【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 17

Column

松田聖子「瞳はダイアモンド」に登場する3つのダイアモンド

松田聖子「瞳はダイアモンド」に登場する3つのダイアモンド

こんなワタシにも、遂にこの日がやってきた。そう。松田聖子に「逢える」日が…。でも、そこは天下の大スター。「逢える」ことにはなったけど、そう簡単に「逢えた」わけではなかった。その前に、面接があったのだ。マネージャーさんの面接が!

行きました、事務所へ。コンコン。ノックしておそるおそる部屋に入ると、一人の女性で待っていた。当時のチーフマネージャーさんだったのだろう。で、「こういう質問はするな。出来ればこういう記事にして欲しい」と、様々な“お達し”があるんだろうと想像してたけど、ちょっと違った。マネージャーさんが僕に訊ねたのは、「うちの聖子のどういうところに興味があるのか?」という、その一点だけだった。僕はすでに頭のなかに並べてあった当日の質問の中から、いくつかを伝えた。「分かりました」みたいな感じに、あっさり面接は終了した。

取材当日。松田聖子さんは丁寧に取材に対応してくれた。その際、テーブルを挟んだ私と彼女の距離は1メートル50センチほどである。オーラは終始、彼女を包みそこに居座っていた。そして彼女の目の輝き。ちゃんとこちらに目線を合わせ、話してくれたその瞳が印象的だった。

「瞳はダイアモンド」のリリースは83年の10月。この作品で彼女は、細かな感情の変化もドラマチックに伝えられるヒトになっていた(徴候は前作からあった。そして松本隆・呉田軽穂のソングライティングの素晴らしさは言うまでもない)。

二種類の“ダイアモンド”が登場する。ひとつはタイトルにもなっている“瞳”のダイアモンドであり、もうひとつは“涙”のダイアモンドだ。前者はウルウルしているけどまだ液体は表面張力で止まっている状態が、まるで宝石のようだという形容であり、後者は頬を伝い流れ落ちた液体に(おそらく)光が差し込みキラキラと見えている状態を指しているのだろう。

後者は歌のエンディングでの出来事である。となると、そこを除く歌の大部分はウルウルしているなかでの主人公の立ち振る舞い、ということになる。ワンワン泣いてる人より、ウルウルしている人のほうが“来る”。その感情がモロにこちらに伝染する。「瞳はダイアモンド」を聴いている時の切ない気分は、そうやってもたらされるのだ。

改めて目で追うと、返す返すも松本隆の歌詞が素晴らしい。例えば“映画色の街”という表現だ。“まるで映画のよう”という凡庸を、さらに突き抜けさせ、こんな“メタな表現”にしてる。意味するものは何かというと、“あなた”との想い出が、そこかしこにありすぎて、街全体がそう感じられる、ということである。

“傘”から“飛び出したシグナル”というのもいい。このシグナルは、雨の中、でも相手は主人公を追いかけては来ないわけであり、その“気配”=“シグナル”だ。もし追いかけてきたのなら傘が発するサワサワサワといった音が主人公の耳に達したはずなのである。

でも、さっき二種類の“ダイアモンド”と書いたけど、大事なもうひとつを忘れていた。この歌は、“傷つかない心”も“小さなダイアモンド”だと言っているのだ。作詞者が伝えたかった一番大切なことが、ここに描かれているのかもしれない。事実、伝わり方が揺るぎない。“ダイアモンド”→“傷つかない”という鉱石硬度比較表に照らし合わせたかのような直接的な表現となっているので、この場合の“傷つかない”は揺るぎない。

ところでこの曲。作曲者のユーミンが、『Yuming Compositions:FACES』というアルバムでセルフ・カバーしているものも素晴らしい仕上がりだ。リッキー・ピーターソンのプロデュースによるミネアポリス録音。自分が自分に対して“泣かないで”と歌いかけるかのような聖子に対して、ユーミン自身の「瞳はダイアモンド」の場合、“MEMORIES”の一言に詰まった様々な場面を、パノラマで見せてくれるかのようなボーカルになっている。

松田聖子のシングル曲は、このあと、さらに多彩な作家陣に支えられていくこととなる。「ハートのイアリング」を作曲したのは「Holland Rose」こと佐野元春である(60年代のモータウンのヒット曲などを支えたプロデュース・チームのホーランド=ドジャー=ホーランド(Holland-Dozier-Holland)をもじったものと思われる)。この作品は、佐野の楽曲でいうならあの「サムデイ」にもリズム・セクションの奥行きのあるサウンドやゆったり噛み砕かれたメロディラインという点では共通する印象がある。

そしてに尾崎亜美が作詞・作曲した「天使のウィンク」や「ボーイの季節」が続く。特に「天使…」は、尾崎らしいキビキビとすべての要素に整合性を感じる完成度の高い楽曲で、グイグイ加速するけど失速しない見事な聴き心地であった。さらにジャケもボーイッシュな聖子ちゃんの「ボーイ…」は、1985年5月リリースなので、やっとここらで80年代の前半が終了である。

ご存知の通り、この時期、彼女は映画『カリブ・愛のシンフォニー』で共演した神田正輝と結婚している。となると、その以降の作品には、独身女性の恋を巡るストーリーとは別の文脈が顕われてくる。結婚後、2年間の休養を挟んで87年4月にリリースされた「Strawberry Time」は、争いのない理想郷を、ヒッピームーブメント華やかなりし60年代的な言葉などもコラージュしつつ松本が描いた世界観だった。作曲は土橋安騎夫。アンビエントな音も活かしたアレンジは大村雅朗で、彼女のボーカルには、これまでより深めのエコーが加えられていた。

文 / 小貫信昭

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