山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 14

Column

『インディアン・ランナー』/監督としてのショーン・ペンが描く“魂の救済”

『インディアン・ランナー』/監督としてのショーン・ペンが描く“魂の救済”

1991年。バブル期最後の喧噪の中で、ひとり身を潜めるように観た一本の映画。 遥かなる野生の呼び声。狂っているのは社会か、自分か──。
ブルース・スプリングスティーンの一曲から生まれたショーン・ペンの監督デビュー作が HEATWAVE 山口洋にかけた永遠の魔法とは。


1991年。高田馬場にある早稲田松竹という小さな映画館。そこで出会ったひかりを生涯忘れないだろう。

そのひかりの名は『インディアン・ランナー』。問題児、暴れん坊。失礼、名優ショーン・ペン初めての監督作品。興行としては大失敗。けれど、そんなことは重要じゃない。ゴッホの絵が生前一枚も売れなかったのと同じように。

身も蓋もないエンディングとともに、ザ・バンドの「I Shall Be Released」が流れる。長年胸に詰まっていた感情が“Release”されて、流れでて、もう止められなくて、しばらく席を立てなくなる。確かに僕は映画に救われる。僕は一人で、もう独りではない。海の向こうに、同じやるせなさを抱え、それを表現しようとフントーしている人物が居る。その事実はもう一度自分を奮い立たせるには充分だった。

この映画はブルース・スプリングスティーンのアルバム『NEBRASKA(ネブラスカ)』(1982年作品)に収録された「ハイウェイ・パトロールマン」に基づいている。たった5分足らずの曲に、映画1本分の風景が内包されていることに驚くが、シナリオを書き、多額の借金を抱え、大きな組織や名だたる俳優たちを動かしてまで映画化しようとしたショーンの情熱に打たれる。描かずにはいられなかったのだろう。この世界にどうしても適応できない、やるせなさを抱えた魂たちのために。

真面目で出来のいい兄ジョーは家族想い。ハイウェイをパトロールする警官。そこに、この世界に馴染めない粗暴な弟フランクがベトナムから帰ってくる。フランクにはインディアンの血が色濃く流れ、時空を超えるメッセージを魂で受け取る。彼には野生の呼び声が聞こえている。兄の勧めに従い、この世界に適応して、穏やかに暮らしていこうと努力するが、どうしてもそれができない。彼はインディアン・ランナーで時空を超えたメッセンジャーだから。フランクは兄にこう訴える。「(平穏に生きていくことが)怖くないのか?」。そして、遂に取り返しのつかない犯罪をおかし、フランクは兄に追われることになる。

「怖くないのか?」。26歳の僕はフランクそのものだった。違いがあるとするなら、実際に犯罪をおかさなかっただけで、頭の中はいつも妄想で満ちていた。はちきれそうで、やるせなくて、どこにも居場所はなかった。音楽というアウトプットの場所がなかったなら、どうなっていたか分からない。バブルの狂乱に満ちた日本は狂っているようにしか見えなかったし、僕にも野生の呼び声は聞こえていた。僕とこの国と、いったいどっちが狂っていたんだろう? たぶん、両方かな。

ショーンは一貫して“魂の救済”について描いてきた。“Forgive(赦す)”と云う単語を覚えたのは彼の映画でたびたび印象的に使われたからだ。まずは自分の魂を救済すること。ジャック・ニコルソン、デニス・ホッパー、チャールズ・ブロンソン。名だたる怪優たちがショーンのヴィジョンのために友情出演する。ジャック・ニコルソンはこう云った。「ショーンの映画に出演することは、本来の映画を取り戻すことだ」、と。

ところで、この映画。いろんな人に薦めたが、共有できたのは片手の指で足りるくらいだった。ガールフレンドに「フランクはほとんどオレだ」と伝えたら、「彼の生き方は間違っている」と長々と感想文をもらったことがある。間違ってることぐらい分かってるんだよ。でもそうしか生きられないから苦しんでるんだよ。

ときどきフランクと同じような目をした若者がステージの僕を睨んでいることがある。たいてい、呼び止められて「こんなくだらないギャグを飛ばす人だとは思いませんでした。失望しました」。なんてことを云われる。そんな時、この映画を薦める。年を重ねるのは悪いことばかりじゃないし、決してあの頃に戻りたいなんて思わないけれど、今、いちばん好きな映画は、と問われるなら、いつだってショーン・ペンの次の作品だと答えたい。

僕の夢は彼の映画の音楽を創ること。彼のヴィジョンを音楽でサポートしたいとずっと思っている。実際、この作品のサントラも素晴らしい。ジャック・ニッチェのプロデュースでデビット・リンドレーのスライドギターが冴えわたる。

ロックンロールの魔法は音楽に限ったことじゃない。ショーンは音楽家を励まし、音楽家はショーンを励ます。魔法のかけあい(笑)。2作目『クロッシング・ガード』は随分年上の親友、チャールズ・ブコウスキーに捧げられた名作。5作目の『イントゥ・ザ・ワイルド』ではジョン・クラカワーの原作を10年かけて映画化したショーンの執念が実っている。

『インディアン・ランナー』。娯楽にはならないかもしれない。けれど、ほんとうに美しい。是非、観てください。


映画『インディアン・ランナー』

1991年作/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
オスカーをはじめ世界三大映画祭でも主演男優賞を受賞しているショーン・ペンの監督デビュー作。1968年のネブラスカを舞台に、ベトナム戦争から戻り、問題行動ばかり起こす弟(ヴィゴ・モーテンセン)と、彼を真っ当な仕事につかせたい実直な警察官の兄(デヴィッド・モース)の葛藤を軸に、アメリカという国の矛盾、光と闇、家族を描き出す。
製作:ドン・フィリップス
監督・脚本:ショーン・ペン
撮影:アンソニー・B.リッチモンド
編集:ジェイ・キャシディ
音楽:ジャック・ニッチェ
出演:デヴィッド・モース/ヴィゴ・モーテンセン/パトリシア・アークェット/デニス・ホッパー/チャールズ・ブロンソン


『NEBRASKA(ネブラスカ)』

SICP-4517 ¥1,800(税別)
ソニー・ミュージック
ブルース・スプリングスティーンが1982年に発表した6作目のスタジオ・アルバム。全米3位。バンドと距離を置き、アコースティック・ギターとハーモニカのみを使って自宅の4トラック・レコーダーで録音された。実在の殺人犯や社会の底辺であえぐ人々を歌った曲など、一曲一曲が一編の映画のようにアメリカが抱える痛みや人間の深層を描き出す。タイトル曲「ネブラスカ」は、『地獄の逃避行(BADLANDS)』(テレンス・マリック監督/1973)と、10代の男女が次々に10人を射殺し、ネブラスカとワイオミングを疾走した実際の事件(1958年)を基にしている。不朽の名盤の呼び声も高く、多くのソング・ライターに影響を与えた。2015年に最新リマスター&通常仕様で再リリース。
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ブルース・スプリングスティーンの楽曲

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

photo by Mariko Miura

1963年福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。
1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーをはじめ海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(Bass)、細海魚(Keyboard)、池畑潤二(Drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。5月には14作目にあたるアルバム『CARPE DIEM』をリリースしたばかり。東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”、今年は仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと共に、6月南青山MANDALAで5日間のライブを開催する。熊本地震を受けてスタートした「MY LIFE IS MY MESSAGE RADIO」(FMKエフエム熊本 毎月第4日曜日20時~)も好評オンエア中。オフィシャルサイト

ALBUM『CARPE DIEM』

2017年5月17日発売

MY LIFE IS MY MESSAGE LIVE2017 @東京・南青山MANDALA
6月13日(火)古市コータロー(THE COLLECTORS)×山口洋
6月14日(水)池畑潤二 with 山口洋 Specialセッション
6月15日(木)仲井戸“CHABO”麗市×山口洋 with 細海魚
6月16日(金)矢井田瞳×山口洋 with 細海魚
6月17日(土)矢井田瞳 with 大宮エリー Specialセッション
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山口洋(HEATWAVE)solo acoustic tour 2017『YOUR SONG』
7月12日(水)大阪 南堀江 knave
7月14日(金)小倉 GALLERY SOAP
7月15日(土)広島 音楽喫茶 ヲルガン座
7月17日(月・祝)福岡 ROOMS
7月20日(木)名古屋 TOKUZO
7月21日(金)京都 coffee house 拾得
7月23日(日)長野 ネオンホール
7月26日(水)東京 STAR PINE’S CAFE
7月28日(金)仙台 Jazz Me Blues noLa
7月30日(日)千葉 Live House ANGA
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緊急ナイト
6月27日(火)新宿レッドクロス
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Mix Up & Blend
7月1日(土)Club Junk Box Sendai
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「満月の夕を福島で。」
7月9日(日)猪苗代野外音楽堂
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RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO
8月12日(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ〈北海道小樽市銭函5丁目〉
*MLIMMとして仲井戸“CHABO”麗市、宮沢和史とともに出演
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