LIVE SHUTTLE  vol. 144

Report

HEATWAVE 今しか鳴らせないR&R。同じ演奏を二度としないバンドが見せる瞬間の煌めき

HEATWAVE 今しか鳴らせないR&R。同じ演奏を二度としないバンドが見せる瞬間の煌めき

ニューアルバム『CARPE DIEM』の発売を記念して行われたHEATWAVEのツアーファイナル。その日その場所でしか生み出せない演奏ができる数少ないバンドだ。「38年のバンド人生を賭けて、たったひとつのことを歌ってきた」とボーカル・山口洋がMCで語ったように、初期の曲から最新の曲まで1本の道に貫かれながら、この瞬間にしか生まれない進化と深化を遂げた曲が、今この時代に生きる私たちに寄り添い励ましてくれた一夜の様子を。

文 / 平山雄一 撮影 / 三浦麻旅子


HEATWAVE new album tour 2017 “CARPE DIEM” 2017年5月11日@渋谷duo MUSIC EXCHANGE

リリースされたばかりの『CARPE DIEM』は、その名のとおり日々を懸命に生きるというHEATWAVEのテーマに貫かれたアルバムだ。それを掲げて福岡、大阪を駆け抜けたツアーも、この日が最終日。渋谷duo MUSIC EXCHANGEには、バンドの旅の終着点を見届けようというオーディエンスたちが待ち構えていた。オーディエンスの年齢層は30~50代で、男女がほぼ半々。HEATWAVEと歴史を共有してきた音楽好きの強者たちだ。

予定の時間がくると、山口洋(vocal、guitar)、渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)、池畑潤二(drums)の4人のメンバーがステージに登場。温かい拍手が彼らを迎える。

山口は白いテンガロンハットをかぶっている。彼の抱える愛用のグレッチのギターの臙脂色に、よく映えている。そのギターを山口は、心にまかせて弾き始めた。短いリズムセッションのあと、「NO FEAR」のイントロのコードを刻み出すと、オーディエンスから歓声が上がる。この夜のライブはそこから始まった。

「NO FEAR」は、山口のアイルランドなどへの旅から生まれた曲で、20年以上前に発表された。山口は「Hey boys! Hey girls!」と会場に呼びかける。目の前にいるオーディエンスたちに、歌で挨拶しているのだ。ラフで力強い歌声に、僕の心がザワザワしてくる。「君の旅が今、始まるよ」と告げる歌詞に、僕の中の何かが反応したのだ。

続く「明日のために靴を磨こう」は、「NO FEAR」よりもさらに前にリリースされた楽曲だ。ニューアルバムのツアーの前半に、こんなに懐かしい歌が並ぶとは思っていなかったから、少々面食らった。しかし演奏しているメンバーたちに、ノスタルジーは微塵もない。ずいぶん前に作られた歌であっても、今、ここで生まれたように全力で演奏する。その気合いに圧倒されたオーディエンスが、歌の終わりでやや遅れて拍手をすると、山口が「しだれ柳のような拍手をありがとう」とちょっぴり皮肉を利かせたお礼を述べる。我に返ったオーディエンスたちが笑った。

序盤は、そうした曲でバンドのメンバー同士が呼吸を合わせていく。渡辺のスウィングするベースに乗って語るように歌う「MR.SONGWRITER」でバンドの呼吸が整い、HEATWAVEの離陸の準備が整った。

そのとき、僕の脳裏に、読んだばかりの本の一節がよぎった。この日の前日に発売された北大路翼の句集『時の瘡蓋(かさぶた)』に収録されている、「ふるさとのない人が飲む麦茶かな」という一句だった。翼は期待の若手俳人で、彼の俳句は、終わりのない旅を描く山口の歌との共通点が多い。麦茶は夏の季語で、手軽な飲み物ながらどこか郷愁を誘うニュアンスがある。麦茶とHEATWAVEの取り合わせに、僕は思わず「ふふふ」と笑った。

「新しいアルバムが出たとです。タイトルの『CARPE DIEM(カルペ・ディエム)』は博多弁で“今を生きる”っていう意味!……ここで笑ってもらわないと」と山口。「メンバーの年齢を足すと200歳を超えたバンドが、やっと気がついたとです。俺たちはロックンロールやって生きてるんだよ。みんな、サポートしてくれて、ありがとう!」

アコースティック・ギターに持ち替えた山口は一段、ギアを上げる。次は『CARPE DIEM』からの「Blind Pilot」だ。ニューアルバムのオープニングを飾るこの曲は、山口がアメリカで出会った盲目の女性スキーヤーからインスピレーションを受けて作ったものだ。「明日はどうなるかわからない時代だから、その運命を受け入れて、盲目のまま飛行機を操縦するのも悪くないなと思った」と山口が歌う前に語ったように、イメージが大きく広がっていく歌に、会場が明るく浮き立つ。軽快に歌う山口のメロディを、引き継いで奏でる細海のキーボード・ソロがいい。山口のギターの音色を真似たシンセが、美しいラインを描く。まるでアコギに持ち替えた山口の気持ちを代弁するようなソロだった。すかさず山口が叫ぶ、「キーボード、細海魚!」。オーディエンスが細海に熱い拍手を贈る。

次の「Hotel Existence」も『CARPE DIEM』からの曲だ。こちらは「Blind Pilot」とは対照的に、シブくて落ち着きのある8ビートが基調になっている。「生きながら 嘆いて 死んでいるよりは いつだって理不尽の向こう側をゆけ」と歌う強靭な歌詞に、ぴたりと寄り添う池畑のドラムがいい。ただじっと聴いているだけで、心に入ってくる。この「Hotel Existence」が、僕にとってこの日のベストだった。

再び、翼の句が思い浮かぶ。「滝壺を持たない滝や自爆テロ」。理不尽の向こう側には、何があるのだろうか。

細海のシンセが造る幻想的な空間が印象的な「GIRLFRIEND」を歌い終わって、山口は小さな声で「ロックンロール」とつぶやく。そのまま「出発の歌」へ入っていく。光の粒のようなアコギの音色に合わせて、池畑は柔らかい音のする“マレット”でドラムを叩く。渡辺は通常のベースではなく、歌をサポートするようにカウンター・メロディを弾く。細海はといえば、カントリー・ミュージックで使われる楽器“ペダル・スティールギター”のサウンドをシンセで再現する。男のロマンと言っては陳腐だが、いぶし銀のような演奏に感極まったオーディエンスが、「フォーッ!」っと奇声を上げる。その気持ちが、僕にはよくわかった。 

山口は楽器をアイリッシュ・ブズーキに持ち替える。僕はブズーキを弾く山口が好きだ。「日本で最初に作られたブズーキです。愛称はブズくん!」と山口が嬉しそうに愛器を紹介する。それもそのはず、アイリッシュ・ミュージックを愛する山口が、信頼する日本のギター職人と一緒に作ったというブズーキだ。

「38年のバンド人生を賭けて、たったひとつのことを歌ってきた。これからも、それでいいかな?」と山口が問いかけると、客席から賛同の拍手が起こる。山口の言うたったひとつのこととは、『CARPE DIEM』=日々を懸命に生きるということ。山口は実に38年間、このことだけを歌ってきた。

それは楽器を替えても同じで、レゲエタッチの「ガーディアン・エンジェル」も「荒野の風」も、それぞれの角度からそれぞれの自由を歌う。特に「荒野の風」では山口の声がよく伸びて、オーディエンスは身体を揺らして楽しむ。曲の後半では、立ち上がってアコーディオンを弾く細海がリードして、フロアがアイリッシュのリズムで踊り出した。山口の弾く“ブズくん”が、しっかりオーディエンスを感動に導いたのだった。

本編の最後は、初期のナンバー「馬車は走る」だった。ミディアム・スローのテンポの曲で、初めてHEATWAVEに出会った頃を思い出す。ギター・ソロの途中で、山口が「あの頃より、少し自由になった気がするよ」とコメント。曲の最後でメンバー全員が短いソロを取って終わった。

アンコールでは「最終日だから一曲多くやります」と、まずは小学生の頃から好きだったというカントリー界の大御所ハンク・ウイリアムズの「LOST HIGHWAY」を歌う。「この歌を歌うのがずっと夢だった。今日、その夢がかなった。立ち会ってくれてありがとう」とオーディエンスに感謝を述べる。もしかすると、この夢の実現に合わせて、山口はテンガロンハットをかぶってきたのかもしれない。

そして「29歳のときに書いたこの曲が、今の俺たちを励ましてくれてる」と言って「オリオンへの道」。この曲は現メンバーで再録されて『CARPE DIEM』に収められている。

さらにダブル・アンコールで戻ってきた山口が、歌う前に話し出す。

「昨日、福島のある女の子から、山口さんと中川(注:ソウル・フラワー・ユニオンのリーダーで「満月の夕」を山口と共作した中川敬)さんと一緒に、この歌を歌いたいと連絡があった。ハブとマングースみたいな2人に声をかけてくるなんて、勇気があるね(笑)。でもこの歌は、もう俺たちだけのモノじゃないから、その女の子に届くように歌います」と、思いを込めて「満月の夕」を歌った。そのとき、また翼の句が浮かんだ。「被災者をからかつて抱くぎゆつと抱く」。

山口は年内に新しい作品を発表し、ツアーに出ることを約束してステージを去った。理不尽の向こう側を目指す旅のエネルギーをもらった僕らオーディエンスも、帰途についた。空を見上げると、5月の満月が輝いていた。

HEATWAVE new album tour 2017 “CARPE DIEM”
2017.5.11@渋谷duo MUSIC EXCHANGE SET LIST

M01. NO FEAR
M02. 明日のために靴を磨こう
M03. POWER
M04. TOKYO CITY HIERARCHY
M05. MR.SONGWRITER
M06. Blind Pilot
M07. Hotel Existence
M08. GIRLFRIEND
M09. 出発の歌
M10. ガーディアン・エンジェル
M11. 荒野の風
M12. 新しい風
M13. 馬車は走る

EN01. LOST HIGHWAY
EN02. オリオンへの道
EN03. STILL BURNING
EN04. 満月の夕

ライブ情報

MY LIFE IS MY MESSAGE LIVE2017 @東京・南青山MANDALA
6月13日(火)古市コータロー(THE COLLECTORS)×山口洋
6月14日(水)池畑潤二 with 山口洋 Specialセッション
6月15日(木)仲井戸“CHABO”麗市×山口洋 with 細海魚
6月16日(金)矢井田瞳×山口洋 with 細海魚
6月17日(土)矢井田瞳 with 大宮エリー Specialセッション
詳細はこちら

山口洋solo acoustic tour 2017『YOUR SONG』
7月12日(水)大阪 南堀江 knave
7月14日(金)小倉 GALLERY SOAP
7月15日(土)広島 音楽喫茶 ヲルガン座
7月17日(月・祝)福岡 ROOMS
7月20日(木)名古屋 TOKUZO
7月21日(金)京都 coffee house 拾得
7月23日(日)長野 ネオンホール
7月26日(水)東京 STAR PINE’S CAFÉ
7月28日(金)仙台 Jazz Me Blues noLa
7月30日(日)千葉 Live House ANGA
詳細はこちら

山口洋 緊急ナイト
6月27日(火)新宿レッドクロス

山口洋 仙台・Mix Up&Blend
7月1日(土)Club Junk Box Sendai

山口洋「満月の夕を福島で。」
7月9日(日)猪苗代野外音楽堂

MY LIFE IS MY MESSAGE [山口洋×仲井戸“CHABO”麗市×宮沢和史] RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO 
8月12日(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

HEATWAVE

山口洋(vocal、guitar)、渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)、池畑潤二(drums)。1979年、福岡にて山口洋を中心に結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。2003年より、現在のメンバーで新生HEATWAVEの活動を開始。5月17日には、結成38年目、2年半ぶり14枚目のオリジナル・アルバム『CARPE DIEM』がリリースされたばかり。また、山口が東日本大震災後続けている、福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”では、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと共に、6月に南青山MANDALAで5日間のライブを開催する。2016年4月に熊本を襲った地震を受け、FMKエフエム熊本で毎月第4日曜日(20時~)「MY LIFE IS MY MESSAGE RADIO」をオンエア、DJを務める。

HEATWAVEオフィシャルサイト

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