【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 23

Column

文化系から体育会系に変身したTM NETWORK

文化系から体育会系に変身したTM NETWORK

前回、僕が足繁く通っていたエピック・ソニーのオフィスで、TM NETWORKの担当とおぼしき方が“FANKS”と書かれたヘルメットを下げ、現場から帰社した姿を目撃したことは書いたが、それはアルバムでいえば『GORILLA』(1986年)がリリースされる前後のことである。でもいったい、どこから“ゴリラ”というイメ−ジが浮かんだのだろう。これは小室の近年の回想…。

草食系男子のTMにも、たくましさが必要だと、
サードアルバムのタイトルを『GORILLA』にしてみたりもしたのだが…

彼の著書『罪と音楽』(幻冬舎)からの引用だ。デビューはしたものの一般的な人気にまでは届かなかった彼らの、切迫した気分が伝わってくる。もちろん当時は“草食系男子”という言葉はなかったが、ここで大胆なチェンジを試みたことがわかる(ジャケのデザインもまさに!)。ただ、実はこれ、単なるチェンジではなく、以下のふたつのことが言える。

①自分の中の別の音楽性にスポットをあててみた
②“ブランディング”に乗り出した

この2点である。まず①だ。彼らは『GORILLA』で16ビートのディスコ・サウンドに接近するわけである。それまではエレクトロ・ポップの印象が強く、この新作を受取った人間達は、その変貌ぶりに驚いた。でも、考えてみたら小室は、1958年生まれである。70年代後半の第一次ディスコ・ブームの大波をかぶっていても不思議じゃない(それを避けたとしても、飛沫は誰もが被っていた時代だ)。実は高校の頃は、ディスコ・ミュージックが大好きだったらしい。アーティストでいえばEW&Fやコモドアーズ…。つまり、もともと自分の素地としてあったものを、今回のアルバムで出してみたわけだ。

次に②だが、当時はまだ“ブランディング”という言葉をみんなが使っていたわけじゃないが、やったことは同じだろう。ここらでTM NETWORKの“目鼻の付け方”を考えたわけだ。そのことで、一般大衆に見つけてもらい易くした。プログレッシヴな音の展開もふくめ壮大な世界観を描く手法のこれまでではなく、“踊るための音楽”に特化することで、自らの表現を、ひとつの生活の“道具”としても使ってもらおうとしたのだ。

それを表わすシンボリックなワードとして編み出されたのが「FANKS」だ。僕が見かけたレコード会社の方のヘルメットにあった文字である。小室の造語だ。黒人音楽から派生したダンス・ミュ−ジックの FUNKと、旧態依然たるロックにちゃぶ台返しを食らわしたPUNKと、そして自分達の音楽の受け手であるFANへの想いと、これらの言葉をミックスしたのが「FANKS」である。

当初はアルバムが出た1986年の“年間標語”のようなものだったが、やがて定着を果たす。「FANKS」は、TM NETWORKのファンそのものを表わす言葉にもなるが、このバンドのファンには、常に最先端のサウンドに触れてきた伝統があるので音にウルサい…、といったことも含め、このグループにまつわる“ブランディング”は、いま現在も日々、そんなファンの為にも品質を落とせないという創り手への好循環を保ちつつ、続いているのだ。
 
『GORILLA』はどのようにして完成されたのだろうか。改めてレコーディングの様子を調べてみた。すると、そこには感動のドラマがあったのだ。ちなみに80年代といえば、たびたび[アナログvsデジタル]という言葉に出くわしたが、そもそも“vs”というくらいで、互いの優位性を主張し合う、みたいな論旨だった。しかし物事、いやもっといえば世の中というものが、常に“過渡的なものの集合体”であることを知ってる人達は、“vs”なんて言葉には踊らされない。小室哲哉がそうだった。

とはいえ最初から、ふたつの“融合”が目的だったわけじゃない。自分が思い描く『GORILLA』の世界観を響かすためには、彼が得意とする打ち込みサウンドだけでは物足りなかったので、生楽器も入れることにしたわけだ。生楽器ったって、凄いメンツが揃ってる。ちなみにこのレコーディング、ドラムは青山純でベースは伊藤広規(この二人といえば、山下達郎を思い出す人も多いだろう)

でも、物足りなさとはなんだったのだろう? 専門的には音のダイナミック・レンジだった。そう感じたのは、彼の音楽体験が産み落とした基準…、故なのだ。自分がティーンの頃、体感したディスコ・ミュージック。それが体幹に残っていた。実は1980年代中頃といえば、そろそろこの名前が伸(の)してきた時期だ。あの長く連なる三人の名前を、中学生でも覚えちゃったものだ。ストック・エイトキン・ウォーターマンだ。いわゆるユーロ・ビートの全盛時代が、そろそろだった。特徴は、リズム隊はすべて打ち込み、ということ。でも『GORILLA』にしかない世界観が、まったくオリジナルなものが、このアルバムにはあったわけである。

文 / 小貫信昭

その他のTM NETWORKの作品はこちらへ

vol.22
vol.23
vol.24