Interview

竹原ピストル、ここから新しい旅路。旅芸人の心意気を証明する『PEACE OUT』。〈歌うたい篇〉

竹原ピストル、ここから新しい旅路。旅芸人の心意気を証明する『PEACE OUT』。〈歌うたい篇〉

音盤に込められているのは、気の狂うような音楽への執念と情熱。スクリーンの向こうから伝わってくるのは、ストレートな感情を吐き出す優しくもナイーブな姿。しかし、実際に会った生の竹原ピストルは、情に熱いけれども冷静な視線と姿勢を持っていて、こちらの質問に、論理的に丁寧に、わかりやすく答えてくれる男であった。
4月5日にニュー・アルバム『PEACE OUT』をリリースし、4月21日には妻を喪ったトラック運転手の大宮陽一役を演じ、日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した映画『永い言い訳』のDVDが発売される。“歌うたい”としてはもちろん、役者としても活躍している彼への2週連続インタビュー。第1回目は、旅する不屈のシンガー・ソングライターである彼の音楽について。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 関信行

※第2弾インタビューは役者の顔をフィーチャー


自分としても最高傑作だし、自信作だし、大きな大きな区切りの一枚

前作から1年半ぶりのアルバムとなりますが。その間、竹原さんの曲がCMに使われたり、ドラマ『バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』のエンディングテーマを担当するなど、テレビから歌声を聴く機会も増えました。周囲の状況が変わったことは曲作りにも何か影響を与えていますか?

そうですね。前作『youth』を出したあとから、全国的にお客さんが増えまして。自分でもライブのブッキングをしてましたけど、僕はキャパが50人とか30人とか、小さいお店しかツテがなかったので、そういうお店でやってきたんです。でも、テレビなどのいろいろな効果があって、お客さんが入りきれなくなってきて。弾き語りシーンで育ってきたから、ずっとやってきた旅芸人時代を卒業せねばならんのだなという寂しさはあったんですけど、絶対頑張るからっていう気持ちみたいなものが強くなって。潔く次のステップに行かなきゃなという腹を決めるタイミングになった一年だった気がします。

次のステップに進むんだという意志がアルバムには入ってるっていうことですよね。1曲目「ドサ回り数え歌」はまさに旅芸人としての心意気を歌ってるようにも感じますが。

「ドサ回り数え歌」も、根底にあるのはさよならなんですよね。一期一会のパフォーマンスというか。どっから来たのか知らんオッサンが歌って、「そんじゃ、元気でね。また会えても会えなくても」っていう一期一会の芸というか、スタンスでの活動だったので、そういう部分からも「そんじゃあね、元気でいてよ」っていう、さよならの歌であって。卒業とか、そういう気持ちにも通ずるものではあるんです。

今、「そんじゃあね」とおっしゃいましたが、アルバムのタイトルは、アメリカのスラングで、ラッパーとかがよく使う、「じゃあな」とか「またね」っていう意味ですよね。卒業やさよならという気持ちとも繋がるこのタイトルはいつ決めました?

わりと早い段階で決まってたような気がします。このアルバムを作り始めたのって結構前で。映画(『永い言い訳』)の撮影が始まるちょっと前くらいから始めてたと思うので、そのときにはもう自分の中では“PEACE OUT”にしてたような気もしますね。さっきテレビの効果で、とか言いましたけど、そういったチャンスがなかったとしても、いつか次に行かなきゃいけないっていう焦燥はあったので、もとからあった気持ちだったとは思います。その次のステップに行かなきゃと思ってるところで、実際にお客さんも増えてきて、「よっしゃ、ここだろう」って腹をくくれた一年だったっていうのが大きいですかね。

竹原ピストル

オールドスクール的なヒップホップナンバー「ママさんそう言った」には、まさに“ぴーすあうと”っていう言葉が入っていますよね。

この曲が一番卒業感の強い歌ですよね。僕、北海道で音楽をやってたんですけど、大学を卒業して、野狐禅として歌い始めたばっかりの頃にちっちゃい小屋のマスターやママさんにお世話になってて。内地からプロの誰々さんが歌いにくるっていうライブ情報をキャッチしたら、その店に行って「2曲くらいでいいから歌わせてください」ってお願いしていて。この歌詞みたいに生意気な言い方じゃなかったですけど(笑)。

「どこのどいつかの前に10分だけくれよ。」ではなく?(笑)

「1曲だけでもいいですからやらせてください!」ってお願いしました(笑)。みなさん野狐禅をかわいがってくださっていたので、「じゃあ、やってこい。やるからには、ぜってぇ勝ってこいよ」って言って送り出してくれるマスターやママさんがほとんどだったんですよね。

次のステージに向かうために、そんなママさんたちにお別れを言ってます。

こうやって具体的にズラッと描写したことは初めてかもしれないけど、ずっとあった気持ちなんですよ。言ったら、歌い始めの頃からずっと抱いていた想いだとも思うんです。続けていけば続けていくほど、恩返ししなきゃ気が済まない人間っていうのはどんどん増えていくわけじゃないですか。そのときは今に比べれば少なかったかもしれないけど、いろんな人と競演のチャンスをくれたマスターにでっかくなったところを見せたいなとか、そういう気持ちはずっとあったような気がします。あと、これも作用してるのかもしれないんですけど……レコーディング中とか、去年のツアーとかに、テレビの密着が付いてくださって。北海道にも一緒に行って、思い入れのある場所にも行ったんです。カメラマンさんとも仲良しになって、観光案内じゃないけど「ここが初めてやったところで……」とか、そうやって誰かに昔のことを言葉で聞かせたっていうのも初めてだったから、そのときにグワッと情景をくっきり思い描いたところもあって、舞台が北海道になった可能性もないことはないのかなって思ったりしますね。

竹原ピストル

「俺たちはまた旅に出た」も旅芸人、弾き語りシーンの日常が舞台になってます。

ギアチェンジするにあたって、妙に具体的で野暮な話ですけど、まずは個人でのライブブッキングをやめようと思ったんです。これからはスタッフ陣の采配で、でも変わらずに全力を尽くすっていうスタンスに変わっていく。そのなかで今年に入ってからも例外的にお世話になってたお店の周年記念のライブとかには出させてもらってて、そこでかつてからの歌い仲間と競演したときに、ひょっとしたら個人でブッキングしなくなると、君と競演することは今日が最後かもしれないっていう寂しさに襲われたんですよね。でも俺たちが歩いてきた道のりだったり、見てきた景色だったり情景だったりとかをずっと忘れずにいような、みたいな、そういう寂しさがこの曲にはありますね。

寂しさを感じながらも、別々の道に歩き出してる?

……うん、そうなんですよね。別々の旅に、出てるんですよね。そういった意味ではすごく切ない気持ちで書いた歌ではあるし、旅芸人として、たかがされどの部分っていうか、そういうものへの愛着というか。やっぱり寄生虫的な稼業だなと思うんです。自分の名前だったり人気で、来てくださったお客さんの前で歌うわけではなかったんですよ。まだ全然動員力もなくて、店のマスターやママさんがその店の常連客に「こういうヤツが歌いにくるから聴いてやってくんねぇか?」みたいな感じで声をかけてくれて、呼ばれてもないのにその人たちの前で歌って、しかも小遣いまでもらって旅回りをさせてもらってるわけじゃないですか。だから、お店と、お客さんの財布と、時間に巣くってる寄生虫みたいな稼業だ、みたいなことはすごく思ってて。だからこそ、人生かけて全力でステージに上がらなきゃいけないだろ、と。そういう自分がやってる稼業に対する愛着と憎しみみたいなものがない交ぜになってるようなところがあって。そこを優しく描いてあげたい、愛しく思いながら書きたいなって思って書いたのがこの曲でしたね。

“家族”と感じているほどの歌い仲間たちとの時間を切り離すことには、次のステージに向かうためだとはいえ、やっぱり寂しさがありますよね。

ええ。すごく寂しさもあるし、あと……これもおこがましいけど、俺たちがこのドサ回りシーンというか弾き語りシーンとかで披露してきた出し物が、どこまでも通用するものだっていうことを証明したいという気持ちもあるんですよ。お呼びじゃないところに出て行って、時にヤジも浴びつつ、でもどうにか楽しませようとして試行錯誤して磨いてきた出し物たちなわけじゃないですか。この出し物はどこまでも通用するぞと。俺たちは誰が聴いたって楽しめるようにやってきたはずだ、それを証明してみせるみたいな……そういうところもあるんですよね。

もう1曲、「ため息さかさにくわえて風来坊」にも「たびに生まれた歌たちは 優しく育てて旅に返す」というフレーズがあります。

そうですね。これは内容ないですよね(笑)。

(笑)。でもアルバム全体に、これまでの旅芸人稼業から卒業してネクストステージに向かうっていう矢印があるので、引っかかる曲だったんですよね。

どっちかって言うと、「ドサ回り数え歌」で話したように、一期一会感ですね。「次に会えても会えなくてもいいから、とにかく生きててくれよ」というような想いがあって。ベタなこと言うと、あんまり仲良くなりすぎると別れ際が寂しくなるみたいな。だから、「はい、今日のライブはこれで終わり! じゃあ、また!」という、そういうスタンスで回ってきた部分もあったりするので。

竹原ピストル

では、ちょっと方向性を変えて、「ただ己が影を真似て」には、弾き語りシーンの仲間ともいえるタテタカコさんが参加してますよね。どうしてこのタイミングで一緒にやりたいと思いました?

個人的に「この曲はあの人とやれなきゃ嫌だ!」って言って決めたのが唯一タテタカコさんとのセッションだったんです。タカコさんは、野狐禅の頃からの知り合いなので、出会ってからはものすごく長くて、野狐禅の頃は一緒にツアーを回ったこともあったんです。だけど、それをカウントからはずすと、竹原ピストルとタテタカコが申し合わせてライブで競演ってほとんどないんですよ。ないんだけど、何ヵ月かおきに、タテタカコと竹原ピストルがセットで呼ばれることがあって。そこでいつも再会するという感じで……その当時、自分は年間200~250本くらいのハイペースでライブをやってて。どうにか売れねぇもんかって思いながらがむしゃらに突っ走ってると、時々、自分がどこにいるかわからなくなるんですよね。そういうときに、ふと、タカコさんとの競演の機会があると、「あ、走ってる方向間違ってねぇな」って思える。その灯台というか、道しるべというか。とりあえずタカコさんと再会できているうちは大丈夫だと安心感をもらえる、そういう存在なんです。「ただ己が影を真似て」も、こうとしか生きられない男の、たかがされどみたいな歌ではあるんですけど、やっぱり別れの歌で。この曲をいろんなステージを一緒にやってきた、そして、道しるべでもあるタカコさんと一緒にやりたいなって気持ちがあって。もちろんピアノが合うだろうという物理的な理由もあったんですけど、まずは人でしたね。この曲はタカコさんじゃなきゃ嫌だっていう。

今回一緒にやってみてどうでしたか、タテタカコという灯台に照らされた今の自分はどう映りましたか?

今の自分というか……一発録りだったんですけど、一緒に演奏してるときには、やっぱりどうしても振り返っちゃいましたよね。センチメンタルな感じがあった。お互い会ってない期間はそれぞれひとりで旅をしてるわけで。そんな当たり前のこととかを思ったりして。タカコさんはどんな道のりでここまで来たんだろうとか、俺はこんな感じだったけどなぁ……でも尋ねるのも野暮だしなぁ……みたいな。それぞれの旅、ここまでの道のりみたいなことを思い返したり、どうだったかなと思いながらの演奏でしたね。

竹原ピストル

今も売れたいっていう気持ちは変わらないですか。

変わらないです、それは変わらない。

でも、それが歌う理由にはなってないですよね。売れることが最終目的でもないですよね?

最終目的ではないですね。最終目的に行き着くために、とりあえず必要で端的な要素だからじゃないですか。例えば、日本武道館でライブしました、ドームでやりました、CDが何万枚売れましたって、そのために歌っているわけじゃないけど、やっぱり俺がしたいのは恩返しであって、応援してくれてる人たちに「すげーだろ、俺が応援してる竹原ピストルって!」って思ってもらうことだから、そのためにはわかりやすいものというか。武道館でライブをやることに喜んでくれる人がいるんだったら、喜んでもらえることは全部達成したいと思ってるし。でも自分自身は、それで「売れたから目標達成」とはならないと思う。そういう単なる自分のやる気を言葉にすると、「天下獲りたい」っていうことになるのかな、そういうあやふやなもんだと思います。ただ、チャンピオンになったとか天下獲ったとかは自分のジャッジで決めることじゃないから。だから、応援してる人が100人いたとしたら、100人中100人が「竹原ピストルは天下獲ったな」って思ったときに天下を獲ったってことになるんでしょうし。そうやって考えると不可能ですよね、天下獲ることって(笑)。

(笑)何を持って天下獲りかははっきりとは言えないまでも、本作を持って、青春を過ごした街に別れを告げて、新しい目的地に向かって一歩進んでいることは確かですよね。

そうですね。自分としても、これはやっぱり最高傑作だし、すごい自信作だし、終始こういう話になっちゃうけれど、大きな大きな区切りの一枚ですね。で、とある部分において、言いたいことはすべて言い切ったなと思うから。次からどんなのを作ろうかなということにおいては自由に溢れていて、すごく楽しみなんですよね、これからが。

もう次の目的地が明確に見えてます?

すごく具体的な答えになっちゃうかもしれないですけど、世の中にはいろんな音楽があるし、これいいなって思ったり、マネしてみようかなっていう要素はバンバン取り入れていこうと思ってて。要するに自分の中で勝手に決めてしまっている竹原ピストルらしさとか、そういうものをまったく考えずに、なんの垣根もなく、音楽を広く楽しんでいきたいなという気持ちはあります。ただ、最初に言った、次のステップに進めたかどうかはこのアルバムを出してからのツアーで感じてくるものだと思いますし、逆に次のステップに進めていなかったとしても、もう後戻りはできないな、みたいなことも思ってますね。

竹原ピストル

1976年、千葉県生まれ。大学生だった1995年にボクシング部の主将を務め、全日本選手権に2度出場。1999年、野狐禅を結成、本格的に音楽活動を始め、2003年にメジャー・デビュー。2009年4月に解散後はソロ・アーティストとして活動。2015 年11月には、住友生命「 1UP(ワンアップ)」 CMソング「よー、そこの若いの」を含むアルバム『youth』をリリース、 114 本におよぶ〈全国弾き語りツアー“youth”〉や〈バンドツアー竹原ピストル LIVE“BEST BOUT + youth”〉を開催。また、2017年1月に発表した「Forever Young」が、テレビ東京系ドラマ24『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』エンディングテーマとして起用される。ミュージシャン活動と並行して、役者としての評価も高く、これまでに熊切和嘉監督作品『青春☆金属バット』(2006年/主演)、『フリージア』 (2006年)、『海炭市叙景』(2010年)、松本人志監督作品『さや侍』(2011年)へ出演しているほか、 2016年10 月に公開された西川美和監督作品『永い言い訳』では、第 90 回キネマ旬報ベストテン助演男優賞や第 40 回日本アカデミー賞優秀助演男優賞に選出されるなど、高い評価を受けている。今作『PEACE OUT』をリリース後、5月7日より〈竹原ピストル 全国弾き語りツアー“PEACE OUT”〉を行う。

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