LIVE SHUTTLE  vol. 145

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吉澤嘉代子『獣ツアー 2017』東京公演。“奥さま”に扮し見せた「人を愛しすぎた女性」の物語

吉澤嘉代子『獣ツアー 2017』東京公演。“奥さま”に扮し見せた「人を愛しすぎた女性」の物語

吉澤嘉代子 獣ツアー 2017
2017年5月17日 東京国際フォーラム ホールC

デビュー前からフルアルバム3枚を三部作にすると心に決め、各アルバムのテーマから収録曲に至るまでほぼ決めていたという吉澤嘉代子。2015年の『箒星図鑑』、2016年の『東京絶景』、2017年の『屋根裏獣』と初志貫徹で三部作をリリース。その3作目を受けた今回の『獣ツアー』は、ある意味、初期三部作の集大成とも言えるものとなった。

歌いながらステージから客席に。後半『麻婆』の一場面

ライブは『屋根裏獣』と同じ『ユートピア』からスタート。以前、この曲に対して「自分が作り出した世界に没頭していったら、外に出る扉が見つけられたような曲」と言っていたが、現実の世界からライブという非現実の時間に足を踏み入れた観客にとっては、まさに吉澤嘉代子の世界に誘われた瞬間だったと思う。

このあとすかさず、往年の海外ドラマ『奥さまは魔女』をパロディー化したナレーションが差し込まれる。「奥様の名前は嘉代子」に続いて「ただひとつ旦那さんを愛していること以外に………」という、ドラマのお決まりの台詞が流れると同時に、この日のライブのスタイルもなんとなく了解できる仕組みとなっていた。そもそも吉澤嘉代子のライブは曲とMCで構成されることより、寸劇を軸にライブが進められることのほうが多い。この日も、そういうスタイルでのライブになる、それもおそらく「人を愛しすぎた女性」の物語になるのだろう、ということがここでさり気なく提示された。

「あたし、あの人がだ────い好きっ!」の台詞を受けての2曲目は、いったい何回「ラブ」を言えば気がすむのかというくらい「ラブ」を連発する『ラブラブ』(1stミニアルバム『変身少女』収録)。この展開、小気味いいほど寸劇とのつながりがよかった。かと思った矢先に、こんどは『ねえ中学生』。この曲で、無邪気さと毒がほどよく混じった少女の心の裏側をチラ見せしておく、なんていうのも非常に気が効いている。

ここでステージに置かれていた黒電話に、姑から電話がかかってくる。この傍若無人な電話のベル音は効果絶大。しかも口うるさい姑との寸劇が、また面白い。電話を切ったあとの「ったく、ババァがうるせーんだよっ。ビート、カモ~ン!」とバンドに演奏スタートの合図を出し、ここで黒いサングラスをかけてBボーイを装いメンバー紹介。可愛らしい声で慣れない「いかしたメンツを紹介するYOー!」「こいつはマジでヤバいYOー!」などとワルっぽく言う姿が、ちびっ子ギャングのようでなんともラブリーだ。

お次はモードが一転、聴かせる曲が数曲続く。ラップ風の歌い回しと貫禄のあるフェイクも魅力的な『えらばれし子供たちの密話』、大瀧詠一の『さらばシベリア鉄道』へのオマージュだという『屋根裏』、ドレッサーの前に座っておとぎ話とは別の結末を歌う『人魚』。いずれも無垢ゆえの脆さと強さが同居したボーカルに、すっかり魅了された。

3度目の寸劇のテーマは女性にありがちな陰口。姑と義理の姉が「あの子、ダメねぇ~~」「ウチの家系にはあわない感じよ」と言い合ってるという仕立て。(その様子は、今回は演奏されなかった『なかよしグルーヴ』を彷彿とさせられる。女性の黒さを実によく表した曲なので、ご興味のある方はぜひご一聴ください)そんな陰口を吹き飛ばすように、キラキラポップの『綺麗』が演奏される。しかし何度聴いても、この曲のサビの広がりは本当に心地いい。また、ふてくされた女の子の感情をここまで可愛く描いた曲も他にない。と、再認識しながら聴き惚れていたら──。

いきなり鳴り響く雷鳴とともに寸劇がスタートする。「ダーメ、ダメダメ!」とこだまする声に、心が引き裂かれていく奥様の嘉代子。そこで夫が冷たく言い放った「ダメだな……、おまえ」の一言が引き金になり、真っ赤に点滅する光のなか、ついに夫を殺めてしまう。その夫の首を入れたボストンバックを片手に、ライブは『地獄タクシー』へとつながっていく。言葉を投げ捨てるように声を張り、アンニュイな雰囲気を漂わせたこの曲は、この日のハイライトと言っても過言ではない素晴らしさだった。

『地獄タクシー』のあとは再び寸劇。「東京都世田谷区で男性が死亡。連絡のとれなくなっている妻がなんらかの事情を知っていると思われます」という夫殺しのニュースに続いて、♪ぼうや~でお馴染みの日本昔話タイムが始まる。歌われる曲は、もちろん♪昔々 支那の片田舎で~~~から始まる『麻婆』。花柄のワンピースからゴールドのワンピースに着替えて、中国の春節などで見かけるドラゴンを従えて登場するや、歌いながらステージから客席に。ドラゴンと一緒に1階席を一回りして、場内を盛り上げる。

ライブの終盤はファンタスティックな作り。夫との出会いを回想する寸劇をはさんで、『カフェテリア』をアコギのみのバックで披露し、そのままピアニカとウッドベースが印象的な『ぶらんこ乗り』に続いていく。この2曲のつながりは、もう本当に鳥肌ものだった。『カフェテリア』を聴いてから聴く、愛し合いながらも報われなかった2人が輪廻転生して再び出会う物語である『ぶらんこ乗り』の、悲しくも美しい調べには言葉もなかった。ファンタジーでありながら心情的には現実以上に現実という、怖いほどのリアリズムを感じさせられた。

そういう心の下準備も万全に整ってから聴いた本編ラストの『一角獣』は、もちろん言うまでもなく素晴らしかった。心から愛したから殺めるしかなかった、その心情がこの『一角獣』に静かに流れ込んでいるように感じられた。えてして、ありのままを歌えばリアルと思いがちだけれども、ファンタジーのなかにていねいに描き込まれた現実は、リアルの上をいくリアルとなる。そういう、ファンタジーの凄みを味わわされた曲だった。

ライブ本編はMCを一切はさまず歌と寸劇で物語を進めた吉澤嘉代子だが、アンコールで初めて素の状態で「喋るのが苦手なので……」と恥ずかしそうに観客に挨拶。またアンコールでは5月24日に発売される、なんとキャリア初のシングル『月曜日戦争』を披露。現在放送中のバカリズム原作、脚本、主演によるドラマ『架空OL日記』の主題歌でもあるこの曲は「日々戦うOLを宇宙戦士」になぞらえた、ちょっとスペーシーなサウンドが面白いキャッチーな曲。アンコール2曲目は「アルバム3枚を作って、改めて大切な曲と思った」という『ストッキング』。ライブ本編の物語を味わってから聴く『ストッキング』は、少女の頃の希望を愛おしむ気持ちが、いつも以上に切実に伝わってくるものになっていた。

「月曜日戦争」の最新アーティスト写真

最後にもう一度ステージに姿を現した吉澤嘉代子は「もう1回呼んでもらえたら、聴いてもらいたいと思っていました」と、ステージ上の巨大ラジカセにカセットテープを入れた。流れてきたのは1stシングルのカップリング曲で高校の頃に書いたという『フレフレフラレ』のカラオケ。それをバックに歌いながら客席に降りた吉澤嘉代子は、2階席にも登場。最後は「終わりました~~!みなさん、気をつけて帰ってくださ~い」という締めの一言で、この日のライブにエンドマークがつけられた。

『屋根裏獣』インタビュー時に、「自分の根底にあったものを三部作で形にできて、なんだか少女時代に対する執着みたいなものが薄らいだ気がします。生ものだったものが自分のなかの素材となって、いつでも使えるモチーフに変わったような」と言っていた吉澤嘉代子。この日のライブを観終えたとき、一番に思い出したのはその言葉だった。心のなかでフリーズドライにされた少女が、音楽というものに触れてほどけていく、その瞬間ともいうべきものがこのライブなのではないかと。というわけで、すでに次の三部作の構想も浮かんでいるという吉澤嘉代子の次なる“妄想”は、いかに……。乗り遅れにだけは気をつけたい、注目すべきアーティストの先行きである。

文 / 前原雅子 撮影 / 田中一人

吉澤嘉代子 獣ツアー 2017
2017年5月17日 東京国際フォーラム ホールC

セットリスト
1.ユートピア
2.ラブラブ
3.ねえ中学生
4.らりるれりん
5.えらばれし子供たちの密話
6.屋根裏
7.人魚
8.綺麗
9.地獄タクシー
10. 麻婆
11. カフェテリア
12. ぶらんこ乗り
13.一角獣
EC1.月曜日戦争
EC2. ストッキング
WEC. フレフレフラレ


吉澤嘉代子
「屋根裏獣」

2017年3月15日発売
初回限定盤(CD+DVD)
CRCP-40497  ¥3,241+税
通常盤(CD)
CRCP-40498  ¥2,778+税

CD
01 ユートピア
02 人魚
03 カフェテリア
04 ねえ中学生
05 屋根裏
06 えらばれし子供たちの密話
07 地獄タクシー
08 麻婆
09 ぶらんこ乗り
10 一角獣
DVD ※初回限定盤のみ
◉「地獄タクシー」MUSIC VIDEO
◉アボカド feat.伊澤一葉 (live at 東京キネマ倶楽部 2016.10.16)「吉澤嘉代子とうつくしい人たちツアー」より収録。
◉東京絶景 feat.曽我部恵一 (live at 東京キネマ倶楽部 2016.10.16)「吉澤嘉代子とうつくしい人たちツアー」より収録。

その他の吉澤嘉代子の作品はこちらへ

ライブ、イベント情報

【吉澤嘉代子 「月曜日戦争」 発売記念インストアイベント】

5月24日(水)19:00 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
イベント内容:サイン&チェキ会

5月25日(木)18:30 タワ-レコ-ド名古屋パルコ店 店内スペース
イベント内容:サイン&チェキ会

5月26日(金)19:00 HMV&BOOKS TOKYO
イベント内容: サイン&チェキ会 (サイン会ゲスト: たなかみさき)

5月27日(土)19:00 ヴィレッジヴァンガード下北沢店 店内イベントスペース
イベント内容:サイン&チェキ会(衣装:OL)

5月28日(日)14:00 タワーレコード渋谷店B1F「CUTUP STUDIO」
イベント内容:ミニライブ&サイン会

※イベント詳細はこちらhttp://www.crownrecord.co.jp/artist/yoshizawa/whats.html

吉澤嘉代子

1990年6月4日、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街育ち。 
父の影響で井上陽水を聴いて育ち、16歳から作詞作曲を始める。 
ヤマハ主催”The 4th Music Revolution” JAPAN FINALにてグランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。
2016年、2nd アルバム『東京絶景』をリリース。自身初となるホールツアーを全国7箇所にて実施。国際フォーラムCでの公演を成功させた。
2016年夏、「ROCK IN JAPAN .FES 2016」、「SWEET LOVE SHOWER」など大型フェスヘ出演決定。
私立恵比寿中学、南波志帆らへの楽曲提供も行う。

オフィシャルサイトhttp://yoshizawakayoko.com

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