LIVE SHUTTLE  vol. 172

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チャットモンチー 音楽作りの“秘密基地”に招待されたかのような、温かくもスリリングな一夜

チャットモンチー 音楽作りの“秘密基地”に招待されたかのような、温かくもスリリングな一夜

「チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017」
2017年6月19日 EX THEATER ROPPONGI

2005年、3ピースバンドとしてメジャー・デビューしたチャットモンチーは、2011年にオリジナル・メンバーのドラム高橋久美子が脱退。普通のバンドなら次のドラマーを探すところだが、直後のツアーを橋本絵莉子と福岡晃子の2人だけで敢行。そればかりか、翌年には2人で制作したオリジナル・アルバム『変身』を発表。デイリーチャート1位を獲得して音楽ファンの度肝を抜いた。 

この大胆な挑戦はその後も続き、サポート・メンバーとのフレキシブルな活動の中で2015年、10周年記念の武道館ライブを開催して大成功を収めた。

昨年9月の“中津川THE SOLAR BUDOKAN2016”では、再び2人に戻って「チャットモンチー・メカ」として出演。マニュアル(手弾き)とコンピュータ打ち込み音源で、たった2人だけでチャットモンチーのナンバーを演奏してみせた。その新しい試みは音楽シーンに衝撃を与えると同時に、メンバーにも大きな刺激となったようで、11月に今回の“チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017”が発表された。中津川で得た手応えを、橋本と福岡が「もっといろんなリスナーに楽しんで欲しい」と直感したところからこのツアーは企画されたのだろう。実際、ツアー終盤の6月19日、東京EX THEATER ROPPONGIでのライブも、冒険心に富んだスリリングな内容になった。 

ステージ上にはシンセやドラム、PCやギターに加えて、植物の鉢や雑貨、小さなバイクなどが並べられていて、“秘密基地”のざわざわワクワクするような雰囲気を醸し出している。そこへ橋本と福岡の2人がスッと登場して、それぞれのシンセの前に向かい合って座る。打ち込み音源と2人の手弾きシンセによる「レディナビゲーション」でライブがスタート。橋本のボーカルの正確な音程とリズムが、機械仕掛けのサウンドによく似合う。バンドとは異なるが、手弾きのシンセによる独特のグルーヴが心地よい。サビでは橋本と福岡の声がきれいに響き合う。このスタイルならではの“音楽の美しさ”を、オープニングからいきなり味わわせてくれたのだった。

橋本 みなさん、チャットモンチーです。なんと東京のライブは、ワンマンの武道館ぶりです。

福岡 言われてみれば、そう。あの時はメンバーが6人だったけど、今日は2人のチャットモンチー・メカで、みんな、思い通りのポカーン顔!(笑) 最も苦手な“メカ”だけど、思ってるより肉体的です。最後まで楽しんでってください。

苦手どころか、その後も快調にチャットモンチー・メカは、“機械”と力を合わせて突き進む。橋本がエレピを弾き、そこに福岡がシンセで彩りを添える「隣の女」では、4つ打ちのリズムの形を取りながらスネアドラムをカットするなど、変則的な打ち込みを採用。おなじみの曲を、チャットモンチー・メカ流にアップデートするという強い意志を前面に押し出す。

それでいて、福岡が「チャットモンチー・メカに慣れて来た? どんなライブになるかわからんのに、チケット買って観に来てくれて、ありがと!」とオーディエンスに感謝の言葉を述べる。自分たちの音楽を貫く頑固さと、それを支持してくれるファンへの心遣いを並び立たせているところがいい。オーディエンスも、このツアーのためにアップデートされた曲たちを、一緒に歌ったりしながら心から楽しんでいる。

橋本がアコースティック・ギターを持ち、福岡がエレキベースを弾く完全マニュアル演奏の「いたちごっこ」があったり、福岡がドラムを叩き、橋本がエレキギターを弾く「8cmのピンヒール」があったり、楽器の編成は曲とアレンジに合わせて自由自在に変化する。それにしても、歌いながらキーボードで複雑なフレーズを弾く2人を見ていると、ライブに備えてどれだけ練習しているのかが伝わってくる。というより、自分たちの奏でたいサウンドを妥協なく追求する2人のミュージシャンシップに胸を打たれる。

一方で、橋本が上京して初めて六本木を歩いたときに「ここは日本じゃない!」と思ったという面白エピソードを披露したり、“とくしまマラソン公式テーマソング”の「とまらん」を歌う前に、「歌詞は全部、阿波弁なので、調べてください」と福岡がコメントしたり、ほんわかしたユーモアがライブの進行を楽しくする。友達に話しかけるような口調のMCが、音楽と同じくらい魅力的だ。

ライブが終盤に進むにつれて、演奏に力がみなぎってくる。中でも迫力があったのは、最新シングル「Magical Fiction」だった。

この曲は跳ねたグルーヴを持つダンスナンバーで、マニュアルのドラム、シンセと、打ち込みのベースががっちり噛み合って、オーディエンスの身体を揺さぶる。

そのグルーヴに乗って♪どんな失敗にも最高のさよならを♪という、さまざまな悩みを吹き飛ばす力強い歌詞が歌われる。お笑いを見ていて、何もかも忘れて楽しみながらこの歌詞を書いたと福岡が告白するように、夢中になることは人間のパワーを最大限に引き出す魔法だ。活き活きとしたグルーヴと、真実を描くリリックが絡み合って、まさにマジカルなパワーでオーディエンスの心も揺さぶったのだった。

続く「こころとあたま~湯気」、「風吹けば恋」も大熱演で、場内から大きな拍手が起こる。

ラストナンバーは代表曲の「シャングリラ」だった。ライブの途中で橋本が不調を謝るシーンがあったこともあって、福岡が演奏前に「この曲で挽回してくれ!」と気合を入れる。聴いている方は気付かない程度の違和感だったが、律儀に詫びる2人に、場内はかえって熱くなる。そして橋本と福岡は、チャットモンチー・メカならではの「シャングリラ」を用意していた。この曲も、自分たちのやりたい音と、オーディエンスが望む音のバランスを考えてのアレンジに仕上げられていて、アーティストとファンのフェアな関係を反映した演奏が爽快だった。

アンコールは、スチャダラパーとコラボした「M4EVER」で一気に和む。“M”とはマザーのことで、母と息子の会話を題材にしたラップの部分を、橋本と福岡が交互に担当。レイドバックしたスチャダラパーのラップの上を行くゆるふわ系ラップに、会場中がニコニコ顔になる。

ファミリア―な雰囲気に包まれて、2人とも本当に音楽を楽しんでいる。最後の最後は「満月に吠えろ」で、福岡のダイナミックなドラムと、橋本の線の太いギターがしっかりライブを締めくくったのだった。

6年前の“2人体制”のライブでは、ひりひりするような緊張感が支配していたが、今回の“2人体制”は橋本と福岡の音楽作りの“秘密基地”に招待されたかのような親しみやすい楽しさがあった。こんなにも温かくてスリリングなアーティストとファンの関係は他にはない。

しかし橋本の不調はかなり重く、翌日のチャットモンチー・メカのライブはキャンセルされて延期になった。そのことを考えると、この日、最後の1音まで大切に奏でた2人の音楽愛に、大きな拍手を贈りたくなった。

文 / 平山雄一 撮影 / 上山陽介
*写真は7月9日の公演より

「チャットモンチーと機械仕掛けの秘密基地ツアー2017」
2017年6月19日 EX THEATER ROPPONGI

セットリスト
01. レディナビゲーション
02. 隣の女
03. 恋の煙
04. バースデーケーキの上を歩いて帰った
05. とまらん
06. いたちごっこ
07. 染まるよ
08. 変身
09. 8cmのピンヒール
10. 消えない星
11. majority blues
12. Magical Fiction
13. こころとあたま~湯気
14. 風吹けば恋
15. シャングリラ
EN-1. M4EVER
EN-2. 満月に吠えろ

ライブ情報

http://www.chatmonchy.com/live/

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チャットモンチー

2005年メジャーデビュー。2007年リリースの2nd AL.『生命力』に続き、2009年リリースの 3rd AL.『告白』は、オリコン初登場 2位を記録。現在のロックシーンを代表するバンドへと成長を遂げる。2011年にDr.の脱退により、橋本、福岡の2ピース体制となる。2014年には、サポートメンバーを迎えた体制での活動を発表し、6th AL.『共鳴』を2015年にリリース。そしてデビュー10周年の日本武道館公演を行い、2016年には郷里徳島で主催フェスを2daysで初開催。大成功を収めた。最新作は、シングル『Magical Fiction』(2017年4月リリース)。デュオ“橋本絵莉子波多野裕文”(橋本)やユニット“くもゆき”(福岡)での活動、CM歌唱(橋本)や徳島での多目的スペース“OLUYO”の運営(福岡)など、それぞれ多彩な活動を行っている。

オフィシャルサイトhttp://www.chatmonchy.com

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