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エレカシのベスト盤で、30年の歳月を体感する!【レビュー】

エレカシのベスト盤で、30年の歳月を体感する!【レビュー】

今月21日にリリ−スされたエレファントカシマシ30周年のオールタイムベストは二枚組だ。CD-1が[Mellow&Shout]、CD-2が[Roll&Spirit]と、ふたつのカテゴリーに分けられ、各15曲、全30曲で3,000円である(通常盤の場合)。選曲はボーカルの宮本浩次が悩みに悩んで厳選したものだそうだ。曲のリストを前に、頭に両手を添えて、熟考に熟考を重ねる彼の姿が浮かんでくる。

歌詞カ−ドには各曲それぞれ短いながらも全曲に渡り、彼の解説が添えられているのもありがたい。そしてジャケットの信藤三雄によるアート・ディレクションも秀逸であり、バンドのケレン味のない佇まいをリアルに伝える。最近、彼らのことを知った人達にとって、絶好の入門編であることは間違いないだろう。往年のファンの方達も、ここらで代表曲を買い直してみるのは如何だろうか。

というのも、実は今回、名匠テッド・ジェンセンによりリマスタリングされているからだ。手元にある以前のCDと何曲か聞き比べたが、より見通しがよく、キレと粘りのある音質になっていると個人的には感じた。

ここでさっきのカテゴリー分けに戻る。“メロウ”と“シャウト”、“ロール”と“スピリット”というのは、補い合うようで反目しそうな二語でもある。果たしてそこに込めた想いはなんなのだろう。そのあたりも頭の片隅に置きつつ、さっそく聴いてみることにしよう。

淀みないサウンドを得て、叫びの強さがいっそう際立つ

[Mellow&Shout]盤
彼らにとって最大のヒット曲である「今宵の月のように」から始まり、ファンでなくてもどこかで耳にした作品が多いかもしれない。表現する者はココロに鏡を持っていて、映り込んだものを作品にするのだとしたら、ここに並ぶ15曲は、どちらかというと外へ向けられた鏡に映り込んだ風景…、かもしれない。

全体に、よく練られたメロディ・ラインが印象的であり、ふと口ずさみたくなるような曲が多い。鴎外、荷風など、日本文学にも造詣が深く、文語調も得意なはずの宮本だが、歌詞は平易な言葉を心掛け、「夢」とか「愛」とか、過去に何万回歌われてきたかわからないワードを丹念に磨き直し本来の深い意味合いで響かせているのも特徴だろう。また、勇気や元気を授けてくれるものも多い。実際、宮本に“さあ がんばろうぜ!”(「俺たちの明日」)と言われると、まさにその言葉を信じ、頑張ってみようと思うのである。

楽曲作りにおいては“コラボレーション”というのもキーワードとなっている。いわゆるタイアップにより生まれた作品も多い。バンドの演奏も単にエモーショナルというより宮本のボーカルが最高の形で届くようにアンサンブルされている。大衆性を意識している、とも言えるが、それは大衆におもねることをした、ということではない。分母のデカいところで勝負するには、小手先ではダメだ。真の実力も裸にされるわけであり、その結果、“らしさ”がリアルに伝わる結果ともなった。

これらのことは、“Mellow”という言葉と無関係ではないだろう。完成度の高さから伝わる淀みの無さ、というか、そんな風情はまさにこの言葉とも重なる。そして、だからこそ、“Shout”も際立つ。最初から叫びが前提、というのではなく、積もるものがあって、届けたい場所があって、それが自然と叫びへと発展したかのような展開、というか、そんな傾向も垣間見られる15曲なのだ。

ユ−ミンの「翳りゆく部屋」のカバーもいい。誤魔化さずメロディを真摯にトレースしていく。彼の歌は幼少時に合唱団で活動するなど、基礎をみっちり積み上げたものでもある。ピカソのキュビズムが突発的なアイデアによるものじゃなく、若き日のデッサン力に下支えされたものであるように、宮本の歌唱においても、そんな傾向が見られるのだ、と…、そんな“振り”をしつつ、ちょっと傾向の違うもうひとつの盤のほうへ話を移そう。

デビューから変わらず、転がり続けてきた不屈の精神を再確認

 [Roll&Spirit]盤
芸術も様々だが、こちらは大衆性もそうだが、むしろ[限界芸術・純粋芸術]といった色合いを感じる作風が並んでいる。なにしろトップパッターを務めている「ガストロンジャー」は、リズムボックスを頼りに「スタジオで、即興で歌った」(宮本の解説より)ものである。手法的には“オートマチック・ライティング”の歌版であり、彼の頭の中の思考が、ふいに倒れた水瓶の中身のごとく、一気にぶちまけられている。爽快極まりない。

また、先ほど[Mellow&Shout]盤のところで“外へ向けられた鏡”という例えをしたが、こちらは逆方向の鏡とも受け取れる。そしてそれは、もちろんこれらの作品を受取った我々にも伝播される。身につまされる。「コール アンド レスポンス」の歌詞の“全員死刑です”の一言は、宣言した者が即ち、宣言された者でもあるのだ。

またこの盤は、エレファントカシマシの美学がストレートに伝わってくる作風が多い。“僕と君”ではなく“俺とお前”の男らしい世界である。なお、ファースト・アルバムから3曲選ばれているのも特徴だろう。アーティストによっては初期の作品は“習作的位置づけ”であったりもするけど、彼らの場合、世の中に飛び出した時点でマニフェストされた精神性が、今も息づいているということだ。デビュー曲「デーデ」は、いま聴いても実に洒脱で豪気である。

精神、という言葉が出てきたところで、[Roll&Spirit]盤の“Roll”と“Spirit”のことを。考えてみたら、それが一過性ではない真の彼らの精神性であるということは、時代とともに転がり続け、それでも消えていないことが証明された時、初めて名実ともに証明されるのだ。転がり続ける不屈の精神は、バンドが40周年を迎えようが不滅だろう。ここに収められた15曲を聞きながら、たっぷりそれを感じて欲しい。

文 / 小貫信昭

 ライブ情報

30 th ANNIVERSARY TOUR 2017 “THE FIGHTING MAN”

4月8日(土) 東京・北とぴあ さくらホール

4月15日(土) 山梨・コラニー文化ホール 大ホール
4月22日(土) 茨城・茨城県立県民文化センター 大ホール
4月23日(日) 千葉・市原市市民会館 大ホール
4月29日(土・祝) 岡山・岡山市民会館
4月30日(日) 高知・高知県立県民文化ホールオレンジホール
5月3日(水・祝) 鹿児島・宝山ホール
5月4日(木・祝) 熊本・熊本県立劇場 演劇ホール
5月6日(土) 島根・島根県民会館 大ホール
5月7日(日) 広島・広島上野学園ホール
5月14日(日) 福井・福井フェニックス・プラザ
5月20日(土) 北海道・わくわくホリデーホール
5月27日(土) 岐阜・長良川国際会議場
5月28日(日) 三重・四日市市文化会館 第一ホール
6月3日(土) 福島・郡山市民文化センター 大ホール
6月4日(日) 山形・やまぎんホール
6月10日(土) 佐賀・鳥栖市民文化会館 大ホール
6月11日(日) 宮崎・メディキット県民文化センター 演劇ホール
6月18日(日) 神奈川・神奈川県民ホール 大ホール
6月24日(土) 徳島・鳴門市文化会館
7月1日(土) 愛媛・松山市民会館 大ホール
7月2日(日) 兵庫・神戸国際会館 こくさいホール 1
7月8日(土) 長野・まつもと市民芸術館
7月9日(日) 東京・オリンパスホール八王子
7月15日(土) 秋田・秋田県民会館
7月16日(日) 岩手・盛岡市民文化ホール
7月22日(土) 沖縄・ミュージックタウン音市場
9月23日(土・祝) 愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホール
9月24日(日) 石川・本多の森ホール
9月30日(土) 長崎・島原文化会館 大ホール
10月6日(金) 青森・弘前市民会館
10月8日(日) 宮城・仙台サンプラザホール
10月9日(月・祝) 栃木・宇都宮市文化会館 大ホール
10月14日(土) 大分・宇佐文化会館 大ホール
10月15日(日) 香川・サンポートホール高松 大ホール
10月22日(日) 新潟・新潟県民会館
10月28日(土) 和歌山・和歌山市民会館 大ホール
10月29日(日) 滋賀・守山市民ホール 大ホール
11月3日(金・祝) 福岡・福岡サンパレス
11月5日(日) 鳥取・米子市公会堂
11月18日(土) 群馬・ベイシア文化ホール 大ホール
11月19日(日) 埼玉・大宮ソニックシティ 大ホール
11月23日(木・祝) 山口・山口市民会館 大ホール
11月25日(土) 京都・ロームシアター京都 メインホール
11月26日(日) 静岡・三島市民文化会館 大ホール
12月2日(土) 奈良・なら100年会館 大ホール
12月9日(土) 富山・富山オーバード・ホール

エレファントカシマシ

1981年結成。メンバーは、宮本浩次(Vo,G)、石森敏行(G)、高緑成治(B)、冨永義之(Dr)。1988年にシングル「デーデ」とアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』でメジャーデビュー。ハードなロック・サウンドと文学的な歌詞で高い評価を得る。その後1997年にリリースされた「今宵の月のように」がドラマの主題歌に起用され、70万枚を超える大ヒットを記録。これまでに、通算47枚のシングルと、23枚のオリジナル・アルバムを発表している。ライブ活動もデビュー当初から精力的に展開しており、2016年まで27年連続で日比谷野外大音楽堂でのライブを開催し、2014年にはデビュー25周年記念ライブとして、さいたまスーパーアリーナに1万4000人を動員した。

オフィシャルサイトhttp://www.elephantkashimashi.com

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