Interview

空想と妄想、そしてリアル。吉澤嘉代子が紡いだ心に響く3rdアルバムが完成

空想と妄想、そしてリアル。吉澤嘉代子が紡いだ心に響く3rdアルバムが完成

 

シンガーソングライターというと等身大の想いを歌う人が多いけれども、なかにはそうでない人もいる。小説家が犯罪に手を染めたことなどなくても殺人や強盗をテーマにした小説を書くように、物語を作って、そのなかに自身の想いを投影させる。この吉澤嘉代子も、そういったシンガーソングライターのひとりだ。そしてそういう特性がとてもよく表れたのが、今回の『屋根裏獣』という3枚目のアルバムだろう。人の命を摂って生きる人魚、愛ゆえに夫を殺めた女性、地獄の釜の底が舞台の歌……。ここで紡がれる物語は空想の世界でありながら、半面とてもリアル。歌の世界のなかだからこそ、自由に喜怒哀楽&悲喜こもごも、好き勝手に心躍らせられる──。そんな吉澤嘉代子ならではの最強の“妄想”アルバム、心してお楽しみあれ。

取材・文 / 前原雅子 撮影 / 矢信雄


物語っていうのが自分にとって一番大切なものだったんですね。気づくと一人、別空間にいるみたいな

フルアルバムとしては3枚目。しかも三部作になっていて、この『屋根裏獣』が完結編なのだとか。

実はデビュー前にアルバム3枚分を構想してたんです。三つのテーマと、それぞれの選曲みたいなことを。そう言ったら、ここに(←プロモーション用の資料)こんなに大っきく書かれることになってしまって(笑)。

ただ三部作をポンポンポンとリリースするわけではなく。“少女時代”をモチーフにした1枚目の『箒星図鑑』、ミニアルバム『秘密公園』、“日常の絶景”をモチーフにした2枚目の『東京絶景』、コラボレーション・ミニアルバム『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』、そして今回の3枚目の『屋根裏獣』と。

三部作のテーマも出したい順番も明確にあったので。それを想定してミニアルバムを作ってたところもありましたね。フルアルバムはこのテーマでやりたいから、そこに収録されることになってもおかしくないようなテーマで、ミニアルバムのリード曲も書こうとか。先回りして考えていたというか。そうじゃないと自分のやりたいことが崩れちゃうので。

ということは今回の収録曲は、デビュー前からあった曲がほとんどですか。

「『ユートピア』『人魚』『カフェテリア』『屋根裏』『ぶらんこ乗り』『一角獣』は20歳くらいの頃、三部作の構想を考えたときにすでにあって3枚目に入れようと思ってた曲ですね。あとの4曲は去年とか今年になってから書いたです。

その今回のテーマですが。

 “物語”がテーマです。なんていうか……子どもの頃は自分で作った物語を拠り所にしていて。物語っていうのが自分にとって一番大切なものだったんですね。気づくと一人、別空間にいるみたいな。家族と同じテレビ番組を見てるのにフッと一人で違うところに行っちゃう。呼ばれても気づかないみたいな。

気分に応じた物語を作るんですか。

どうやってたかな……。例えば公園の池に鯉がいたら、私だけが鯉とお話ができるみたいな浦島太郎的な物語を妄想したり。それで実際に鯉さんに渡すんだって手紙を書いて、おじいちゃんなら、なんとかしてくれるんじゃないかって、鯉さんに手紙を渡してくれって頼んだり。しょっちゅうそんなことを考えてましたね。あとは可哀想な物語のお姫様に自分がなってみるとか。お話を作ろうっていうよりも、いつの間にか入っちゃうんです。気づいたら始まっちゃってる。そういう子どもの頃からの癖みたいなものを、音楽にした感じですね。3作目にして、自分の根底にある物語っていうものを改めてテーマにしたいと思って。順番を踏んでやっと形にできました。

順番は“少女時代”“日常の絶景”“物語”の順がでなければダメなんでしょうね。

そうですね。一番底にあるものが少女時代というのは、変わらないと思うんです。だから1作目にしたくて、そこから派生して成熟したものが物語だと思っているので。私なかでは段階を踏んでいるっていう感じですね。

ハッキリと自分とは違う人を描いていて。また舞台設定も日常じゃなかったり

それにしても今回は物語性が高いですね。

今までも自分の等身大というよりは、主人公とかを設定して書いてたんですけど、今回はよりそれが強く出てますね。例えば主人公が人魚だったり、子どもだったり、結婚していたり。ハッキリと自分とは違う人を描いていて。また舞台設定も日常じゃなかったり。1曲目の『ユートピア』もそうで。物語に没頭してたどりついた自分の海の底に、外の世界に出る扉があって。そして今度はその物語を武器に、世の中を渡り歩いていくっていう曲なんですけど。……ここから物語が始まるんですよっていう内容の曲になっています。

アルバムのイントロダクションみたいな。

はい。全部がバラバラの短編集みたいなつもりで作っているんですけど、最初の3曲は海のゾーンと思っていて。市民プールから人魚のいる海になって、海から海辺のカフェテリアにシーンが移動してくる、みたいな。そして『ねえ中学生』『屋根裏』『えらばれし子供たちの密話』は子どもゾーンになってます。

今回はいつも以上に細かく設定などを考えてから書いていったところもありますか。

主人公の年齢、性格、時代、生活水準、生い立ちとかを思い浮かべながら書きました。でもあえてやるというより、そうしたくなる物語が多かったので。これまでも、この子はモテるかモテないかっていうようなことまで考えて書いてましたけど、主人公が自分とまるっきり違う時代に生きてたり、全然違う年齢だったりすると、頭のなかで作り込まないといけなくて。そうしないと、主人公を身体に入れられないような気がして。

離れ離れになるんだったら旦那さんの首を持って逃げようっていう。追い詰められた奥さんの最後、っていうイメージ

『地獄タクシー』の主人公なんて、吉澤さんとはかけ離れていますもんね。そうじゃないと困りますが(笑)。

困る(笑)。『地獄タクシー』は旦那さん以外の家族にお家を追い出されそうになった奥さんが、離れ離れになるんだったら旦那さんの首を持って逃げようっていう。追い詰められた奥さんの最後、っていうイメージで書いた曲です。結婚したことがないからリアルな感情はわからないので、テレビとかで見聞きした嫁姑の問題も入ってたりしますね。でも根本にあるのは、誰も助けてくれない状況のなか、本当に大好きな人とどうやって一緒になろうかっていうことなので。その気持ちを思ったら悲しくなってきて、泣きながら作った曲なんですけど。ただやっぱりテーマ自体も重いので、少し軽くしようと思ってダジャレを入れてバランスを取ってみました。

タイトルもインパクトがありますね。

タイトルから作った曲なんです。きっかけはタクシーで福岡の空港に向かうとき、運転手さんに“あなたと一番奥まで行って戻って来る覚悟ですけど、いいですか”って聞かれて。“ええーっ!なに言ってるんだろ?!”と思ったら聞き間違いで。“あなたと”じゃなくて“ANAだと”だったんですね(笑)。そのときに一瞬、このおじいさんの運転手さんと地獄の釜の底まで行ってもいいかもしれないと思って。それで作ろうと思った曲です。

ホーンがふんだんに入ったキャバレーミュージック風のアレンジもかっこいいです。

作ったときから、こんなアレンジでと思ってました。sugarbeansさんにアレンジしてもらったんですけど、2番で奥さんの視点から旦那さんの視点に替わるところで、シーンが切り替わるようなアレンジになると思ってなかったんで。映画的でありながら、演奏はホントに振り回されるような展開になってて、よく考えてくれたなって嬉しくなりました。

『麻婆』もすごく面白い発想の曲だと思ったのですが、これは何をきっかけに?

『地獄タクシー』は地獄に連れて行ってくれるタクシーなので、どうせだったら地獄の釜の底を描こうと思って。じゃ地獄ってなんだろうと思って。『地獄タクシー』では地獄は日常に潜んでるって歌ってるんですけど、みんなが思うザ・地獄っていうのは激辛鍋に放り込まれるようなイメージかなって。

真っ赤な血の池地獄みたいな。

そう! そんな地獄のイメージを辛さで表した、辛すぎてみんな死んでしまうっていう歌です。

この主人公、どんな設定なんですか。

スパイスの妖精っていう設定で書きました。“昔々 支那の片田舎”で始まって、ホントに昔話をそのまま書いたような。

『えらばれし子供たちの密話』も発想がすごいと。ちょっと近未来っぽい物語で。

嬉しいです。最初、SFと思って書いてたんです。この曲と『地獄タクシー』『麻婆』は最近書いた曲なので、どうしても新しい曲はえこひいきしちゃうんですけど。『えらばれし』は一番好きかな、気に入ってますね。この曲は学校にも家にも居場所がない小学校5年生くらいの男女が、2人で暗号を言い合うと楽園に行けるって思い込んで、……親を殺しちゃう話なんです。だけど楽園には行けなくて。そこから離れ離れになって大人になったとき、もう楽園には行けないけど再び出会うっていう歌で。『地獄タクシー』がちょっと実験性のあるお話だったので、その前に入れることにしました。

『一角獣』は過去を振り返ってる感じがするので最近書かれた曲だと思ったら、そうではないんですね。

といっても今回かなり歌詞を変えたので、半分くらいは新曲と言える内容というか。“どうやって言葉にしたらいいのかわかんないよ”っていう歌詞は、曲を書く人、歌う人が言っちゃいけないことだと思って。何を言いたいのか、最後までずっと悩んでたんです。こんなカッコ悪いこと言いたくないって。だけど最後に聴き直したとき、今の自分の弱さとか生々しさが気持ち悪いから、この歌詞を認められないんだなって思って。だったら逆に今はこれが一番なんじゃないかって。それで……終わりました、レコーディングが。もう歌入れもすべて終わってたのに納得がいかなくて、みんなを待たせてたんですけど。

その歌詞、とっても好きだったんですが。どう言葉にしたらいいかわからないから歌うんだろうなぁって。

ホントですか? たしかにその通りですね、だから歌う……。そうかもしれない……。

そういう曲のタイトルが『一角獣』。

一角獣は海の獣、海獣のほうなんです。私の町と東京を繋いでる橋を渡るときに、なんか“うぉぉぉ~~~ん”っていう音が聞こえるんですよ。たぶん風が擦れている音なんですけど、もしここにすごく大っきな一角獣がいたらと思ったら楽しくなっちゃって、書きました(笑)。最初は川の幅くらい大きかったらどうしようっていう歌詞だったんですけど、怖すぎるでしょって言われてやめました。

ところでアルバムタイトルなんですが。恒例の漢字四文字タイトルが楽しくて、ちょっと待っちゃってるところがあります(笑)。

ふふふふ。

やっぱり自分が音楽をやっているのは、子どもだった頃の自分みたいな子に聴いて欲しいからで

タイトルと『屋根裏』という曲は関係あるのですか。

ないです。『屋根裏』は大好きな大瀧詠一さんの曲『さらばシベリア鉄道』をイメージしてアレンジした曲なので。タイトルは子どもが寝る前に思う妄想みたいなのをイメージしました。屋根裏に自分だけの怪物みたいなのがいたら友達になれるかな、とか。夜中に学校に行ったら何かがいるんじゃないか、とか。そういうありもしないちょと不気味な、ドキドキする妄想をイメージしてつけました。でもこうして根底にあったものが三部作で形になったら、なんか少女時代に対する執着みたいなものが薄らいで。生ものだったものが自分のなかの素材となって、いつでも使えるモチーフに変わったような気がします。

ある意味、ひとつ決着がついたような?

決着というか、死んじゃった感じがします。

死んじゃってもいいんですか。

……気持ち悪い言い方ですけど、自分の生傷を見て欲しいみたいなことだったのが、それが素材になることによって逆に自分が受け入れる側になるっていうか。役割の交代みたいなのを感じているんですね。やっぱり自分が音楽をやっているのは、子どもだった頃の自分みたいな子に聴いて欲しいからで。だから、その交代は必要なことだったんだろうなって思います。だけど、そのことを本気で泣きながら書いた日には戻れないって思うと、ちょっと寂しくなることもあります。

そして4月末から“獣ツアー 2017”といいうすごいタイトルのツアーもあり(笑)。

ねぇ(笑)。でも今回はどう再現しようっていうのが悩みどころで。弦とか全部生で録ってるので。できるのかなぁ、う~~ん……どうしよ。かなり悩ましいところです(笑)。

ライブ情報

獣ツアー 2017

4月29日(土) 岡山CRAZYMAMA KINGDOM
5月4日(木) 仙台darwin
5月7日(日) 東京 国際フォーラム ホールC
5月13日(土) 福岡 BEAT STATION
5月14日(日) 大阪 なんばHatch
5月19日(金) 名古屋市芸術創造センター

吉澤嘉代子

1990年6月4日、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街育ち。 
父の影響で井上陽水を聴いて育ち、16歳から作詞作曲を始める。 
ヤマハ主催”The 4th Music Revolution” JAPAN FINALにてグランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。
2016年、2nd アルバム『東京絶景』をリリース。自身初となるホールツアーを全国7箇所にて実施。国際フォーラムCでの公演を成功させた。
2016年夏、「ROCK IN JAPAN .FES 2016」、「SWEET LOVE SHOWER」など大型フェスヘ出演決定。
私立恵比寿中学、南波志帆らへの楽曲提供も行う。

オフィシャルサイトhttp://yoshizawakayoko.com