Interview

絢香 一文字一文字を大切に“書き進む”かのようなボーカルが届く新作「コトノハ」への想いを訊く

絢香 一文字一文字を大切に“書き進む”かのようなボーカルが届く新作「コトノハ」への想いを訊く

共感できることだったので、自然に書くことができた

絢香の新曲「コトノハ」がリリースされる。配信限定のものを除けば、「にじいろ」以来、久しぶりである。楽曲タイトルの“コトノハ”だが、ご存知の通り、「言葉」を文語的に表現したものである。彼女がふとこの言葉を思い浮かべたことが、楽曲制作の大きな鍵ともなった。

「この曲はドラマ『ツバキ文具店〜鎌倉代書屋物語〜』(NHK総合)の主題歌として書き下ろしたものですが、ドラマの主人公は様々な人達からの依頼で、その人達の代わりに手紙を書く、代書屋の仕事をすることになった女の子で、そもそも手紙というのが、大きなテーマでもあるんです」。

依頼してくる人達は、今はいったん途切れてしまった想いを抱き、この店へやってくる。途切れた距離を埋めるのが手紙だ。それは時に、すぐ近くにいる人との関係においても、必要な場合がある。手紙が埋めるのは物理的な距離というより、心の距離だからである。実は彼女自身、17で上京し、デビューして羽ばたこうとする時、実家の祖父が幾度となく送ってくれた手紙に励まされた経験がある。手紙が埋めてくれる心の距離のことを、実体験として知っていたわけで、だからこうしたテーマの曲なら、「共感できることだったので、自然に書くことができた」という。話を曲作りに戻す。

「主題歌を書き下ろす時に、“いつか形にしよう”と温めていた、あるメロディを想い出したんです。それならこのテーマに合うんじゃないかって思って…。自分で溜めていた(モチーフなどの)データのなかから、それを出してきた…」

この時点では、まだ♪ラララで歌っただけのものだった。ただ、よく「ラララで歌った」などと表現するが、♪ラララには♪ナナナや♪ワワワなどが微妙に混ざり込んでいる場合が多い。音声学的にいうと、歯茎の前のほうで発音したり奥で喉を締めながら発音したりする音が、既に混ざっている。♪ラララだからって、歌詞は“白紙”ってわけじゃなくて、それがいざ、メロディに合わせて歌詞を書こうとする時、大きなヒントにもなる。

手紙によって人と人の繋がるという、このドラマのテーマにもぴったりだと思いました

「歌詞は1番の頭から、順番に書いていったんですよ。私の場合、そういう書き方が多いんですけど。そしてサビに入ったところで、“コトノハ”という言葉が浮かんだんです」

それはお告げのように、彼女の頭の上に降りそそぎ、などと書くと、甚だロマン主義的な言い方にもなるけれど、それに従い、そのままこの言葉をまさにお告げのままに採用するソングライターも確かに世の中には居ることだろう。でも彼女はそうせずに、意味を調べたという。

「改めて、一度調べてみたんです。そしたら“心を種にして出た葉”という解釈もあることを知って、“いい言葉だなぁ”と思って…。手紙によって人と人の繋がるという、このドラマのテーマにもぴったりだと思いましたしね」

作詞・作曲、そしてアレンジなどの行程を経て、曲は完成へ向かう。「コトノハ」のアレンジを担当したのは、J-POPの数々の名作に関わってきた河野圭である。郷愁を誘うイントロに、感情が沸立つリズムが重なり、心を込め、まさに一文字一文字を大切に“書き進む”かのような絢香のボーカルが届いてくる。さっき彼女が言っていたサビの部分は、印象深い表現で構成されている。“あなたへの言の葉が”“時を超え 愛を結ぶ”。このような表現が並んでいる…。

「この部分の歌詞に関しては、敢えて各コーラス、全く同じ言葉を繰り返しています。この歌で一番伝えたかったことが、この言葉のなかに在るんだって想えたし。でも演奏のほうは、毎回変化しているんですよ。後ろに響くコードも変化していって、歌詞は同じでも、伝わり方が違う。歌い終わって聴いてみて、河野さんの素晴らしいアレンジに私自身、とても感動してしまいました」

結果として、あえて同じサビにしたことが功を奏したわけだ。絢香の歌、コトバは動かさず、背景が動くことで、伝わり方が違う。届く手紙にしたら、まさしく三通分(!)というわけである。

「でもそれも、こちらが細かくリクエストしなくても、河野圭さんや参加してくださったミュージシャンの方々と、自然にわかり合えてることだった。そうした、音楽を制作する上でのいいパートナーに出会えたのも、この10年のなかで、とても大きかったことですね」

今は自然と響かせて歌える。そこを活かせる曲になったのは嬉しいことです

確かに10年。鮮烈なデビューを飾った彼女の10年は、「もう…」、でもあって、「まだ…」、でもある。ところで「コトノハ」は、最近のJ-POPのなかでも、特徴的なアレンジが施されている。歌をただ一定の温度感で支えていく演奏ではなく、絢香の歌と、闊達な会話を交わしながら進んでいくかのような、そんなところがある。マーチング・バンド的なトキメキを感じさせるドラム・サウンドは、特に鮮やかな印象を届ける。
彼女のことを「実力派」などという言葉でまとめるつもりはないけど、歌がしっかりしていれば、共演するミュージシャンの意識も変わる。おぼつかない歌なら、伴奏は“自転車の補助輪”のようにならざるをえないけど、絢香の歌なら、まるで一輪車同士が互いの軌道を楽しみながら進んでいくかのような音の“光景”にもなるわけだ。ぜひそのあたりもじっくり楽しんでもらいたいのが「コトノハ」なのである。
さらにもうひとつ、大切なポイントとして書いておきたいことがある。さきほどもチラリとデビュー10年に触れたが、この節目を迎え、さらにこの先の10年を目指し、浮力を生むような作品になりそうなのがこの曲だということだ。それは何か…。僕が先に書かずに、彼女の言葉を紹介する。

「曲を書く段階で特別意識したことではないんですが、これまで以上に上も下も使っている、音域の広い曲になりました。デビューの頃は低いところを頑張って鳴らすイメージだったけど、今は自然と響かせて歌える。そこを活かせる曲になったのは嬉しいことです。自分の低音が育ったのは、この10年ライブを重ねてきた結果だと思っていて。なので、低音を使ってこの曲を表現したいというのはありましたね」

“というのはありましたね”と言っているのはソングライターとしての絢香である。シンガーとしての絢香に、今回、そんな注文をしたということだろう。注文をしたと言えば、カップリングの「センチメント」の場合、「コトノハ」とはある意味、逆の注文が出されたようだ。

「この曲はキーをいつもより低くして、抑えて抑えて歌いました。アレンジは“コトノハ”より、さらに最低限の音数にしています。私がすぐ横で歌っているような、そんな距離感の歌に聞こえたらと思って、歌い入れも、そんな意識で臨みました。これまでの私のレコーディングの中で、もっとも早く終わったんじゃないかな。1テイクに込めたかったので、ブースにいた時間は15分でした」

何度も歌い表現を推敲するのではなく、ドキュメンタリーであるかのように歌う。そんな短期決戦のすえにボーカル録りは終わった。ソングライティングの面で言うと、この作品は「コトノハ」とは違い、歌詞を頭から書いたわけではなかった。全体が♪ラララ状態の時、すでに“広い世界のなか 目を閉じた”という部分の歌詞だけは存在していたという。

「その時点では、これが1番の歌詞なのか2番の歌詞なのかも分からなかったけど、ここだけはメロディにはまってたんです。でも…。“広い世界のなか 目を閉じた”って、なんか切ない、悲しいことがあったのかもしれないし、なんか切ない感情だろうなって、他の部分を広げていったんですけど」

伝えたいのは、自分でも気づかぬうち、“思わず声になって出てしまった想い”

そこにゴロリと塊のように“感情”が存在し、その生々しさも含め伝えるべく書かれたのが「センチメント」だったのかもしれない。ただ、この曲の“抑えて抑えて歌う”というのは、言葉では解るけど、実際にはシンガーとして、消化不良にならないものだろうか? しかし彼女が考えていたことは、抑えたことによる発展、だった。

「ボーカリストとして、表現の幅を広げていきたいと思った時、自分のパワーを最大限に伝えられる曲があるということは、それはそれでいいことなんですけど、ここまで抑えて抑えて抑える曲は“今までなかったなぁ”って思ったし、でも、“そのほうが表現としては難しいし、トライしてみたいな”、というのもあって…」

さきほどのキーの設定に関しては、実はボーカリストにとって、“別人格を得る”くらいに大きなことでもある。これの表現が大袈裟なら、“普段は袖を通さない柄を着てみる”くらいの勇気が必要だ。

「いつもはサビがもう少し張り上げる感じになる、その意味で“自分のいいところが出るキー”に設定するところを、もうサビでも囁くような感覚ですもんね。その分、ちょっとしたブレスの表現とか、声が擦れた語尾であったりとか、その辺りの表現も大事にしているのがこの曲です。でもこの場合、伝えたいのは、自分でも気づかぬうち、“思わず声になって出てしまった想い”というか、そんな曲ですからね。“独り言”とまで言うとあれですけど、だったら囁くような歌い方のほうがいいんじゃないかって」

聴く人の心に寄り添えるような、そして言葉がちゃんと伝わる音で紡いでいきました

最後はこれからの活動について、彼女に語ってもらうことにしよう。

「今回の『コトノハ』は、年齢に関係なくどの世代の方にも共感してもらえるテーマだと思っています。もう会えない大切な人を想う気持ちを、聴く人の心に寄り添えるような、そして言葉がちゃんと伝わる音で紡いでいきました。『コトノハ』を聴いて、温かい気持ちになって頂けたら嬉しいです。そして今は、とにかく“曲を書きたい”と思っていて、今回の2曲以外にも、様々に構想を練っています。今はそうやって、じっくり制作していたいんです。9月からは『Acoustic Live Tour 2017-2018 〜3-STAR RAW〜』がスタートします。ピアニストの塩谷哲さん、ギタリストの古川昌義さんという日本を代表するミュージシャンのお2人と、回るスペシャルなツアーなんです。お二人とのステージはとても刺激的で、私自身の歌も成長出来ると思ってます。3人がお互いの音に反応し合うので、毎公演違う演奏にもなるし、それはまさに“ライヴ”なので、ぜひ会場にいらしてください」

取材 / 文 小貫信昭

ライブ情報

絢香 Acoustic Live Tour 2017-2018 ~3-STAR RAW~
http://room-ayaka.jp/live/

絢香

2006年2月1日「I believe」でデビュー。
ファーストアルバム「First Message」は出荷枚数140万枚を超え、
2009年にリリースしたベストアルバム「ayaka’s History 2006-2009」でもミリオンを記録。
2年間の活動休止を経て、2012年2月1日に復帰アルバム「The beginning」をリリース。
初のセルフプロデュースアルバムとなる同アルバムはオリコン初登場1位を獲得し、約4年振りに「LIVE TOUR 2012“The beginning”~はじまりのとき~」を実施。
2014年6月にはNHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」の主題歌「にじいろ」をリリースし、現在では総DL数100万を突破!ロングヒットを記録中。
2016年2月1日にデビュー10周年を迎え、国立代々木競技場第一体育館で一夜限りのメモリアルライブを行った。7月にはベストアルバム「THIS IS ME ~絢香 10th anniversary BEST~」をリリース。
9月から開催した自身最大規模のアリーナツアー「10th Anniversary SUPER BEST TOUR」は大成功を収めた。
2017年5月、10周年イヤーを終え、新たなスタートを飾るシングル「コトノハ」をリリースした。

オフィシャルサイトhttp://room-ayaka.jp

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