Interview

T字路s、伊東妙子の歌声が心揺さぶる初のフル・アルバム

T字路s、伊東妙子の歌声が心揺さぶる初のフル・アルバム

伊東妙子の激しく吼えるような歌声と、歌に寄り添いながらも力強く支える篠田智仁のベースからなる二人組、T字路s。2010年の結成以来、全国各地を飛び回っては熱いライブを展開し、ブルースやフォーク、ロックンロールを呑み込みながら、あらゆる人の心を直撃する激情の歌を聞かせてきた彼ら。地道な活動ながらその歌声はさまざまな世代に伝わり、甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)や蔦谷好位置といったミュージシャンから、千原ジュニア、宮沢章夫といった異ジャンルの著名人も彼らの音楽に熱いシンパシーを送っている。今や各地の野外フェスにも引っ張りだこの彼らが、結成7年目にして初のオリジナル・アルバム『T字路s』を完成させた。

文 / 宮内健 写真 / 沼田学


先達ミュージシャンも惚れ込んだ酒場で鍛えられたライブの実力

バンド名がタイトルになった『T字路s』は、結成以来初のオリジナル・フル・アルバムですね。

伊東 なんせ7年越しですからね。

篠田 なかなか踏ん切りがつかなかった(笑)。

ヴォーカル/ギターの伊東さんは以前はDIESEL ANNというガレージ・ロック・バンドのメンバー、ベースの篠田さんは来年25周年を迎えるスカ・バンドCOOL WISE MANのバンマスでもありますが、そもそもT字路sを結成することになったきっかけは?

伊東 COOL WISE MANのメンバーの結婚式の余興で、二人で何かやってくれって言われたのがきっかけで。その評判が良かったので気を良くして(笑)。

それから活動が本格化してきて、バーや酒場などライブハウス以外の場所でも演奏を繰り広げ、全国各地を飛び回ってきました。

伊東 去年はほぼ毎週ライブをやってましたね。酒場でのライブは、ライブハウスよりも距離が近い感じがして。お客さんの反応もそうだし、積極的に楽しみに来てくれるところもあって、いい意味で鍛えられたというか。

篠田 T字路sをお酒飲みながら観たいって言ってくれる人がすごく多いから、企画を立てて呼んでくれるようになって、自然と活動のスタンスもそっちに向かっていった。それに、飲み屋さんでないと出せない雰囲気もあるからね。

そういう旅から旅へと続く生活から、歌が生まれる?

伊東 たしかに私たちの曲には、旅の歌やさすらう歌が多いかもしれない。

篠田 俺らも不器用だから、成長するにはライブの本数を増やすしかないっていうか、そこで得るものしかないというか。それでたくさんライブをやることに慣れちゃって、いつの間にかそのペースが日常になっちゃった。やっぱり場数に勝るものはないですからね。

そうした地道な活動から、自分たちの歌が多くの人に届いていってるなという実感はありますか?

伊東 だんだんお客さんが増えていってるという手応えはありましたね。

篠田 あとはミュージシャンの先輩とかがラジオで紹介してくれたり、そういうことにも恵まれてましたね。

伊東 甲本ヒロトさんもライブを見に来てくださって、ラジオでも紹介してくれて。あのヒロトさんが私たちの歌を聴いてくださってるなんて、未だに信じられないですね。

篠田 あとはテレビ番組なんかでも、意外な人たちが紹介してくれたりね。

伊東 活動としては、本当に小っちゃい飲み屋でライブをしてることがほとんどなので、こっちとしては本当にビックリすることばっかりで。

納得するまで解釈し尽くしたカヴァー・アルバムの布石

多くの人がT字路sの歌に触れることになったきっかけの一つに、一昨年リリースされたカヴァー・アルバム『Tの讃歌』があると思います。古いブルース・ナンバーから、浅川マキ、中島みゆき、森進一、ボ・ガンボスまで幅広いレパートリーをカヴァーしたことで得たものはありますか?

伊東 すごくたくさんありますね。やっぱりオリジナル曲っていうのは、自分の中で世界観が出来上がってるから、ただそれに集中すればいいんですけど、他人の作った曲をカヴァーする時は、やっぱりどういう気持ちでこの曲を作ったかを自分なりに解釈し尽くすところからはじまるので。それが正解なのかどうかはわからないけど、納得するまで解釈する。その上で、女優じゃないですけど、曲の世界に入り込んで歌うようにしたんです。それぐらいしないと、曲に対して失礼な気がして。そうした経験を得たからか、今回のアルバムでオリジナル曲をレコーディングする時に、自分で作った詞だけれど、その歌詞の世界観に女優みたいな感覚であらためて入り込むようにして歌えたのが大きいかもしれない。

シンガー・ソングライターの多くは、素の自分をさらけ出すような感じだけど、伊東さんは自分の作った詞の世界に、シンガーという客観的な立場から、あらためて入り込むような感覚というか。

篠田 妙ちゃんはそういうタイプだよね。物語は作るけど、それが出来あがった時点で客観的になってて、ライブで歌う時にはそこに憑依していく、イタコスタイルというか(笑)。

T字路sの曲自体も、個人的な心情の吐露というよりも、一つの物語として成立してるような歌ですからね。

篠田 あとはカヴァーをやったことで、アレンジの引き出しが広がったことも大きいですね。今まではブルースっぽくしようとか、カントリーっぽくしてみようとか、ルーツ・ミュージックからの影響が先にあったけど、『Tの讃歌』で取り上げたような、プロの編曲者が手がけてきた曲にあらためて向き合うと、やっぱりすごくよく考えられたアレンジなんだなというのを、まざまざと思い知らされて。そこで学んだことを、今回のアルバムでちょっとでも出したいなと思って。たとえば「最後の手紙」みたいな、今までにないちょっとポップス寄りの曲も違和感なくできるようになった。それはポップスのカヴァーをやってみたからこそ、できたことですね。

結成当初からT字路sを見続けてますが、『Tの讃歌』を前後して篠田さんのベース演奏がすごく表現豊かになってきましたよね。

二人 うぇ~い!(笑)。

篠田 まあ、僕の場合はCOOL WISE MANを結成した時にベースを始めたぐらいだから、T字路sはじめるまではスカやレゲエしかやったことなかったですからね。どうやったら歌に寄り添えるんだろうってことをずっと考えて、T字路sではベースを弾いてきた。とはいえ、今さらスタジオ・ミュージシャンみたいに器用なベースも弾けないし。それまでは日本のポップスとかを真面目にカヴァーしたこともなかったし、まったく自分の中にない引き出しだったから。『Tの讃歌』は、本当にやって良かった。

そういった経験を踏んできたこのタイミングで、オリジナル・フル・アルバムを作れたっていうのは、すごくいいことなのかなって思います。

伊東 うん、そんな気がしますね。

篠田 結果的に、いい流れになったよね。

自分たちを追い込んで、命を吹き込んだ7年越しのフル・アルバム『T字路s』

さて、完成したオリジナル・フル・アルバム『T字路s』ですが、まずサウンドに耳を惹かれます。

伊東 アナログテープ一発録りで、歌も全部一発で録音してるんです。

篠田 デモを作ってる時はProToolsとかを使ってて、綺麗に録れたとしても変な生々しさが出ちゃう。エンジニアの内田(直之)くんの録音は、そこをいい生々しさに変えてくれるというか。内田くんもT字路sのライブの迫力とか勢いみたいなものを引き出そうとしてくれてる。

写真で言えば粒子が粗いプリントのような、ちょっとザラっとした感じを音でも感じて。そういう音だからこそ、T字路sが表現したいものがより伝わってくる。

篠田 それは僕らの小さなこだわりというか、やっぱり匂いを感じるようなものにしたい。僕らの場合は、ずっとライブでやってきてるから、綺麗に整えた時点で「お前らウソついてるだろ!」ってお客さんもわかっちゃうし(笑)、整えれば整えるほど失うものがありますからね。それだったら、演奏の上手い下手とかよりも、どれだけ気持ちが入ってるテイクかとか、そういうほうを大切にしたかな。自分らがライブでやってるような演奏の仕方で気絶寸前まで自分たちを追い込んで、命を吹き込んだつもりではいます。

昨年11月に7インチでリリースされた「はきだめの愛」は、映画『下衆の愛』の主題歌として作られた曲ですよね。

篠田 内田英治監督の『下衆の愛』っていう映画をきっかけにして「はきだめの愛」と、もう1曲「あの野郎」という曲が生まれて。「はきだめの愛」はまさに下衆な映画の主人公の目線で、「あの野郎」はそいつに振り回されてる人たち目線で作ってみようってことで出来た曲なんです。「はきだめの愛」の7インチのB面に収録した「あの野郎」は、ドラムをKEEくん(主演俳優・渋川清彦)が叩いてくれていて、そのロックンロールなヴァージョンも最高に気に入ってるんだけど、アルバムの中に入ると全体の雰囲気から突出しちゃう気がして。だから違うアレンジがいいだろうって、急遽思いついて。スタジオで時間があったから、ちょっと弾いてみてってピアノの上山(実)さんにお願いして。

こちらのジャジーなアレンジのほうが、伊東さんの歌も、よりドスンと響いてくる感じがしますよね。

篠田 曲自体はシンプルに、歌詞の重みがより伝わるような感じになりましたね。

「T字路sテーマ」「交差点」「今朝の目覚めは悪かった」など、2010年に発表した自主制作盤『T字路s』(現在廃盤)に収録された曲も、新たにレコーディングされています。

篠田 この3曲はT字路sで初めてオリジナルで作った曲なんです。「交差点」も「今朝の目覚め~」も、結成してから7年間、いまだにセットリストに入れて演奏してる。それは今の自分らに合ってるからやり続けられてる曲ということでもあって。少しずつアレンジも変わってるもしれないけど、最初に作った時に思い描いていた雰囲気を、より濃密にできたようなイメージはありますね。

伊東 最近作った曲と並べてみても、あまり違和感がない気がして。やっぱり根っこは全然変わってないんだなって(笑)。

篠田 うん。変わらないし、変われないっていうかね。本当はもうちょっといろいろ器用にできたらいいんだけど(笑)、ストレート真ん中高めしか投げられないから。

伊東 究極の一本調子っていうね(笑)。

T字路sなりのラブソングのカタチ「人間讃歌」

ある意味、T字路sの芯にある3曲ともいえる。アルバム前半はこれまでのT字路sのカラーを推し進めた印象ですが、後半に収録された新曲群は、活動を重ねていく中で培っていった表現の幅広さや奥行きを感じさせます。

伊東 「小さき世界」は、〈俺たちの雑草魂〉が表れた曲(笑)で。「流れ者」は絵本のイメージ。子どもの時に読んだ絵本に、押入れの中から違う世界につながっちゃうって物語があって、昔からそういうちょっと不気味な話みたいなのがやけに好きだったんですよね。「花束」という曲も絵本みたいな曲にしたかったし。純ブルースみたいな曲もやりたいけど、その一方でこういう曲も作ってみたかった……ちょっと話が逸れるかもしれないけど、私ってどうしても恋愛の歌がこっ恥ずかしくて書けないんですよね。でも、ラブソングも好きは好きなんですよ。だからその分カヴァーや訳詞で歌う楽しさもあって。

そこで「Send Me To The ‘Lectric Chair(電気椅子)」のカヴァーで聴けるオリジナル訳詞みたいに、ラブソングとしては異質かもしれないけど、T字路sなりのラブソングのカタチが生まれたりしてきたわけですが。

篠田 そういう意味では、「小さき世界」なんかは、雑草目線で綴った人間愛みたいな曲だし、「花束」も男と女のラブソングではないけど……。

伊東 一文の得にもならなくても、大切な人を想う。そういうラブソングですかね。

篠田 でもまあ、T字路sの曲って、究極を言えばすべてラブソングなんですよね。

伊東 うん。人間讃歌というか、人間愛を歌うラブソングでもあるよね。

それも普通だったら美辞麗句が並ぶだけになっちゃうところを、やっぱりどこか綺麗なだけで終わらずに、ザラっとした感触が残る。そこにT字路sならではのリアルを感じるんです。

篠田 表裏一体じゃないけど、汚れてるからこそ綺麗だったり。後向きだけど、最終的には前向きになれたり。

伊東 三歩進んで二歩下がる。ちょっと違うか? 七転び八起きみたいなね(笑)。そういえば「最後の手紙」は、私が作ったデモを聴いて、篠ちゃんが「めっちゃいい曲じゃん」って言ってくれたんだけど、悲しい気持ちになりすぎてなかなかベースが付けられなかったんだよね(笑)

篠田 最初もうちょっとフォーキーな感じだったからね。それよりは、もうちょっとカラっとさせたほうがいいかなって思って。いかにも悲しい曲ですってアレンジにするよりは、聴きやすい曲調にしたほうがハマるかなって思って、少しポップス寄りなアレンジになった。

伊東 歌う時は、比較的口角上げて歌ってる感じというか。自分で自分をちょっと笑っちゃうようなイメージで。

悲しい旅立ちではあるけど、どこかで晴れ晴れとした感じがあって。尾崎紀世彦「また逢う日まで」に通じる印象を覚えました。

伊東 なるほどね。そう言われてみると、今回のアルバムに一貫してるのは〈開き直り〉って感覚があるかもしれない。

篠田 現実を受け入れて、それでも立ち上がるようなね。

〈さすらい〉と〈開き直り〉ですか。そういう世界観が歌詞や物語に出てきてしまうのは、どこからくるものなんでしょうね。

伊東 たぶん、自分の性格に由来するものかと思うんですけどね。何曲作ってもそういう感じじゃないですか(笑)。やっぱり自分が思ってないことは歌えないから、言葉を探してるうちに〈ストレート真ん中高め〉な感じになっていくんでしょうね。今回作って思ったのは、年齢を重ねる毎に平易な言葉が好きになってきて。より簡単な言葉で歌詞を作ろうと意識した部分はありました。若い頃はちょっと奇を衒ったような言い回しとか、皮肉っぽい言い方とかをしたかったけど、そういうのがなくなってきて、さらにシンプルになった気がする。

それは、いろんな地方に行って、いろんな人の前で歌う日々を重ねていく上で、肌で感じたことなのかもしれないですね。

伊東 ああ、そうかもしれない。ストレートな言葉だからこそ伝わってるって実感があったんでしょうね。回りくどい言い方よりも、簡単な言葉が一番響くなって思うから。

アルバムを完成させた今、どんな手ごたえを感じてますか?

伊東 やっと名刺が出来たって感じかな。「すべてを賭けた」というと大げさな言い方になるけど、自分たちそのものが曲に写り込んでる気がして。ちょっと照れくさいぐらいに、自分たちそのものを出せたアルバムになりました!

T字路s – はきだめの愛 (Official Music Video)

ライブ情報

3月19日 金沢 もっきりや
3月20日 富山 hotori
3月23日 名古屋 TOKUZO
3月24日 大阪 Shangri-La
4月8日 岡山 MO:GLA
4月9日 広島 ヲルガン座
4月21日 小倉 Cheerz
4月22日 別府 音温 NEON
4月23日 宮崎 LIVE HOUSE ぱーく.
5月11日 渋谷クラブクアトロ
6月3日 盛岡 the five morioka
6月4日 仙台 LIVE HOUSE enn 3rd

T字路s

伊東妙子(Gt,Vo)、篠田智仁(B / COOL WISE MAN)によるギター/ヴォーカル、ベースのデュオ。2010年5月に結成。2010年からコンスタントに作品を作り続け、2015年には「見上げてごらん夜の星を」「襟裳岬」「時の過ぎゆくままに」などの名曲を含む初の全編カヴァー・アルバム『Tの讃歌』をリリース。伊東妙子のハスキーなヴォーカルと二人が織りなすブルース、フォーク、ロックンロールを咀嚼した音が評判となり、FUJIROCK FESTIVALなどのフェスや全国のライブハウス、酒場などで活躍。2016年には映画『下衆の愛』に主題歌「はきだめの愛」を書き下ろし、話題を集める。また、NHKEテレ『シャキーン』にも楽曲や演奏、歌唱を提供。人生の悲喜交々を人間臭く表現した楽曲は熱烈な支持を集めている。

オフィシャルサイトhttp://tjiros.net/