モリコメンド 一本釣り  vol. 14

Column

evening cinemaが生み出す心地よい“ネオ・シティポップス”の高いポテンシャルに注目したい

evening cinemaが生み出す心地よい“ネオ・シティポップス”の高いポテンシャルに注目したい

日本の音楽シーンにおいて、数年前からひとつの潮流を作ってきた“ネオ・シティポップス”のムーブメントの成果とは、このバンドの登場を用意したことかもしれない——ちょっと大げさかもしれないが、そんなことすら考えてしまうほどのポテンシャルを持ったバンドだと思う。evening cinema。昨年7月に1stミニアルバム「Almost Blue」でデビューを果たした4人組だ。
 
原田夏樹(Vo,G&Key)、樋川智宏(G)、山本和明(Ba)、アベタイキ(Dr)により2015年に活動をスタートさせたevening cinema。その中心は、大瀧詠一、岡村靖幸、スティーリー・ダンなどをフェイバリットに挙げている原田の楽曲だ。60年代〜90年代における良質のポップミュージックを吸収(特に70年代のAOR、80年代のニューミュージック、90年代の渋谷系)、20代男子特有の瑞々しい感性と的確な編集能力を駆使しながら“2010年代の日本におけるもっとも新しいポップミュージック”へと結びつける彼のソングライティングは、蔦谷好位置氏からも注目されるなど、確実に評価を高めつつある。その最初の代表作とも言えるのが前作「Almost Blue」に収録された「jetcoaster」だろう。J-WAVE「GOLD RUSH」2016年7月度The Hottest Track of The Monthに選出されたこの曲は、ブラックミュージック経由のスムーズなグルーヴとソウルフルなメロディラインがひとつになったミディアムチューン。狂おしい恋愛感情を(あくまでもクールに)描き出すリリック、夏の夜の匂いを想起させる音像を含め、まさに最新型のアーヴァン・ポップと呼ぶべき名曲だと思う。

5月17日にリリースされた2ndミニアルバム「A TRUE ROMANCE」でも、このバンドの突出したポップセンスはしっかりと発揮されている。前作「Almost Blue」ではAOR系のミディアムチューンを押し出していたが、“6通りの恋愛のかたち”をテーマにした本作では、90年代ポップスを基調とした楽曲を軸にすることで、より開かれたポップワールドを体現。コアな音楽ファンだけではなく、現在のJ-POPユーザーにも十分にアピールできる作品に仕上がっている。

本作におけるブライトなポップ感覚をもっとも象徴しているのは、リードトラックの「わがまま」。きらびやかなイメージを描き出すシンセの音色、ソウル、ファンクのテイストを取り入れたバンド・グルーヴ、そして、繊細な気持ちを抱えた恋人たちを描き、“分け合えるよね、たしかに”というフレーズを奏でる歌詞。オーソドックなポップスの要素をバランスよく取り入れつつ、単なる懐かしさだけではなく、“いま”の空気を映し出す楽曲へと昇華するセンスが端的に示されたナンバーと言えるだろう。特に注目してほしいのは、洋楽のエッセンスをたっぷり含んだサウンドメイクと歌謡曲的な手触りを感じさせるメロディラインの組み合わせ方。日本語の響きを重視した歌詞を含めて“日本のポップスの黄金比”と呼ぶべきバランスが実現しているのだ。(ここで思い起こされるのは、かつて大瀧詠一が提唱した「分子分母論」。日本のポップスは海外からの音楽が“分母”になっていて、そのうえに日本語の歌という“分子”が載っているという論理だが、その考え方は「わがまま」にも通じていると思う)

また、原田夏樹のボーカルも強く印象に残る。英語的な発声ではなく、日本語の歌詞を明確に伝える歌い方は、大瀧詠一、山下達郎などを起源とするシティポップスのスタイルを踏襲しつつ、濃密なエモーションと心地よいポップネスをしっかりと共存させている。オシャレな雰囲気に逃げず、まっすぐに歌を響かせようとする彼のボーカルスタイルも、このバンドの大きな武器だ。

そのほかの収録曲もきわめて魅力的だ。軽快なギターカッティングと骨太なリズムセクションとともに“君を攫って飛んでみたい/海辺に沿って夢見てたい”というフレーズが響き渡る「true romance」、“夜間飛行”というテーマ通り、浮遊感と疾走感を共存させたサウンドメイクが印象的な「night flight」、テンションコードを効果的に使った構成、洗練されたボーカルラインを軸にしたロマンティックな失恋ソング「her song」、嫉妬や葛藤に苛まれる日々のなかで“もう聞きたくない 夜景が合う曲だけ流しておいて”と願う「lonely night」、そして、彼女にまつわる悲しい思い出をノスタルジックに映し出す「傷痕」。恋愛における様々な感情をリリカルに描き出すソングラインティング、生々しいライブ感を残したサウンドメイクもさらに向上しているようだ。
 
「ex PoP!!!!! Vol.97」(5/25 渋谷TSUTAYA O-nest)、「flip-flop」(6/10 江ノ島オッパーラ)に出演するなど、ライブ活動も徐々に増えているevening cinema。“最初からエヴァーグリーン”と言いたくなるような彼らの普遍的なポップソングをたっぷりと味わってほしいと思う。

文 / 森朋之

オフィシャルツイッター@evening_cinema

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