Interview

『武曲 MUKOKU』の音楽手がけた〈あら恋〉池永正二こそが絶叫する村上虹郎のイメージだった

『武曲 MUKOKU』の音楽手がけた〈あら恋〉池永正二こそが絶叫する村上虹郎のイメージだった

剣を棄てた男と剣に出逢った少年の宿命の激闘を描いた藤沢周の同名小説を原作に、綾野剛と村上虹郎を迎え、熊切和嘉監督がメガホンをとった映画『武曲 MUKOKU』。この二つの魂の破滅と解放の物語を映画化するにあたって、今回大きな役割を担っているのが、池永正二による音楽だ。
圧巻なのが作品のハイ〈あら恋〉池永正二のライブこそが『武曲 MUKOKU』で村上虹郎が見せた絶叫ラップのイメージだったライトとなる二人の対決シーン。叩き付けるような嵐の中、無言で剣を交わす二人。その狂気と歓喜が入り混じったカオスに耳をつんざく轟音ノイズが不思議な共鳴を描き、壮絶にして爽快な心象風景を描き出す様には、これぞ映画音楽! と叫びたくなる化学変化が確かに刻まれている。
自身のバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」を率い、アンダーグラウンドな音楽シーンで確かな支持を集める一方、山下敦弘監督の『味園ユニバース』や沖田修一監督『モヒカン故郷に帰る』の音楽で、映画音楽家としても注目を集める彼に、今回初となった熊切監督とのコラボレーションについて話を聞いた。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 相馬ミナ


「めちゃくちゃカオスで、客と目もあわされへんかった正二くんの雰囲気で作って」とお話をいただいて

まず、池永さんが 『武曲 MUKOKU』の映画音楽を担当されることになったいきさつから伺いたいのですが、池永さんは大阪芸術大学の映像学部出身で、熊切監督の後輩になるんですよね?

そうです。でも近い関係ではなく、僕と大学同期の山下敦弘(映画監督)や近藤龍人(『武曲 MUKOKU』を含め多数の映画の撮影監督)は『鬼畜大宴会』(※1)にスタッフとして参加していて交流があったので話もよく聞いていて、それを遠くから「すごいなぁ…」と見ていただけで(笑)。以前、あらかじめ決められた恋人たちへ(以下、あら恋)のファーストアルバムの『釘』(2003年)を作ったときにコメントを頂いたんですが、直接的な交流はあまりなくて。今回、『武曲 MUKOKU』冒頭のライブシーンの曲を作って欲しいという話をいただいて、久々にお会いしました。

※1 『鬼畜大宴会』
熊切監督が大学の卒業制作として制作した作品で、PFF準グランプリを受賞し、異例の劇場公開でロングランヒットを記録。ベルリン国際映画祭に招待されるなどの快挙を成し遂げた。

じゃあ、当初はライブシーンの音楽だけという話だったんですね。

そうなんですよ。あのシーンで、ベアーズ(※2)を拠点にまだひとりであら恋をやっていた2000年当時の僕をイメージしてくれたみたいで。「めちゃくちゃカオスで、客と目もあわされへんかった正二くんの雰囲気で作って」とお話をいただいて。あの当時はたしかに、お客さんはドン引きみたいなことになってたのかもしれませんね(笑)。受け入れられへんのがかっこええと思ってたふしもありましたし。でも僕自身はそこそこ受け入れられてたと思ってたんですが、良い思い出しか残ってないんでしょうね(笑)。

※2 ベアーズ
かつて池永が働いていた大阪・難波のライブハウス

あの村上虹郎さん演じる〈融〉の、悶々と衝動を抱えている感じは、かつての池永さんがヒントだったんですね!

僕のはもっと見てられない感じやったと思います(笑)。村上さんも撮影の時に「マイク2本でするのはどうですか?」ってアイデアを出してくださって。「その感じわかる!」って同意して(笑)。
そのシーンの最初の打ち合わせのときに熊切さんがイースタンユースのTシャツを着てこられたんですよ。それで、「吉野寿さん(イースタンユースのボーカル)と一緒に演った曲あるんですよ」って、「Fly」の音源を送ったら、とても気に入ってくださって。最終的に吉野さんの歌が入ったバージョンの『Fly』が主題歌となり、音楽全般をやらせてもらうことになったんです。

輪郭がボヤけて霧の向こうでエモーションが鳴ってるような…… 儚い感じの音楽にしたかった

では、初のコラボレーションとはいえ、お互い通じるものはすでにあったんですね。そして『武曲 MUKOKU』の音楽を手掛けるにあたって、まず考えられたことは?

やっぱり研吾の落ちぶれ方が熊切さんの映画っぽいと思いました。どんどんアカンようになって、目を伏せたくなるようなとこまで行って……。そこから決闘に行き着くまでの心の動きが、くすぶってくすぶって、対決でダーン!っと爆発する感じで。だから決闘までは静々とした音楽でいこうと思いました。そう、熊切さんが「静々(しずしず)とした感じで」とか、「雲散霧消(うんさんむしょう)」とよく言われていて。だからおもいっきりフレーズが前面に出ている音楽ってよりも、輪郭がボヤけて霧の向こうでエモーションが鳴ってるような、それが時々洩れてこちら側に聴こえてくるような儚い感じの音楽にしたかったんです。剣道というモチーフにしても、「残心」という言葉のとおり“勝って終わり”という単純なものではないようなので、そういったフレーズのボヤけたドローンミュージックやポストクラシカルの持つ静けさとのハマりはとても良いと思いました。

『武曲 MUKOKU』は決してセリフの多い映画ではなく、全編に研ぎ澄まされた緊張感が漂っています。それだけに竹刀が当たるパーン! という音や、雨や風の自然音も印象的でハッと覚醒させられる。すごく音にこだわりのある作品だなと感じたのですが、熊切さんとの作業はどのように進んで行ったのでしょう?

まずは熊切さんがイメージしている音楽の場所となんとなくの参考音源をいただいて。それをもとに、じゃあこんな感じはどうですか? ってデモをつくって何度かやりとりをして。だいたい固まって録音が終った段階で、熊切さんに僕の家に来てもらって一緒に映像を見ながら、ここは音を付けすぎちゃうかな? とか、ここはもうちょっと後ろに…… ここですか? いや、ここ! というかんじで微妙な調整をしてからmixに入って、最後MAにも参加させて頂きました。

池永さんはこれまで、映画監督・熊切和嘉の世界をどう見られていましたか?

僕が言うのはおこがましいのですが、あまり見たくない過激なイメージもあるけど、どこかメランコリックな哀愁があって。汚れているのにどこか美しかったり、暴力的なのに哀しさや孤独が漂うような独特な感じといいますか。『夏の終り』とか僕は大好きなんですけど、周りは止まって2人だけ動いてるシーンとか、すごく美しいんですよ。

そういう感じは、あら恋の音楽にも通じますね。怒りや悲しみや…… いろんな感情が渦巻いたカオティックな轟音の狭間に、ふっと美しい祈りのような静寂があったり。だからこそ、あの雨と風と泥にまみれた決闘シーンにあら恋の既成曲『「Fly」が奇跡的にハマったのかなと。

ありがとうございます。たとえば人間関係って、憎しみと愛情が表裏一体で、どちらもあるからややこしくって面倒くさくって、絡み合って縺れ合いながらほどき合っていくものじゃないですか。そういう微妙で混沌とした感情が渦巻いていて、哀しいけど嬉しく、圧倒的に破綻してるんだけど端正でもある。そういう一見矛盾したような複雑な感情は自分も音楽で表現したいことだったので。だからあのシーンであら恋の曲が鳴って、しかも轟音で“ボワワワーン! ギャーン!”って思い切りやらせてもらえたのはすごく嬉しかったです。

エンディングの主題歌の歌詞も映画の世界観と見事にリンクしていました。

「影をふりきって 解き放たれて 飛び去っていく」という歌詞は見事に合致していて。吉野さんの咆哮がどこか研吾と重なる感じもありましたよね。