シミルボンの本棚  vol. 18

Review

ライトノベルの流行を知りたければ、新人賞を読むべし

ライトノベルの流行を知りたければ、新人賞を読むべし

ライトノベル系出版社では、一年に1、2回の新人賞を開催して新しい才能を発掘している。
数ある応募作の中から、物語の完成度、登場人物の個性、ストーリー展開の面白さ、文章力などが際立った作品が受賞作に選ばれる。
それだけでなく受賞作からは、その出版社が今後目指していく文庫レーベルの方向性や、その編集者が見ている流行のビジョンを読み取れる。
受賞作は、その年のライトノベルの世相を映す鏡なのだ。そんな新人たちが、今年も各出版社から数多くデビューした。

そこで今回は、オススメの受賞作を紹介しながら、近年のライトノベルの傾向や流行の変遷を読み解いてみる。

◆学園ラブコメはリア充になりたがる

学園ラブコメでは、「脱オタ系」が台頭してきている。アニメやゲームなどのサブカル趣味にどっぷり浸かっているオタクの主人公が、リア充を目指して努力するというのが基本的な流れのラブコメディだ。

主人公はクラスでも目立たない存在で、顔もイケてなくコミュ障で女子にモテないスクールカーストの最底辺という設定が多い。一方、ヒロインは成績優秀、才色兼備の学園でも評判の美少女で、さまざまな理由から主人公と関係を築き、脱オタを支援する役どころになるのが定番だ。

小学館ライトノベル大賞<優秀賞>の『弱キャラ友崎くん Lv.1』(屋久ユウキ/ガガガ文庫)などは、その王道といっていいだろう。

ただ、明確な定義があるわけではなく、主人公が脱オタを目指さなくても、それまで冴えなかったオタク系男子が高嶺の花の美少女と恋愛し、リア充になっていくというツボさえ抑えておけば「脱オタ系」に当てはまる。

ファンタジア大賞<金賞>『非オタの彼女が俺の持ってるエロゲに興味津々なんだが……』(滝沢慧/富士見ファンタジア文庫)も、この括りに含めていいだろう。

要は、それまで縁遠かった男女の恋愛や、慣れないリア充の習慣に主人公が四苦八苦する姿が笑いになるのだ。

「脱オタ系」が増えている背景には、過去の人気作である『僕は友達が少ない』(平坂読/MF文庫J)や、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(渡航/ガガガ文庫)、『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』(村上凛/富士見ファンタジア文庫)などの影響が大きい。

これらは「残念系」などと称されていたが、「脱オタ系」はこの派生といっていいだろう。

このようにある系統の作品がヒットすると、さらにアレンジを加えた新ジャンルが生まれて枝分かれしていくのがライトノベルの特徴だ。


弱キャラ友崎くん Lv.1

弱キャラ友崎くん Lv.1

屋久 ユウキ
小学館


非オタの彼女が俺の持ってるエロゲに興味津々なんだが……

非オタの彼女が俺の持ってるエロゲに興味津々なんだが……

滝沢 慧
KADOKAWA/富士見書房

◆異世界ファンタジーは群雄割拠

学園ラブコメと人気を二分する異世界ファンタジーも、細かく見ていくとその内部でジャンルが多様化している。

ひとつのキーワードとしては「経営系」だ。

それまでの異世界ファンタジーといえば、長らく「剣と魔法の世界」というイメージが強かった。主人公が強大な剣や魔法の力を得て、人類の脅威となる魔王や怪物と戦うバトルものが大半だったのだ。

しかし、「経営系」では、剣と魔法という単純な手段では解決できない国家の経済破綻や、団体企業の運営を経済学や経営学を用いて乗り越えていくというストーリーになっている。

バトル要素が皆無というわけではないが、主人公の知識や発想力といった頭脳面の能力がストーリー上でクローズアップされる。

えんため大賞<特別賞>『異世界スーパーマーケットを経営します ~召喚姫と店長代理~』(柏木サトシ/ファミ通文庫)では、異世界に召喚された主人公が寂れた商業地区をスーパーマーケットとして復興させる。

MF文庫Jライトノベル新人賞<最優秀賞>『ギルド〈白き盾〉の夜明譚』(方波見咲/MF文庫J)では、金遣いの粗い団員たちによって破産寸前に陥った傭兵団を主人公が経理と節約術で立て直す。

オーバーラップ文庫大賞<金賞>『最強ゲーマー、異世界にて実況プレイ中』(結城忍/オーバーラップ文庫)は、ゲームのRPGでお馴染みのダンジョンの管理人となった主人公がゼロから迷宮を建築して運営していく。

喧嘩や腕っ節が強くなくても、知識や技術で活躍できるという展開がいままでとは違った面白さや痛快さを提供している。


異世界スーパーマーケットを経営します ~召喚姫と店長代理~

異世界スーパーマーケットを経営します ~召喚姫と店長代理~

柏木 サトシ
KADOKAWA/エンターブレイン


ギルド 〈白き盾〉 の夜明譚

ギルド 〈白き盾〉 の夜明譚

方波見咲
KADOKAWA/メディアファクトリー


最強ゲーマー、異世界にて実況プレイ中

最強ゲーマー、異世界にて実況プレイ中

結城忍
オーバーラップ


従来の剣と魔法のバトルをメインにしたファンタジーも健在であり、こちらでは「教官系」という新たなジャンルが加わっている。

人並み外れたチート能力を持っていて戦闘経験も豊富な主人公が、何らかの理由で周囲から落ちこぼれているヒロインの教官役となって知識や技術を教えて鍛え上げ、一人前の戦士や魔法使いに育成していくというストーリーである。

ファンタジア大賞<大賞>『アサシンズプライド 暗殺教師と無能才女』(天城ケイ/富士見ファンタジア文庫)では、異能を継承する名家の生まれでありながら無能と見下されているヒロインを暗殺者である主人公が家庭教師となって教え導いていく。

主人公が強力無比な力で敵を圧倒する爽快感と、ヒロインが努力して成長していくスポ根ものの感動を一冊で味わえるのが魅力だ。


アサシンズプライド 暗殺教師と無能才女

アサシンズプライド 暗殺教師と無能才女

天城ケイ
KADOKAWA/富士見書房


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