原田泰造xコトブキツカサの<試写室噺(ばなし)>  vol. 10

Interview

興味をそそる設定で大ヒット2作!「誘拐された女子高生3人vs23人格」vs「イタリア人がこだわる終身雇用」

興味をそそる設定で大ヒット2作!「誘拐された女子高生3人vs23人格」vs「イタリア人がこだわる終身雇用」

興味をそそるモチーフと、鮮やかなドンデン返しを武器に、オリジナリティ溢れる作品を放ち続けるM.ナイト・シャマラン監督の最新作『スプリット』。そして、イタリアで大ヒットを飛ばした国民的コメディ作『viva!公務員』。まったくタイプの違う両作品について、原田泰造さんとコトブキツカサさんが独特の視点で語り尽くします!


原田 「誘拐された女子高生3人vs23人格」。この謳い文句だけで興味を誘うよね。

コトブキ タイトルが『スプリット』、分裂っていう意味。この時点でシャマラン監督ならではの仕掛けが始まってますよね。

原田 内容は何もわからないいまま観はじめたんだけど、多重人格モノだったからドキドキした。僕は昔からビリー・ミリガンに興味を持っていて、彼の映像をよく観ていたんだよ。

コトブキ ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』で有名になった、実在の多重人格者ですね。

原田 実際に人格が変わる瞬間の映像を観たことがあるから、この作品でそのシーンを演じたジェームズ・マカヴォイの上手さがすごくよくわかった。このケイシー役の女優さんもすごい演技だったよね。目がすごく印象的で、魅力的だった。

コトブキ アニヤ・テイラー=ジョイですね。この作品で注目が集まってるみたいですよ。

原田 シャマランってスゴいなって思うのが、回想シーンを挟みながらケイシーの人生を見せていくじゃない。映画としては、多重人格者の狂気や怖さで充分なんだけど、この子は何者なのかっていうことをずっと見せながら進んでいく。

コトブキ ケイシーが小さい頃に狩りをしていた回想シーンが出て来るんですけど、そこで何か特殊な経験をしているとか、サバイバル能力が身についてるとか、そういうことだと思わせておきながら…。

原田 それじゃないんだよね。あれはダマされるよ。それにケイシーが一緒に誘拐された女の子に「おしっこしちゃいなよ」って言うシーンがあるじゃない? あのセリフと行動だけで、なにかを秘めてそうな印象を与えるし、後から考えると深いんだよね。

コトブキ 精神家の先生を演じたベティ・バックリーの演技も凄かったですよね。

原田 この先生は上手かった! 先生とマカヴォイが話すシーンとか常に緊張感があって、ドキドキする。マカヴォイはバリーという人格で話してるんだけど、本当は違う人格がバリーを演じてるんじゃないかっていうシチュエーションで。

コトブキ ただの多重人格じゃなくて、Aという人格がBを演じてるかもっていう、ちょっと複雑な構造になってますよね。

原田 ビリー・ミリガンがそうだったんだよ。最初に捕まったときは12人格だと思われてたんだけど、話を聞いてたら疑問点がたくさん出てきて、調べ直したら24人格だった。そのあたりがヒントになってるかもしれないね。

コトブキ やっぱり多重人格っていうのは、役者の方は演じたがるものじゃないですか。プレッシャーもあったと思いますけど、マカヴォイは顔だけじゃなく肉体まで含めて本当にそう見えた。

原田 瞬間的にどんどん人格を変えていくなんて、落語家でも難しいと思うんだよね。これは演技力も必要だけど、一人ひとりの人格をちゃんと設定して、絞り込んでいかないとできないことなんだと思う。映画だと人格が変わると服装や小道具も変わるんだけど、役者さんにとってはちょっと悔しいというか、肉体だけで演じ分けたいっていう想いもあったかも。

コトブキ 映画としてわかりやすくするためには見た目も替えなきゃってことなんでしょうね。いきなり女装してくるほうが不気味さが増しますから。

原田 怖さの演出っていうことだよね。冒頭の拉致されるシーンも、ガーンって襲ってくるんじゃなくて、自然に車に乗ってくるんだけど、あのほうが不気味だし、本当に怖かった。

コトブキ シャマラン映画は独特の緊張感があるし、ドラマ性も深いから高尚な映画作家みたいなイメージもありますけど、インタビューでは「スピルバーグに憧れてた」って言うくらい、ゴリゴリのエンタテイメント派なんですよね。やっぱりお客さんを怖がらせたい、驚かせたいっていういう意識が強いんだと思いますよ。

原田 お客さんを驚かせようっていうのは、映画の作り手はみんな持ってると思うんだけど、シャマランはそれだけじゃない部分もあるから、考えさせられるし、ワクワクするんだよね。

コトブキ 映画のオチだけ聞いてもダメなんですよね。僕、マジシャンの種明かしが好きだったんですよ。でも、聞いてもあんまり大したことがない。やっぱり種だけ知っても面白くないんですよね。

原田 すごいマジシャンは、右手で種明かしするって注目させておいて、左手でもっとビックリさせることをやる。シャマランもそういうところがあるよね。この映画も観終わったあとに、これはもしかしたらケイシーの話だったんじゃないのかなって考えさせられる。彼女こそ、いろんな経験をして本当はどこかで別の人格を作っているかもしれない。そうやって考えはじめると落ち着かなくなって、ちゃんとこの映画を理解してるのかも分からなくなってしまう。

コトブキ 僕もシャマランの意図を全部把握しているかは分かりません。最後の方でケビンが列車に乗る所で、ちょっと分からない点があったので試写終わりに宣伝の方に聞いたんですが、その方も分からなかったんです。まぁ、そうやって深く考えている時点でシャマランにのせられているんですけどね。

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