時代を映したポップスの匠たち  vol. 24

Column

<最終回>加藤和彦の「不思議な日」と日本人の季節感

<最終回>加藤和彦の「不思議な日」と日本人の季節感

日本は季節の移り変わりがはっきりしていて、その影響が生活のあらゆる面に及んでいる。

南の島や極北の地に暮らす人たちにとっては、季節ごとの変化といっても、暑いともっと暑い、かなり寒いとひどく寒いのちがいくらいしかないが、日本では寒い、涼しい、暖かい、暑いを基本として、その間にさまざまな階調がある。

季節によって衣服を調節しなければならないのはもちろん、外出行動から食べ物まで、知らず知らずのうちに季節の影響を受けている。季節に合わせて生まれた行事が、いっそう季節感をかきたてるところもある。もちろん音楽も例外ではない。

ポップスの季節感については、このコラムでいつもふれているとおり、春夏秋冬、それぞれの季節ごとに風物をおりこんだ歌がたくさん作られている。

すべての季節を歌いこんだ歌もある。いちばんよく知られているのは「四季の歌」だろう。覚えやすいメロディのこの曲は、芹洋子がうたって広まったが、いまでは多くの歌手にうたわれて、歌謡曲のスタンダードとしておなじみだ。

歌で季節の歩みをたどりながら、人は季節感を確認し、過ぎし日の出来事を思い出し、歳月の流れを感じる。ヴィヴァルディの組曲「四季」やタンゴの「ブエノスアイレスの四季」も人気がある。どちらも本国以上に人気があるのは日本だと冗談まじりで言われるのも、理由のないことではない。

四季を愛でる作品としては、歌ではないが、古くは清少納言の『枕草子』がよく知られている。春はあけぼの…ではじまる一節が『枕草子』の冒頭の第一段に置かれていることからも、彼女が季節感を重要視していたことがわかる。

清少納言と同時代を生きた小説家の紫式部も、鴨長明や吉田兼好ら、後の時代の随筆家たちも、彼女に負けず劣らず季節の移り変わりに気を配った文章を残している。江戸時代に広まった俳句にいたっては、季語を入れるという約束事まで作ってしまった。

話を音楽に戻すと、純邦楽の箏曲には「四季の曲」があるし、明治時代に作られ、いまもよくうたわれる滝廉太郎の「花」は、もともと歌曲集「四季」の中の1曲だった。合唱に関心ある人なら、合唱組曲の「心の四季」をうたったことがあるかもしれない。

フォーク系のシンガー・ソングライターで、四季が登場する曲を作ったのは、加藤和彦がはじめてではないかと思う。松山猛が作詞した「不思議な日」という曲だ。この曲はまず小野和子のシングル「みんな愛されるため」のB面で「ふしぎな日」という表記で発表され、後に加藤和彦のヴァージョンが登場した。アルバムでは『スーパー・ガス』(1971)に、シングルでは「家をつくるなら」(1973)のB面に収録されている。

1968年10月にフォーク・クルセダーズが 解散した後、加藤和彦が歴史的に再び大きく脚光を浴びるのは、サディスティック・ミカ・バンド時代の『黒船』(1974)を発表したときだが、彼はその間もソロ活動だけでなく、吉田拓郎をはじめ他のアーティストに作・編曲・プロデュース面で関わっていた。べッツィ&クリスの「白い色は恋人の色」、彼と北山修の連名による「あの素晴らしい愛をもう一度」などはフォークのスタンダード中のスタンダードであり、彼はソングライターとして最も充実した時期を過ごしていた。小野和子に提供された「ふしぎな日」もその時期に作られた名曲のひとつだ。

当時の加藤和彦のニックネームはトノバンだった。それはスコットランドのフォーク・シンガー、ドノヴァンからとられたもので、音楽的にドノヴァン色の強い仕上がりのこの曲を聞くと、そのニックネームがなるほどと思える。

歌詞は、花が咲く春からはじまって、夏、秋、冬へと進んで行く。描かれた自然現象は、詩的に表現されているとはいえ、特に不思議なものではない。しかし子供の目から見れば、雲が天使や鳥に姿を変える自然現象は不思議の連続に他ならない。

同じように四季の歌とはいえ、歌が人事中心に展開する「四季の歌」とちがって、自然の変化そのものを驚きの目でとらえているところが、この歌詞の新しさだった。加藤和彦の透明感ある歌声とギターも素晴らしく、当時の彼のステージで最も人気の高い曲だったのもうなづける。もっともっと評価されていい曲だと思う。

さて、1970年前後に日本のポップスに起こった大きな変化をさまざまな角度からとりあげ、半年間続けてきたこのコラムは今回が最終回。語りきれないことはまだまだたくさんあるが、機会があればまたどこかでお目にかかれたら幸いだ。お読みくださったみなさん、どうもありがとうございました。

文 / 北中正和

「不思議な日」(アルバム『加藤和彦 作品集』より)

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サディスティク・ミカ・バンド 『黒船』

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