにしてほしいと思ってる」とか。僕を〈翔人〉として見てくださっているのが端々に感じられて、僕も〈翔人〉になりきることができたんだと思います。あまり経験したことのない、濃密な現場でした。

市原さんといえば、やはり山形の大自然の中で撮影された『蕨野行』(2003年/恩地日出夫監督)が忘れられないのですが、それと並んで強い印象を残す演技でした。

 宮崎の方言の力もあると思います。でも実は宮崎弁じゃない、原作者の乃南アサさんオリジナルの表現というのも入っていて。〈スマ〉が〈翔人〉にかける言葉で「いっておいやれ」という台詞があるんですけど、それは宮崎では言わないんです。でも、とってもいい台詞なんで、入れておこう、と。

 「いっておいやれ」、いい言葉ですよね。

この人さえいればいい

山仕事を〈翔人〉に手伝わせる〈シゲ爺〉役の綿引勝彦さんの演技もリアルです。寡黙な山の男にしか見えない。

 綿引さん、本当に素敵な方なんですよね。実は台本では〈シゲ爺〉はもっと能弁で、台詞もたくさんあったんです。それを「カットしていい?」と。やっぱりずっと役者やってきた人って、凄いです。

現代的なテーマが凝縮されながら「救われる」映画だと思います。最後に、観てくださる方へのメッセージをお願いします。

 都会に暮らす若者の孤独感だったり、大自然の中で一人で暮らす老婆の孤独だったり、さまざまなテーマ、問題が凝縮されて入っているのですが、そういう個別のことより、もっと大きなテーマが言葉でなく伝わるといいと思っています。ぜひ、映画館の大きなスクリーンで観てほしいです。

 僕は〈翔人〉に感情移入していたので、ありきたりになってしまうんですが、「この人が自分にとってどれだけ大切な人かをどれだけ感じられるか」、それが大事だなと思いました。いろんな人づき合いがあると思うんですが、「この人さえいればいいや」って思えることってすごく素敵なこと。ぜひ映画から感じてほしいと思います。

東伸児 監督

1963年生まれ、大分県出身。1986年、国学院大学文学部卒業。1989年、日本映画学校卒業。 同年より、フリーの助監督として主にセントラルアーツ作品に携わる。助監督・監督補作品に、 佐藤純彌監督『私を抱いてそしてキスして』(92)、阪本順治監督『新仁義なき戦い』(00)、『KT』 (02)、『ぼくんち』(03)、『この世の外へ クラブ進駐軍』(04)、『亡国のイージス』(05)、 和泉聖治監督『相棒』シリーズ(08、10、14)、等がある。 2008年、ドラマ「相棒シーズン7」で初監督。本作『しゃぼん玉』が、映画初監督作品となる。

林遣都

1990年12月6日生まれ、滋賀県出身。中学3年生の修学旅行中にスカウトされ2005年芸能界入り。2007年、映画『バッテリー』主演で俳優デビュー。同作品での演技が評価され、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞、キネマ旬報ベスト・テン、第22回高崎映画祭最優秀新人男優賞、第17回日本映画批評家大賞新人賞などその年の多くの新人賞を受賞した。 その後、『DIVE!!』(08)、『ラブファイト』(08)、『荒川アンダー ザ ブリッジ』(12)など多数の映画で主演を務める。行定勲監督作品『パレード』(10)は、ベルリン国際映画祭で国際批評家連名賞受賞。近年は、NHK総合放送90年大河ファンタジー「精霊の守り人」、Netflixドラマ「火花」(主演)、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」、NHK BSプレミアム「漱石悶々」、舞台「家族の基礎〜大道寺の人々〜」、映画『花芯』、『にがくてあまい』、『グッドモーニングショー』など、多くの話題作に出演する若手実力派俳優。

映画『しゃぼん玉』

2017年3月4日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国公開

親に⾒捨てられ、⼥性や⽼⼈だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返してきた伊⾖⾒翔⼈(林遣都)。誤って⼈を刺してしまった彼は、逃亡途中に⽼婆・スマ(市原悦⼦)を助けたことがきっかけで、彼⼥の家に居座ってしまう。初めは⾦を盗んで逃げるつもりだったが、伊⾖⾒をスマの孫だと勘違いした村の⼈々に世話を焼かれ、⼭仕事や祭りの準備を⼿伝わされるうちに、伊⾖⾒の荒んだ⼼に少しづつ変化が訪れた。そして10年ぶりに村に帰ってきた美知(藤井美菜)との出会いから、⾃分が犯した罪を⾃覚し始める。「今まで諦めていた⼈⽣をやり直したい」――決意を秘めた伊⾖⾒は、どこへ向かうのか…。

監督:東伸児
出演:林遣都 藤井美菜 相島一之 綿引勝彦/市原悦子
原作:乃南アサ『しゃぼん玉』(新潮文庫刊)
主題歌:秦 基博「アイ(弾き語りVersion)」(OFFICE AUGUSTA)
配給:スタイルジャム

オフィシャルサイトhttp://www.shabondama.jp

©2016「しゃぼん玉」製作委員会

原作本

しゃぼん玉

著者:乃南アサ
新潮社 / 新潮文庫

主題歌:秦基博「アイ(弾き語りVersion)」収録アルバム

ひとみみぼれ
秦 基博

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