原田泰造xコトブキツカサの<試写室噺(ばなし)>  vol. 9

Interview

人種も性別も関係なく、自身の初恋を思い出してしまうー「ムーンライト」の共感ポイント

人種も性別も関係なく、自身の初恋を思い出してしまうー「ムーンライト」の共感ポイント

大方の予想を覆して第89回アカデミー賞の作品賞を受賞した『ムーンライト』。貧困や差別を扱った社会派ドラマと捉えられがちだが、その中には詩的な映像美や普遍的な叙情性が散りばめられており、誰の胸にも迫る感動作となっている。原田泰造さんとコトブキツカサさんが『ムーンライト』の共感ポイントと、人生を変える「椅子の一撃」について語り尽くしました。


コトブキ 今回のテーマは今年のアカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』です。事前予想では『ラ・ラ・ランド』が本命という声が大きかったので、まさかの受賞ということになりましたね。

原田 『ムーンライト』は、アカデミー賞を獲ってしまったために、逆に観る人のハードルが上がってしまったような気がする。何かと『ラ・ラ・ランド』と比べられてしまって、ちょっと勿体ないよね。

コトブキ 特に今回はアカデミー賞授賞式で誤発表もあったから、比較されがちですけど、そもそもジャンルも全然違う作品ですからね。

原田 『ムーンライト』は、すごく優しい映画だよね。

コトブキ 優しい。だけど、考えさせられる。一人の少年の成長を、3人の役者がそれぞれの時代で演じてるんですけど、違和感なく観れました。

原田 黒人だけのコミュニティの中で、差別があったり、イジメがあったり、貧困やドラッグの問題があって、でもそんな現実の中でも主人公が自然に生きてることをちゃんと見せてるんだよね。特に、主人公を見守る麻薬ディーラーのフアン役を演じたマハーシャラ・アリは印象深いよね。彼は『ハウス・オブ・カード』に出てたでしょ?

コトブキ 『ハウス・オブ・カード』で注目されましたけど、海外ドラマファンとしては、その前に『4400』にも出てたってことを言いたいですね。『4400』は、くりぃむしちゅーのお二人も出演してますけども(笑)。

原田 そうだったね(笑)。映画の中で、フアンが子供時代の主人公に泳ぎを教えるシーンが出てくるんだけど、あそこがすごく心に残ってる。フアンは第1章しか出てこないけど、凄い演技力だなって思ったよ。

コトブキ アリは、この作品でアカデミー賞の助演男優賞を獲ったんですよね。よく「主演賞は作品が獲らせる。助演賞は役者自身の力量」って言われてるんすけど、主演より助演賞が嬉しいって言う俳優さんは多いですよね。

原田 それなら主人公のお母さん役のナオミ・ハリスも、アカデミー賞を獲ってもおかしくないくらい凄かった。見てると「この人ダメなお母さんだなぁ…」って思うんだけど、それだけリアルな演技だってことだよね。施設で息子に語りかける所とか、内容はめちゃくちゃなんだけど。

コトブキ 相当めちゃくちゃでしたよね。自分のことを棚にあげて(笑)。

原田 そう! だけどあれが人間じゃない? ちゃんと人間のセリフを喋ってるから、映画に説得力が出るんだよね。それはナオミ・ハリスの演技が凄いから成立してるんだと思う。

コトブキ この作品にはリアルな手触りがありますよね。これはやっぱりバリー・ジェンキンス監督自身が体験したことが相当入ってるんだと思います。それに、過去のLGBTを扱った映画にも目配せしてる。これは監督自身が言ってますけど、ウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』をオマージュしてますよね。ハイウェイを車で移動するシーンとか、構図が同じなんですよ。

原田 そうなんだ。LGBTの映画って、最近だと『キャロル』とか『リリーのすべて』もそうだけど、印象深くて力強い作品が多いよね。今回の『ムーンライト』もそうだけど、役者が腹決めてやってるから凄みのある作品になるのかもしれない。

コトブキ いま僕はLGBT映画なんてジャンル分けしちゃいましたけど、10年後にはそれが当たり前になってて、わざわざ区別しなくなるかもしれないですね。

原田 テレビの世界では、もう普通になったよね。カズレーザーとか、普通にカッコいいって言われるよね。

コトブキ 恋に悩んだり、人生に対してどう立ち向かうとかは本当に変わらないから、自然に感情移入できちゃうんですよ。

原田 この映画の3章で、主人公はあんなにマッチョに成長したのに、かつての好きな人を目の前にするとドキドキして、気持ちが残ってるっていうのがすごく伝わってくるんだよね。

コトブキ あのレストランでのふたりの距離感や気持ちの探り合いのシーンはスリリングでしたよね。再会のキッカケになったっていう曲をジュークボックスでかけるんですけど、すんごいベタな歌詞で(笑)。

原田 あれ、嘘だろって思わなかった?(笑) 笑っちゃうくらいにベタだから、これでいいのかって思ったんだけど。

コトブキ 僕は、あの選曲は誰かの実体験だったんじゃないかなって、勝手に思ってて。

原田 なるほど。現実って意外とベタだもんね。

コトブキ そうそう。もちろん想像ですけどね。でもあのシーンを観てると、2章で出てきた海辺のシーンを思い出すんですよね。月明りだけの浜辺で、あの二人が、心情を吐露してそっと近づくっていうね。

原田 人種も性別も関係なく、自分の初恋を思い出しちゃうよね。この映画は、恋とか、友情とか、イジメとか、そういう自分の経験がすごく呼び起こされるんだよ。

コトブキ イジメのエピソードも心に迫りますよね。

原田 この主人公は、イジメられても、すぐに学校に行き続けるじゃない? それでイジメっ子に椅子でガツンとかましたっていうのが、彼の人生の分かれ目というか、大事な瞬間だったと思うんだよ。

コトブキ 僕の中で、そこがこの映画のベストシーンですよ! あの椅子の一撃! 人生って、あそこでイケるかどうかですよね。

原田 あそこまで激しくないけど、どこかでこういうことを経験したなっていう感覚ない? バン!って、何かが爆発する瞬間を観て、なんか懐かしいと思ったんだよね。

コトブキ すごくよくわかります! 誰かに対して何かひとこと言ったとか、そういう小さなことでも「椅子の一撃」なんですよね。

原田 そうそう! そんなレベルでもさ、自分の中ではすごく勇気が必要なことだったりするんだよ。

コトブキ 僕も芸人だったわけですけど、「ネタ見せ」ってあるじゃないですか。僕が若手の頃、すごく緊張感のあるネタ見せがあって、何組か芸人が集まってるんですけど、審査する作家の人から「笑うな」って言われるんですよ。要はみんなライバルなんだから、他人のネタ見て笑ってんじゃねぇってことなんですよね。でも、僕は他人のネタ見て面白かったから、思いっきり笑ったんですよ。そしたら作家さんが「誰だ笑ったの!」って激怒したんです。場内がシーンってなったんですけど、僕は正直に手を挙げたんですよ。

原田 それが「椅子」の瞬間(笑)。

コトブキ すっごい小さなことですよ(笑)。でも、芸人さんがネタやって面白かったんだから、笑ってもいいじゃないですか。僕はこの空気は違うと思ったんですよね。

原田 まさにそういうことだよね。そこで手を挙げたことは小さなことだけど、それがひとつのキッカケになってて、次に何かあったときに、自分のタイミングで踏み出しやすくなるんだよね。

コトブキ 泰造さんからも、「椅子」エピソード頂いていいですか?

原田 いっぱいあったような気がするけど、大きいなって思うのは、僕と(堀内)健がフローレンスってコンビで行き詰まってて、そこを乗り越えるために(名倉)潤ちゃんに入ってもらおうって話に行ったときは、「椅子」だったかもしれない。事務所にも先輩たちにも相談しないで勝手に動いたから。

コトブキ それは大きい「椅子」ですよ。そこで泰造さんが動かなかったらネプチューンが誕生してないんですから。

原田 この「椅子」っていう表現の仕方、面白いね(笑)。「ムーンライト」を観た人には、すごく伝わると思う。

コトブキ 僕はこれからどんな映画でも主人公のターニングポイント的な行動のことをぜんぶ「椅子」って言いますよ(笑)。

映画『ムーンライト』

公開中

監督:バリー・ジェンキンス
キャスト:トレバンテ・ローズ アンドレ・ホランド ジャネール・モネイ マハーシャラ・アリ アシュトン・サンダース ジャハール・ジェローム
配給:ファントム・フィルム

オフィシャルサイト http://moonlight-movie.jp


コトブキツカサ 原田泰造

原田泰造

1970年生まれ。“ネプチューン”のメンバーとして、バラエティ番組などで活躍。俳優としてもドラマ、映画、舞台などで高い評価を得ている。

コトブキツカサ

1973年生まれ。日本工学院専門学校放送・映画科非常勤講師。映画パーソナリティとしても注目を集め、コメンテーターやイベントMCなどで活躍。雑誌連載やテレビレギュラーも多数。

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