Interview

「強者に突っかかっていきたい」―村上虹郎『武曲 MUKOKU』で際立つ野性的存在感

「強者に突っかかっていきたい」―村上虹郎『武曲 MUKOKU』で際立つ野性的存在感

剣を棄てた男と剣に出会った少年との宿命の激闘、二つの彷徨える魂の破壊と再生の物語を、監督の熊切和嘉やプロデューサーの星野秀樹をはじめ、各界の異才が集って紡ぎ出した映画が『武曲 MUKOKU』だ。
そこで綾野剛演じる〈研吾〉と渡り合う高校生剣士〈融〉を演じているのが、日本映画界を担う若手俳優として大きな注目を集めている、村上虹郎。
まだあどけなさの残る、端正で野性味あふれるルックス。ピュアで繊細ながらも圧倒的な存在感で見事に〈融〉を体現。激しく燃えさかる魂をスクリーンに焼き付けた彼に、映画『武曲 MUKOKU』について、熱い思いを語ってもらった。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 相馬ミナ


僕はいろんなことから逃げちゃう癖があるけど、映画は唯一立ち向かえる場所

今回、村上さんが演じられた〈融〉は、ラップのリリック作りに夢中の今どきの高校生ながらも、実は内面に爆弾のような衝動を秘めた、ある種、他の同級生とは違う地平で生きている男の子ですね。

ラップに興味を持つ高校生はいても、〈融〉のように言葉に興味をもつ(※〈融〉は剣道の師範「雪峯」の発する剣の道の言葉に心惹かれ、何の興味もなかった剣を習うことになる)高校生はなかなかいないですよね。でも、僕は不思議なことに〈融〉の気持ちがすごくわかるんです。僕自身、十代の頃に意味のわからない言葉を連ねたくなる時期があって、それって周りからみると異様な人に見えるし、実際〈融〉も友達から気持ち悪いって言われるんだけど、彼は仲間が離れていくことも結構どうでもいいというか、それよりも自分の信じるものを見たい、知らないことを知りたいという気持ちの方が勝ってる。ある意味、すごくシンプルな人間だと思いますね。

「現代の侍の物語」とでもいうか、〈融〉は他人から見れば無意味でも、自分が命を賭けられるものを模索している。村上さん自身、そんな彼の姿に共感する部分はありましたか?

そうですね。今の世の中は平和のように見えて、身に迫る危険といえば、せいぜい交通事故か地震ぐらいなんですけど、そういう中で〈融〉という人間はどこか動物的な感覚を持っていて。海で溺れて死を身近に経験したから感じるのかはわからないけど、常に何かに狙われてるとか、弱肉強食の野生動物のように絶対的な上下関係みたいなものを感覚的に知ってる。そういう意味では、自分もけっこう動物的かなって気はするし、でも自意識が強いから、変に考えすぎちゃうところがあって……。等身大の普通の高校生みたいなのを演じるのは苦手だったりするので、逆に〈融〉みたいな人間は自分にとって無理のない役だったというか、人から見れば、「お前、地でやってるだろ!」って言われるほどナチュラルでいられるところはあったかもしれません。

じゃあ、役づくりについても特に悩むことはなく?

剣道については中学までやっていたので、あまり不安はなくて。撮影前に道場に行かせていただいて、5~6年ぶりに竹刀を持ったんですけど、二回目ぐらいで大丈夫って思いましたね。『バガボンド』が大好きなので、もう一回読み返したり……。
今回の映画はロケーションがすごかったんです。特に〈融〉と〈研吾(綾野剛)〉の決闘シーンの舞台にもなる矢田部家の庭、あそこがすごいんですよ。行った瞬間、あ、これはスゴイものができるってわかった。クライマックスの決闘シーンは雨と風の後押しもすごかったですね。10分ぐらい雨を降らせただけで地面がグチャグチャになって、もうこの状況だったら何でもできる気分になった。映画ってやっぱりロケーションが大事だなと思いました。

熊切作品への出演は念願だったそうですが、いかがでした?

めっちゃくちゃ楽しかったです。僕自身、長編映画にがっつり関わる現場が久々で、鎌倉の安宿にずっと泊まり込んで撮影してたんですけど、熊切監督は鎌倉近くに引っ越しちゃってて。この映画のためだけに、そんな人いるんだ!って。もうそれだけで好きになっちゃいます(笑)。
監督からは具体的な演出はあんまり受けた記憶はなくて、勝手に跳ねて勝手に怒って、やりたいようにやらせていただいて。監督も「いいっすねー」って、ニコニコしてて…。僕の両親ぐらいの年の方なのに、僕なんかより子どもの顔をする瞬間があるんですよ。
今回の現場ではカット数が少なくて。カット数が多いのも編集のおもしろさがあると思うんですけど、ワンカットだと役者にすべてを委ねられるんですよね。スタッフさんの準備があってこそできることだろうけど、「ここだ!」とみんなの集中がそこに高まる。その瞬間がなにより気持ちよくて。あの熊切さんの目はそういうことなんでしょうね。

〈研吾〉を演じた綾野剛さんの印象はいかがでした?

熊切さんの映画って、あんまり見た目を作り込むイメージはなかったんですけど、今回綾野さんは肉体を鍛え上げて、内面だけでなくヴィジュアルも含めて〈研吾〉を演じる上で大事なものを作り込んでこられた。そのストイックさにみんなが助けられたというか、優しさとか男気もあるけど、アイデアもすごいある方なんですよ。クライマックスシーンなんかも、こう動くべきだということを直感的にわかっていて、僕も綾野さんによって引き出されたものは少なくなかったと思います。

映画制作に寄せて「研吾にライバル心を持つ融は主人公に想いを寄せるという意味では、本作のヒロイン」というコメントを出されましたが、この二人の他人には理解不可能な絆にも魅了されます。

なかなかこういう出会いって無いと思うんですよ。普段、僕らは理性をもって生きていて、それがダメってわけじゃないんだけど、彼らはそういう境界線を超えて出会ってしまっている。だから宿敵ではあるんだけど、彼らはすごく嬉しいんですよ。動物みたいに出会った途端、ブワーッと鳥肌が立って、毛が全部逆立つくらい。

村上さん自身は、そういう経験は……?

僕はそこまで感情と身体が震え上がるような人間相手って、まだ親ぐらいしかいないかな。親父と母親。この前も海外にいる母親が東京に来ていて、毎度ではないですが僕が感情をぶつけられる人、心を許せる相手はまだ自分には家族しかいないんだなって思いました。身近なリアルな話をするとね。

『武曲 MUKOKU』は、〈研吾〉とその父の確執や、濃密な愛憎を描いた映画でもありますが、村上さん自身はそんな父息子の姿をどう見られました?

いや、怖いなって。僕は〈将造〉(小林薫が演じた研吾の父。剣の達人だった)の気持ちはわからないし、ああはなりたくないなと思いながら生きてますけど、すごい世界に生き、一つの何かを極めた人ではあるし、嫌だと思いながらも、どこかで共感する部分はできていくのかもしれませんね……。

最後に、9月1日(金)公開の主演映画『二度めの夏、二度と会えない君』もバンド少年の役ですが、村上さんの中で音楽への特別な思いはありますか?

音楽は好きだし、僕が映画の世界に入っていった理由のひとつとして、音楽は大きいですね。もともと芝居に興味があったわけではなく、音楽を含めた映像に興味があって。なかでも映画は、いろんな要素が合わさった総合芸術で、各分野の強者が集まって役者をよく見せようと思ってやっている。そこでダメだったら自分はポンコツかよって精神が最近やっと芽生えてきて、強者がたくさんいるなかに突っかかって行きたいわけですよ。僕はいろんなことからサラーッと逃げちゃう癖があるんだけど、映画はそんな自分が唯一、立ち向かえる場所です。

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1997年3月17日生まれ、東京都出身。カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品『2つ目の窓』(14)で主演を務め、俳優デビュー。この作品で高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。最新作として、『二度めの夏、二度と会えない君』(秋公開)、『Amy said』(9月公開)が控えている。
【その他の代表作】映画『さようなら』(15)、『ディストラクション・ベイビーズ』(16)、『夏美のホタル』(16)、ドラマ「仰げば尊し」(TBS)

映画『武曲 MUKOKU』

2017年6月3日公開

海と緑の街、鎌倉。矢田部研吾(綾野剛)は、幼い頃から剣道の達人だった父(小林薫)に鍛えられ、その世界で一目置かれる存在となった。ところが、父にまつわるある事件から、研吾は生きる気力を失い、どん底の日々を送っている。そんな中、研吾のもう一人の師匠である光村師範(柄本明)が彼を立ち直らせようと、ラップのリリック作りに夢中な少年、羽田融(村上虹郎)を送り込む。彼こそが、本人も知らない恐るべき剣の才能の持ち主だった――。

原作:藤沢周『武曲』(文春文庫刊)
出演:綾野剛、村上虹郎
前田敦子、風吹ジュン、小林薫、柄本明
監督:熊切和嘉
脚本:高田亮
音楽:池永正二
配給:キノフィルムズ

オフィシャルサイトmukoku.com

©2017「武曲 MUKOKU」製作委員会

原作小説『武曲』

『武曲』

著者:藤沢周
文藝春秋

これが二十一世紀の剣豪小説だ!
無自覚な天才少年・羽田融とその「殺人刀」の血を恐れる剣道部コーチ矢田部研吾。反発と無視を乗り越えやがて二人は運命の対戦へ。