山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 12

Column

アメリカ、そしてグレイトフル・デッドという生き方【後編】

アメリカ、そしてグレイトフル・デッドという生き方【後編】

新作『CARPE DIEM』を携えて現在ツアー中のHEATWAVE 山口洋が書き下ろす好評連載。
アメリカという国の“最良の部分”を体現したバンド、グレイトフル・デッドがいまなお鮮烈に放つ光とは?


僕が独立して立ち上げたレーベルの名前は「NO REGRETS」。後悔しない生き方が信条。でも、一度だけ激しい後悔をしたから、この名前をつけたとも云える。

90年代の中頃、アメリカでグレイトフル・デッドを生で体験する機会があったにも関わらず、旅の疲労を理由に観に行かなかった。しばらくして、ロンドンからの帰りの飛行機の中で、ジェリー・ガルシアさんの死を知った。僕は自分に失望した。大切な瞬間は人生に二度訪れないことを、僕はまだ知らなかった。

体験したなら、自分がどう変わっていたのかは知る由もない。でも、もっと早く独立して、既存のシステムに頼らず、独自の活動を模索していただろう。なによりも、“自由という言葉のほんとうの意味”に到達するのがもう少し早かっただろう。

デッドが僕に与えてくれたものを文章化するのは難しい。音楽的にも、生き方としても、バンドの運営の方法も、とっても影響を受けたから。会ったこともないけれど、迷ったときのスピリチュアル・アドバイザーのように、僕のLIFEの中で輝きを放っていた。

たとえば二度と同じ演奏をしないこと。

彼らの音楽は「人を信じること」が礎だ。それは前編で書いたアメリカ的な世界とは対極にある。だからこそ、あの国の中で際立っている。仲間を信じ、差異を尊重し、自由を求め、瞬間にときめきを感じ、即興性を大切にして、冒険の旅を続ける。バンドは有機化合物で、宇宙に行くための乗り物。たまに薬物の影響を受けすぎるけれど、互いに影響し合って生きていく。それは譜面に記せる類いのことではない。

結成50周年を迎えたグレイトフル・デッドが2015年7月にシカゴで行ったファイナル・コンサート〈FARE THEE WELL(フェア・ジー・ウェル)〉には、20万人を超えるファンが集まった/Grateful Dead Fare Thee Well photographed at Soldier Field in Chicago, IL July 4, 2015©Jay Blakesberg

二度と同じ瞬間がないからこそ、ファンはコンサートに足を運ぶ。誰かはそれを録音しようとする。バンドはそれを規制するのではなく、許容する。営利目的でない限り、録音されたテープはファン同士で交換することができる。結果的にそのテープは有機的なプロモーションのツールになる。どこかの著作権管理団体に聞かせてやりたい。これがほんとうのプロモーションだよ。誰も傷つかない。

始めに商売ありき、ではない。結果的に「人を信じる」ことが、巨大なビジネスになっていく。デッドはロック界における数少ない、自身のマスターテープと出版権を所有するバンドの先駆けだ。たとえば、僕はメジャーと契約していた頃の権利をほぼ何も所有していない。自分が創りだした音楽なのにどうすることもできない。学ぶことは多いのだ。

彼らはチケットの販売をきちんとコントロールしていた。バンドに身を捧げているファンには良い席を分配する。デッドはいつだってファンを第一に考える。たとえバンドに金銭的負担がかかったとしても、彼らはファンを優先する。デッドにとってファンは金の成る木ではなく、対等なパートナー。そこから僕らが学ぶことはたくさんあるはずだ。

デッドのファンはテープや写真を交換しあって、「ソーシャル・ネットワーク」の原型のようなことをやっていた。バンドの周りには楽器好きや、メカ好き、オーディオやコンピューター・マニア、グラフィック・デザイナーなど。その後のバンドの進化に深く関わる人たちが自然に集まった。彼らの間で交わされた、実験的模索への議論は建設的で、ピースフルな空気のもと、自然発生的に行われていたらしい。たとえば、彼らが作りあげたPAシステム「ウォール・オブ・サウンド」は現在の大規模PAの原型だ。

メンバー同士はフェアな関係。ジェリー・ガルシアさんが際立って有名だけれど、彼はリーダーと見なされることを嫌った。他のメンバーと同じ対等な関係で、それぞれが影響しあって、あのサウンドが産まれていると考えていた。そして各々のメンバーの総合力はいつだって、インプロヴィゼイションの向こう側に突きぬけようとしていた。

ボブ・ウィアー/Grateful Dead Fare Thee Well photographed at Soldier Field in Chicago, IL July 4, 2015©Jay Blakesberg

ミッキー・ハート、ビル・クロイツマン/Grateful Dead Fare Thee Well photographed at Soldier Field in Chicago, IL July 5, 2015©Jay Blakesberg

フィル・レッシュ/Grateful Dead Fare Thee Well photographed at Soldier Field in Chicago, IL July 4, 2015©Jay Blakesberg

パンクで育った僕にはかったるくて聞いていられなかったデッドの音楽がある日、突然身体に入ってきた。長い長いジャムには意味がある。それぞれの即興のアイデアが、会話のように、互いに影響しあって、高みを昇りはじめる。ジャックと豆の木みたいにぐんぐんと空を突き抜けていくように。これが僕の好きな音楽の形。フォーマットがシンプルであるがゆえ、その豆の木は永遠を描くことができる。観客は自由な形でそこに身を委ねる。嗚呼。

バンドを信じ、人を信じ、そして変化を信じる。彼らの音楽は人々をひとつにすることができるのだ。

僕の偉大なスピリチュアル・アドヴァイザー。もう一度書いておこう。仲間を信じ、差異を尊重し、自由を求め、瞬間にときめきを感じ、即興性を大切にして、冒険の旅を続けること。エトセトラ、エトセトラ。

グレイトフル・デッドという生き方、それはアメリカが産んだ最良の文化だと僕は思う。

グレイトフル・デッド:ジェリー・ガルシアを中心に1965年、サンフランシスコ・ベイエリア(カリフォルニア洲パロアルト)で結成。ヒッピー文化、サイケデリック文化のみならずアメリカを代表するロック・バンド。メンバーは5人から7人と流動的で、カントリー、フォーク、ブルーグラス、ブルース、レゲエ、ロック、ジャズなど様々な音楽スタイルを融合しながら、自由と愛と平和に溢れたメッセージを送り続けた。ヒッピー・ムーブメントの中、彼らに共感する熱心なファン(デッド・ヘッズ)は増大。1967年モンタレー・ポップ・フェスティバル、1969年ウッドストック・フェスティバル等当時のカウンター・カルチャーを象徴する歴史的ロック・イベントへの出演をはじめ毎年のようにスタジアム・コンサートを行った(1998年には「最も多くコンサート行ったロック・バンド」としてギネス世界記録〈2318回〉を樹立)。コンサートでは録音も自由、そのテープを交換するのもOKというスタイルも独特で、多くのライブ音源を残している。1995年、ジェリー・ガルシアの他界により活動を休止するが、2015年に結成50周年を記念した大規模なツアー〈FARE THEE WELL〉を行い、世界中のデッド・ヘッズが会場のサンタクララやシカゴに集まった。その2015年7月3〜5日、3日間で20万人を動員したシカゴ、ソルジャー・フィールドでの最終公演のパフォーマンスは、CD、DVD、Blu-Ray等様々な形態で発売されている。
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『Fare Thee Well(July 5th)/フェアウェル・ライヴ(フェア・ジー・ウェル)』

2016年07月20日発売
WPZR-30731/5 ¥8,000(税別)
結成50周年を迎えた2015年にシカゴで行ったファイナル・コンサートの模様を収めたブルーレイ&CDセットが発売。
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『グレイトフル・デッド・ファースト』

2017年03月29日発売
WPCR-17677 ¥2,900(税別)
1967年3月に発売されたデビュー・アルバムが最新デジタル・リマスター盤 “50thアニバーサリー・スペシャル・エディション”として発売。
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グレイトフル・デッドの楽曲

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

photo by Mariko Miura

1963年福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。
1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーをはじめ海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(Bass)、細海魚(Keyboard)、池畑潤二(Drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。5月17日には待望のニュー・アルバム『CARPE DIEM』をリリース。

ALBUM『CARPE DIEM』

2017年5月17日発売

アルバム発売に先立つツアー〈HEATWAVE new album tour “CARPE DIEM”〉も開催。

HEATWAVE new album tour “CARPE DIEM”
5月3日(水)福岡 Be-1
5月4日(木)大阪 シャングリラ
5月11日(木)渋谷Duo Music Exchange
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東日本大震災後立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”のライブを6月に南青山MANDARAで開催する。

MY LIFE IS MY MESSAGE LIVE2017 @東京・南青山MANDALA
6月13日(火)古市コータロー(THE COLLECTORS)×山口洋
6月14日(水)池畑潤二 with 山口洋 Specialセッション
6月15日(木)仲井戸“CHABO”麗市×山口洋 with 細海魚
6月16日(金)矢井田瞳×山口洋 with 細海魚
6月17日(土)矢井田瞳 with 大宮エリー Specialセッション
詳細はこちら

また、その他のイベントにも出演する。

ギターカーニヴァル 2017
5月14日(日)埼玉会館小ホール
Mix Up & Blend
7月1日(土)Club Junk Box Sendai

2016年4月に熊本を襲った地震を受け、FMK エフエム熊本で毎月第4日曜日(20時〜)『“MY LIFE IS MY MESSAGE RADIO』をオンエア中。

HEATWAVEオフィシャルサイト

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