黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 2

Interview

ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』の裏側と今後の可能性をプロデューサーが語る(下)

ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』の裏側と今後の可能性をプロデューサーが語る(下)

音楽、映画、ゲームなどを総称するエンタテインメントは、人類の歴史とともに生まれ、時代に愛され、変化と進化を遂げてきました。

そこには、それらを創り、育て、成熟へ導いた情熱に溢れた人々がいます。これらの偉人であり、異人たちにフォーカスしインタビュー形式で紹介する「エンタメ異人伝」。

今回のゲストは、株式会社ギャガ・コミュニケーション(現在のギャガ)の創業者であり、現在はフィロソフィア株式会社・代表・藤村哲哉氏です。

日本でのレンタル・ビデオ・ブームに先駆けて、洋画作品のビデオソフト向け版権の買い付けを促進し、インディペンデント映画会社として映画配給に着手、さらに、現在はスタンダードになった「製作委員会」方式を早くから着目し大きく成長を遂げました。

現在は、ハリウッド映画製作現場と日本のコンテンツをブリッジするプロデューサーとして、辣腕を振るっています。

藤村氏は、2017年4月7日(金)より公開される「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」を原作に持つハリウッド版『ゴースト・イン・ザ・シェル』の日本サイドのエグゼクティブ・プロデューサーにクレジットを連ねています。

監督はルパート・サンダース、出演は、スカーレット・ヨハンソン、北野武…という話題作を手掛けた藤村哲哉氏の半生を振り返るとともに、今まであまり語られることのなかったギャガ退任後の藤村氏の沈黙の6年と、日本とハリウッドをブリッジする仕事内容を追いました。

※本記事は3回にわたってお届けするインタビューの最終回です。第1回(上)第2回(中)はこちら

インタビュー取材・文 / 黒川文雄


フィロソフィア創業 日本のIPの可能性を信じて

ギャガ退任後に立ち上げたフィロソフィアについて聞かせてもらえますか。出版社やゲーム会社が持っている日本のIP(※)の映画化権を海外向けにライセンスするお手伝いをしたり、コンサルティングをされたりしていると伺ったんですけれども・・・。例えば、『鉄拳』や『バイオハザード』などがハリウッドで実写版になったりしていますが、そういったビジネスのコーディネートのお仕事だと思ってよろしいんですか?

(※IP 知的財産権Intellectual Propertyの略 文中での意図はコンテンツを総称している)

藤村 基本的には、日本のIPに関する仕事は、日本の会社との契約で動いているものはあまりないです。

自分はこれから日本のIPの価値が高まってくる時代が必ずくるとギャガの頃から感じていて、ギャガの時代からそういう日本原作のものをハリウッドで映画化するってことにチャレンジしていました。

でも、やっぱりものすごく難易度が高くてギャガ時代に花が開いたものはなかったけど、その志をまだ持っていたので、フィロソフィアではそれをメインの事業に置いてやっていこうと。そう思って今までもやってきた。で、そのときにどういうビジネスモデルがありうるか。やるからにはちゃんとクレジットで自分がやったことが残るようにしたいし、クレジットを取らないと日本のIPを守ることもできない。

それでエグゼクティブ・プロデューサーとして。企画やファイナンスに貢献した人がもらえるクレジットですよね。

アヴィ・アラッドとの出会い

藤村 それでいろいろ考えていたときにアヴィ・アラッド(※)との出会いがあって、より現実的な話になったんだけれども、アヴィに「自分はエグゼブティブ・プロデューサーのクレジットをもらいたい。

そして、エグゼクティブ・プロデューサー契約をしたい」、「日本の会社からお金を貰うんじゃなくて、ハリウッドのチームに入ってハリウッドから日本のIPを取りに行くという発想をしたい」という話をして、アヴィも快諾してくれた。

ハリウッドのスタジオやプロデューサーが日本のIPを取りに行くとき、日本とアメリカのエンタメ業界のカルチャーの違いを把握して、ちゃんとお互いを理解するための橋渡しをする人間が絶対に必要なんです。

それがないと、ハリウッド側から見ると、閉鎖的な日本の企業となかなか交渉のテーブルにつけないし、日本にとっても正しい相手とフェアな取引を実現させることは難しい。

(※アヴィ・アラッド 映画「スパイダーマン」などのハリウッドを代表するエグゼクティブ・プロデューサーのひとり)

そうですね。

藤村 特に、日本のIPホルダーの人たちは、海外のプロデューサーと映画化する契約については知識も経験も不足している。そういう日本側の権利や契約を守るという志もあって、これを始めたわけ。だからハリウッドとの契約なんだけど、基本的には作品単位の契約で自分は作品のために働くと。作品にとってベストの形を作るっていう意味で、自分が入ることによって日本の皆さんも健全な状態でハリウッドと仕事ができる。それによって継続性のあるビジネスになると。アヴィともそういう話をして。

『攻殻機動隊』と『メタルギアソリッド』の権利を取ってくれ

アヴィさんとの出会いというのはギャガ時代にさかのぼるんですか?

藤村 ギャガ時代に会ってはいるんだけど、そのときにはビジネスの接点はなかった。向こうはマーベル・スタジオの会長で『スパイダーマン』シリーズをはじめ、どんどんメジャー作品を作っていたし。世界で仕事をしている超一流のプロデューサーなので、「すごい人と会った」っていうのはあったけどギャガが直接何か仕事をするってことは……。

なかったですよね。

藤村 だから、まったく接点はなかったんだけど、ちょうど僕がギャガを辞めたのとほぼ同じタイミングで彼もマーベルを辞めました。

アヴィは「マーベルの会長でいる限り、マーベルのIPしか映画化できない」、「残りの人生は自分のやりたいIPで作りたい」と。彼はトイ・デザイナーとしてキャリアを始めた人なので、若い頃にしょっちゅう日本に来ていて日本のIPにもすごく詳しかった。それで、一緒にやろうとなってロサンゼルスでランチミーティングをしたとき、アヴィに『攻殻機動隊』と『メタルギアソリッド』を映画化する権利の取得を手伝ってほしいと言われました。

そんな頃から話が出ていたんですか。

藤村 もちろん。『攻殻機動隊』は僕がフィロソフィアを創業してすぐに取りに行った作品で、もう10年かかっている。契約するのに2年。「チェーン・オブ・タイトル」といって講談社が権利をクリーンな状態で持っていることを証明するプロセスがハリウッドとの契約では必ず必要なんだけどそれに1年。これだけでトータル3年もかかった。

8年間収入ゼロ……!?

契約が成立したところからキャスティングに?

藤村 いや、映画制作の順番で言うと企画開発が最初。企画開発はほぼイコール脚本開発で、『攻殻機動隊』の場合はドリームワークスとパラマウントというふたつのメジャースタジオの共同制作になったんだけど、制作予算が大きいということもあって脚本家は6人雇った。この6人が脚本をリレーで書いていったんで結局5年かかった。『メタルギアソリッド』も最初のコンタクトからコナミと契約を取れるまで7年くらいで、こちらは今コロンビア映画で企画開発中。

すごい時間がかかるんですね。

藤村 フィロソフィアを始めたときは契約交渉から5年くらいで映画ができると思ってやっていたからね。キャッシュフロー的にこんなきついことはない。だってプロデューサーへの支払条件っていうのは通常、撮影が始まった日からとなっているからね。『攻殻機動隊』の場合、その撮影が始まるまでに8年かかったから普通でいったらそれまでの8年間は収入ゼロ。

では、その間はどうされていたんですか?

藤村 僕の仕事の中心は撮影開始の手前までだから、契約が成立したら前払いでいいから一部払って欲しいと。でも、あくまで一部だよ? とにかく、キャッシュフロー的には全然マイナス。ただ、ありがたいことにギャガ時代からお付き合いのあるところや、海外のいろいろな会社がコンサルタント契約をフィロソフィアとしてくれた。ちょうど僕がギャガを離れた頃から、海外の会社が日本に映画を売るのが非常に厳しくなってきて、自分たちの作品を日本で売るためのコンサルを引き受けてほしいっていうことで10社以上と契約できました。

それはすごいじゃないですか。

藤村 しかも、ライオンズゲートとか大手がたくさん。それからギャガ時代に支えていただいた日本の企業も何社もコンサルビジネスのクライアントになっていただいて、さらに、「ラストエンペラー」のプロデューサーであるジェレミー・トーマスの日本の代理人にもなっていて、三池崇史監督の『13人の刺客』とか『一命』とか国際共同制作のお仕事もいくつか引き受けてやってきました。

そんな感じでちょうど10年なのですが、借り入れもなく(笑)、ずっとやってこられた。だから、これから回収期というか収穫期。やっとこの『攻殻機動隊』が形になって、当然『攻殻機動隊』以降もいろいろ仕込んでいるものがあるので。

さしつかえなければ、どんなものか簡単に教えていただけますか?

藤村 まず、日本のIPをハリウッドで映画化。そして、アメリカでのテレビシリーズ化。これもすでにいくつか仕込んでいる。アメリカでテレビドラマ化された日本原作のものはまだ1本もないからね。

それも近いうちに分かるわけですね、楽しみです。

藤村 それと日本のIPをもとにした中国での映像化とかゲーム化とかね。これもある中国の大手メディア会社と契約をして動いている。だから発想としてはギャガ時代の原点に戻った感じだよね。当時はビデオの版権エージェントみたいなことを始めたわけだけど、今は日本のIPエージェント的な事業領域にいるっていう感じ。もちろん、エグゼクティブ・プロデューサーという立場でやっているから単なる右から左のエージェントではないけど。


GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 セル版
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