山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 13

Column

「BLACK AND BLUE」 とラジオという魔法の箱/ザ・ローリング・ストーンズ

「BLACK AND BLUE」 とラジオという魔法の箱/ザ・ローリング・ストーンズ

1976年夏。九州の小さなまちと世界を繋いだ魔法の箱から流れてきたR&R。
そのイントロのギターが脳天を突き抜けた日、少年の人生は違う方向へと転がり始めた。
14thアルバム『CARPE DIEM』も好評、HEATWAVE 山口洋が書き下ろす連載エッセイ。


1976年、僕は中学1年。田舎の少年と世界を繋ぐものはラジオしかなかった。いつか九州という島を出るつもりだったけれど、ラジオから流れてくる音楽は、いつだって未知の世界を想像させてくれた。

魔法の箱、ラジオ。もっと世界が知りたかった。僕は貯金をはたいて高性能のラジオを買った。そして山に入り、大きな竹を数本切りだした。それらを組み合わせ、銅線を張りめぐらせ、巨大なアンテナを作り、世界中のラジオを聴いた。ほんとの話だよ。うまく条件が整えば、ヨーロッパはおろか、南米の電波まで聞くことができた。たぶん、変わった子供ではあったけれど、今みたいにネットで簡単に情報が手に入らないのも、それはそれで愉しかった気がする。苦労して手にした情報は簡単には忘れない。

ある土曜日の午後(そういえば、猪木とアリが闘ったのも土曜の午後だったな)、『DIATONE ポップスベストテン』という番組からストーンズの「HOT STUFF」が流れてきた。DJはシリア・ポールさん。

キース・リチャーズが刻むイントロのギター。その瞬間にすべてが変わった。ほとんど天啓と云ってもいい。脳天まで衝撃が突きぬけた。まだ僕はギターを始めていなかったけれど、とんでもないものを聴いてしまった。ロックンロールに貫かれた瞬間。竹のアンテナを張って探していたのは、間違いなく、これだった。そこから、音楽とガールフレンドのこと以外はすべてどうでもよくなっていった。

「HOT STUFF」はチャートの1位。芳醇な時代だった。収録されたアルバム『BLACK AND BLUE』は2500円。欲しくてたまらないけれど、僕の小遣いは月に500円。つまり5ヵ月分。そんなに待てるはずもない。僕はパン工場に潜りこんで働いた。労働基準法違反? 知らないよ、そんなこと。日給2800円で、僕は晴れて『BLACK AND BLUE』を手に入れることに成功した。悪魔に魂は売らなかったけれど、ロックンロールの乗車券は買ってしまった。もう戻れないさ。

そのたいせつな一枚をいったいどれだけ聞いたことだろう。なにせ、自分のレコードは数枚しか保有していない。何度聞いても飽きなかったし、この乗り物に乗ってしまったら、教師にいくら脅されても、怖くはなかった。これ以上に僕を高揚させてくれるものは、世界にガールフレンドを除いて他にはないんだし。

永遠なんだ。「HOT STUFF」のイントロを聞けば、いつだってあの土曜の午後にワープする。「MEMORY MOTEL」を聞けば、あの娘と歩いた砂浜の感触が蘇る。「CRAZY MAMA」はギターを弾きたいと思った衝動の原点へと連れていってくれる。何ひとつ変わることなく、今もこのアルバムは僕のこころと身体に棲んでいる。細胞レベルで。

同じ年のPAエンジニアはリファレンス(スピーカーをチューニングすること)時にこのアルバムを使っていた。僕もこのアルバムを聞けば、そのスピーカーがどのような特性なのか瞬時に理解できる。つまり、僕らにとっては音楽のグリニッジ標準時でもあるのだ。

続いて発表された『LOVE YOU LIVE』(1977年)、『Some Girls』(1978年)、『EMOTIONAL RESCUE』(1980年)、『TATOO YOU』(1981年)。ここまでの5枚に圧倒的な影響を受けた。何より、同じ時代を生きていたのだ。多感な時代に、自分の成長とともに。

つい先日。ロックフェスの打ち上げで、某ミュージシャン、友人とこのアルバムを聞いた。まったく色褪せないどころか、41年経過しても今の音楽として響いてくる。つまり僕らがそれぞれに衝撃を受けた「あの瞬間」は何も間違っていなかった。

今や送り手となって、ラジオのDJをやらせてもらうとき。「あの瞬間」だけは忘れないようにこころがける。何処かで誰かが聴いていてくれる。ひょっとして、誰かの人生を左右するだけの力が音楽にはあるのだから。

来週のオンエア、1曲目は「HOT STUFF」にした。しかも、僕が1976年にパン工場で働いて買ったあのアナログ盤で。41年をかけた円環。悪くないと思うんだ。

感謝を込めて、今を生きる。

ザ・ローリング・ストーンズ:1962年、ロンドンで結成。翌1963年にシングル「COME ON(カム・オン)」でデビュー。当時のメンバーはミック・ジャガー(vocal)、キース・リチャーズ(guitar)、ブライアン・ジョーンズ(guitar)、ビル・ワイマン(bass)、チャーリー・ワッツ(drums)。「SATISFACTION(サティスファクション)」「PAINT IT, BLACK(黒くぬれ)」「LET’S SPEND THE NIGHT TOGETHER(夜をぶっ飛ばせ)」等ブルース/R&BをルーツにしたR&Rでザ・ビートルズに比肩するバンドに。1968年発表の「Jumpin’ Jack Flash(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)」が大ヒット。翌年ジョーンズが脱退、ミック・テイラーが加入。「Honky Tonk Women(ホンキー・トンク・ウィメン)」「BROWN SUGAR(ブラウン・シュガー)」「TUMBLING DICE(ダイスをころがせ)」「IT’S ONYL ROCK’N ROLL(イッツ・オンリー・ロックンロール)」等、後のステージの定番となる代表曲を発表。1976年、テイラーが脱退、ロン・ウッドが加入し、アルバム『BLACK AND BLUE(ブラック・アンド・ブルー)』を発表。その後も不変のスタイルに時流も巧みに取り入れつつ、「MISS YOU(ミス・ユー)」「START ME UP(スタート・ミー・アップ)」等のヒット曲を連発。1993年、ビル・ワイマンが脱退したあとも大規模なワールド・ツアーをコンスタントに実施。2016年12月には11年ぶりのアルバム『BLUE & LONESOME(ブルー&ロンサム)』をリリースした。2017年6月7日、1972年の北米ツアー『LADIES & GENTLEMEN(レディース&ジェントルメン)』を日本先行で初CDリリースする。
UNIVERSAL MUSIC JAPAN ウェブサイト

『BLACK AND BLUE(ブラック・アンド・ブルー)』

1976年発表
UICY-78089 ¥1,500(税込)
詳細はこちら

『BLUE & LONESOME(ブルー&ロンサム)』

2016年12月2日発売
UICY-15588 ¥2,700(税込)
詳細はこちら

ザ・ローリング・ストーンズの楽曲

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

photo by Mariko Miura

1963年福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。
1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーをはじめ海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(Bass)、細海魚(Keyboard)、池畑潤二(Drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。5月17日には待望のニュー・アルバム『CARPE DIEM』をリリース。

ALBUM『CARPE DIEM』

2017年5月17日発売

東日本大震災後立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”のライブを6月に南青山MANDARAで開催。

MY LIFE IS MY MESSAGE LIVE2017 @東京・南青山MANDALA
6月13日(火)古市コータロー(THE COLLECTORS)×山口洋
6月14日(水)池畑潤二 with 山口洋 Specialセッション
6月15日(木)仲井戸“CHABO”麗市×山口洋 with 細海魚
6月16日(金)矢井田瞳×山口洋 with 細海魚
6月17日(土)矢井田瞳 with 大宮エリー Specialセッション
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7月12日大阪を皮切りにスタートするソロ・ツアーは、全曲リクエスト曲で構成する。第2弾リクエスト受付は7月1日〜9日。

山口洋(HEATWAVE)solo acoustic tour 2017『YOUR SONG』
7月12日(水)大阪 南堀江 knave
7月14日(金)小倉 GALLERY SOAP
7月15日(土)広島 音楽喫茶 ヲルガン座
7月17日(月・祝)福岡 ROOMS
7月20日(木)名古屋 TOKUZO
7月21日(金)京都 coffee house 拾得
7月23日(日)長野 ネオンホール
7月26日(水)東京 STAR PINE’S CAFE
7月28日(金)仙台 Jazz Me Blues noLa
7月30日(日)千葉 Live House ANGA
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また、その他のイベントにも出演する。

Mix Up & Blend
7月1日(土)Club Junk Box Sendai

「満月の夕を福島で。」
7月9日(日)猪苗代野外音楽堂
詳細はこちら

RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO
8月12日(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ〈北海道小樽市銭函5丁目〉
*MLIMMとして仲井戸“CHABO”麗市、宮沢和史とともに出演決定!
詳細はこちら

FMK エフエム熊本で毎月第4日曜日(20時〜)『“MY LIFE IS MY MESSAGE RADIO』をオンエア中。

HEATWAVEオフィシャルサイト

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