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玉置浩二・安全地帯 J-POPのひとつのスタンダードたる名唱&名演を“ALL TIME”で楽しめる充実佳曲集

玉置浩二・安全地帯 J-POPのひとつのスタンダードたる名唱&名演を“ALL TIME”で楽しめる充実佳曲集

安全地帯と玉置浩二の『ALL TIME BEST』が、それぞれ同じ日(5月31日)にリリースされた。共にこれまでのシングル表題曲のすべてが収録されている。アルバム・タイトルは実にシンプルだが、レーベルの枠を越え、全キャリアを網羅するものは今回が初めてだ。その意味で、まさに“ALL TIME ”な選曲であり、また、いつどこで聴いても色褪せない楽曲達という意味でも、“ALL TIME ”の名に恥じない内容と言えるだろう。


成熟したロック・バンドとしての魅力も見逃せない安全地帯

まず安全地帯だが、彼らのデビューは1982年で、玉置浩二、矢萩渉、武沢豊、六土開正、田中裕二がメンバーだ。全員が演奏者としての才気に溢れ、アマチュア時代の“出会いの奇跡”を感じさせる人達である。

年代的に、彼らのルーツは70年代のロックだろうが、プロとして活躍し始めたのは80年代であり、フュージョンやデジタルな音作りの洗礼なども受けつつ、上手く時代とも呼吸し、その音楽性を築いた。でも彼らはひとつのバンド・スタイルにこだわるのではなく、玉置のコンポーザーとしての類い希なる才能を、理想のものとして具現化することに尽力したのだろう。

矢萩や武沢のミュージシャンシップと歌心を両立させたプレイ、六土と田中の確かに時を操るリズムに注目しつつ、改めてこのベストを聴くのもいいだろう。

もちろん「ワインレッドの心」「恋の予感」など、曲名を見た瞬間に歌い出したくなる作品が実に多いのが安全地帯であるし、井上陽水との出会いはよく語られるので、今回は省かせて頂く…、予定だったが、「夏の終りのハーモニー」における陽水と玉置のデュオは、日本で最も説得力ある歌声の揃い踏みという意味においてポップ史に残る“事件”でもあった。

メンバー以外の功労者といえば、作詞家の松井五郎だろう。安全地帯における松井の仕事は、コトバの雄弁さだけ押し付けるのではなく、時には玉置の声やバンドのサウンドに表現を委ねて、自らは引き算するかのような“行間の作法”も駆使されていた。

改めて聴いて文句なくカッコ良かったのは「じれったい」。ファンクという魔法の杖で、重力すらを操ってしまっているかのような音場は、まるでプリンス&ザ・レボリューションのごとき、である。90年代に入っての「情熱」や、歌として完成されつつも根っこでロック・バンドとしての成熟した矜持を響かす近作の「オレンジ」なども捨てがたい。いや、どの曲が、というより、頭から尻尾まで、すべてが耳に美味しいALL TIME BESTである。

たくさんの感情を内包した玉置浩二の歌声の深みを改めて実感できる全25曲

玉置浩二の『ALL TIME BEST』は、ソロとしてのデビュー曲「All I Do」(87年)からのシングル作品を収録している。長い歴史のなか、途中、バンドの休止期間などもあり、その場合はソロに軸を移し、さらに再びバンドが活発に、といった、その時々のスタンスを経つつ、現在まで続いている。

もちろんソロは、身軽といえば身軽である。自ら俳優としても活躍しつつ、そのドラマや映画の主題歌に関わることも多かった。例えば「キ・ツ・イ」は、本人が出演した「キツイ奴ら」の主題歌で、ドラマとのコラボレーションも深く、こうした経験は、歌に新たな“人格”を芽生えさせたともいえて、歌のテーマの自然な広がりにもつながっていった。「行かないで」は『さよなら李香蘭』の主題歌ということでアジアも意識されただろうが、とはいえ古典的な大陸歌謡の踏襲ではないメロディーを玉置が紡ぐことで、ここにしかないオリジナリティへと至っている。

最大のヒットである「田園」も忘れられない。背景も含め、スケール豊かに歌いあげていくのも得意な彼だが、ここではラップ調に詰め込んだ言葉で群像劇たる歌詞の世界観をスピーディーに描き、生きることの意味を理屈を越えたところでリアルに伝えている。この曲もそうだが、元気をくれる歌が彼には少なくない。ジャングルビート的闊達さとともに届く「ルーキー」の、見守る目線から届いてくる相手へのエールも得がたいものである。

それにしても、改めて玉置浩二の歌の凄さを思い知る全25曲なのだった。まずこの人の声は、どんな環境で聞いても、人間の根源的な温もりを感じさせる。ボーカリストの声を特徴づけるものは「声域」と「声種」(声帯の振るわせ方で醸し出される声の特色)だが、特に後者が他とは違うものに思える。彼が囁くように歌えば歌うほど、余計に想いがクリアに届くし、彼が思いっきりシャウトすると、そこには奥行きが生まれ、懐深く、届いてくる。たくさんの感情を引き連れつつも細かな節回しを正確にトレースして行けるし、ファルセットを用いても、声が細くならないのも特色であり、あの「メロディー」をはじめ、名唱は数知れず、である。

なお、ソロデビュー30周年を迎えての[ALL TIME BEST「30」〜30th Anniversary Tour 2017〜]が8月からスタートする。安全地帯の35周年を記念したツアー[ALL TIME BEST「35」〜35th Anniversary Tour 2017〜]も決定していて、11月の日本武道館公演、さらに香港公演が予定されている。もちろんどちらのツアーでも、『ALL TIME BEST』からたっぷり演奏してくれることだろう。

文 / 小貫信昭

その他の玉置浩二の作品はこちらへ

ライブ情報

玉置浩二 ALL TIME BEST「30」〜30 th Anniversary Tour 2017〜
8月12日(土)埼玉・三郷市文化会館
8月13日(日)東京・福生市民会館

8月17日(木)埼玉・久喜総合文化会館
8月19日(土)静岡・裾野市民文化センター
8月26日(土)兵庫・加古川市民会館 大ホール
8月27日(日)大阪・岸和田市立浪切ホール 大ホール
9月1日(金)福岡・ユメニティのおがた 大ホール
9月2日(土)長崎・長崎ブリックホール
9月9日(土)千葉・千葉県南総文化ホール
9月11日(月)長野・上田市交流文化芸術センター
9月15日(金)香川・サンポートホール高松
9月17日(日)岡山・岡山市民会館
9月18日(祝・月)広島・広島JMSアステールプラザ 大ホール
9月22日(金)岐阜・バロー文化ホール(多治見市文化会館)
9月24日(日)群馬・桐生市市民文化会館
9月28日(木)岩手・盛岡市民文化ホール
9月30日(土)宮城・トークネットホール仙台(仙台市民会館)
10月1日(日)山形・シェルターなんようホール(南陽市文化会館)
10月7日(土)新潟・新潟県民会館
10月9日(祝・月)石川・本多の森ホール
10月14日(土)愛知・豊田市民文化会館
10月15日(日)三重・シンフォアテクノロジー響ホール伊勢(伊勢市観光文化会館)
10月18日(水)大阪・フェスティバルホール
10月21日(土)大阪・八尾市文化会館プリズムホール 大ホール
10月22日(日)滋賀・大津市民会館 大ホール
10月29日(日)栃木文化会館
11月09日(木)北海道・北斗市総合文化センター・かなで〜る
11月11日(土)北海道・わくわくホリデーホール
11月12日(日)北海道・旭川市民文化会館・大ホール

安全地帯 ALL TIME BEST「35」~35th Anniversary Tour 2017~
11月23日(祝・木)東京・日本武道館
11月24日(金)東京・日本武道館
12月09日(土)香港・アジアワールド・エキスポ

玉置浩二

1958年生まれ。北海道出身のシンガーソングライター。1982年バンド「安全地帯」としてデビュー。「ワインレッドの心」、「恋の予感」、「悲しみにさよなら」など80年代の音楽シーンを席巻。
ソロ活動でも「田園」をはじめとする多くのヒットを生み出す。 2012年には、オリジナルレーベル「SALTMODERATE」を発足。安全地帯とソロの活動を並行して行いながら、2014年、7年ぶりとなるオリジナル・ソロ・アルバム『GOLD』、そして同じ時代を共有してきたアーティストの名曲を歌ったアルバム『群像の星』をリリース。2015年からは、国内外の主要オーケストラと共演するビルボードクラシックス公演を実施。2017年はソロデビュー30周年を迎え、5月31日にキャリア初となる『ALL TIME BEST』をリリース。また30周年を記念したLIVE TOURも行われる。

安全地帯

玉置浩二(VO&G)、矢萩渉(G)、武沢侑昂(G)、六土開正(B&KEY)、田中裕二(DS)。
1982年にキティレコード(現・ユニバーサルミュージック)と契約し、「萠黄色のスナップ」でメジャーデビュー。1983年、「ワインレッドの心」が大ヒット。一躍全国にその名が知れ渡る。 その後も「恋の予感」、「熱視線」等の楽曲を立て続けにヒットさせ、1980年代を代表する人気グループの地位を不動のものにする。が、1988年秋、香港コロシアムでのコンサートを最後に、突然活動休止を宣言。
1990年、7thアルバム『安全地帯VII〜夢の都』のリリースを機に活動を再開。翌1991年には『安全地帯VIII〜太陽』をリリース。1992年12月、アコースティックスタイルでのコンサートツアーを終えたことにより、再び活動を休止。
活動休止を境に玉置は、ソロと俳優業を中心とした活動に移行し、他のメンバーも個々の活動に入る。この時、安全地帯の所属会社がキティレコードからソニー・ミュージックエンタテインメントに移籍。
2002年7月10日に10年ぶりのシングル「出逢い」、同年8月7日には9thアルバム『安全地帯IX』が発売。
2004年以降は、またグループ活動を休止して個々の活動を展開していたが、2010年に安全地帯としての活動を再開した。

玉置浩二・安全地帯オフィシャルサイトhttp://saltmoderate.com/