男子禁制!? 乙女ゲームの世界  vol. 7

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オトメイトが挑み続ける乙女ゲームのカタチ①

オトメイトが挑み続ける乙女ゲームのカタチ①

乙女ゲームをプレイしているユーザーならば、知らない人はいない“オトメイト”。ゲームメーカーのアイディアファクトリーが展開する女性向けゲームブランドの名称だ。ほかのメーカーが半年から1年かけて新作をリリースするのに対して、オトメイトのリリースは月に1本ペース。しかも、設定や物語が多様性に富んでおり、ビジュアルなどのクオリティも高いため、乙女たちから絶大な支持を得ている。オトメイトでは、なぜそのような作品作りができるのか。オトメイトでディレクターを務めている4人のクリエイターに、ゲーム作りの裏事情について座談会形式で話を伺った。日々乙女ゲームの可能性に挑む彼女たちの話を、2日に渡ってレポート! なお、今回も乙女の花園的な記事につき、男子禁制!?

取材・文 / 菅谷あゆむ


▲渡邉渡さん/代表作『ニル・アドミラリの天秤 帝都幻惑綺譚』(※1)ほか

寺嶋桃子さん/代表作『黒蝶のサイケデリカ』(※2)、『灰鷹のサイケデリカ』(※3)ほか

北野マコトさん/代表作『バクダン★ハンダン』(※4)、『ピリオドキューブ ~鳥籠のアマデウス~』(※5)ほか

谷口歌奈さん/代表作『ノルン+ノネット ラストイーラ』(※6)、『数乱digit』(※7)

Chapter 1 オトメイト作品はこのようにして生まれる

今回は、オトメイト作品のいちファンとして、ふだんは聞くことのできない質問をぶつけていきたいと思います。まず、オトメイトではどのようにひとつの作品を作り上げていくのか教えてください。


寺嶋 会社側から何かしらのオーダーがある場合もありますし、自分から企画を提出する場合もあります。後者の場合はコンペ形式で、OKが出たら制作に進んでいくという流れです。

では、作りたいものを作れる環境があるんですね。


北野 そうですね。ただ、会社としてはヒットを狙っていますから、コンペは狭き門です。たしかにチャンスはたくさんありますが、コンペを通って実際に制作段階までたどり着くのはかなりハードルが高いと思います。
谷口 制作中のタイトルを抱えていれば、当然コンペに企画を出すこともできないので、タイミングに左右されることも多いです。そんなときは、すごく悔しい思いをしますね。
渡邉 私の場合は、関わっていたタイトルがひと段落したタイミングでちょうど新企画を立ち上げる話がありまして、そこでコンペに出した企画が『ニル・アドミラリの天秤 帝都幻惑綺譚』(以下、『ニルアド』)だったんです。

温めていた企画を、ようやく出せたタイミングだったんですね。


谷口 渡邉さんは、企画のストックがたくさんあるんです。
寺嶋 その量はディレクター陣の中ではいちばん多いですね。
渡邉 たしかに考えた企画の数は多いのですが、時間が経つと新しさがなくなってしまうので、ストックがあっても全部を使えるわけではないんです。
谷口 そういった場合は、もう一度ブラッシュアップしないといけないですよね。
渡邉 そうですね。そうこうしているうちに、似たような企画が先に出てしまうことも……。

本当にタイミングが重要なんですね。それに会社ですから、自分の作りたいものだけを制作するというわけにもいかないですよね?


寺嶋 もちろんそうです。
北野 私が最初に担当した『バクダン★ハンダン』がそうでした。「いままでの乙女ゲームにはないものを生み出そう」という会社からのオーダーがあったんです。

なかなか難しいオーダーですね。


北野 そうですね。いろいろ模索した結果、ちょっと特徴的な作品になりました。イラストレーターの岩元辰郎さん(※8)には、ご本人のタッチを活かしつつも、乙女ゲームのニーズに合うようなアレンジをお願いしたので、いろいろとご苦労があったと思います。

▲北野さんが“特徴的な作品”と語る『バクダン★ハンダン』。システムにも“ひらめき★バクダン”という、主人公が物語を回想して謎を解く面白い試みがあった

谷口 私の場合は、『数乱digit』を制作するときにどうしても設定にそぐわないと感じたオーダーがあり……「そのオーダーを通してまでこの企画を出すべきなのか」と悩みました。代案を出してそれでなんとか社内の確認が取れたので、とてもホッとしましたね。

やはり、自分の作品に対して並々ならぬ思いがあるでしょうから、妥協せずに作品を作りたいですよね。

北野 そうですね。

渡邉 こだわりを持ちたいところはどの作品でもありますから、オーダーをどう取り入れることで会社に納得してもらうか、企画初期はそこで悩むことが結構あります。

実際に、作品はどのような流れで作り上げていくのでしょうか。

北野 人によって異なりますが……まず、企画を通したあとにゲームの仕様や設定、プロットなどを固めて、それをもとにキャラクターデザイナーさんやシナリオライターさんとすり合わせを行います。絵が上がってきたら社内のデザイナーにお願いしてゲームに組み込みつつ、背景やサウンドを発注して、シナリオが上がってきたらスクリプト(※9)を打って……と、さまざまな作業を並行して進めていくんです。

乙女ゲームのプレイヤーは、イラストレーターやシナリオライターを選んで買うケースが多いので、スタッフィングはとても大事だと思います。

北野 そうですね。ただ、お願いしたい方のスケジュールが空いているかどうかはタイミングによりますから、こればかりは……。

谷口 たまに、争奪戦になることもあります(笑)。

渡邉 一緒に仕事をしていくうえで、信頼と実績はやはり重視しますね。

北野 それに、必要な作業が多岐に渡りますので、ディレクター自身も何かしらの実作業を兼任することが多いんです。

寺嶋 最終的に上がってきたものを確認する段階で、ディレクター自身が直接スクリプトを手直しすることもあります。オトメイトの場合はディレクターが直接関わることで、タイトルのクオリティを上げていく形を取っているんです。

北野 ちなみに、私はいま『白と黒のアリス』のスクリプトの調整を手伝っています(笑)。

谷口 他のタイトルのお手伝いをすることも多いですよね。

北野 そうですね。基本的にみんなとても忙しくしておりますし、机を並べている仲間ですから、自分のタイトルの作業がひと段落したら、次のタイトルのアイデアを温めながら他のタイトルの手伝いをします。

そういえば、いろいろな作品で皆さんのお名前をスタッフロールの“スペシャルサンクス”欄でお見かけしますが、“お手伝いをした”という意味なのでしょうか。

谷口 作品によってさまざまですね。がっつりと作業を担当する場合もあれば、簡単なお手伝いの場合もあったり……。

寺嶋 私は、外部の会社を紹介しただけでスペシャルサンクスの欄に名前が載ったことがあります(笑)。

全員 (笑)。

そうだったんですか(笑)。ちなみに、1本の作品を作るのに、どのくらいお時間がかかるのでしょうか。

渡邉 作品によって違いますが、ファンディスクなどベースがあるタイトルの場合は1年ほどで制作しているケースもあります。

寺嶋 アイデアから含めれば、皆さん構想期間10年はあると思います(笑)。

全員 (笑)。

寺嶋 長い時間をかけて作るタイトルもありますし、まちまちですね。


※1 『ニル・アドミラリの天秤 帝都幻惑綺譚』

舞台は大正25年。読んだものに影響を与える本“稀モノ”を探し出すため、帝国図書情報資産管理局、通称“フクロウ”で働くことになった主人公が、さまざまな思惑が交差する帝都の闇に翻弄されながらも、自分の信念を貫いていく。

※2 『黒蝶のサイケデリカ』

記憶を失った主人公が、同じ境遇の男性たちとともに、化け物が巣くう館で生き残りをかけて戦っていく物語。主人公が真実の記憶を取り戻したとき、そこにあるのは希望か絶望か……衝撃のラストが待っている。

※3 『灰鷹のサイケデリカ』

『サイケデリカ』シリーズ第2弾。鷹(ファルジ)の一族と狼(ヴォルグ)の一族、ふたつの勢力が対立する街を舞台に、“魔女の証”といわれる赤い眼を持った主人公が、街にある“魔石”と自身の出生の秘密に迫る。幸せに包まれていた世界が少しずつ歪み始め、驚きのエンディングを迎える。

※4 『バクダン★ハンダン』

日本最大級のテーマパークを占拠した謎の着ぐるみ“ワルドブー”の野望を阻止するため、クセの強い攻略キャラクターたちとともに命懸けのゲームに参加しクリアーを目指す。ゲームクリエイターの稲船敬二氏や、小説家の我孫子武丸氏が関わったオトメイトの意欲作。

※5 『ピリオドキューブ ~鳥籠のアマデウス~』

オンラインRPG“アルケイディア”の世界に飲み込まれ、ゲームクリアに重要な“神剣”となった主人公が、仲間とともにゲーム世界から脱出を目指す。攻略キャラクターたちが見せる、ゲーム世界と現実世界でのギャップに注目の作品。

※6 『ノルン+ノネット ラスト イーラ』

特殊な能力を持つ11人の少年少女が、空を飛ぶ巨大飛行船に乗って旅をする『NORN9 ノルン+ノネット』のファンディスク。本編クリアー後のふたりの日常や、攻略キャラクターの視点で描かれた物語などを収録しており、さまざまな物語を堪能できる。

※7 『数乱digit』

“数家”と呼ばれる九つの名家の子女が、数家を統べる頭首の座と一族の序列を懸けて、特殊な刀を手に“数乱戦”を展開。サブキャラクターも含め、数字をモチーフにした個性溢れる登場人物たちが物語を彩る。

※8 岩元辰郎

『逆転裁判』シリーズのイラストを手掛けているイラストレーター。

※9 スクリプト

スクリプト言語を用いて、キャラクターの動きや演出などゲーム全体を構築していくこと。

ピリオドキューブ ~鳥籠のアマデウス~オリジナルテーマ

ノルン+ノネット ラスト イーラ

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