Interview

つねに新しい音を提示し続けるサンボマスターの戦い──『YES』が鳴らす彼らの情熱

つねに新しい音を提示し続けるサンボマスターの戦い──『YES』が鳴らす彼らの情熱

前作『サンボマスターとキミ』以来、約2年ぶりとなるニュー・アルバム『YES』が届けられた。先行シングル「オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで」を含む本作は、ロックンロール、ソウル、スカなどのルーツ・ミュージックを“生音による、2017年の一番新しいサウンド”へと昇華した大充実作となった。現代社会に渦巻く怒り、妬み、矛盾から目を逸らすことなく、ヒップで生々しいバンド・サウンドによって、すべてを肯定してみせる……本作『YES』によってサンボマスターは、ロック・バンドとしての存在意義をさらに強く打ち立てることになるだろう。2017年12月3日には初の日本武道館公演も決定した彼らに訊く。

取材・文 / 森 朋之 撮影 / 関 信行


僕らは新しい音をやるだけ。メッセージが色褪せないようにするために

4月16日に開催された日比谷野外音楽堂のライブで、初の日本武道館公演が発表されました。すごい反響でしたね。

山口 隆 みんなが喜んでくれて良かったですよ。「ふーん」みたいな感じだったら困っちゃうんで(笑)。

近藤洋一 周りの方に「武道館、初めてなの?」と言われることが多いから、自分たちも「やってたかな?」って気がしてきちゃって(笑)。

怒髪天、フラワーカンパニーズ、ザ・コレクターズと繋がってきた武道館ライブのバトンが、サンボマスターに渡ったという。

山口 いやいや、怒髪天もフラカンもコレクターズも、(6月に武道館公演を行う)ザ・ピーズもそうですけど……ちゃんとしたバンドじゃないですか。僕らはそうじゃないから。

近藤 武道館を一大イベントにできたらいいんですけどね。デビュー14年目、結成17年で、キリがいいわけでもなくて(笑)。

山口 周年を狙ったわけじゃないんですよ。ありがたいことにZepp Tokyoの2デイズ・ライブや野音のチケットが売り切れてるので、もっと大きいところっていうと武道館かなと。4月の野音ライブもすごく良かったんですよね。いつもはキッズが多いんだけど、野音のときは大人の方も大勢観に来てくれて。

木内泰史 やっぱり、座る席があると来やすいですからね。久しぶりにライブに足を運んでくれた方も多いと思うし。

山口 大人キッズのみなさんが喜んでくれると、こっちも嬉しいですからね。ブルーハーツ世代、RCサクセション世代の方々の前でロックンロールをやれるのは幸せですよ。

デビュー15周年を目前にして、オーディエンスの年齢層も広がってるんでしょうね。そして5月10日に9thアルバム『YES』がリリースされます。フル・アルバムとしては約2年ぶりですね。

山口 やってるほうは必死だったんですよ。休みなくやってたんだけど、2年かかりましたね。

木内 もう、2年に一枚のペースが限界です。

山口 特に今回みたいなやり方はね。前のアルバムが出たあと、ずっとツアーをやって、人様に呼んでもらったライブもたくさんあって。

近藤 ブラジルも行きましたからね。2015年の11月まで『サンボマスターとキミ』のツアー、12月にブラジルのフェス(Ressaca Friends 2015)に出て、2016年の年明けから曲作りを始めて。

山口 その後もライブと並行して制作してたんですよ。完成したのが今年の3月中旬だから、1年3ヵ月くらいやってたのか……いやあ、過酷でした。

木内 その甲斐あって、9枚目にして最高傑作が出来たんじゃないかと思ってます。

本当に素晴らしいアルバムだと思います。ロックンロール、ソウルなどのルーツ・ミュージックがさらに血肉化され、切実なメッセージ性とともに“これぞ2017年に鳴らされるべき音楽”という作品に仕上がっていて。制作に入ったときは、どんなことを考えていたんですか?

山口 『終わらないミラクルの予感アルバム』(7thアルバム/2013年)のときはダンス・ミュージックをやったんですけど、その後の『サンボマスターとキミ』では「やっぱり生の音でやったほうがいい」と思って。おかげさまで高評価をいただいたんだけど、「次はそれよりもすげえアルバムを作らなくちゃいけない」と思ったんですよね。それが地獄の始まりでした。それぞれにやりたいことはあったんだけど、とにかく新しい音を作りたかった。それはどういう音かっていうと……この先も我々は「おまえなんてクソだ」とか「おまえはいなくてもいい」みたいなことを言われ続けると思うんですよ、手を変え品を変え……。

今の社会にいると、他者からの悪意を浴び続けてるような感覚がありますからね。

山口 だから、それに対抗するだけの力を持ったアルバムを作りたかったし、そのためには新しい音が必要だったんです。具体的に言うと、エフェクターとかコンプレッサーとか、そういうものを一切使わない。デジタルな機材を使うと必ず音が変わってしまうので。

近藤 デジタル的なエフェクトを施すと、どうしても音が劣化しますからね。それよりもビンテージの機材のほうが、我々が思い描いている音に近くて。

木内 うん。

山口 逆説的ですけど、今は機材が発達してるから、我々が出した“そのままの音”を録り切ることができるんですよ。

近藤 ただ、それを作品として形にするのはすごく大変なんですよね。スピーカーから鳴っている音を聴いて「いい音ですね」って言ってるだけならいいんだけど、それを2スピーカーに落とし込む作業がとにかく難しくて。

山口 そのためには、最初からすべての音をあるべき場所に配置しなくちゃいけないんです。そのセッティングだけで朝の10時から夜中の2時までかかったり。真空管のアンプを使ってるので「アンプがいい感じで温まってるから、今録らないと」って夜中にギターをレコーディングしたり。

木内 ギターは大変だったよね。

山口 単に分離がいいだけの音じゃダメなんですよね。やっぱり有機的じゃないと。

木内 でも、完成したときは本当に感動しましたよ。

山口 小学校の頃、理科の授業で、種を蒔いてから花が咲くまでの様子を早回しで映したビデオを観たことあるでしょ? あんな感じです(笑)。

(笑)たしかにこのアルバム、めちゃくちゃ良い音ですよね。ただ、それってどこまでリスナーに伝わりますかね……?

山口 何を言ってんですか!? それは森さん(ライター)の仕事ですよ!

木内 そうそう、音楽メディアのみなさんの力にかかってます!

山口 さっきも言いましたけど、僕らは新しい音をやるだけですから。ロンドン、アフリカ、シカゴもそうですけど、今も世界各地で新しい音がどんどん生まれていて。ロックンロールもヒップであるべきだし、それを自分たちの生音で表現したいっていう。メッセージが色褪せないようにするためには、そのやり方しかないと思うんですよね。僕も「これ、どれくらい伝わるんだろう?」って何度も思いましたけど、やるしかないので。