Interview

ゴスペラーズ新作アルバム「エモい・熱い・エロい」で“欲の実験作”

ゴスペラーズ新作アルバム「エモい・熱い・エロい」で“欲の実験作”

ゴスペラーズが約2年半ぶりとなるオリジナルアルバム「Soul Renaissance」をリリースした。自身のルーツであるソウル/R&Bと向き合い、当時のサウンドトレンドを意識することをテーマとした楽曲群でボーカルグループとしての確固たる地位を築き上げた2000年リリースのアルバム「Soul Serenade」から約17年。デビューから23年目となる今、あらためて同様のテーマに真っ向から挑み、これまで築き上げてきたキャリアを以てしてグループとしてのアイデンティティを華麗にアップデートしてみせたのが本作となる。果たして彼らはどんな思いで制作に臨んだのか? メンバー5人にじっくりと話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 藤城貴則

もちろん同じテーマで作ったとしても絶対に懐古主義の作品にはならず、最新のゴスペラーズの音になるはずだと(村上)

約2年半ぶりとなるニューアルバム「Soul Renaissance」がついに完成しました。振り返ると15年9月リリースのシングル「Dream Girl」の頃からアルバムに向けた明確なテーマを持って動いていましたよね。

村上 うん。当初から“90年代で遊ぼう”というテーマを掲げていて。それはほとんどブレることなくこのアルバムでやり切れた気がしてますね。非常に満足感のある仕上がりになったので、どういう反応、評価が来るのかが楽しみなところです。

“90年代で遊ぼう”というのはつまり、当時のソウル/R&Bを下敷きにするということだと思いますが、そういったテーマを今のタイミングで掲げたのはどうしてだったのでしょうか?

村上 ゴスペラーズをたくさんの人に知ってもらえるきっかけになった「Soul Serenade」(2000年リリース)は当時のソウル/R&Bを非常に強く意識したアルバムだったんですけど、グループが20周年を経た今、あらためて同じテーマでやってみるのはどうかなと思ったんですよね。僕らにとっても人生の転機になった時期だし、ファンの人にとってもね、あの当時の抜き差しならない感情を呼び起こすという意味でこのテーマをイヤがる人はいないだろ、みたいな(笑)。もちろん同じテーマで作ったとしても絶対に懐古主義の作品にはならず、最新のゴスペラーズの音になるはずだという確信も持ってましたしね。

確かに本作は、今のゴスペラーズとして「Soul Serenade」の世界観をしっかりとアップデートした内容になっていますもんね。

村上 今の自分たちを生々しいものとして出せないと意味はないと思ってましたから。テーマ的な安心感はあるんだけど余裕かますことなく、瞬間瞬間にフレッシュさを保てるように緊張感を持って制作は進めましたね。そういう意味では酒井が作ってくれた「Recycle Love」なんかはアルバムを作っていく上でのいい推進力になってくれたと思いますけど。

ゴスペラーズとしてみんなをビックリさせるためにはどうしたらいいかっていうことを考えてましたね(酒井)

ルーパーを使った多重アカペラの曲ですよね。これはほんとに革新的だと思います。

村上 ボーカルグループは落ち着いた感じでやってるだけと思って欲しくなかったから俺らはずっといろんな試行錯誤をしてきたんだけど、それのまさしく現代版というかね。原点を感じさせつつも、ちゃんとインパクトを見せられているっていう。

酒井 この曲を作ったときは、先ほどおっしゃったアップデートということをすごく考えていた気がします。アカペラというものに対して世間の周知が及んだ今、何かしら新しいと思ってもらうためにはどうしたらいいか、ゴスペラーズとしてみんなをビックリさせるためにはどうしたらいいかっていうことを考えてましたね。今まで作ってきた枠から少しはみ出してみようっていう欲の実験作ですね。

今回はメンバー作詞・作曲のナンバーもたっぷり収録されています。みなさん高いモチベーションを保って制作には臨めましたか?

北山 そうですね、うん。ただ、最初の選曲会の段階ではゴスペラーズに対して提供していただいた他の方々の曲にすごくいいものが多くて。メンバーたちの旗色がちょっと悪いというか(笑)、「俺たちちょっと押されてるぞ」っていう感じがあったんですよ。そこでハングリーな気持ちになれたところはありましたね。

村上 いい曲を提供してもらうこと自体はまったくありがたいことなんだけど、こんだけ明確なアルバムテーマを決めといて自分たちで書けなかったら、もうね(笑)。

黒沢 うん。「俺たちにはもう無理なのかな」ってなるわけじゃん、気持ち的に(笑)。

北山 そんな流れがあった中で、共同作曲というか、2人なり3人でチームを組んで曲作りをしてみようっていうアイデアが酒井から出てきたんですよね。

相手から何を引き出せるのか、そして相手から出てきたものをどれだけキャッチできるかっていう能力が昔とは格段に違うんですよね(安岡)

確かに今回はいわゆるコライト形式で作られた曲が多いですよね。

北山 昔はそういうスタイルで曲作りをしていたんですよ。当時、それでいい曲が生まれたりもしていたので、だったら今回その形式を踏襲しているのもいいんじゃないかなって。今は一人ひとりでも曲作りができるけど、あえてそういうスタイルを取ることで新しいものが生まれるんじゃないかなって。

黒沢 結果的にその試みは上手くいきましたね。同じ空間の中で一緒に作っていくから、例えば「ここの歌詞を変えてくれ」とかってこともすごく言いやすいんですよ。メロディにしてもそう。で、言われたことに対しても、その場の雰囲気を共有してるからすごく理解しやすいんですよね。「ああ、そうだよね」って素直に思えるというか。そういう作業は懐かしくもあるんだけど、すごく新鮮な気持ちでやれましたね。

当時に比べ、各自のスキルもアップしているし、メンバー間の信頼度も増しているわけですからね。それは絶対にいいものが生まれるはず。

安岡 うん。「Soul Serenade」の頃と何が一番違うかって言うと、5人がそれぞれソロワークしてきたことでのプロデュース能力――これを日本語に変換するのは難しいんだけど、要は引き出す能力をみんなが手にしているってことだと思うんですよ。相手から何を引き出せるのか、そして相手から出てきたものをどれだけキャッチできるかっていう能力が昔とは格段に違うんですよね。そういうことが見える時間でもあったので、それはすごく良かったなと思います。

北山 今回の達成感はすごく大きいですね。時間的に余裕があったからたくさん試行錯誤できたっていうこともありますけど、自分たちで思い描いていたアルバムの景色のレベルがどんどん上がっていく感じをここまで体験できたのは初めてかもしれない。

村上 制作の最後の半年弱で一気にそういう流れになったよね。コライトで作った「イントロ’17」と「インター’17」、「All night & every night」と「Silent Blue」というアルバムの骨になるような曲が後半にできたから非常にホッとした部分はありましたね。

コライトした曲に関しては、大まかなイメージを決めてから制作に入る感じでしたか?

安岡 そうですね。それぞれリーダー(村上)からのお題みたいなのがあって。

黒沢 うん。前提として“熱い曲”っていう共通項もありつつ。

北山 「Silent Blue」に関しては最初に見据えてた方向ではなくなりましたけど、僕と黒沢、安岡の3人でキャッチボールしてるうちに着地点への道がしっかり見えてきたので、その場のノリを大事にして作っていった感じでしたね。現場はすごく楽しかった

「Silent Blue」はものすごく“エモい”曲だなと思いました。

北山 あぁ、そうですね。そこは目指しました。コード進行のループを作る時点で、ある程度そのエモい方向を意識して。

黒沢 まぁでもこの曲のエモさは、安岡と北山がリード(ボーカル)をとってるってことだと思いますよ。そこはディレクターの采配なんだけど、「なるほどな」って思った。作曲してるとそこまで客観的に見れなかったりしますからね。この2人の歌から生まれるエモさはあらためて発見でしたね。

安岡 もう1曲の「All night & every night」は僕と酒井さんと黒沢さんの3人で。リードしてくれたのは酒井さんでしたね。あれ、お題はなんだったっけ?

酒井 熱く歌えるマイナー調の曲、みたいな感じじゃなかったかな。昨今はトラック主導の曲が多い中、これはもう歌い手本位と言いますか、「この歌、やりたい放題じゃないですか、先輩!」みたいな仕上がりになりましたね。

あははは。確かに(笑)。

酒井 歌手が必要以上に制限を受けるようなタイプではなく、むしろ自由に崩していただけるような、そういう感じがいいかなと。なので、サビとかコーラスはしっかり決めつつも、その上で村上、黒沢に思う存分吠えてもらった感じです。

黒沢 サビを先に決めてくれたので、思い切り自由に泳げた感じですね。

安岡 そこがすごくボーカルグループっぽいところにはなってますよね。詩に関しては酒井さんがメロディからキャッチしたでたらめな言葉を空耳カバーみたいな感じでそのまま、その場で日本語に置き換えていった感じで。詩先では絶対に作れないものになったなとは思いますね。

村上 昔の演歌の大先生が聞いたら発狂しそうですよね。「おまえらそんな作り方してんのか!」みたいな(笑)。

この曲はもう圧倒的に“エロい”ですしね。

安岡 そうですね。この詩をエロいと言ってもらえなかったら僕はもう作詩やめますよ(笑)。ほんとにセクシーなことしか言ってないんで。そういう詩を書けるようになったのも、ここまでにいろんなトライをたくさんしてきたからだと思いますね。セクシーな内容のものであっても、ここまで書かなきゃソウルじゃないんだよっていうさじ加減がわかってきたからこそ書けたものだと思います。女性の方にはぜひ、この曲を聴いてうっとりして欲しいですね。

村上 今回のアルバムで言うと、森大輔くんが作ってくれた「Deja Vu」って曲なんかもね、僕らがこれまでやってきたそういうムードをしっかり踏まえてくれてますよね。90年代ソウル/R&Bをテーマにするという上で、こういうエッチな方向でのメロウな曲があるとないとじゃアルバムとして全然違う仕上がりになっただろうなって。

RHYMESTERと打ち合わせしてラップ部分の歌詞が上がってきたら<F.U.R.I.N.>というフレーズが入ってたっていう(笑)(黒沢)

「Hide and Seek feat.RHYMESTER」では15年ぶりにRHYMESTERとのコラボが実現しました。この曲もかなりきわどい内容ではありますね。

黒沢 うん。サビのメロディと歌詞が決まった段階では、若い女性に振り回されるみたいな設定をイメージしてたんですけど、RHYMESTERと打ち合わせしてラップ部分の歌詞が上がってきたら<F.U.R.I.N.>というフレーズが入ってたっていう(笑)。

何かと旬なフレーズが(笑)。RHYMESTERとの久々のコラボはどうでした?

黒沢 15年前と同じ感覚でやれたところもあるんだけど、やっぱり昔とは違う、しっかりアップデートできたところはあるんじゃないかな。お互いが15年分の経験を持ち寄っているわけだから。あと今回はAILIさんにトラックをお願いしたんですけど、彼女から「ラップ部分にもコーラスを入れて欲しい」っていうリクエストがあって。そういうところは僕らだけでは出てこないアイデアなので楽しかったですね。新しいこともちゃんとやれたなっていう実感があります。

まさに傑作と呼ぶにふさわしい本作を引っ提げて、全国ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2017“Soul Renaissance”」もスタート。どんな内容になっていますか?

村上 このアルバムの曲を中心としながらも、当然「Soul Serenade」を含めた90年代の僕らの魅力を加えた内容で楽しんでもらおうと思ってますね。そこには定番曲もプラスしていくのでね、もう十分なボリュームになってしまうと思うんですけど(笑)。グループとしては、北山も含めたこの5人でしっかりすべての公演を乗り切ることが課題でもあります。そうすることでまた新たな自信も生まれると思うし、何よりファンの人も喜んでくれるだろうと思うので。

純粋に「ゴスペラーズ、すげぇじゃん!」って言ってもらえるようなステージを突き付けたい(北山)

復帰されたとは言え、今も北山さんの体調を心配されている人もいるでしょうから。

村上 うん。この1年、ライブ自体はなんだかんだたくさんやってきましたけど、ツアーとなるとやってみないとわかんないことがあるかもしれないからね。

黒沢 長めのツアーは復帰後、まだやってないからね。

北山 まぁそうですね、うん。この5人でまたツアーができることへの意味はもちろん僕も感じてはいます。ただ、個人的にはそういうことを忘れてもらいたい気持ちもあって。20周年を経て、あらためてゴスペラーズというものを自分たちでとらえ直した、エネルギーに満ち溢れたアルバムを持ってツアーを周るのだから、その進化だけを感じて帰ってもらいたいなって思うんですよね。いろんなことをすっかり忘れて、純粋に「ゴスペラーズ、すげぇじゃん!」って言ってもらえるようなステージを突き付けたい。なので、「北山さんが立って歌ってくれたことが嬉しかったです」みたいなことを言わせないのが僕の役目、目標ではありますね。

過剰な心配や感傷は心にしまってもらって、ライブをとにかく楽しんでもらいたいと。

北山 そう。“Renaissance=再生・復活”って言葉がね、僕自身にかからないように(笑)。

村上 あははは。そっかそっか。そう受け取る人もいなくもねぇか(笑)。

黒沢 “Kitayama Renaissance”って(笑)。

北山 そう思っちゃう人が最終的にいなくなるようなツアーにしたいということですね。

ライブ情報

4月5日(水)
「美空ひばり生誕80周年記念 だいじょうぶよ、日本!ふたたび 熊本地震・東日本大震災復興支援チャリティーコンサート」
東京ドーム

6月30日(金)
琵琶湖周航の歌 100周年記念 加藤登紀子プロデュース 第一回びわ湖音楽祭
滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール(大ホール)

ゴスペラーズ坂ツアー2017 “Soul Renaissance”

4月22日(土)千葉・松戸森のホール
4月24日(月)東京・オリンパスホール八王子
4月26日(水)神奈川県民ホール 大ホール 
4月29日(土・祝)福島・南相馬市民文化会館 ゆめはっと
4月30日(日)山形・南陽市文化会館
5月3日(水・祝) なら100年会館 大ホール 
5月4日(木・祝)ロームシアター京都 メインホール
5月6日(土)広島・上野学園ホール
5月7日(日)兵庫・姫路市文化センター 大ホール
5月13日(土)三重・伊勢市観光文化会館 
5月14日(日)静岡市清水文化会館 マリナート 大ホール
5月18日(木)埼玉・川口総合文化センター リリア(メインホール)
5月20日(土)群馬・桐生市市民文化会館 シルクホール
5月21日(日)茨城県立県民文化センター
5月27日(土)石川・輪島市文化会館 
5月28日(日)富山・オーバード・ホール
6月2日(金)北海道・ニトリ文化ホール(さっぽろ芸術文化の館)
6月3日(土)北海道・旭川市民文化会館 大ホール
6月10日(土)岩手・大船渡市民文化会館 リアスホール
6月11日(日)宮城・仙台サンプラザホール
6月17日(土)愛媛・西条市総合文化会館 大ホール 
6月18日(日)レクザムホール(香川県県民ホール)・大ホール
6月24日(土)鹿児島市民文化ホール 第一
6月25日(日)宮崎市民文化ホール 
7月1日(土)大阪国際会議場(グランキューブ大阪) メインホール
7月2日(日)大阪国際会議場(グランキューブ大阪) メインホール
7月8日(土)東京国際フォーラム ホールA 
7月9日(日)東京国際フォーラム ホールA 
7月15日(土)名古屋国際会議場 センチュリーホール
7月16日(日)名古屋国際会議場 センチュリーホール
7月22日(土)長崎ブリックホール 
7月23日(日)福岡サンパレスホテル&ホール
7月29日(土)島根・出雲市民会館
7月30日(日)岡山・倉敷市民会館

ゴスペラーズ

北山陽一、村上てつや、黒沢 薫、酒井雄二、安岡 優。
1991年、早稲田大学のアカペラ・サークル<Street Corner Symphony>で結成。1994年8月15日、ファイルレコードよりミニアルバム『Down To Street』をリリース。メンバーチェンジを経て、1994年12月21日、キューンレコードよりシングル「Promise」でメジャーデビュー。2000年8月リリースのシングル「永遠(とわ)に」、10月12日リリースのアルバム『Soul Serenade』が、記憶に残るロングセールスを記録しブレイク。2001年3月7日リリースのシングル「ひとり」が、アカペラ作品としては日本音楽史上初のベスト3入りとなる。
2001年6月6日にリリースされたラヴ・バラードのコレクション・アルバム『Love Notes』が大ヒット。ミリオン・セールスを記録する。以降、「星屑の街」「ミモザ」など多数のヒット曲を送り出す。
2004年11月17日には、デビュー10周年を記念した初のベスト・アルバム『G10』をリリース。また、他アーティストへの楽曲提供、プロデュースをはじめ、ソロ活動など多才な活動を展開。日本のヴォーカル・グループのパイオニアとして、アジア各国でも作品がリリースされている。
2014 年12 月17 日には、デビュー20 周年を記念したベスト・アルバム『G20』をリリース。オリコン初登場2 位を獲得。全66公演ゴスペラーズ史上最多公演数の全都道府県ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2014~2015 “G20”」を大成功におさめた。

オフィシャルサイトhttp://www.5studio.net

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