Interview

天真爛漫な橋本環奈からは想像できない“弱さ”を表現。市井昌秀監督と語る『ハルチカ』

天真爛漫な橋本環奈からは想像できない“弱さ”を表現。市井昌秀監督と語る『ハルチカ』

シリーズ累計60万部を突破した、初野晴の代表作である人気青春ノベル『ハルチカ』シリーズが実写映画化。佐藤勝利(Sexy Zone)と橋本環奈という“奇跡の美”の共演により、廃部寸前の吹奏楽部を復活させ、コンクール出場という一つの目標に向かって部員が団結するという瑞々しい青春純愛映画が完成した。もちろん、そこには青春時代だからこその友情や特別な関係性、挫折と葛藤、そして圧倒的なきらめきがぎっしりと詰め込まれている。本作で、真っ直ぐでひた向きな〈穂村千夏(チカ)〉を演じた橋本環奈と、『僕らのごはんは明日で待ってる』(17)などを手掛け、いま最も注目を集めている市井昌秀監督に、役との共通点や現場でのエピソード、本作でのこだわりなどをたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 吉田可奈
撮影 / 三橋優美子


〈チカ〉は、普段の橋本さんのイメージとぴったりと重なるように感じました。〈チカ〉に共感する部分も多かったのではないですか?

橋本 ありがとうございます! そう言っていただけるとすごく嬉しいです。私自身、最初に『ハルチカ』の原作を読ませていただいたときに、〈チカ〉は一瞬で好きになれるキャラクターだと思ったんです。不器用ながらも他人のことを考え、前を向いて先導するところはすごく素敵だなと思いました。〈チカ〉はものすごく負けず嫌いなのですが、そこが一番、私自身と重なるかもしれません。

劇中でも必死にフルートを練習するシーンがありますよね。

橋本 そうですね。〈チカ〉はフルートが思うように吹けないことが悔しくて、人がいないところで必死に練習しますが、私も人に見えないように練習する“コソ練”タイプなんです。それに、やると決めたことは絶対に貫き通したい性格なので、とても共感できました。

市井 〈チカ〉ちゃんは、例えるなら“鉄のツノ”。本来なら柔軟性のある“ゴムのツノ”が理想的なんですが、折れるときにはポキッと折れるところが〈チカ〉だと思っていたんです。環奈ちゃんにも、そのポキッと折れた瞬間の弱さを演じてもらいたくて、頑張ってもらいました。結果として、天真爛漫で負けず嫌いな橋本環奈からは想像できない、負の部分もしっかりと表現できたのはすごくよかったですね。

監督が演出するにあたり、生徒役のキャストのみなさんに伝えていたことはどんなことだったんですか?

市井 常に言っていたのは、「演じるときに高校生の着ぐるみに入るのではなく、等身大でいながら、必要なキャラクターを自分の中から引き出してください」ということ。吹奏楽部のみんながしっかりと生きた高校生を演じることで、〈ハルタ〉と〈チカ〉の関係も輝くと思ったので、この二人だけをキラキラさせるような演出をするのではなく、吹奏楽部の全員が輝くように撮影していました。

橋本 後半に、私以外の吹奏楽部のメンバーが言い争い合うシーンがあるんですが、そこはすべてエチュード(即興)で行われていたんです。それがすごく生々しくて、横で見ていて思わず泣いてしまうような仕上がりでした。これは全員が、この吹奏楽部の部員を生きていないとできないことだと思うんです。監督がおっしゃっていたその言葉をみんなが理解して完成した、集大成のシーンだと思います。

市井 木管担当と金管担当の言い争いもすごくリアルで、みんなが楽器に対して愛情を持ってくれていることも伝わってきたんです。エチュードということに不安を覚えた子もいたと思うんですよ。でも、その不安も良い具合に表現されていて、すごく良いシーンが撮れました。OKを出した時は、僕もすごく感動しましたね。

監督から見て、橋本さんと、〈ハルタ〉役を演じた佐藤(勝利)さんの撮影中の印象はどんなものでしたか?

市井 環奈ちゃんは休憩中でも機関銃のように話していて(笑)、常に明るく元気だったんです。その姿はまさに〈チカ〉そのもの。勝利くんも、大人しそうだけど頼りがいがある子なので、みんなが〈ハルタ〉に導かれていく印象があったんです。二人とも、見事に〈ハルタ〉と〈チカ〉を演じきってくれたなと思いますね。

監督は休憩中もキャストの近くにいらっしゃったんですね。

橋本 だいたい一緒にいましたよね。控室がみんな同じ教室だったので、本当に学校生活を送っているようでした。みんなも役名で呼び合ったりしていて、すごく充実した時間を過ごすことができました。

〈チカ〉が〈ハルタ〉を思いきり蹴り飛ばすシーンは衝撃的でした。

橋本 実はそのシーンがクランクイン初日だったんです。初めてなのに殴ったり蹴ったりするの!? と戸惑いましたが(笑)、勝利くんは「思いっきり来てください」と言ってくれたんです。

市井 さすがに最初は遠慮がみえていたからね。

橋本 でもここは思いきりいかなくちゃ、〈ハルタ〉と〈チカ〉の関係性が成立しないと思って、“引くぐらい”をモットーにがんばりました(笑)。でも、このシーンが最初だったおかげで緊張もほぐれたし、“ハルチカ”ってこういう距離感なんだ、というのがわかったのですごく良かったですね。

市井 助監督のスケジュールの切り方が最高だったんだね(笑)。そういえば、〈ハルタ〉が〈チカ〉を抱きしめるシーンが、最後の撮影だったんですよ。

橋本 そうでした! みんなで関係性をしっかりと築いた後だったので、すごく自然にできました。これも助監督のスペシャルなスケジュールのおかげだと思います(笑)。

生々しい青春時代の葛藤も本作の魅力ですよね。

橋本 そう思います。キラキラした部分だけでなく、挫折も含めて、青春だと思うんですよ。〈チカ〉も〈ハルタ〉も、挫折を味わって、何かを乗り越えるという瞬間があるんです。その成長した姿もしっかりと映し出されていると思いました。

監督の青春時代も反映されているんですか?

市井 青春は立ち止まらなければ続くと思うので、今も青春時代です!

橋本 名言ですね!

市井 (笑)。今回は、みなさんが青春時代をしっかりと生きているということをスクリーンで表せられるようにこだわりました。高校時代というかけがえのない時間を、リアリティ溢れるように映し出すことを一番に考えたんです。そのために意図的にやったのが、細かく演技指導しないということ。キャストのみなさんには、キャラクターをイメージするなかで、シーンでは描かれていない部分を想像して演じてください、と委ねたんです。

橋本 撮影中に監督は、私たちキャストの声をすごく良く聞いてくださいました。「このシーンは、〈チカ〉ならこうすると思うんです」と相談したら、結果的にその方向で採用されることもありました。だからこそすごく演じやすかったし、リアリティのあるものになっているんだと思います。

市井 現場の声は大事にしたいんですよね。同時に、そのシーンの意図やキャラクターを細かく説明することによって、役者さんたちの足かせにしたくないんです。僕自身、シーンとして必要なところさえ押さえてあれば、あとは変化球でも良いと思っていて。

だからこそ、市井監督の映画には、程よい余白が多く存在するんですね。

市井 そうですね。“100”を伝えたいところを、あえて“80”で表現して“20”の余白を残すことで、観た人がそこに想像や妄想で“50”や“100”をプラスして、“100”以上のものが出来上がるような気がするんです。これからもその余白は大事にしていきたいですね。

すごく和やかな現場だったようですが、橋本さんから見て、監督はどのような方でしたか?

橋本 監督はとても穏やかで、厳しいところは一切ありませんでした。たまに真顔でボケるんですよ!

市井 (笑)。僕は劇的に煽って変化するのではなく、普通に過ごしているうちに、どんどんとんでもなくなっていくという展開が大好きなんです。

橋本 いきなりカオスになるという感じですよね(笑)。

市井 そうそう(笑)。

橋本 満員バスのシーンが、まさに監督のその傾向が詰め込まれているんです。満員すぎて顔がつぶれるとか、クスッとするものをいきなり差し込んでくるんですよ。映画を観ていると、細かいおもしろポイントがたくさんあるので、何度も観て確かめてほしいですね。

では最後に、監督は橋本さんにどんな女優になってほしいと思いますか?

市井 この作品で弱い部分をさらけ出す姿をみて、すごく新たな一面を見ることができたんです。今後も、無防備にいろんな感情をさらけ出す女優さんになってもらいたいですね。

橋本 がんばります!

橋本環奈

1999年生まれ、福岡県出身。2013年、ファンによって撮影された一枚の写真がインターネット上で話題になり注目を集める。多くの企業CMに起用され、2014年には第21回ベストスマイル・オブ・ザ・イヤー、また史上最年少で第26回ジュエリーベストドレッサー賞に輝いた。2016年に角川映画40周年記念作品『セーラー服と機関銃 -卒業-』(前田弘二 監督)で映画初主演を務め、同作の主題歌『セーラー服と機関銃』でソロデビューを果たした。この他の出演作に【映画】『奇跡』(11/是枝裕和 監督)、『暗殺教室』『暗殺教室~卒業編~』(15・16/羽住英一郎 監督)、【ドラマ】『水球ヤンキース』(2014/CX)など。今年は本作のほか、ヒロイン・神楽を演じる『銀魂』(7月14日公開予定/福田雄一 監督)も待機中。
オフィシャルサイトhttp://discovery-n.co.jp/entertainment/11_hashimoto.html

市井昌秀

1976年生まれ、富山県出身。劇団東京乾電池の研究生を経て、映画学校ENBUゼミナールに入学。2004年、初の長編作品である自主映画『隼(はやぶさ)』が第28回ぴあフィルムフェスティバルにおいて準グランプリと技術賞を受賞。第2作『無防備』(07)が第30回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリ、第13回釜山国際映画祭で新人監督作品コンペティション部門最高賞に輝き、一躍注目を集める。商業映画第1作『箱入り息子の恋』(13)は単館公開ながらスマッシュヒットを記録。最も期待される新人監督に贈られる第54回日本映画監督協会新人賞に輝くなど、高評価を得た。この他の監督作に【映画】『僕らのごはんは明日で待ってる』(17)、【ドラマ】『ドラマW 十月十日の進化論』(15/WOWOW)などがある。

映画『ハルチカ』

2017年3月4日公開

少し頼りないけれど、気の優しい美男子の〈ハルタ〉と、真っ直ぐな性格で負けん気の強い〈チカ〉。小学3年生の時に〈ハルタ〉が引っ越してしまうまで幼なじみだった二人は、高校の入学式当日に運命的な再会を果たす。入学後、ずっと憧れていた吹奏楽部に入ろうと心に決めていた〈チカ〉だったが、吹奏楽部は廃部寸前の危機だった。しかし、大好きなフルートを諦めきれない〈チカ〉は、ホルン経験者の〈ハルタ〉を巻き込んで、部員集めに走りまわる。音楽一家に育った〈芦澤直子〉、部員をまとめようと奔走する部長の〈片桐誠治〉と、その彼女である〈野口わかば〉、登校拒否中の〈檜山界雄〉など、ワケアリなメンバーとともに、吹奏楽部顧問の〈草壁信二郎〉による指導のもと、コンクール出場という目標に向かって突き進む。

【脚本・監督】市井昌秀
【原作】初野晴(角川文庫刊)
【脚本】山浦雅大
【出演】
佐藤勝利(Sexy Zone) 橋本環奈
恒松祐里 清水尋也 前田航基 平岡拓真 上白石萌歌 二階堂姫瑠
志賀廣太郎 小出恵介
【音楽】小瀬村晶、小川明夏
【オリジナルテーマ曲】「吹奏楽のための狂詩曲 第1番『春の光、夏の風』」

【配給】KADOKAWA

オフィシャルサイトhttp://haruchika-movie.jp/

©2017「ハルチカ」製作委員会


原作本 ハルチカシリーズ

ハルチカシリーズ 4冊合本版 『退出ゲーム』~『千年ジュリエット』

初野晴 (著者)
KADOKAWA / 角川書店

「なぜだろう。青春にはいつも、解き明かせない謎が溢れている――」廃部寸前の弱小吹奏楽部で、吹奏楽の甲子園「普門館」を目指す元気少女チカ(フルート担当)と、幼馴染みの残念系美少年ハルタ(ホルン担当)。部員集めに練習に、忙しく奮闘するハルチカコンビが出会う、様々な謎とは? 各界の絶賛を浴びたミステリ作品がシリーズ4冊合本版となって登場!!※本電子書籍は「退出ゲーム」「初恋ソムリエ」「空想オルガン」「千年ジュリエット」を1冊にまとめた合本版です。

惑星カロン

初野晴 (著者)
KADOKAWA / 角川書店

喧噪の文化祭が終わり三年生が引退、残った一、二年生の新体制を迎えた清水南高校吹奏楽部。上級生となった元気少女の穂村チカと残念美少年の上条ハルタに、またまた新たな難題が? チカが試奏する“呪いのフルート”の正体、あやしい人物からメールで届く音楽暗号、旧校舎で起きた密室の“鍵全開事件”、そして神秘の楽曲「惑星カロン」と人間消失の謎・・・・・・。笑い、せつなさ、謎もますます増量の青春ミステリ、第5弾!