LIVE SHUTTLE  vol. 161

Report

藤井尚之 テナーサックス1本だけで貫いた潔いライブ。聴かせた“原点の音”

藤井尚之 テナーサックス1本だけで貫いた潔いライブ。聴かせた“原点の音”

藤井尚之 LIVE 2017 foot of the Tower ファイナル
2017年6月11日 東京キネマ倶楽部

今年2月にリリースされたアルバム『foot of the Tower』のツアーが、ついにファイナルを迎える。会場は東京キネマ倶楽部。ステージの左脇には階段のついたバルコニーがあり、いわゆる“ショー”のようなライブには最適の場所だ。1階のフロアには椅子が並べられていて、大人の雰囲気が漂う。よく晴れた日曜日の夕方、リラックスしたオーディエンスたちが会場を満たしていく。

ステージ背後のきれいなドレープを描くカーテンには、真っ赤なライトが当てられている。その前でキーボードの工藤拓人、ギターの古澤衛、ベースの三浦剛、ドラムスの平里修一の4人のバンドメンバーが位置に着く。カーテンのライトがブルーに変わると、ピアノが優雅なフレーズを弾き始めた。追いかけるように、ドラムがワイルドなジャングルビートを叩き始める。するとバルコニーから藤井尚之が登場。サングラスにテナーサックスを持って、まるでアメリカン・シネマの主人公のようだ。挨拶の代わりに、笑顔で客席を指さす。

『foot of the Tower』は、尚之の原点であるテナーサックスを中心に作られたインスト・アルバムだ。サックスにはバリトン、アルト、ソプラノなど、大きさによってたくさんの種類がある。尚之は高くて繊細な音のソプラノや、低くてパワフルなバリトンなど、演奏する音楽によって全種類を使い分けてきた。だが、その原点となっているのは、間違いなくテナーサックスだ。この楽器の可能性をさらに深く追求しようというテーマを掲げて、『foot of the Tower』は作られた。なので、今回のツアーは一体どんなライブになるのだろうという興味が湧いた。

そのテナーを持って現れた尚之は、階段を降りてステージ中央に進むと、ニューアルバムの1曲目「Mission Impossible」を吹き始める。最初から、ブローする。ブローとは、割れた音色を出す、サックスならではの奏法だ。原点に還った尚之は、堂々とその“原点の音”を聴かせたのだった。

2曲目の「Key to the Mystery」は、2004年のアルバム『in the Shadow』からのナンバー。このアルバムは架空の探偵映画のサントラをテーマに作られていて、おそらく「Key to the Mystery」は1曲目の「Mission Impossible」からの流れで選ばれたのだろう。深いリバーブをかけたトワンギー・ギター・サウンドは、スパイ映画やミステリー・ドラマによく使われていて、スリリングな雰囲気を醸しだす。下から照らすライトが、ステージ左側に尚之のシルエットを浮かび上がらせる。芝居がかったキネマ倶楽部の作りに、よく似合う演出だった。

続く「I’m Thirsty」は、1995年のアルバム『Out of My Tree』からのヘビーなロック。尚之は鋭い音色で、バンドのサウンドに切り込んで行く。往年の“キャバレー”のような雰囲気でスタートしたライブが、ここでライブハウスのテイストに切り替わる。

そして最初のシークエンスの締めは、再び『foot of the Tower』からの「迷路」。スピーディなスゥイングビートが会場を熱くする。尚之は正統派のテナーの魅力を振りまく。ピアノ、ギター、ベースの短いソロが強烈なアクセントになって、メリハリの利いた序盤の4曲に大きな拍手が上がったのだった。

「こんばんは、イェー! 久しぶりにこの時間のライブ、いいですね。この素敵な空間でライブをやるのは9年ぶりです。今回は『foot of the Tower』を出してのツアーで、サックスがメインです。この楽器と出会って37年ですよ。その間、いろんな寄り道をしました。あなた方もそうでしょ?」と、いきなりオーディエンスに話題を振ると、場内から笑いが起こる。

「52歳ですよ。この楽器に最後までお世話になろうと思ってます」と決意を語ると、今度は拍手。「今日は、一切歌いません」と言うと、「えーっ!」。「だって俺が歌詞を間違えるのを待ってるんでしょ?」と切り返す。「今日は歌詞を覚えることなく、伸び伸びとやるので、サックスの素晴らしさを存分に楽しんでいただければ嬉しいです」。

このセリフどおり、この日は長年愛用してきたテナーサックス1本だけで貫く、潔いライブになった。

次は爽やかな曲調のコーナーだ。ボサノヴァ風のリズムの「bittersweets」で工藤のエレピがいい味を出すと、それに応えて尚之がブライトなトーンでテナーを吹く。「sigh」ではおおらかなアメリカン・ロックをギターの古澤が奏でると、尚之は牧歌的なフレーズで応じる。このコーナーでは、テナーサックスのストレートな音色の魅力が発揮されたのだった。

「アルバムばかりではなく、今回はライブでもテナーにこだわってます。これは1930年代の楽器で、俺が生まれる前に作られました。今回はその“生音”を堪能してもらおうと思います。サックスの生音って、たまに公園で吹いてる人がいれば聴いたりできるけど、あんまり聴く機会がない。俺もデビューして34年になりますけど、生音を披露したことがなかった。なので、せっかくだから」と尚之は階段を上ってバルコニーに立ち、「遠慮なく盛り上げてね!」とサックスを構える。吹き出したのは、誰もが知っているバッハの名曲「G線上のアリア」だった。

完全なサックスのアカペラだ。息継ぎの音さえも、生で聴こえてくる。尚之の身体が、メロディに反応して自然に動く。凄い迫力だ。アクション付きで演奏されるバッハ作品は、滅多に聴けない。長い時間をかけて練られたメロディは、完全に尚之のものになっている。尚之の音楽を愛する気持ちと、楽器を愛する心が伝わってきて、とても感動的なワンシーンになった。

アカペラで思い切り吹いた後、尚之は階段を降りてステージに戻ると、今度はバンドが加わって、さらに「G線上のアリア」を続ける。その勢いのまま、ビートルズの「Yesterday」、普通はクラシックギターで演奏される「禁じられた遊び」を演奏。終わると、みるみる熱くなった会場から大きな拍手と歓声が尚之に贈られたのだった。

尚之は「生サックス、どうでした? マイクを通しての音よりもいいでしょ」と快心の笑み。

ここから、終盤の盛り上がりに突入。ダイナミックなサックス・プレイを縦横無尽に聴かせる。特に、「あぁ、ツアー、終わっちゃうのか。淋しい」と言って始まったラストの「In the Mood」では抜群のパフォーマンスを見せた。このグレン・ミラー楽団の大ヒット曲は、ブラスバンドが好んで演奏するハッピーなナンバーで、オーディエンスもハンドクラップで参加する。途中、尚之はオーディエンスに口笛でメロディを吹くことを強要。「こんなにみんなで吹くと、この辺の犬が集まってきちゃうかも」と笑わせる。爽快なエンディングになった。

ここまでの1時間半を、尚之はサックス1本で見事にやり遂げたのだった。

アンコールは全員でバルコニーから登場。いよいよラスト・スパートだ。チェッカーズ時代のインスト「FINAL LAP」のイントロで、会場は大喜び。変拍子という珍しいリズムながら、スリルとスピード感を併せ持つ人気曲だ。途中のドラム・ソロを初め、ツアーを共にしてきたメンバーも、尚之との演奏を大いに楽しんでいる。

「素晴らしいバンド、スタッフに恵まれて、お客さんと楽しいひと時が過ごせました。ありがとう。お別れには、大好きな曲を」と、シンディ・ローパーの「Time After Time」を思いを込めて演奏する。歌心あふれる尚之のテナーに、オーディエンスはもちろん、メンバーもスタッフも聴き入っていた。

約2時間。インストでここまで楽しめるライブには、なかなか出会えない。藤井尚之ならではのツアー・ファイナルだった。

文 / 平山雄一

藤井尚之 LIVE 2017 foot of the Tower ファイナル
2017年6月11日 東京キネマ倶楽部

セットリスト

1.Mission Impossible Theme
2.Key to the Mystery
3.I’m Thirsty
4.迷路   
5.bittersweets
6.sigh
7.Gazing at the night bridge
8.Night Flight     
9.G線上のアリア
10.Yesterday
11.Romance Anonimo(映画「禁じられた遊び」のテーマ)
12.BACK
13.Borderless
14.SPACECAKE
15.In the Mood
EC1.FINAL LAP
EC2.MACH MOO! MOO!
EC3.Time After Time

その他の藤井尚之の作品はこちらへ

藤井尚之

1964年12月27日 福岡県生まれ。 ’83年 チェッカーズ としてデビュー。 1992年バンド解散後、東宝映画「教祖誕生」のサウンドトラックを制作し、本格的にソロ活動を開始。 その後、シングル・アルバムのリリースや全国ツアー開催、楽曲提供など音楽活動を展開。 2011年にThe TRAVELLERSとのコラボレーションアルバム第1弾「RUBBER TOWN」、2013年には第2弾アルバム「El Camino」をリリース。ソロ活動とは別にThe TRAVELLERSとのライブ活動も精力的に続けている。 また、様々なアーティストとのユニットでのリリースも多く、F-BLOOD(藤井フミヤ)をはじめ、アブラーズ(武内享、大土井裕二)、Non Chords(後藤次利、斉藤ノヴ)、SLUG & SALT(屋敷豪太、有賀啓雄、松本圭司、飯尾芳史)、De Niro(朝本浩文)、The Nature Sound Orchestra(ジョー奥田、高橋全)など常に新しい音楽を求め、斬新な作品を生み出している。2017年2月に、アルバム『foot of the Tower』リリース。
6月21日に、F-BLOODとして実に9年ぶりのアルバム『POP’N’ROLL』をリリース。9月からはツアーがスタートする。

オフィシャルサイトhttp://naoyukifujii.net
http://f-blood.net

vol.160
vol.161
vol.162