【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 25

Column

TM NETWORK が『humansystem』で見せた「自分達であること」への揺るぎなさ

TM NETWORK が『humansystem』で見せた「自分達であること」への揺るぎなさ

『Self Control』に顕れた兆しは「Get Wild」という正真正銘のヒットを生み、『Gift for Fanks』というベスト・アルバムが過去の楽曲の再評価へも繋がった。そしてこの勢いのままわずか3か月ほどで制作され、発表されたのが『humansystem』である。

アーティストのバイオグラフィを眺めると、ひときわ濃く時間が流れている場所がある。TM NETWORKにとって、まさにそんな時期が訪れていた。いま挙げた3枚(1枚はベストだが…)は、すべて1987年にリリースされたのだから…。

「Get Wild 」のヒットで、彼らのテレビへの露出も目立つようになったが、お茶の間にはどう映ったのだろうか。でも宇都宮には男のグラマラスな魅力が備わっており、しかし歌い方はクセがなく少年性を併せ持つあたり、好印象として伝わったのではなかろうか。木根には世の中をフィルター(サングラス)越しに眺める芸術肌の雰囲気があって、こういう人の存在がグループに深みを与える。そして小室は、利発そうだけどヤンチャそうでもあって、いわゆる母性本能をくすぐるタイプに映ったかもしれない(クドいようだが、これ、あくまでお茶の間目線を想像して書いている)。

「Get Wild 」を改めて聴いてみよう。現在に至るまで、折に触れヴァージョン・アップされ、演奏され続けている名曲だが、小室の作家としての出世作「My Revolution 」との共通点も感じる。どちらの曲も、サビへと駆け上り、突き抜けるかと思いきや…、そうではない。もし徒歩遠足だとしたら、ここらで遅れがちなコも出始めるあたりで、でもみんな仲良く一緒に先を目指せるよう、置いてきぼりにしないで“待ってくれている”優しい雰囲気のあるサビなのだ。なのでみんなでワイルドをゲットできるというか…。あの、タイトルのまんま、ですけど、カッコいい曲でありつつ、そんな親しみを持てる曲でもあるのだ。

そもそもはテレビ・アニメ「シティーハンター」エンディング・テーマとして書き下ろされた作品だ。いわゆるタイアップ作品だが、こういう場合、相手が思い、期待する“らしさ”と、自分達が思っている“らしさ”とがブレンドされ、伝わり易い形になることも多い。これはそういう例だったのだと思う。

そして次の『humansystem』は、ロサンゼルスで録音され、土地柄もあるのだろうが、全体に明快で音の抜けがいい仕上がりとなっている。打ち込みで作り込んでいくと、どっちかというとインドアな雰囲気となるが、これは明らかにアウトドアな雰囲気だ。小室自身、このアルバムの出来栄えを訊ねられた時、「以前よりシンプルだけど、よりカラフル」と答えている。

参加している現地のミュージシャンは、ギターのウォーレン・ククルロやドラムのスティーヴ・フェローン、ホーンのジェリー・ヘイなどだ。エンジニアはミック・グゾウスキー(どんな凄い人達なのかは、各自調べて欲しい)。日本の腕利きミュ−ジシャンも、多数参加している。

オープニングの「Children of the New Century」は、めくるめく展開に期待が高まる、まさに1曲目に相応しい出来栄え。鈴木あみでもヒットした「Be Together」は、改めてこのオリジナル・ヴァージョンを聴くと、伝統的な黒人のダンス・ミュージックのグルーブを感じる。そしてやはり重要なのがタイトル曲の「Human System」だろう。イントロとアウトロに「トルコ行進曲」からの引用があるのだが、あまりに溶け込んでいるので引用と思えない。この曲の小室みつ子の詞は深い。“in the human system”の下りは、特に。この歌は様々に受け取れる。男の子と女の子が登場するが、これは男女の話じゃなく、遺伝子の話なのだ…、とか。

「Telephone Line」やインストの「Dawn Valley」は、これまでの典型的なTMサウンドというよりLAフュージョン的なスムース・タッチであり、特に後者はそうで、これ、生楽器だけでノリ一発で仕上げたそう。クリスマス・ソングの「Leprechaun Christmas」は、場所が西海岸だけにカラっとしている。一方の「Come Back to Asia」はオリエンタル趣味ではあるけど、いかにものべたっとしたものじゃなく、大陸的かつキメ細かな音の工夫が同居している。これら新生面を感じる瞬間にも満ちたアルバムだが、例えば「Resistance」のような、これまでの彼らの王道的な曲調を、さらに磨き上げた作品も収められている。

なお“Human System”という言葉は造語だそうだが、宇宙から俯瞰した地球、国、街、人、といった関係性とは逆に、人から街、国、地球、と、あくまで人間から始まる繋がりをイメージしてのものだったようだ。アルバムを制作するにあたり小室がインスパイアされたのは、『アウトサイダー』などでも知られるイギリスの作家、コリン・ウィルソンの『スターシーカーズ』に載っていた気球の話だったそうで、さっそく図書館で借りて読んでみたが、確かに気球に乗って大気圏突破を図る18世紀のモンゴルフィエ兄弟に端を発する実験のことが載っていた。こういう話から、アルバム作りのひとつのアイデアも芽吹くのかと、つくづく思ったものだった。感性の鋭いヒトというのは違うものである。

この作品のあと、小室はしばらくロンドンに居を構え、サントラ制作、さらに当時の音楽シーンがあっと驚いた大作、『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』の制作に入る。

文 / 小貫信昭

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