Interview

いよいよ大詰め! 山下&松江両監督に訊く「山田孝之のカンヌ映画祭」はどこまでリアル?(前編)

いよいよ大詰め! 山下&松江両監督に訊く「山田孝之のカンヌ映画祭」はどこまでリアル?(前編)

普段テレビをあまり見ない人でも、2015年1月から3月にかけてテレビ東京「金曜25時枠」で放映され、大反響を巻き起こした『山田孝之の東京都北区赤羽』に続く、俳優・山田孝之×監督・山下敦弘×監督・松江哲明のタッグ作『山田孝之のカンヌ映画祭』が、なんだかスゴイことになってる――という話は、おそらくSNSなどで目にしているのではないだろうか?
2016年の夏、山田孝之に呼びつけられた山下は「カンヌ映画祭で賞を取りたい」という話を持ちかけられる――という導入に始まり、二人がカンヌを取れる映画を作るため、様々な人物と会い、様々な人物を巻き込みながら、企画立ち上げから資金集め、キャスティングまで奮闘する姿を、メイキング映像という名目で撮影された同作は、知られざる映画製作の裏側を映したドキュメンタリーであると同時に、いまや日本映画界を代表する俳優・山田孝之の内なる迷走と覚醒に肉迫した人間ドラマでもあり、その虚実の皮膜を突き破るようなシュールで予測不可能な展開は、毎週放送のたび、もはや放送事故にも近い「事件」として人々をざわつかせている。
そんな謎だらけの本作について、今回、監督である松江哲明と山下敦弘の両氏に話を伺うことができた。『山田孝之のカンヌ映画祭』とは、果たして何なのか? そこに込められた意図とそこから浮かび上がってくるものとは――?  現在第10話まで放映され、残すところあと2話。今回は、ロングインタビューの前編をお届けする。
いよいよクライマックスに突入した、このいまだかつてない「珍事」を今からでもぜひ、体験して欲しい。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 相馬ミナ


映画祭で受賞した作品が人の人生を変えてしまうということ

「山田孝之のカンヌ映画祭」は、山下監督が山田孝之さんに「カンヌを取りたい」と持ちかけられるところから話が展開していくわけですが、まず、お二人は映画監督として山田さんの話をどのような思いで受け止められたのでしょう?

左:松江哲明 右:山下敦弘

山下敦弘 山田くんが俳優だけでなく自分で映画を作りたい、みたいなことは『赤羽~』のときから言ってたので、そこに驚きはなかったんですが、なんでカンヌ!? というか、痛いところを突いてきたな~とは思いましたね。カンヌって映画を作ってる人間なら誰でも知ってるし、受賞作も見てるけど、僕なんかは自分とは別世界のものなんだろうなと思ってて。映画祭ってカンヌだけじゃなく、それこそ米アカデミーにベルリン、ヴェネチア…… っていろいろあるけど、僕がこれまでに呼ばれてたのって、ロッテルダムとかゆうばりファンタスティックとかで、そういう自分の立ち位置をあらためて確認した感じもあったし、一方で、それは自分で思い込んでいただけで、どっかで憧れがあったことにも気付かされたというか……。

松江哲明 そうそう、山田くんが最初にカンヌって言ったのは、親戚のおばちゃんが「カンヌとか行かないの? レッドカーベットよ!」って言う、漠然とすごいみたいなイメージだったと思うんですよ。だけど、いやいや、参加しちゃったら人生変わっちゃうよって。
映画祭って受賞した作品がどうこうではなく、人の人生を変えてしまうところがあって。なかでもカンヌって監督の人生を狂わせてしまうぐらい強烈な力がある映画祭だと思うんですよ。今回出てもらった河瀬直美さんなんかは、ある種ずっとそれを背負って映画を作ってらっしゃるわけで。山田くん、そこんとこわかってんの!? って(笑)。

確かに。本作では「カンヌを取れる映画を作る」ため、日本映画大学の学長で映画評論家の佐藤忠男さんや、パルムドールを受賞した今村昌平監督の『うなぎ』の脚本担当の天願大介さんを訪ねてアドバイスを請うたり、貴重な制作費を使ってカンヌ観光したり、パリのカンヌ事務局まで行ったり、果ては河瀬監督にどうしたらカンヌを取れるかきいて説教されたり(笑)。ここまでやる!?  というおもしろさもありつつ、その過程で今お話に出た「映画祭の意味」や現在の日本映画が抱える問題点が、次々に浮き彫りになっていくのがスリリングです。

山下 それこそ、日本映画ってなんだろう?とか、商業映画って、アート映画って何だろう? っていうのが出てきますよね。

松江 なんか山田くんって今、日本映画の一番ど真ん中にいる俳優なのに「王様は裸だ」って言えちゃう人なんですよ。日本映画界という中の「この女優なら脱ぐとかはないよね」とか「予算がこうだったらこうなるよね」とか「こういう企画だったら主題歌もこうなるよね」みたいな暗黙のルールみたいなのーー本当はそんな決まりなんかないんだけど、なんとなくみんなが感じていて、僕らも自然に受け入れてたそれを、山田くんは「いや、それおかしいじゃないですか? なんでこういう作り方しないんですか?」って言えちゃう。無垢な少年みたいな感じで長尾(謙一郎)さんの絵を持ってきたりするから怖いんですよ。

山下 こっちも形にならないと怖いから、いや、でも脚本も大事だよって言うんだけど、山田くんの理屈では「いや、脚本だって読み取るって意味では個人の解釈だし、別になくてもいいでしょ?」ってなる。

松江 突飛なようで一理あるなって思わされるんだよね。香港映画なんか脚本なしでやったし、ウォン・カーウェイもそうやって撮ってたんじゃない? って。実際、ハリウッドの商業主義に対して、そういうものこそが新しい映画であるって示してきたのがカンヌなんで。

山下 だから今回のカンヌみて、山田孝之とんでもないって思う人いるかもしれませんけど、映画の現場では実際にああいう人いますからね。現実に。脚本もなくて代わりに絵を出してくるとか、ムチャぶりに興奮する人も映画界には実際にいるんですよ。

松江 そうそう、撮影直前に役者がいなくなるとか、実は現実の映画制作では当たり前にあります(笑)。

山下 『ロスト・イン・ラマンチャ』とか『ハート・オブ・ダークネス~コッポラの黙示録』みたいな、いかに映画が崩壊していくとか、映画製作の裏がどれだけ大変だったか、みたいなドキュメンタリーも現実にあるしね。
だから『カンヌ~』でも、山田くんは周りを振り回してるように見えるけど、第2話で天願さんが言ってた「作家の整理されてないものをそのまま作品にする」って意味では、山田くんは間違ってないし、なんでやっちゃいけないかってことは僕も反論できないんだよね。ただ、それにしても投げっぱなしだろって(笑)。

松江 キアロスタミみたいに人の人生とずっと付き合うならそういうやり方もいいかもしれないけど、制作期間1ヵ月だからね。芦田愛菜さん、受験もあるのに(笑)。

山下 そうそうそう。

「山田孝之の」って付くのが重要

お二人が「赤羽~」に引き続き、山田孝之の姿を追うことになったのは、そういう無垢な狂気にもつ山田孝之本人に魅せられた部分も大きいのでしょうか? 

松江 ありますね。赤羽にしても今回にしても「山田孝之の」って付くのが重要で。山田孝之だから周りもどんどん巻き込まれていって、おかしなものになっていく。こういう冠を付けれる人って彼以外にいないんじゃないかな。

山下 今回、山田くんは俳優ではなくプロデューサーとしてカンヌに行こうとするんだけど、一緒にやってみて、あ、山田くんってプロデューサーだったんだ!って思いましたね。いっぱいカードを集めて、その呼んだ才能からまた違う才能を広げて巻き込んじゃう手配師みたいなものを感じて。だから僕は、今回の番組が終わっても山田くんはプロデューサーであり続けると思う。

松江 山田くんは今回、カンヌに行くっていう成功するかしないかもわかんない過程を全部見せちゃってるけど、それってデメリットもあるわけですよ。作りとしては手の内を見せちゃうことになるし、そうでなくても単純に今回の彼を見て、この人大丈夫なのかな!? って思う人はいっぱいいるよね(笑)。でも彼の場合、役者として自分を曝け出しちゃいたいとか、なんか変なことをしようとしてる自分を見せたいという欲が上回ってる。そこがあの人はおもしろいんですよ。隠しゃいいじゃんって思うのに、失敗してるところも全部見せちゃう。そこは僕らには理解できない部分なんですけど、撮れるものはおもしろいだろうなって思うから、僕らも一緒にやりたくなる。

山下 だから、カメラの前に出ちゃうプロデューサーだよね。

そんな業の深さも含めて、山田孝之という人は被写体として魅力的? 

松江 ですね。ドキュメンタリーって、だいたい一回撮るとその人とは終わっちゃいますから。もちろん人間関係は続くんだけど、二度とはできないことを二回目やるとほぼほぼすべるんですよ。いいもん撮れるかどうかって、劇映画の場合はこの脚本だったらおもしろくなるなとか、なんとなく見えてゴーできるけど、ドキュメンタリーって撮るのは簡単だけど、それがおもしろくなるかどうかは、保証がまったくなくて、実際に撮らなきゃわからないんですよ。ドラマ『勇者ヨシヒコ』の現場に呼び出されたら、カンヌでいちばん取りたいとか言われても普通、おもしろいかどうかわかんない。でも、それでもいいって思わせちゃうのが山田孝之の怖いところで、結果、赤羽とはまた違う、山田孝之がここまで曝け出したか!っていうところまで行けた気はしますね。

この番組の中で起こってることはすべて現実

そういう一線を超えちゃった空気は現時点(第7話まで放映済)でもビンビンに漂ってますよね。「どうせフェイクなんでしょ」って半笑いで見てたら、あれ? マジ!?  って。虚実の皮膜を飛び越えちゃったものを突きつけてくる感じで。

松江 よーいスタート!でドラマを撮ってるわけではないので、この番組の中で起こってることはすべて現実なんですよ。もっといえば、起こってることはすべて現実で、現場では放送した映像以外にもいろんなものを撮ってるんですけど、物語として整理整頓されたものよりも、エネルギーがあるものを優先した結果、見た人がこれ本当なの何なの!? って戸惑っちゃうものが放送されちゃってる。もちろん、それを選んで編集した時点で、僕自身の意図とかメッセージも込められてはいるんだけど、撮ってるときは作為はない。だって、あの流れで普通、河瀬さんが山田孝之に「私とやる?」って言わないですよ。あの時の山田孝之の顔も…。あの感情は台本で書けることではない。

山下 うん、そうだよね。あの山田くんの汗も、芦田愛菜の涙も…。

松江 芦田さん、何を見たんだ? って思うよね(笑)。

山下 俺ちょっと声掛けられんなかった(笑)。あの回(7話「山田孝之、覚醒する」)は俺のテンションもちょっとおかしくて。あれはもう河瀬さんの現場の空気だよね。

松江 あれ撮影してた日は近所で殺傷事件があって、犯人がまだ捕まってませんとかでヘリコブターがいっぱい飛んでて。

山下 本当、いろいろ呼び寄せてる感じで、異様な緊張感があったよね。

松江 だから、「これは噓か本当か」みたいなのは自由に見てもらえたらいいんですよ。ただ、あれは噓では作れない。特に河瀬さんの回には、物語を超えちゃった強度があったんですね。言ってしまえば、それが僕がずっとドキュメンタリーを取り続けてる理由で。たとえば山下くんはずっと劇映画を作ってて、台本を作るときからどういうものが生まれるかってことを考えて、現場で撮ってる。それもひとつの「現実を撮る」ってことだとは思うけど、ドキュメンタリーは強いものが撮れたら「物語はいいじゃん!」って捨てちゃうこともできる。山田孝之が急に泣いて、なんで泣いたか? っていうのを物語として整理整頓できなくても、いや、泣いたんです、見てくださいって提示すればいい。それがドキュメンタリーのおもしろさだと思いますね。(後編へ続く)

「山田孝之のカンヌ映画祭」

放送日時:毎週金曜 深夜0時52分〜
出演:山田孝之、芦田愛菜、ほか
放送局:テレビ東京系列(TX、TVO、TVA、TSC、TVh、TVQ)
監督:山下敦弘、松江哲明
構成:竹村武司
オープニングテーマ:カンヌの休日 feat. 山田孝之/フジファブリック
エンディングテーマ:ランプトン/スカート
©「山田孝之のカンヌ映画祭」製作委員会

「山田孝之のカンヌ映画祭」Blu-ray&DVD BOXが好評予約受付中!

販売元:東宝
山田孝之が発案・監修した映画「穢の森」Tシャツ付も!
詳しくは番組HPでご確認ください。
オフィシャルサイトhttp://www.tv-tokyo.co.jp/yamada_cannes/

山下敦弘(Nobuhiro Yamashita)

映画監督。代表作に『リンダ リンダ リンダ』、『苦役列車』、『もらとりあむタマ子』など多数の作品を監督。
2007年に公開した『天然コケッコー』では第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞をはじめ数々の賞に輝いた。その後も中短編ドラマ等を監督、熱狂的ファンも数多く、演出のオファーが絶えない。
2016年は『オーバーフェンス』、『ぼくのおじさん』などの長編作が公開された。

松江哲明(Tetsuaki Matsue) 

ドキュメンタリー監督。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後『童貞。をプロデュース』、『ライブテープ』、『フラッシュバックメモリーズ3D』、『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』と数々の作品を手がけ、高い評価を受けている。

オープニングテーマ

カンヌの休日 feat. 山田孝之

フジファブリック

2017年2月15日発売
全4曲


編集部のおすすめ