Interview

三浦しをんに訊く博物館に惹かれる訳。知識欲、収拾欲に駆られた先人の情熱が僕らの好奇心を刺激する場所。

三浦しをんに訊く博物館に惹かれる訳。知識欲、収拾欲に駆られた先人の情熱が僕らの好奇心を刺激する場所。

待ち合わせは国立科学博物館。
「あ、どうも」と頭を下げた三浦しをんさんは、ゆったりしたパンツにビーサンという“ご近所”スタイル。
恐竜や人類の進化の過程を追う展示の隙間を散歩するような後ろ姿は、数々のロングセラーを生み出し続ける直木賞作家というよりは、旅人の自由な空気を纏っていた。
季刊誌「紡」と「月刊 ジェイ・ノベル」の連載に書き下ろしを加えた『ぐるぐる♡博物館』を6月に上梓するしをんさんに、博物館に惹かれる理由と、“書くこと”について聞いた。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / 萩原大志
撮影協力:国立科学博物館


たくさんの生と死に、「よし、頑張るぞ!」という気分になる

どういうきっかけで博物館エッセイを?

編集の方から、最初は美術館エッセイってどうですか? と声をかけていただいたんです。でも、私が「美術館より博物館にしましょう!」と言って、こういう連載になりました。もともと旅先で博物館に入ることが多くて、博物館っていろいろあるなぁ、と思っていたので。

茅野市尖石縄文考古館から奇石博物館、風俗資料館、ボタンの博物館まで、本当にさまざまな博物館をめぐられましたね。

本当に、博物館って、いろいろあるんですよね。そのどれもに見きれないくらいたくさんのものが展示されていて。ここ国立科学博物館の地球館3階に動物の剥製がいっぱいある部屋があるんです。吉本さんというハワイの方が、ご自分でハンティングされた動物の剝製を寄贈されたもので、「吉本コレクション」というんですが、大型の動物がたくさん展示されていて、凄い迫力。それを見るとなんだか、「よし、頑張るぞ!」という気分になる。模型やぬいぐるみとは全く違う。生々しいんだけど、魂はすでに抜けている。地球上でさまざまな生と死が繰り返されているんだなあと思うと、なんか、勇気づけられるんです。

ぐるぐる♡博物館 表紙

地球館地下2階の展示も凄いです。太古の生物、カンブリア紀の三葉虫やジュラ紀の恐竜、更新世のマンモスをはじめ、人類の展示。アフリカ大陸で誕生した人類が、七つの海に漕ぎ出し、進化しながら広がっていく。溢れ出す人間の好奇心や冒険心に刺激されます。

それがやっぱり博物館の魅力だと思うんですよね。ここにあるものはみんな死んでいる。生きているものは、博物館にはない。でも、それを見ていると、人間も含めて、これまでこんなにたくさんのものが生まれて死んでいったんだと思う。私たちもいずれは死ぬんだなと。
けれど、不思議と怖くはないんですよね。こんなにたくさんのものを集めて展示している人がいるんだ、という事実。それをこんなにたくさんの人が見にきている、ということも、元気づけられる原因かな。

それぞれの博物館の学芸員の方への質問も興味深いです。いったい何のためにこんなに集めたんだろう? この学芸員さんは、何でこういう仕事をしているんだろう? しをんさんの好奇心につられて読者も「何のために」を探求する旅に出る。

そうですね、博物館は人の魅力や不思議さがあふれた場所でもある。
「何のために」アフリカで生まれた人類が大海に向かって船を漕ぎ出したのか。結局「わからない」。それと同じで、「何のために」こういう博物館をつくったのか、「わからない」。
博物館をつくった人も、そこに勤める人も、なんだかわからない情熱に突き動かされているらしいことが、びんびん伝わってきました。大半の人は、これほど何かを集めたり研究したりはしないだろうなあと(笑)。でも、その情熱が興味深いし、胸打たれる。愉快と言ってもいい。
家族なんて、きっと「もう、お父さんやめて!」なんてこともあったんだろうな、と思う。「もう石を集めるのはやめて!」「もう、土器を掘らないで!」とか(笑)。

「ボタンの博物館」なんていうのも興味深いです。

すごい博物館です。すっごく綺麗なボタンやバックルがいっぱいで、よくまあ、ここまで集めに集めたな、と感動しました。「ボタンの博物館」にはニセモノのキティちゃんのバックルもあって。ニセモノなのに、「バックルだから」という理由で集めちゃう(笑)。

集めるのって、人間だけですよね。

あ、リスが木の実を集めたり、カラスが光るもの集めたりするっていうのも聞きますけどね(笑)。でも、分類して展示するのは人間だけ。それを見ると感受性が刺激される。それも人間の面白いところで。
たとえば、「奇石博物館」に行くと、自分は石を集めようとは思わないけれど、自然と石に興味や関心を抱けるようになる。それまで全く興味がなかったものが、自分の中にグイグイ入ってくる気がして、楽しいです。
それと、ふだんは学芸員さんに展示の意図とか最新の研究の成果を聞きながら回ることはないと思うのですが、それができたのも今回よかったことの一つですね。すっごいニッチなものを扱っていたとしても、非常に多面的だし、多層的だし、重層的な世界が広がっているんだなと感じました。それをどう展示し、どう伝えていくか、にみなさん心を砕いていらっしゃる。学芸員さんもみなさん面白かったし、ちょっとヘンで(笑)魅力的なかたばかりでした。

どんなにアホな脳内妄想であったとしても、観る者に熱が伝わるもの

すごくバカなことや、損をするのがわかっていることに対して突進していく人たちの熱さと清らかさ。しをんさんの小説の登場人物にも似たものを学芸員さんたちの言葉に感じました。

学芸員さんのお話を聞くのはとても楽しかったですね。学芸員さんたちの情熱と純粋さ。その館の魅力を、意義を、どうやってみんなに伝えるか、真剣に考えていらっしゃる。お一人お一人、みなさん素敵でした。

風俗資料館の女性館長さんも印象に残りました。

ものすごくいろいろ準備してくださって、貴重な収蔵品をたくさん見せていただきました。本には載せられなかったのですが、国民的歌姫を描いた妄想画がすごかったです。本当に綺麗な色遣いで、バタッこくて、絵が巧い。それが何十枚もある。描いた人と発注した人の愛と情熱を感じました。
美術史的な評価が定まった作品ではないかもしれない。でも、そういう絵を熱心に描いた人がいるという事実が、もし風俗資料館がなかったら、散逸してしまって、ないことになってしまう。こういう絵が欲しい、と望んだ人、それに応えた人がいる、という事実を風俗資料館が伝えてくれる。それがどんなに荒唐無稽な脳内妄想であったとしても、やっぱり、観る者に熱が伝わってくる素晴らしい絵なんですよ。

この本が出ることで、ああ、ここにこういう資料館があるのか! と寄贈する人が増えると思います。そうしたら、また収蔵品が増える。

そうなったらいいですね。本を書いてよかったなあと思えます。

「寄り道編」として、秘宝館にも行ってらっしゃいます。

この機会に、ひとりで行っちゃいました(笑)。行ったことなかったので、やっぱり観ておこう、と。昔は観光地には必ずあったじゃないですか。それがいまでは熱海くらいにしかないそうで、「そんなに減っちゃったんだ」とびっくりしました。それで、行ってみたら、濃厚。エロなんだけど、はっちゃけ過ぎてて、全然エロくない(笑)。こんなにドカンとこられても発情しないよ、って。面白いうえに、展示品が多過ぎるという罠もあり、エネルギー吸い取られて、秘宝館を出るときには息も絶え絶えでした(笑)。

ネットに情報もエロも溢れ過ぎていて、秘宝館に行く人も少なくなったのかもしれない。でも、もったいないですよね、それって。ネットの情報って分類されてないし。

そうですね。ネットの情報は誰が言っているのかわからず、検証しようのないものもありますし。もちろん、博物館の展示品や発信する情報が全て正しいとは限らない。でも、現物を見て情熱の迸りを感じたり、はたと立ち止まって考えることはできる。それが博物館のいいところですね。

もう一度訪れたい博物館は?

全部です! たとえば、「龍谷ミュージアム」もすごくよかった。展示の仕方も工夫が凝らしてあって、「仏教の歴史や真髄を多角的に伝えるぞ!」という情熱に打たれました。

どれか小説のモチーフになりそうなところはありましたか?

それがなかなか、小説にうまく結びつくとは限らないんですよねー。まあ、小説のネタを探しにいったのではなく、「博物館に行きたい!」という単純な動機で取材を楽しんでしまったので、当然なのですが(笑)。でも、これまで知らなかったことばかりだったので、各博物館に行くたびに好奇心を刺激され、「知らないものを知るって、楽しいな」と改めて思いました。そういう気持ちが摩耗してしまうと、小説も書きにくくなっちゃうので。