【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 24

Column

TM NETWORK ヒット作『Self Control』の興味深い成り立ち

TM NETWORK ヒット作『Self Control』の興味深い成り立ち

有名アーティストには必ず、人気者になるキッカケとなったブレイク作品がある。TM NETWORKの場合、1987年4月にリリースされた10枚目のシングル「Get Wild」が、それにあたる。実に10枚目にして…、である。本人達、そして彼らを支えたスタッフの、執念にも似た継続の力を感じる。

でも世の中には、(最近あまり使われないけど)“スマッシュ・ヒット”なんて言葉もあって、つまりこれ、ブレイクを“予感させる作品”のことだ。あくまで予感なので、ハズレることもあるのだが、彼らにしてみたら、アルバム『Self Control』と同名シングルが、“予感させる作品”ということになるだろう。

“セルフ・コントロール”という言葉。日本語にすれば“自制する”ということである。ビジネス書などであるなら、成功する者の条件として…、みたいなことから、「自制心」という言葉に活躍の場も与えられるだろうけど、広い意味でロックをやってる小室が、もし“自制心”をバリバリ働かせたりしたならどうだろう? ロックは衝動に身を任すからこそ魅力的なわけだし、都合の悪いことになっていたハズなのだ。でも彼は、独自の解釈でこの言葉を使ったのである。そのことに関する興味深い発言を見つけたので、引用させて頂こう。

ラジオ番組やっているもので受験生とか手紙が
 来て、結構みんな自分を抑えてるな(笑)。で、
 この言葉が浮かんだんですけど。(中略)セルフ
 ・コントロールというのは誰でも持っている気持
 ちだけど、それを守る時と破る時、理性と欲求の
 間の拮抗の気持ちだとすれば、すごく一般的にな
 るんじゃないか。これは誰にでも聴いてもらうべ
 きアルバムだと(笑)。
 
(『キーボード・ランド』1987年3月号)

原文のまま掲載させて頂いたが、確かにこの時期、小室は全国ネットのラジオ番組を担当し、番組に届くハガキを通じて、学生さん達(聞いていたのは、いわゆる受験生たち)の気分に触れたのだった。ただこの鬱積したというか抑圧したというか、まぁ受験のために青春の大切な一時を机にかじり付かざるを得ないわけだからしょうがないけど、そんな想いには、はけ口も必要だろうと考えたわけだ。“守る時と破る時、理性と欲求”という、ここらあたりがポイントというわけである。

改めて「Self Control」を聴いてみると、曲タイトルを何度も繰り返すサビのリフレインが独特だ。いっけん無表情(無機質)なようだけど、冷たく突き放されるわけじゃなく、どこか人情味というか、人なつこさも備えている。作詞は小室みつ子だが、途中、教科書は何も教えてくれない、といった、古典的なロックの反抗イメージも言葉として出てくる。でもこの曲を当時、特に“教科書”の部分をラジオで受験生が聞いてたとしたら、何を想ったのだろうか…。

サウンド面で決定的に違うのは、音の隙間、音の余韻を活かすようになったことだ。この作品に関して一番苦心したこととして、「いかにサウンドを埋めないか」だったと、当時彼も発言してるくらいである。簡潔にしつつ、しかしそれで充分に成立するもの。それまで彼が目指していたのが音の宇宙であったなら、大転換だ。そんな作品が、彼らが浮上するキッカケとなったのは何故だろう? おそらく隙間が出来たことで、聴き手が感情移入するための余白も生まれた為かもしれない。また、隙間というか間合いというか、それは日本の音楽の伝統的な良さでもあり、気づけばそんなルーツに接点してた、とも言えるのだ。

それまでは、何かやるにもコンセプトを重視してきた小室だが、この時のレコーディングは、設計図を持たず、スタジオへ飛び込んだというのだ。当時の日本のアーティストのなかで、とびきり精緻なデモを創る技術に長けていた彼が、あえてそれを封印したわけだ。勇気がいることだったと想像する。

でもどうやって、目的地に辿り着けたのだろう。なにしろその時点で、「Self Control」はイントロのシンセのリフ以外、何も浮かんでなかったらしい。しかし漠然とした自信ならあった。当時の彼は、何気にキーボードの前に腰掛ければ、どんどんメロディが浮かぶ状態だっそうだ。だったらなんとかなると思ったら、なった。ふと浮かぶなら、それがなにかの思し召しであるかのように、作品として記録した。実は“セルフ・コントロール”(=自制)という作品は、“アウト・オブ・コントロール”(=不可抗力)の果てに生まれたのだった。

文 / 小貫信昭

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