映画『光』特集  vol. 3

Interview

『光』、カンヌで大喝采!河瀨直美監督が語る、魂を込めて描いた映画愛

『光』、カンヌで大喝采!河瀨直美監督が語る、魂を込めて描いた映画愛

普通ではやらない環境づくりをすることは、存分に力を発揮してもらいたいという願いから

そういうカメラが廻ってない部分での「時間の積み重ね」は、ちゃんと画面に出てますよね。永瀬正敏って誰もが知ってる俳優なのに、『光』の中では弱視のカメラマンの雅哉にしか見えない。よくドキュメンタリーを観ていて、役者でない素人の人が映っていて、その生々しい存在感にドキッとすることがあるんですが、河瀨作品にはそれと同じリアリティがあるように思います。河瀨監督はドキュメンタリーも撮られていますが、劇映画にドキュメンタリーの手法を意識的に持ち込まれているのでしょうか?

そうですね。具体的にいえば、今回はモニター会のシーンに登場する視覚障碍者の中に、ひとりだけ本物の視覚障害者の女性に入ってもらったんです。彼女が映画についていろいろ話すわけですが、その中の「自分たちはスクリーンを観ているんじゃない、映画の中に入って、もっと広い世界を感じている」って言葉は脚本にはない、本当に彼女が美佐子のガイドを聞いて、彼女自身の中から出てきた言葉で、フィクションではないんですね。
もちろん、私の中では彼女がそういうことを言ってくれることを想定してお願いしてるんですけど、でも、言わないかもしれない。私、いま野菜づくりをしてるんで思うんですけど、種を巻いて、どんどん大きくなって、ジャックと豆の木みたいにいっぱい採れるようにと思ってやっても、採れないこともあるし。適切な水と温度と太陽とを与えることで、彼らは能力を発揮して、やがては実が付くわけで、俳優たちも同じように、種のような可能性をすごく持ってるんですけど、そこで最大限の環境を与えられるのと与えられないのとでは、出てくるものは絶対に違うと思う。私が普通ではやらないような環境づくりをするっていうのは、つまりシンプルに言えば、存分に力を発揮してもらいたい、と強く願っているというだけなんですね。

映画「光」メイキングより ©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

水崎綾女さんは個人的に、河瀨作品からはおおよそほど遠いイメージだったのですが、彼女をヒロインに選ばれた理由は?

…挑戦ですね。河瀨組をまったく知らず、今までの作品だとセクシーなイメージが強い彼女ををどう無垢なものにしていくかっていう…。実際、大変でしたが、彼女は阪神淡路大震災を経験している人で、そういうトラウマはどんな形であれ絶対に持ってるはずだから、それは美佐子を演じる上でも重要なキーになるだろうって…。

「映画っていうのは人の人生と繋がっている」

実際に作品を見て、水崎綾女という人のイメージが見事に塗り替えられました。
作中で神野三鈴さんが言われる「映画っていうのは人の人生と繋がっている」というセリフが印象的なのですが、あれは監督自身の思い?

そうですね。「私は演じて、生きて、救われてる。映画っていうのは人の人生と繋がっている」という、あのセリフは神野さんと「私たちが観ている映画っていうものも、自分の生きている人生とはまた別の、もうひとつの人生で、全然知らない人たちが映画館でその人生と向き合うってことは、繋がっていくことなんだろうね」って話しながら、一緒に作ったもので。神野さんの思いもあいまって、大切なシーンになりましたね。

『光』は河瀨監督としては8作目のカンヌ国際映画祭への出品作となります。デビュー作『萌の朱雀』でカメラドールを受賞されて以来、深い関わりを築かれているカンヌとは、河瀨監督にとってどんな存在なのでしょう?

自分を育ててくれた場所だなと思いますし、世界の一流の映画人と出会える場所だなとも思います。映画っていろんなやり方や立場があって、それは一種の競争でもあるし、すごく辛い想いをすることもあるけど、やっぱり基本はみんな映画を愛している。カンヌはそういう本気の思いを肌でヒシヒシと感じられる場所ですね。映画を単なるエンタテイメントではなく、「人生に影響を与えるもの」として敬意を払いつつ、日常的にも楽しめる映画を楽しんでる感じって、やっぱり日本にはない、フランス人特有のものだなととも思いますし、そういう場所に身をおけることはものすごく幸せですね。

最後に、『光』を観る方へのメッセージをお願いします。

『光』を観に来てくださいってことですね。私たち、光がなければ色も形も見えない、なにも認識できない生き物ですから。解釈は人それぞれでいいので、とにかく『光』に逢いに来て欲しいですね。

河瀨直美

映画表現の原点となったドキュメンタリー『につつまれて』(95)、『かたつもり』(97)で、1995年山形国際ドキュメンタリー映画祭国際批評家連盟賞を受賞。1997年劇場映画デビュー作『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞する。2007年『殯(もがり)の森』では同映画祭グランプリを獲得。2009年には、同映画祭に貢献した監督に贈られる「黄金の馬車賞」を受賞し、2013年に日本人監督として初めて審査員を務めた。2014年には『2つ目の窓』がカンヌのコンペティション部門に正式招待を受ける。2015年には仏芸術文化勲章「シュヴァリエ」を叙勲される。CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず表現活動を続ける。
オフィシャルサイトhttp://www.kawasenaomi.com/

映画『光』

5月27日(土)新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国公開

視⼒を失いゆくカメラマンと出逢い、美佐⼦の中の何かが変わりはじめる――
⼈生に迷いながら、単調な⽇々を送っていた美佐⼦(水崎綾女)は、とある仕事をきっかけに、弱視の天才カメラマン・雅哉(永瀬正敏)と出逢う。美佐⼦は雅哉の無愛想な態度に苛⽴ちながらも、彼が撮影した⼣日の写真に⼼を突き動かされ、いつかこの場所に連れて行って欲しいと願うようになる。命よりも大事なカメラを前にしながら、次第に視力を奪われてゆく雅哉。彼と過ごすうちに、美佐⼦の中の何かが変わり始める――。

監督・脚本:河瀨直美
出演:永瀬正敏 水崎綾女

神野三鈴 小市慢太郎 早織 大塚千弘/大西信満 白川和子/藤竜也
製作:木下グループ、COMME DES CINEMAS、組画
製作統括:木下直哉 プロデューサー:澤田正道、武部由実子
撮影:百々新 照明:太田康裕 録音:Roman Dymny
美術:塩川節子 編集:Tina Baz サウンドデザイン:Olivier Goinard
衣装:渡部祥子 ヘアメイク:南辻光宏 ラインプロデューサー:齋藤寛朗
制作担当:越智喜明 助監督:近藤有希
製作:『光』製作委員会 制作プロダクション:組画 制作協力:カズモ
配給:キノフィルムズ/木下グループ 宣伝協力:フリーストーン
©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE
オフィシャルサイトhttp://hikari-movie.com

< 1 2
vol.2
vol.3
vol.4