モリコメンド 一本釣り  vol. 5

Column

美しく、憂いを帯びた歌声と音楽劇のような感情表現。majikoの圧倒的なオリジナリティ

美しく、憂いを帯びた歌声と音楽劇のような感情表現。majikoの圧倒的なオリジナリティ

筆者が初めてmajikoのライブを見たのは、昨年12月27日に青山RizMで開催されたポニーキャニオン所属の女性新人アーティスト3名(majikoの他、瀬川あやか、上白石萌音が出演)によるイベント『Girls Pop Collection』だった。2番目に登場した彼女は、ジャズ、R&B、ロック、エレクトロニカといった幅広いサウンドを取り入れた楽曲、そして、美しく、憂いを帯びた歌声を響かせ、観客を魅了。シリアスな感情を前向きに解き放つような歌詞の世界を含め、その圧倒的なオリジナリティをしっかりと示したのだった。

今年2月にミニアルバム「CLOUD 7」でメジャーデビューを果たしたmajiko。彼女がアーティストしてのキャリアをスタートさせたのは、ニコ動に代表されるインターネット音楽のシーンだった。2010年に“まじ娘”名義で“歌ってみた”動画を初投稿、いわゆる“歌い手”としての活動を始める。その存在に注目が集まったきっかけは、2011年に公開された「カゲロウデイズ」。じん(自然の敵P)の人気曲をシャープなハイトーンボイスで歌い、ネットユーザーの間で“高音がキレイ”“歌、上手すぎる”と高い評価を獲得したのだ。楽曲をアップするたびに歌い手として支持を高めていった彼女は、2013年12月にライブイベントETA(EXIT TUNES ACADEMY)に初出演。際立った歌唱力とパフォーマンスを披露し、アーティストとしての資質の高さを証明。ビジュアルの良さを含め、その存在は幅広いオーディエンスによって共有されることになった。

“まじ娘”名義による最初の音源は、2015年4月にリリースされた「Contrast」。このアルバムで注目すべきは、ホリエアツシ(ストレイテナー/ent)が書き下ろした楽曲を、みきとP(ボカロP)が編曲した「アマデウス」だろう。オルタナティブなギターロックとダンスミュージックの要素を交えたサウンド、“君はずっと震えてるの?/分かるでしょう出ておいで”というダークな感情に救いの手を差し出すようなリリックがひとつになったこの曲は、シンガーとしての彼女の魅力を的確に引き出したことはもちろん、ロックシーンとボカロシーンが有機的に交わったという意味においても、きわめて貴重だと思う。さらに人気曲「心做し」のほか、「独りんぼエンヴィー」「ウミユリ海底譚」「アイロニ」といったボーカロイド・シーンを代表する名曲のカバーも収録。ボーカリスト/アーティストの両面において、その才能が大きく進化していることを印象付けた。

その後、オリジナル曲の制作を通して、ソングライター、トラックメイカーとしての実力を磨いてきた彼女は、メジャーデビューのタイミングでアーティスト名を“まじ娘”から“majiko”の改名。その最初のリリースがミニアルバム「CLOUD7」だ。

個人的にもっとも印象に残ったのは、作詞・作曲・編曲、ボーカル・ディレクションまでをmajiko自身で行った「ノクチルカの夜」。ジャズのエッセンスを色濃く反映させたバンドサウンドをフィーチャーしたこの曲は、“わたしの生命線は とても短いのです”というフレーズから始まる。限りある生を意識しながら、時間とともに刻々と変化する世界のなかで立ちすくむ——そんな心情をリリカルに描いたこの曲は(現時点における)majikoの音楽的な本質を見事に射抜いていると思う。

majikoが敬愛しているというCozy(車谷浩司)の提供曲「SILK」以外は、彼女自身の自作曲。アルバム全体に共通しているテーマは、大切な人の不在、そして、その人の気配を感じながら前に進もうとする意志だ。そこには2年前に逝去した母親に対する思いが通奏低音のように流れているが、そのシリアスな感情をそのまま剥き出しにするのではなく、卓越したソングライティング・センスと洗練されたサウンドメイクによって、幅広い層のリスナーに訴求するポップソングに昇華しているところがmajikoの真骨頂(アルバム全体のサウンドプロデュースを担当したホリエアツシの手腕も見逃せない)。“雲の上の天国”という意味を持つ「CLOUD 7」というタイトル、アルバム収録曲のストーリーを描いた自作のイラストからも、アーティストとしての奥行きが感じてもらえるはずだ。

ラジオ局のパワープレイ、Apple Musicの「今週のNEW ARTIST」に選ばれるなど、各メディアでも徐々に注目度を高めているmajiko。楽曲、サウンド、アートワークなどを自らクリエイトするマルチアーティストとしての才能、そして、まるで音楽劇のような感情表現とともに繰り広げられるステージパフォーマンスを兼ね備えた彼女の存在は、ジャンルの枠を超えて浸透していくことになるはずだ。

文 / 森朋之

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