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待ち望まれた新たな物語『人喰いの大鷲トリコ』の魅力とは?(前編)

待ち望まれた新たな物語『人喰いの大鷲トリコ』の魅力とは?(前編)

『ICO』(2001年:PlayStation®2)、『ワンダと巨像』(2005年:PlayStation®2)で世界中のプレイヤーを魅了したゲームデザイナー・上田文人さんの最新作『人喰いの大鷲トリコ』(以下、『トリコ』)。発売から3ヵ月が経ち、その待ち焦がれた物語の結末を見届けた人も多いと思うが、できるだけ未プレイの人の楽しみを損なわないように配慮しながら、改めてその魅力を振り返ってみたい。

文 / 遠藤栄慧


人喰いの大鷲トリコ® ダウンロード版

気づいたときには引き込まれている

発表からじつに7年の制作期間を経て、昨年12月にリリースされた『トリコ』。その間、スマートデバイスの普及やソーシャルゲーム市場の拡大、いくつかの家庭用ゲーム機の世代交代などビデオゲームを取り巻く環境は少なからず変化し、当初PlayStation®3で発売が予定された『トリコ』もPlayStation®4へとプラットフォームが変更された。筆者も、長い周期で飛び込んでくるその進捗情報に一喜一憂していたひとりだが、考えてみれば、数あるエンタメジャンルの中でもとりわけ変化の速いゲームの市場で7年も国内外のファンに待ち望まれ、最終的にきちんと”面白いゲーム”として世に送り出された『トリコ』という作品は、それだけでもう、とんでもない現象のように思える。『トリコ』には、『ICO』、『ワンダの巨像』のDNAを色濃く宿した心に残るゲーム体験――ゲームならではのストーリーテリングや謎解きアクション、魅力的な舞台や映像的な面白さといった魅力要素が詰まっている。それらをひとつずつ見ていこう。

『トリコ』の物語は不意に始まる。意味深なオープニングクレジットに続いて(正確には、ある操作をはさんで)画面に現れるのは、見知らぬ洞窟で意識を取り戻す主人公の少年と、そのかたわらに横たわる巨獣トリコだ。

本作には、いわゆる詳細なマニュアル――登場キャラクターやゲームシステムを事前に解説するものが存在しない(*1)ので、ゲームを始めたプレイヤーは上記の状況にぽんと放り込まれ、多くの謎を抱えたまま主人公の少年を動かしていくことになる。この少年は何者なのか? なぜ体に奇妙な文様が刻まれているのか? ここはどこなのか? そもそもどういう構造の世界なのか? まずは何をすればいいのか……?

これは言い換えると、『トリコ』を始めるにあたって何も準備はいらないということである。不安な人は、事前にオンラインマニュアルで操作方法を確認することもできるが、必要な操作は必要な場面で逐一ガイドが表示されるため、実際はそれも杞憂に終わるはず(*2)。行ったことのない遠い国に手ぶらで出かけてしまうような清々しさ、出かけてしまえる気持ちよさが『トリコ』にはある。状況に身をゆだねて主人公を動かしているうちに自然とゲームの進めかたを学習でき、気づいたときには物語の世界に引き込まれてしまっているのだ。


*1 オンラインマニュアルではゲームの基本操作のみを確認できる。パッケージ版には、ごく短い絵本のような冒険のしおりも付属する。
*2 逆に、本編をクリアーした人でまだ一度もオンラインマニュアルを見ていない人は一度確認してみてほしい。意識になかった操作方法に驚く人もいるかもしれない(筆者のように)。

▲ファーストシーンで出会う少年と魔獣。本作のもっとも魅力的な要素である両者の交流を物語冒頭から楽しめるのが嬉しい

▲マニュアル要らずの操作ガイド。個人的には思っていたよりも使うボタンが多いと感じたが、必要最小限のチュートリアルで操作を習得できるようになっている

▲かなり気が立っているようで、少年を近づけようとさせないトリコ。その迫力に圧倒されつつ、手探りで”できること”を探していくことになる

未来から語られる物語

『トリコ』では、物語の要所で、数十年後の主人公(と思われる男性の声)の回想が登場するのだが、個人的にはこの演出も非常によかった。わざわざ”人喰いの”と付けられたパートナーをはじめ、ゲーム全編に漂うどこか不吉で恐ろし気なイメージの中で、(回想しているということは)とりあえずは生きて結末を迎えられそうだ、という希望を感じながら物語を進めていけるからである。

ユニークなのは、ゲーム中で初めて遭遇する種類の謎解きの場面だったり、しばらく進行に行き詰まったりしたときにも、この”回想”という形でヒントを与えてくれる趣向だ。すべてを体験した未来の主人公がこの冒険を思い出し、「先に進むために、私は○○することにした」といった具合に指針を示してくれるのである。「とにかく謎は自力で解きたい」、「ヒントを出すにしても、自力で解けた感を味わえるように寸止めにしてほしい」という筆者のような面倒くさい人間も、自分に言われたらもう、ありがたく従わざるを得まい。

『ICO』、『ワンダと巨像』と同様、ゲーム中に登場するセリフはすべて架空の言語となっており、どことなく懐かしい異国情緒や、前2作品との世界観的なつながりの可能性をファンに想像させてくれるのも嬉しいところである。

▲回想の形で提示されるヒント。慣れてくると、行き詰まるたびに(もっと何か思い出すんだ、自分!)とつい願ってしまったりも(笑)

▲効果的に挿入される回想モノローグ。この冒険のあとも少年の物語が続いていくことを予感させてくれる

どこを切り取っても”絵になる”体験

本来は共生など不可能そうな幼い少年と人喰いの巨獣が、閉ざされた状況の中で行動をともにし、幾多の困難を乗り越えていく『トリコ』の物語。その冒険を彩るのが、遠い過去とも遥かな未来ともわからないハイファンタジーの世界と、緑に覆われた巨大遺跡という普遍的魅力を持つ冒険ロケーションだ。

悠久の時間の中に置き忘れられたような遺跡群には、荘厳な神殿や天を突く塔、目もくらむ空中回廊や気持ちよさそうに風が吹き渡る空中庭園等々の絶景舞台が満載。本作のスペシャルブックレット(*3)の中で、デザイナーの上田さんが影響を受けた作品として『風の谷のナウシカ』がリストアップされているが、個人的には『天空の城ラピュタ』に出てくるラピュタをリアリスティックに描いたらこんな感じに違いない……! と静かに感動してしまう場面が何度もあった。


*3 『人喰いの大鷲トリコ』初回限定版に付属する特典小冊子。上田さんへのインタビューや設定資料など、映画のパンフレットにあたるような内容が掲載されている。

▲いわくありげな巨大遺跡に、小さな体ひとつ(+大きな1匹)でずんずん乗り込んでいく展開に胸が躍る!

▲ハラハラする高所の移動をはじめ、命がけのアクションこそ冒険の醍醐味。危険な場所ほど大歓迎?

▲埃っぽい建物を抜けると、そこは草むらであった……というようについ足を止めて眼前の光景に見入ってしまうこともしばしば。澄んだ日差しや吹き渡る風にうっとり

そして、何といっても巨獣のトリコである。この鳥のような猫のような架空の獣の魅力については、次回の記事で詳しく述べたいと思うが、これだけ巨大な質量を持ったキャラクターをリアルタイムに引き連れて複雑な地形のステージを探検できたり、気ままに戯れたりできるのは、かなり新鮮なビデオゲームならではのエンタメ体験となっている。

余談になるが、この記事用によさそうな画面を撮影しながらプレイし直していたところ、気づいたら保存した写真と動画が200ファイルを超えていて慌てたことがある。『ICO』や『ワンダと巨像』もそうだった気がするが、『トリコ』はロケーションとキャラクターの組み合わせによって、何気ないシーンも妙に絵になるのだ。PlayStation®4には本体に画面撮影機能も付いていることだし、「写真を撮るためにプレイする」というのも今の時代らしい楽しみかたになるかもしれない。

▲動くトリコの体感サイズは見た目以上。カメラに収まらないのでこの写真では少し距離を置いているが、ぬーっと近寄って来られるとその大きさにたじろぐ

▲巨大なトリコが、狭い通路を通って少年の後を着いてくる。ごく普通のプレイシーンなのだが、ゲームの中でリアルタイムに見せられると、なぜかすごく新鮮な映像に感じてしまう……のは筆者だけだろうか?

▲ずぶ濡れのトリコを眺めていたら、少年の手が自動的に手すりに添えられていることに気づいて二度ビックリ。足にも自然にポーズが付けられ、画として馴染んでいるように感じられる

次回の記事では、トリコという巨獣の魅力と、そこから生まれる『トリコ』ならではの謎解きのおもしろさなどについて触れていきたい。どうぞお楽しみに!

『人喰いの大鷲トリコ』オフィシャルサイトhttp://www.jp.playstation.com/scej/title/trico/

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