Interview

斎藤工、劇場公開が難航した『ブルーハーツが聴こえる』2年間の紆余曲折を語る

斎藤工、劇場公開が難航した『ブルーハーツが聴こえる』2年間の紆余曲折を語る

1995年に解散した伝説のパンクバンドTHE BLUE HEARTS。彼らの名曲を日本を代表する6人の監督が豪華キャストを迎えてオリジナルの解釈で映像化した。その短編映画集『ブルーハーツが聴こえる』の中で『ラブレター』の主演を務めた斎藤工に、井口昇監督とのエピソードや、この作品への想いをたっぷりと聞いた。斎藤が「恋愛映画で一番好き」と語る、本作の原点とも言える『わびしゃび』(89/井口昇監督作)についてはもちろん、あるアクシデントで2年間も本作が公開されなかったことで気づいた映画への想いなど、彼が今、日本の映画界に対して感じていることを赤裸々に語ってくれた。

取材・文 / 吉田可奈 撮影 / 三橋優美子


本作に出演されたのは、井口監督からの直接のオファーがあったからとお聞きしました。

そうです。井口監督とは、何度か一緒にお仕事をさせていただいていて、すごく“水が合うな”と思っていたんです。

斎藤工 インタビュー写真

それは考え方が合うということでしょうか?

考え方とはまた違いますが、世の中の人って、よくカテゴライズするじゃないですか。例えば、今回の『少年の詩』の監督をされている清水(崇)監督は、“ホラーの人”。そして僕は“セクシー俳優”など、勝手に“一人一色をつけてしまえ”という風潮があると思うんです。でも映画って、一見エログロに見えるものや、アクションだけに見えるものでも、本質的にはまったく違うものを表現していることが多いんです。そういう意味で、清水監督は家族を描くクリエイターだと思うし、井口さんは突飛なものを作る監督と思われがちですが、根本は“ピュアなデートムービー”を常に撮ろうとしていると思うんです。でも、題材やフォーマットが変わっているので、そこが悪目立ちしてしまうことが多いみたいで(笑)。だからこそ、すごく信頼できる、作家性のある方だと思っています。僕はその部分に共感性を見出していました。

井口監督の作品がすごく好きなんですね。

そうですね。映画ファンとして、一方的に信頼しています。

今回は、井口監督を始め、その清水監督など、本質的な部分で作品を作る、実力のある監督が集結していますよね。

はい。この企画は、THE BLUE HEARTSというアーティストが軸にあるからこそ、こんなにもタフな座組みが出来ているんです。でも、撮影が終わって2年もの間、アクシデントがあって公開が出来なかったんです。これだけ豪華なメンバーが揃っていても、劇場公開にならないことがあるんだと思い、すごく悔しかったです。

斎藤工 インタビュー写真

公開にならなかった2年の間、様々な映画祭に働きかけたり、クラウドファンディングを利用したりと、今までにないアプローチをされていましたね。

そうですね。そのおかげで、“映画が誰のものか”ということを、改めて考えることができました。僕らがお届けしなくちゃいけない映画を、お届けすべき人たちが手を差し伸べてくださることで公開を迎えるという、このドラマティックなストーリーはすごく新しいです。これは10年前では実現しなかったことだと思います。そういう意味では、時代の象徴となる作品になると思いますし、健康的な関係が築けた映画になったと思います。すごく意味を感じた2年間でした。

斎藤さんが主演された『ラブレター』の原点となった、井口監督のドキュメンタリー映画『わびしゃび』は、ものすごく濃い作品ですよね。

そうですね。この映画は、井口監督の半自伝的なものになっていて、男女の精神的な関係値がリアルに描かれているんです。井口監督は、その作品で、異性にどうして憧れるんだろうという事実を確かめるために8mmを握り、好きな子に話しかけに行くんです。その瞬間、心の呼吸みたいなものが伝わってくるんです。僕は、後にも先にも、あんなにも素敵な恋愛ドキュメントは他にはないと思っていて。これをベースにした映画を作ると決めたときに、監督が自分の役を僕にやってほしいとおっしゃって下さったので驚いたのですが、指名していただいたからには、僕は変にいろいろ背負いすぎずに、この映画に尽くそうと思いました。

カメラのファインダーを通すことで相手と会話ができるという生々しさは、学生時代の“あの頃”を思い出させますよね。

監督は、いまだにそうなんだと思います。今も映画を通して人とコミュニケーションをとっていらっしゃるんです。それに、僕らのSNSも最たるものだと思うんです。SNSを経由して、自分がどうみられるか、相手がどうみえるかなどを演出して、ひとつの覚悟となる投稿を慎重に整えるじゃないですか。それが監督にとっては、この8mmを握ることだったと思っています。

斎藤工 インタビュー写真

斎藤さんも、その監督の行動に深く共感したんですね。

はい。僕は極度の人見知りなので、心から共感しました。芸能界って、華やかで派手だと思われがちですが、意外にもみんなが自信を持たずに、怯えながら日々を過ごしている人が多いんです。僕もそのうちの一人。だからこそ、本作で監督を模倣しようと思いました。井口監督ほど愛らしい人はいないからこそ、僕が演じることで、当時の井口さんを包んであげたいと思ったんです。井口監督って、小さな蕾から花になっていくようなある種の女性性を感じるので、僕が演じることで、当時の井口さんの隣に寄り添うような気持ちで演じていました。

短編映画だからこそ、大変だったことはありますか?

短編映画って、シーンが少ないからこそ、全部のシーンが意味を持つんです。だからこそ、映っていない時もそのキャラクターが生きていないとダメなんです。もちろん、これは長編映画にも言えること。映っているときだけその役が生きていてもダメだと思い、この撮影期間は、井口さんというモデルを側で観ながら、ずっとこの役を生きていました。

撮影後、監督から何かメッセージをもらいましたか?

つい先日、僕のラジオにゲストで来ていただいたんです。2年以上お会いしていなかったので、初めて感想を聞いたんですが、監督を再現したことに対してすごく喜んでくださっていて、嬉しかったです。あとはとにかく、2年間、公開するためにアクションし続けたことに対して、「ありがとう」と言ってくださいました。

やはり映画は、“公開してこそ”ですからね。

そうなんです。でも、この日を2年間待ちわびたというわけでもなく、どこか諦めている自分も明確に存在していたんです。それはこの業界にいる人の全員が持ち合わせているものだと思うんです。オーディションなども、もちろん受かりたいけど、どこかで諦めている自分もいる。そこでバランスをはかっているんです。でもこの作品は、監督の半自伝的なもの。そういう作品は、生涯、何本も撮れるものではないので、きっと思い入れはすごく強かったんだと思います。

他の作品も、すごく個性的ですよね。

本当に個性的です。順番も、「これでいいのか? まぁ、いいのか!」って思うくらい(笑)。非常に重量感があるんです。それって、良い意味で全体的なバランスを考えてないで、一つひとつの作品に全力で遊びを含んだ想いが宿っているからこそ、そう感じることができる。なので、この短編映画を6本続けて観ると、それだけの人の感情と対面するので、“映画的胃もたれ”をするんです。いまのご時世、もっと映画構造としてライトにして、見やすさに集約している作品が多いのですが、その流れには完全に逆らったものになりました(笑)。息抜きの作品はないので、息継ぎせず、どっぷり楽しんでもらいたいです。

THE BLUE HEARTSの楽曲とのリンクの仕方もすごくいいですよね。

そうですね。曲が作品の一部になっているのではなく、1つの作品が終わるころに曲が染み入るようにできています。よくある歌詞の通りの話ではまったくないところも、すごく素敵です。それに、歌詞の通りではないのに、歌詞と観ていた物語が確実に結実する瞬間があるんです。その瞬間、一気に物語の深さを感じることができるので、その音楽を聴き、作品を観るために、ぜひ劇場で観てもらいたいです。

斎藤工 インタビュー写真

斎藤工

1981年生まれ、東京都出身。俳優として多くのドラマや映画に出演し、キャリアを重ねる一方、映画好きとしても知られており、映画製作やコラム執筆などマルチな才能を発揮している。近年の主な出演作に【映画】『愛と誠』(12/三池崇史 監督)、『虎影』(15/西村喜廣 監督)、『団地』(16/阪本順治 監督)、『高台家の人々』(16/土方政人 監督)、『HiGH&LOW THE RED RAIN』(16/山口雄大 監督)、【ドラマ】『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(14/CX)、『医師たちの恋愛事情』(15/CX)、『臨床犯罪学者 火村英生の推理』(16/NTV)、『運命に、似た恋』(16/NHK)など。2017年は本作の他に、【映画】『昼顔』(6月10日公開予定/西谷弘 監督)、『蠱毒 ミートボールマシン』(西村喜廣 監督)、【ドラマ】『アキラとあきら』(7月~放送予定/WOWOW)が待機している。
オフィシャルサイトhttp://www.saitoh-takumi.jp/

映画『ブルーハーツが聴こえる』

2017年4月8日公開

映画『ブルーハーツが聴こえる』 ポスター

『ラブレター』
脚本家の〈池野大輔〉は、自身の高校時代の物語を書いているうちに、高校からの親友〈小松純太〉と共に、トイレから当時へタイムスリップしてしまう。そこにはデブだった〈大輔〉と、チビだった〈純太〉という昔の冴えない二人がいた。その後、当時の片思いの相手であり、亡くなったはずの美少女〈吉田彩乃〉と再会。しかし、当時の〈大輔〉は、面と向かって女の子と話すことができないほど、女の子に免疫がなかったのだ。しかし、8mmのフィルムを握り、ファインダーを通すことで、なんとか会話することに成功する。そこで〈大輔〉は、彼女を再び死なせないよう、過去を変えようと奮闘。しかし、その過去を変えることで起きる変化により、〈大輔〉の想いとは裏腹に、〈彩乃〉はある決意をする。

『ハンマー(48億のブルース)』
【監督】飯塚健 【出演】尾野真千子、角田晃広 他
『人にやさしく』
【監督】下山天 【出演】市原隼人、高橋メアリージュン 他
『ラブレター』
【監督】井口昇 【出演】斎藤工、要潤、山本舞香 他
『少年の詩』
【監督】清水崇 【出演】優香、内川蓮生、新井浩文 他
『ジョウネツノバラ』
【監督】工藤伸一 【出演】永瀬正敏、水原希子 他
『1001のバイオリン』
【監督】李相日 【出演】豊川悦司、小池栄子、三浦貴大 他

【配給】日活/ティ・ジョイ

オフィシャルサイトhttp://tbh-movie.com/

©TOTSU、Solid Feature、WONDERHEAD/DAIZ、SHAIKER、BBmedia、geek sight


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THE BLUE HEARTS


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