Interview

23人格を演じ分けたジェームズ・マカヴォイは『スプリット』を観ていない!?

23人格を演じ分けたジェームズ・マカヴォイは『スプリット』を観ていない!?

一人の人間に23の人格が同居する多重人格者と、拉致監禁された3人の女子高生の攻防を描いたスリラー映画『スプリット』(17)。一見、サイコサスペンスと思いきや、ジャンルの壁を軽々と飛び越えてくるのはハリウッドきってのトリッキー監督、M.ナイト・シャマランの得意技だ。今回初めてシャマラン・ワールドに飛び込んだのは、英国の実力派スターで『X-MEN』(11、14、16)シリーズでもおなじみのジェームズ・マカヴォイ。すでに全米では大ヒットを記録し続編も決定している注目作について語った。

取材・文 / 村山章


役者としても、観客に対してもチャレンジングな作品

今回の映画ではどのインタビューでも多重人格者の演技について訊かれると思いますが、さすがにウンザリしていませんか?

もう4~5カ月、この映画のプロモーションをしているから、多少はね(笑)。でも、この映画のことはとても誇りに思ってるから、ウンザリするくらいたくさんプロモできて嬉しいよ。

今回の映画は一人で23役を演じないといけませんよね。誰か別の人物になりきるのが役者の仕事ではありますが、23人分を演じるのは楽しい仕事でしたか? それとも大変で辛い仕事でしたか?

実際にちゃんと演じたのは9人分くらいかな。とても楽しくて、やりがいのある仕事だったよ。確かに大変な部分もあったけれど、僕はいつも演じることが楽しくてしょうがないんだ。演技があまり好きじゃないんじゃないかと思ってしまう役者も多いんだけど、僕にとっては大歓迎の仕事だったよ。一本の映画で9人もキャラクターを演じられて、9倍楽しかったと言える。いつもよりも多くの準備が必要だったけど、それは全然かまわない。確かに大変だったけど、あくまでも良い意味でだね。

今回、準備期間が非常に短かったと聞いています。

そうだね。出演を決めてから撮影まで5~6週間しか猶予がなくて、それでも普通の役なら充分間に合うんだけど、その間に主夫として子育てもしていたしね。実際、9人分すべてが準備万端ってわけにはいかなくて、撮影の最中にやっと仕上がったキャラクターも2~3人いたかな。

そんなハードスケジュールを押してでもこの映画に出たいと思った理由はなんだったのでしょう?

脚本がすごくよかったからね。それに僕は内側に葛藤や悩みを抱えているキャラクターを演じるのが大好きだし、役者としてもとてもチャレンジングな役だった。観客に対してもチャレンジングな内容だし、驚きに満ちていて、奇妙で風変りな映画だと思ったよ。これだけ興味深い要素がそろうことは大作ではまずないよ。『スプリット』はハリウッドでは小さい規模の作品だけど、他ではできないスリリリングな体験ができることは間違いないと思ったんだ。

ナイトは過剰に叩かれるけど、映画にかける情熱や興奮が伝わってきた

シャマラン監督は前作の『ヴィジット』(15)までは低迷期と言われ続け、長らく興行的にも失敗作が続いていました。彼との初仕事に不安はなかったですか?

いいや。どんな監督でも役者でも、常に成功をし続けることなんて不可能だからね。スピルバーグやマーティン・スコセッシみたいな巨匠だって浮き沈みは経験してきたけれど、ナイト(シャマラン監督)はどういう訳だか他の人たちより過剰に叩かれてしまっていた。それにさっきも言ったように、僕にとって仕事を選ぶ一番の基準は脚本なんだ。脚本が良ければいい作品になる可能性が開けるし、ナイトと会って話した時も、映画作りにかける情熱や興奮がすごく伝わってきた。「イエス」というのは簡単な選択だったよ。

シャマラン作品の特徴として、観客を怖がらせると同時に可笑しがらせることも追及しているように思うのですが。

本当にそうだよね。彼はその二つにすごく熱心に取り組んできたと思う。『ヴィジット』もそうだし、『サイン』(02)なんてすごくヘンテコで可笑しいよね。宇宙人が地球に襲来してきて、この世の終わりに神の存在を問いかけるような内容なんだけど、ホアキン・フェニックスやメル・ギブソンに思わず笑ってしまうんだ。観客は笑っていいのか怖がっていいのかわからなくなったり、怖いはずなのに大笑いしてしまったり。とてもエキサイティングな監督だと思うよ。

今回の映画でも、あなたが演じるキャラクターが監禁された女子高生の服を剥ぎ取るシーンがあって、その理由が「服が汚れてるからヤダ!」だったりしますよね。演じる側としては可笑しいと思いながら演じてるんでしょうか? それとも全力で少女たちを怖がらせようと?

実は一度も彼女たちを怖がらせようとしたことはないんだ。僕は、どの人格も女の子たちを怖がらせる意図はなかったと思っていて、3人の女の子を監禁しても虐待をしたりするわけじゃない。だから、ただそれぞれのーンに集中して必要な演技をしていただけなんだ。もしかすると〈パトリシア〉という人格だけはちょっと怖がらせようとしていたかも知れないけどね。僕自身としては、女の子の服を剥ぎ取ったりするのは居心地が悪かったよ。女子高生役を演じたアニヤ(・テイラー=ジョイ)とジェシカ・スーラから、役に入れるように自分たちを怖がらせてくれと頼まれて、カメラが回る前に首を絞めるマネをしたこともあったけど、あくまでもリクエストに応じただけで、僕の願望じゃないよ(笑)。

『スプリット』ではある人格が別の人格のフリをしていたり、かなり複雑で入り組んだ場面も登場します。初見ではマカヴォイさんが演じた人格をすべて見分けることって不可能だと思うんですが、2度3度観ることで演技の細かい違いを見分けたりできるようになるんでしょうか?

うーん、それはムリかな(笑)。この映画自体があえて混乱するように作られているからね。僕も観客には混乱してもらいたいし、奇妙さを感じて欲しい。でもよくよく観てみたら、ある人格がいかにもステレオタイプなゲイ的な振る舞いをしていて、ちょっと誇張が過ぎると感じるかも知れない。そういうところがヒントになるかもね。

シャマラン監督にはいろんな伝説があって、フィラデルフィアの自宅に近いところでしか撮影しないとか、時間通りに撮影を終わらせて帰宅するとか言われています。実際に仕事をしてみて、ほかの監督と違うと感じたことはありますか?

確かに彼はすべてをフィラデルフィアで撮りたがるね(笑)。実際には他の州や外国で撮った作品もあるけど、できる限りフィラデルフィアの近郊で映画を作ろうとしてる。でもそれってクールなことだと思うよ。そして実際に時間通りに終わる。もちろん大抵の監督は時間通りに終わらせようとするけれど、そうはいかないことも多いよね。それもいいことだよね。変わってるって言われる部分はどれも彼の美点なんだ。でも一番ユニークでスゴいと思ったのは、彼が頭の中で映画全体を完全に把握していたこと。作品の細部まで完全に見通していて、スタッフには全幅の信頼を置いているけれど、彼自身でもやってのけるテクニックを持ち合わせているんだ。僕が一番感銘を受けたのはそこだね。

「自分の出演作は観ない」マカヴォイの、お気に入りのシャマラン作品は?

『スプリット』は、他の作品ともリンクしながら今後の展開があることが示唆されています。シャマランの次回作のタイトルは『Glass』(原題)だと発表されましたが、そちらにも当然参加されるんでしょうか?

現時点で言えるのは、僕がこのストーリーを完結させる手伝いができることを楽しみにしてるってことだね。ナイトの中にはさらに語るべき物語がたくさんあるから、一緒に続編をやるのを待ちかねているよ。

今回の『スプリット』は別にして、特にお気に入りのシャマラン映画はありますか?

『スプリット』以外に? 僕は基本的に自分が出演した映画を観ないから『スプリット』はそもそも比較の対象に入らないないんだ。

出演作をまったく観ないんですか?

プレミア上映会に出席しないといけない時は、そこで「観てください」って言われるから観ないわけにもいかないんだけど、プレミアに出なくてよければたぶんまったく観ないんじゃないかな。そういうこともあって、お気に入りは、『アンブレイカブル』だよ。

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映画『スプリット』

2017年5月12日(金)公開

バースデーパーティの帰り、女子高生の〈ケイシー〉、〈クレア〉、〈マルシア〉が乗った自動車に突然見知らぬ男が乗り込んできた。男は3人の少女を眠らせて拉致監禁してしまう。窓ひとつない殺風景な密室で目を覚ました3人の前に現れたのは、さっきの男……のはずだが、なにか様子が違う。実は誘拐犯の〈ケビン〉は23もの人格が宿っている多重人格者。粗野だが潔癖症の〈デニス〉、あどけない少年の〈ヘドウィグ〉、人当たりの良い人格の〈バリー〉に女性の〈パトリシア〉と、次々と別人格が現れる。果たして誘拐は、どの人格が何のために計画したのか? そして〈ケビン〉の中で目覚めつつある24番目の人格が、彼女たちを恐怖のどん底に叩き込む!

【監督・製作・脚本】M.ナイト・シャマラン
【製作】ジェイソン・ブラムほか
【出演】ジェームズ・マカヴォイ、アニヤ・テイラー=ジョイ、ベティ・バックリー、ジェシカ・スーラ、ヘイリー・ルー・リチャードソンほか
【配給】東宝東和

オフィシャルサイトhttp://split-movie.jp/

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ジェームズ・マカヴォイ

1979年生まれ、スコットランドのグラスゴー生まれ。ロイヤル・スコティッシュ・アカデミーで演技を学び、1995年に『The Near Room』(原題)の端役で映画デビュー。主に舞台やテレビドラマをメインに活躍した後、2005年の『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』のタムナス役で注目を集め、翌年の『ラストキング・オブ・スコットランド』では英国アカデミー賞助演男優賞にノミネート。『ペネロピ』(06)を経て、アンジェリーナ・ジョリーと共演したアクション大作『ウォンテッド』(08)で本格的にハリウッド進出を果たし、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11)からはX-MENのリーダー、プロフェッサーXの若き日を演じ続けている。


X-MEN ファースト・ジェネレーション (字幕版)

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