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キスシーンを巡る終戦直後の物語。八嶋智人&川島海荷が浅草九劇こけら落とし公演に

キスシーンを巡る終戦直後の物語。八嶋智人&川島海荷が浅草九劇こけら落とし公演に

古くから日本のエンターテインメントを発信してきた浅草にて、創立25周年を迎えたレプロエンタテインメントがあらたなプロジェクトとして、劇場・ホテル・飲食店の複合施設〈浅草九倶楽部(アサクサココノクラブ)〉を4月1日より開業。それに先駆け、“人と情熱とエンターテインメントが渦巻く劇場〈浅草九劇〉が3月3日にオープンを迎えた。
その記念すべきこけら落とし公演、ベッド&メイキングスの最新作『あたらしいエクスプロージョン』の記者会見と公開ゲネプロが3月2日に行われ、演者を代表して八嶋智人、川島海荷、富岡晃一郎、そして作・演出家の福原充則が登壇した。物語の舞台は1946年。敗戦から1年を経たずして公開された、邦画初のキスシーンを巡るノンフィクションがモチーフの“感情発火型物語”となっている。

取材・文 / 恒川めぐみ


劇場のオープンということで、何かの始まり、初めての物語をやりたいなと

完成したばかりの、ここ〈浅草九劇〉は収容人数130人という、ステージから客席までが驚くほどの近距離。作・演出家や役者にとって非常にチャレンジングな劇場なだけに、意気込みも大きく膨らんでいるようだ。

福原充則 いろいろなサイズの劇場がある中、おそらくこのサイズが演劇の魅力が一番伝わるというか、お客さんが芝居を観て一番楽しめる素晴らしい小屋だと思います。この距離の近さはすごいですよね。

川島海荷 近すぎて緊張しちゃいます(笑)。

富岡晃一郎 以前、早乙女太一くんが座長を務めた大衆演劇の作品に何回か出たことがあります。そういう大衆演劇の発祥の地で舞台に立てることは光栄です。大衆演劇も客席と近い舞台なので、今作でもみなさんと一体になれると思います。

八嶋智人 もう、やるしかないなと思います。大きい劇場だと、たまに大勢対ひとりみたいな気持ちになるんです。そうすると逆に疲れないんですよ。でもここは目の前にお客さんがいらっしゃるのがはっきり見えて、一対一が130席分になると思うと、これはなかなかの勝負ですよ? だから普段より疲れると思うので、本当に頑張りたいなと思います。

和気藹々と記者会見が進んでいくと、こけら落とし公演に新作『あたらしいエクスプロージョン』を選んだ理由について福原が言及。すると……。

福原 劇場のオープンということで、何かの始まり、初めての物語をやりたいなと思ったんですね。ただ、始まるだけでは寂しいので(笑)、始まってどこまでも続いていく、というお話を選びました。それから、我々の生活のすぐそばにあるものの始まりを描くことで、この劇場をお客さんたちの身近に感じて欲しいなと思いまして。その身近なものとして、テーマは“キス”がいいかなと。みんな好きですもんね?
八嶋 キス、好きっ!(笑)
川島 ふふふふ(笑)。
福原 ……おじさんの同意しか得られませんでしたけど(笑)。
八嶋 キス嫌い?
川島 嫌いとかではないです(笑)。
富岡 僕は好きですぅ!(笑)
八嶋 君には聞いてないよ!(笑)

まだゲネプロ前だというのに、このユニークさとパワフルさ。それは、八嶋、川島、富岡に加え、町田マリー、大鶴佐助、山本亨の6人がこれから生み出そうとしている、本番の高いテンションそのものを表しているに違いない。

川島 共演者の方々は、いつもパワーみなぎっている方ばかりです。舞台としては、出演者6人は少ないですよね。でもつねににぎやかですし、毎日一緒にいて刺激的で楽しいです。

富岡 海荷ちゃんはこの作品が人生で2回目の舞台ですけど、毎日が刺激いっぱいの稽古場だったと思います。それでもどんどん馴染んでくれて。6人でどんどん濃密な作品になるように1ヵ月間、稽古してきたので、この新しい劇場をぶっ壊すぐらいのつもりで本番もやれたらなと。

そして、実は本番を迎える、3月3日は……。

八嶋 わたくし夫婦の結婚記念日でございます! それはさておき(笑)、なんといってもヒロイン、川島海荷ちゃんの23歳のお誕生日でございます!

その声を合図に、舞台上には川島が大好きなイチゴと公演のテーマを象徴する唇のモチーフがあしらわれたバースデーケーキが運ばれてきた。サプライズプレゼントに川島はびっくり。

川島 嬉しすぎて今ちょっと心臓が痛いです(笑)。ここから新しい自分がまたどんどん始まっていけばいいなと思いますし、その良いきっかけになる舞台にしたいなと思います。

と、満面の笑みを浮かべながら力強く抱負を語った。この後、浅草九劇の開業を記念して、この4人でバルコニーからの餅撒きも行われた。ここ芸能の聖地、浅草から、新しい〈浅草九劇〉が多くの人々をエンターテインメントの魅力に巻き込む未来は、もう目の前に!

「明日も明後日も生きていたいだけ。映画の中でなら生きられる」

和やかな会見ムードから一転し、一瞬、舞台は辺り一面、静かな闇に包まれる。物語の始まりは終戦直後の浅草を思わせるどこかの軒先。映画監督の〈杵山康茂/八嶋智人〉が焼け野原と化した街をひとりぽつんと眺めている。と、どうやら同じく映画人である軍服姿の〈今岡昇太/富岡晃一郎〉が駆け寄ってくる。遠くに見える東本願寺を眺めながら「絵になるなぁ」と、2人はカメラのフレームを覗く。しかし機材はすべて戦争に奪われ、彼らが構えているのは素手、自らの指で作ったフレームだった。

そこへ防空頭巾をかぶった少女、〈野田富美子/川島海荷〉が現れる。何を直感したのか、富美子を女優にしたい杵山たちは彼女に近づこうとする。富美子の正体は、片目を失った〈カスミ/町田マリー〉、男でありながら街婦をしている〈アザミ/大鶴佐助〉と同じ娼婦。なかなか応じない富美子たちに身ぐるみを剥がされそうになっても説得を試みる杵山は「映画で兵隊たちを釘付けにする! 映画館から一歩も出さない! こないだの戦争じゃ、それができなかった。我々の責任だ。謝る。映画が戦争に負けた。次は勝つ! 協力を求む!」などと懇願する。

「匂いで決める」と杵山に鼻を寄せる富美子。「あんたの匂いは嫌いじゃない」……彼らの熱意は伝わったようだ。彼らが撮ろうとしているのは、当時はタブーのように扱われていた恋愛映画の中でのキスシーン。そこから、“邦画初”という名目を手にするため、カメラを所有する〈石王時子/町田マリー〉、富美子に恋心を抱く煮ぼうとう屋を営む〈貞野寛一/大鶴佐助〉と共に、杵山たち映画人は奔走する。しかし、杵山は戦時中にプロバガンダ映画(政治的な思想を植え付けることを目的とした映画)の製作に関わったとしてGHQ裁判にかけられてしまう。打ちひしがれる杵山にある人物がとった行動で……杵山の体内に稲妻が走るようなショックが!

一方、チャンバラ映画の大物俳優であり、映画監督でもある〈月島右蔵/山本亨〉率いる月島組は、女優の〈柚木灘子/町田マリー〉、付き人の坊や〈哲/大鶴佐助〉、マネージャーの〈金剛地/八嶋智人〉と、大好きな『忠臣蔵』を撮りたいが、GHQの許可が何度トライしても下りない。彼らの前に立ちはだかるのは、戦後の日本映画・演劇を統括管理する検閲官〈デビット・コンデ/富岡晃一郎〉だ。やがて、彼の通訳の〈マイク・サカタ/山本亨〉から、デビットが問題のある人物だと知らされることになる……。

数々の異なるシーンと、次々に現れる登場人物の想いが場面を変えながら進んでいくが、なにせ役者はたった6人。ひとりで2役から4役を掛け持ちで、目まぐるしい速さで早替えをし、仕草から口癖までこだわって役柄を変え、ステージに現れる。その間、小劇場ならではのスペース感も活かして、客席との間が数センチしか設けられていない花道にまで出て観客を驚かせたり、役者自ら懐中電灯をスポットライト代わりにして暗闇の中で役柄を声だけで演じ分けたり、新しい劇場の仕掛けもフル活用。さらには濃厚なストーリーの中で、誰ひとり例外なく膨大な台詞の数を抱えているものだから、少しでも目を離すとアッという間に場面が変わってしまう。だが、呼吸をする一瞬が惜しくなるほど巧みな話術と笑いを起こす演技(たまにアドリブ)を投げてくるため、舞台から目をそらそうとしても不可能。「一番最初にキスシーンを撮るのだ!」という場面に至る攻防や、『忠臣蔵』撮影成功のシーンでは爆笑を止められなくなるし、かと思えば、激動の時代を生き抜いた石王時子のエピソードでは、思わずホロリとしてしまう。様々な登場人物の存在意義が交錯しながらやがてひとつになったとき、例えようのない感動が押し寄せてくる。この感情のスパークこそが、作・演出の福原充則が目指す“感情発火型物語”である。

特筆すべきは、こんなバイタリティ溢れる作者と役者の中で活躍する最年少、川島海荷の存在だ。戦後という時代背景や、娼婦という大胆で難しい、彼女の年齢からは程遠いはずの設定も思い切って乗りこなし、持ち前の愛くるしさも注ぎながらまたあらたな表情を見せてくれる。彼女が富美子として発する「明日も明後日も生きていたいだけ。映画の中でなら生きられる」という言葉は、100年先まで後世に語り継がれる映画を作ってきた日本映画界の先人たちの想いを背負っているような気がして、胸をギュッと掴まれてしまった。

若さほとばしる川島海荷と、ベテラン俳優たちの熱いエネルギーのぶつかり合いは実に痛快! そして過去と未来の芸術が点と点で結ばれる『あたらしいエクスプロージョン』を、芸の聖地に誕生した新劇場でぜひとも体感してほしい。

八嶋 戦後の邦画で初めてキスシーンを撮る映画屋さんたちのお話が、この新しい劇場から始まります。そして、そういう物語を演劇で見せる我々のお芝居は、なかなか記録に残らず記憶に残るもの。その矛盾をひっくるめて、形として未来まで残っていった物語を、舞台というその瞬間に儚く消えてしまう我々の立ち姿を、見逃さないでいただきたいなと思います!

ベッド&メイキングス第5回公演 「あたらしいエクスプロージョン」

2017年3月3日(金)〜3月21日(木)浅草九劇

【作・演出】福原充則
【出演】
八嶋智人 川島海荷 町田マリー 大鶴佐助 富岡晃一郎 山本亨
【企画・製作】ベッド&メイキングス プラグマックス&エンタテインメント

オフィシャルサイト


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