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聖地巡礼プロデューサー柿崎俊道の 「心が叫びたがってるんだ。」聖地巡礼

聖地巡礼プロデューサー柿崎俊道の 「心が叫びたがってるんだ。」聖地巡礼

 サンマやサワラ、栗、さつまいも。美味しい季節がやってきました。

 じつはアニメの聖地巡礼にも食べごろがあります。公開・放送された時期と劇中で描かれた季節です。映画「心が叫びたがってるんだ。」(以下、「ここさけ」)の聖地、埼玉県横瀬町、秩父市は現在、スタンプラリーイベントの真っ最中であり、多くのファンが集まっています。また、劇中と同じく夏から秋、そして冬へ移り変わりゆく季節になりました。 まさに旬を迎え、食べごろの季節を迎えています。

 『映画「心が叫びたがってるんだ。」公開記念「ここさけ」聖地スタンプラリー』は横瀬駅、秩父札所10番大慈寺、道の駅ちちぶ、ほっとすぽっと秩父、ちちぶ銘仙館、秩父観光案内所を巡ります。スタンプラリーは11月1日まで開催。すべてのスタンプを押すと、ゴール引き換え所にて「ここさけ応援 スタンプラリー2015秋」メガホンがもらえます。参加したい方はおはやめに。

 横瀬駅から大慈寺、道の駅まで歩くと「ここさけ」の成瀬順、坂上拓実たちがどのような生活を送っているのかが実感できます。まず横瀬町が山々に囲まれた盆地であることに気付くでしょう。真新しい住宅と田畑がモザイクのように広がり、車道は大型トラックがセメント工場へ頻繁に行き交うのが見えます。大慈寺から徒歩5分くらいのところに大きなドラッグストアがあり、さらに歩けば街道沿いのショッピングセンター「ウニクス」がある。生活をするのに不便はなさそうですし、自転車があれば便利です。

 一方で、大慈寺の階段上から見渡せば、雲がかかった武甲山とぐるりと覆いかぶさるように取り囲む山並みに、どこか閉じているような印象を受けます。祖父に便利なはずの自転車を譲った拓実の気持ち、祖父の少し驚いた顔の意味。横瀬町を歩いていると、家族ながらも互いに遠慮しているように見える坂上家の心情がわかる気がします。自分の心情を吐露しないのは、拓実や順といった若者だけではないのです。

 ところで、坂上という苗字が示す通り、大慈寺の坂道を登ったところに拓実の家があるのではないかと思われます。ただ、実際に坂を登ってみると、そこはお寺の駐車場。なにかあるかな? と思っていただけにちょっと残念ですが、このアレンジに秘められた作り手の意図を探るのも聖地巡礼の楽しみです。

 これからの季節は、作品が描かれた季節と同じ秋から冬。劇中と同じシーズンに聖地巡礼をすれば、より登場人物の心象にも近づくことができます。聖地巡礼とは、この世とアニメの境界線をなくし、向こう側の世界へ気持ちを移していく行為だと思っています。そのためにはアニメの映像と同じく、現実世界にも演出が必要です。初雪の日に横瀬町を訪れることができれば、それは最高の「ここさけ」演出効果です。冒頭でお話した食べごろの季節とは、演出効果を最大に引き出す季節と言い換えてもいいでしょう。雪が降る寒い日に成瀬を探して自転車で全力疾走すれば、より拓実の気持ちに近づけるはずです。

 映画やテレビシリーズの制作スタッフは、制作に没頭すればするほど、架空であるはずのキャラクターが現実にいるかのような錯覚を得るといいいます。聖地巡礼に訪れる者にとっても同じです。成瀬順、坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹、その家族、友人がこの町にいて、今も生活しているんだと思うこと。強く思えば思うほど、横瀬町のそこかしこに「ここさけ」が潜んでいることに気付くでしょう。

 じつは、そこからが聖地巡礼のスタートなのです。

プロフィール

柿崎俊道 (かきざき・しゅんどう)

聖地巡礼プロデューサー主な著書に『聖地巡礼 アニメ・マンガ12ヶ所巡り』(2005年刊行)。 埼玉県アニメイベント「アニ玉祭」をはじめ、地域発イベント企画やオリジナルグッズ開発、WEB展開などをプロデュース。また、雑誌や書籍、ガイドブックの執筆・編集者としても活動している。 編集・執筆にBNN新社『Works of ゲド戦記』、講談社『頭文字D』ファンブック、同『聖☆おにいさん』ガイドブックなど多数。