黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 2

Interview

起業するなら32歳。藤村哲哉氏がギャガ設立を志したきっかけとは?(中)

起業するなら32歳。藤村哲哉氏がギャガ設立を志したきっかけとは?(中)

音楽、映画、ゲームなどを総称するエンタテインメントは、人類の歴史とともに生まれ、時代に愛され、変化と進化を遂げてきました。

そこには、それらを創り、育て、成熟へ導いた情熱に溢れた人々がいます。これらの偉人であり、異人たちにフォーカスしインタビュー形式で紹介する「エンタメ異人伝」。

今回のゲストは、株式会社ギャガ・コミュニケーション(現在のギャガ)の創業者であり、現在はフィロソフィア株式会社・代表・藤村哲哉氏です。

日本でのレンタル・ビデオ・ブームに先駆けて、洋画作品のビデオソフト向け版権の買い付けを促進し、インディペンデント映画会社として映画配給に着手、さらに、現在はスタンダードになった「製作委員会」方式を早くから着目し大きく成長を遂げました。

現在は、ハリウッド映画製作現場と日本のコンテンツをブリッジするプロデューサーとして、辣腕を振るっています。

藤村氏は、2017年4月7日(金)より公開される「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」を原作に持つハリウッド版『ゴースト・イン・ザ・シェル』の日本サイドのエグゼクティブ・プロデューサーにクレジットを連ねています。

監督はルパート・サンダース、出演は、スカーレット・ヨハンソン、北野武…という話題作を手掛けた藤村哲哉氏の半生を振り返るとともに、今まであまり語られることのなかったギャガ退任後の藤村氏の沈黙の6年と、日本とハリウッドをブリッジする仕事内容を追いました。

※本記事は3回にわたってお届けするインタビューの第2回です。第1回(上)はこちら

インタビュー取材・文 / 黒川文雄


会社を辞めるつもりは微塵もなかった

藤村さんの著作の中で「起業するなら32歳じゃないかって」という話があったのですけど、赤井電機での5年間で徐々に独立起業を考えるようになっていったのですか?

藤村 いや、自分で会社を始めるなんて発想は微塵もなかった。ただ、入社から3年経ったくらいから将来は転職するべきだろうと考えてはいた。赤井電機は赤井三郎という有名なオーナー経営者がいたんだけど、オーナーが心臓病でスキー場で急死してから経営が迷走した感じになってしまった。それで、この会社の先行きは厳しいかな…と。それで、自分はペーペーだから自力で会社を良くするよりも乗っている船を変えた方がと思っていて、そんなときにある人から声がかかったわけです。

そんな状態だったんですね。

藤村 それがトヨタ自動車のサウジアラビア担当だった人でね。当時サウジアラビアはトヨタにとってアメリカに次いで世界第2位の輸出国だった。ヨーロッパではまだ日本の車なんてあまり売れていない時代だったから。それで、サウジアラビアって出稼ぎの人たちが大量に入ってきていたんけど、その人たちが自分の国に戻るときに無税でもっていける枠があって、みんな車や家電を買って帰るわけ。すごい消費国でものすごく大きなシェアがあった。そのサウジアラビア担当のトヨタ自動車の人が現地のトヨタ代理店のジャミール社と日本で合弁会社を立ち上げたんだけど、僕のことを気に入ってくれていて「藤村君も来てくれないか」という話になって。それで面白そうだから発起人として、その会社の設立に参加することになった。

なるほど。

ベンチャーキャピタルって何ですか……?

藤村 当時、ジャミール社は東芝の代理店だったので、同じ家電業界だから僕が東芝の事業を担当することになったんだけど、その会社の社長がやっていたもうひとつの事業がベンチャーキャピタルだった。ジャミール社は当時からものすごく資金を持っていたので、シリコンバレーにベンチャーキャピタルの会社を持っていてアメリカで投資していた。それを日本でもやりたいということになって。それで、僕もベンチャーキャピタルの仕事に関わるようになり、そこで初めて起業家の人たちと会い、ベンチャーキャピタルの仕組みを理解したわけ。でも、最初は何も知らなくて「ウチの会社はベンチャーキャピタルをやるから」って言われたときは、「すみません、ベンチャーキャピタルって何ですか?」って聞いたくらいだったからね。

なるほど(笑)。

藤村 それで、自分にお金がなくても、いい事業アイディアを持っていればお金を出してくれる仕組みが世の中にはあるんだということが分かった。で、ゲームでもルールが分かったら自分も参加してみたいと思うようになるじゃない。それで起業したいと思うようになって。

そうだったんですね。

藤村 それでさっきの32歳の話だけど、ベンチャーキャピタリストが投資をするときに一番重視することは創業者の年齢だと聞いたわけ。「32歳がひとつの評価基準だ」だと。つまり32歳以下であればより積極的に投資をする。32歳がベストで、それより年齢が上だとマイナス評価になっていくと。もちろん、50歳の人が起業して成功する場合もあるけど、ベンチャーキャピタルの人たちって確率論でやっているから、そういう割り切りをしていた。それで、「32歳」っていうのが自分の中にインプットされて、それまでに起業したいと思うようになった。ジャミールでベンチャーキャピタルに出会ったのが29歳のときで、30歳になったくらいから起業したいなと思い始めて、32歳のときにギャガを立ち上げた。ギリギリで間に合ったね。

日本テープの荻原正光社長が起業のご出資をされたわけですよね?

 

藤村 僕がビデオレンタル委託システムの起業を考えているということで、ある人が荻原社長を紹介してくれたわけ。当時はビデオの卸しの大手企業をやっていらしたからね。それで会ったときに、こういう発想をしていてビデオのソフトを仕入れたいんです、なるべくいい条件で売って下さいって話をして。だから僕が起業したいと思っているのはご存知だった

けど、まさかお金を出してくださるとは思わないからね。単純にビデオレンタルのビジネスをこれからやっていく上での……。

取引先だと。

藤村 そう、取引先としてお会いしたわけ。 ところが、最初にお会いした時にテレックス(※)を打つのを頼まれたことがあって、そうしたら「打つのが早いな」、「お前すごいじゃないか」って言われて、しょっちゅう頼まれるようになって。それがきっかけで親しくなっていった。

(※テレックス 電話回線で送信相手を呼び出し、テレタイプで通信する方法。FAXが無かった時代の通信手段)


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