
全女子の理想を体現したような端正なルックス。笑った瞬間、クイッと上がるいたずらっ子のような口角。いくつもの魅力を携え、黒羽麻璃央は正統派俳優としての道を着々と歩み続けている。
これまでは舞台を主戦場としていたが、今年に入ってからは映像での活躍も目立ち、今後もドラマ『ファイブ』、映画『アヤメくんののんびり肉食日誌』など待機作が目白押し。きっとあと1年としないうちに、黒羽麻璃央という名は、ますます世の中に拡散されていくだろう。その中で彼は今、何を想い、何を夢見ているのか。成長著しい新星の「今」を切り取ってみた。
取材・文 / 横川良明 撮影 / 相馬ミナ
タクフェスが、俳優としての土台をつくり直してくれた
ここ数年、本当にたくさんの作品に出演されて。中でも、『歌姫』『熱海殺人事件』と2.5次元ではない舞台での活躍が目立ちました。この2作品の出演を経て、俳優としてのスタンスにも変化はありましたか?
変わったと思いますね。中でも大きかったのがタクフェスの『歌姫』で。僕はミュージカル『テニスの王子様』で俳優としてデビューしたんですけど。以来、なかなか演劇を基礎から学ぶ機会がなかったんですね。それをタクフェスではゼロからみっちり叩き直してもらえた。今まで自己流でやってきたものを、ちゃんと土台からつくり直してくれたのは、間違いなくタクフェスだったと思います。

タクフェスの稽古で特に印象的だったことは?
実は稽古中、台本を没収されていた時期があったんです。
台本が手元になかったってことですか?
そうなんです。と言うのも、僕はそれまで頭のどこかで物語の進行に沿って台詞を言っているようなところがあって。それを見抜いた作・演出の宅間(孝行)さんから「お前はすぐに台本を進めようとするから、台詞を言いたくなるまで言うな」と台本を没収されたんです。演技って単に覚えた台詞を言うだけじゃ成立しない。大事なのは、ちゃんと感情が動くこと。だから、たとえ台本にその後の流れが書かれていても、自分の感情が動くまでは何もするなって何度も注意をいただきました。
難しいですよね。あくまで演じる本人としてはその後の流れも段取りも頭に入ってるわけですから。
最初は宅間さんの言っていることがあまりよくわからなかったんですけど、徐々に稽古をしていくうちに、こういうことかなと感じる瞬間が増えてきて。感情さえ動けば、台詞は自然に出てくるものなんだっていうことが、少しずつ感覚として掴めるようになっていきましたね。

すごい!
いや、僕なんてまだまだ全然下手くそなんで……。稽古中も、周りにはいろんな先輩がいる中、自分のせいで稽古が止まることが何度もあって。そのたびに、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
でも、それだけ熱心に向き合ってもらえるのは役者としてはありがたいことですよね。
本当にありがたいです。見捨てないでいただいて良かった、と(笑)。
宅間さんからの言葉で他に印象的だったことは?
公演中はよく、ご飯にも連れていっていただいて。そのときに言ってもらったのが「仕事においては、常に肉食であれ」という言葉。これだけ競争の激しい世界ですから、常に向上心を持って、ギラギラしていないと生き残れないんだなって、改めて気持ちが引き締まりました。

武器はまだない。全裸で戦ってます(笑)
黒羽さん自身の性格は肉食系? 草食系?
どうですかね(笑)。日による感じです。
結構、気分屋さんなのでしょうか?
めっちゃ気分屋です。毎日違う(笑)。日替わり定食みたいな感じです(笑)。

日替わり定食(笑)。
そのときの役に似てくるというか。『熱海殺人事件』のときは、本番が終わってからもしばらくの間、顔つきが違ってて。人を一人殺したような顔になってました(笑)。
今は舞台『男水!』の稽古中ですよね。じゃあ、頼れる部長の顔だ(笑)。
はい、今は爽やか好青年な感じです(笑)。

「男水!」4巻より(仁科譽 役)©木内たつや/白泉社
『男水!』と言えば、黒羽さんにとっては初の連ドラでした。最近は映像でのお仕事も増えていますね。
映像の仕事はめちゃめちゃ楽しいですね。今は自分の中で映像作品ももっとやりたい気持ちがあります。もちろん、それは舞台が嫌いとか、そういうことではなくて。舞台のお話をいただけるのはすごくありがたいですけど、ずっと同じジャンルの仕事をしていると自分の成長が止まってしまうような気がするんです。だからこそ、やったことがないことにどんどんチャレンジしてみたいし、自分の世界を広げてみたい。そうやってメディアを通じて僕に興味を持ってくれた方が、今度は僕の舞台を観に劇場に来て、演劇の楽しさを知ってくれたらいいなと思っています。

黒羽さんが演劇を知らない人との架け橋になってくれたら、すごく嬉しいです。
やっぱり僕は2.5次元に育ててもらった俳優なので、2.5次元というジャンルに恩返ししたい気持ちもあるんですよ。今、2.5次元の世界には若い俳優がたくさんいて。その中で、僕がメディアにも出て活躍の場を広げていくことで、2.5次元からこういう道もあるんだという道標になることが、ひとつの目標です。そういう僕の背中を見て、年下の俳優たちが可能性を感じてくれたらいいなって。
確かに本当にたくさんの俳優が、今、2.5次元の舞台で活躍しています。
若くてカッコいい子が腐るほど出てきますからね。戦争です(笑)。
ライバル意識はあります?
ありますね。話題作にいっぱい出ている人を見ると焦るし、一瞬で自分は忘れられちゃうんじゃないかという危機感が、いつも頭のどこかにある。その焦りが、仕事への原動力になっているかもしれないです。

その中で戦うための、黒羽さんの武器と言えば?
いやぁ、まだないですね。全裸で戦っています(笑)。『ドラクエ』で言えば、装備がないというか、今ちょうどつくっているところ(笑)。
錬金中なんだ(笑)。
そうです。ようやく名前入力したくらいです(笑)。