舞台「黒子のバスケ」OVER-DRIVE  vol. 2

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舞台「黒子のバスケ」再始動!“OVER-DRIVE”する彼らの熱戦をレポート

舞台「黒子のバスケ」再始動!“OVER-DRIVE”する彼らの熱戦をレポート

奇跡の“THE ENCOUNTER (出会い)”から1年、待望の再始動を果たした舞台「黒子のバスケ」OVER-DRIVEは、桐皇学園高校にダブルスコアで大敗し、インターハイ(IH)の夢破れた誠凛高校が、もうひとつの大舞台・ウインターカップ(WC)に向けて再び立ち上がるところからスタート。エースの復帰、激戦のIH準決勝、そして死闘相次ぐWC都予選と、前作以上に全編がクライマックス。
ここでは、6月22日に行われたマスコミ向けのゲネプロをもとに、文字どおり“OVER DRIVE=限界突破”する26人のキャストの熱演をレポートする。

取材・文 / 横川良明 写真 / 引地信彦 渡部俊介
© 藤巻忠俊/集英社・舞台「黒子のバスケ」製作委員会


海常VS桐皇学園。憧れの存在へ、男のプライドを賭けた挑戦

なぜ人はスポーツを観て涙するのか。なぜ人はアスリートを見て美しいと思うのか。その問いに答えを出すとしたら、やはりそれは鍛え上げた肉体を信じ、いままでよりもっと速く、いままでよりもっと高く、いままでよりもっと強くあろうとするその不屈の姿に、まばゆさに似た尊敬と感動を抱くからだろう。

そんなOVER DRIVE=限界突破する選手たちの輝きに、2時間30分、ひたすら胸打ち震える本作。最初に強烈なきらめきを見せてくれたのが、前半の山場である海常VS桐皇学園戦だ。黄瀬涼太(黒羽麻璃央)擁する海常高校と、青峰大輝(小沼将太)擁する桐皇学園高校。IH決勝進出を賭け雌雄を決する両校の激闘は、「キセキの世代」黄瀬と青峰のエース対決となった。

天性の運動神経に恵まれ、天才を自認する黄瀬が初めて勝てないと思った憧れの存在。それが、青峰だった。一度見た技を瞬時に自分のものにしてしまう黄瀬の“模倣(コピー)”も、青峰のプレイスタイルは再現できなかった。そんな青峰との直接対決。それは、ひとりのバスケットプレイヤーとして、ひとりの男として、越えなければならない壁との対峙を意味する。まさに、“OVER DRIVE”という副題そのものの名勝負だ。

普段はキラキラオーラ全開の黄瀬が、この試合だけは別人の顔。青峰を射抜く好戦的な眼差しは、キラキラというよりもギラギラとした男の負けん気が。それを、成長著しい黒羽が好演。決定的な実力差がありながらも食らいつくアスリートの闘志を全身で体現した。迎え討つ青峰も風格たっぷり。この堂々たる存在感は、舞台映えする長身と不遜な表情がよく似合う小沼あってのものだろう。

また、黄瀬を支える海常高校の絆も感涙モノ。普段は女の子のことしか考えていない森山由孝(和合真一)がファインプレイで沸かせれば、主将として力強くチームを率いる笠松幸男(松村龍之介)の悔し泣きが、涙腺を揺さぶる。チームの尊さと、それゆえの残酷さを噛みしめるデットヒートに、まだ前半ながら客席はクライマックスのような感動と熱気に包まれていた。

誠凛VS秀徳。戦いを重ねるたび、彼らは強くたくましくなる

もちろんOVER DRIVE=限界突破するのは、黄瀬たちだけじゃない。前回、青峰との圧倒的な実力差に打ちのめされた黒子テツヤ(小野賢章)ら誠凛高校のメンバーも、もっと強くなるためそれぞれがOVER DRIVEを目指す。

その成長に度肝を抜かされるのが、誠凛VS秀徳戦だ。打倒・青峰を誓った火神大我(安里勇哉)は、跳躍力という天賦の才を徐々に開花させ始める。豪快なダンクシュートを決める火神のシルエットは、漫画のコマをそのままトレースしたよう。途中、見事な左手のボールハンドリングも披露。体力強化のため今年2月から走り込みをしていたという安里だが、こうした些細な一場面からも原作への愛とリスペクトがにじみ出ている。

だが、そんな火神を凌駕するようなOVER DRIVE=限界突破を緑間真太郎(畠山遼)が見せる。第1弾THE ENCOUNTERで誠凛に惜敗した緑間は今度こそ勝利を手にするためにプレイスタイルを一変。従来のスタンドプレーを捨て、チームプレーで黒子らを翻弄する。「あの変人・緑間がパス……!?」という衝撃の大きさこそが、そのまま緑間が前回の試合で感じた悔しさを表している。決して友情といった安直な言葉を使いはしない。だけど、緑間が少しずつ相棒の高尾和成(山田ジェームス武)やチームメイトのことを信頼していく過程を、感情の読み取りづらい緑間のセリフまわしの中から感じさせる畠山の演技が心憎い。試合終了後、いつもの自転車とリヤカーで去っていく緑間と高尾の姿が、いままで以上に愛しく思えたのは、きっと深読みではないはずだ。

誠凛VS霧崎第一。卑劣な悪童を前に、黒子の怒りが静かに爆発!

そんな真剣勝負の数々を嘲笑うようなインパクトで後半を引っ掻き回したのが、悪童・花宮真(太田基裕)率いる霧崎第一高校だ。ライバルたちの苦痛に歪む表情を何よりの快楽とするような花宮のゲスっぷりを、太田が痛快に演じる。ちょっとした首の傾げ方からトレードマークの舌出し、相手を舐め回すような視線の遣い方まで、神経を逆撫でするリアクションのオンパレード。まさに不純物いっさいなしのクズキャラ。これだけ問答無用で外道を極めれば、かえって爽快ですらある。

花宮と対極に位置するのが、本作から初登場の木吉鉄平(河合龍之介)だ。自らを負傷させた張本人を前にしても、決してほかのメンバーのように怒りをむき出しにしない。終始平和的な姿勢を貫くが、それは何も木吉が人格者だからという理由だけではない。むしろ穏やかであればあるほど、その裏側に勝利への執念が垣間見える。タイムリミットが決められている木吉にとって、このWCが仲間と全国制覇を目指せる最後のチャンス。だからこそ、こんなところで負けるわけにはいかない。どんなラフプレーにも声を荒げず、立ち上がり、ボールを追う木吉の姿にもうひとつのOVER DRIVE=限界突破を見た。

そして最後に、とっておきのOVER DRIVE=限界突破を見せたのが、やはりこの人、幻の6人目(シックスマン)黒子テツヤだ。前回の桐皇学園との戦いで、自分の限界を痛感した黒子は、新たな強みを確立すべく、新技“消えるドライブ(バニシングドライブ)”を習得。その初披露シーンは、まさに少年漫画らしい高揚感に満ち溢れていた。存在感がなく、感情の起伏が乏しい黒子は、王道の少年漫画の主人公を思えば、完全な掟破り。だが、伊月俊(松井勇歩)のパスを完全に遮断する花宮の蜘蛛の巣戦術に、一時は絶望しかけたチームメイトを救う姿は、少年漫画のヒーローそのものだ。扮する小野もアニメ時代から演じ続けた当たり役だけに、もはや黒子=小野のような一心同体っぷり。悪辣な花宮を前に、静かな怒りを燃やす黒子の背中は、本作の名場面のひとつだろう。

なぜ人はスポーツを観て涙するのか。なぜ人はアスリートを見て美しいと思うのか。その問いと同じように、なぜ人は演劇を見て涙するのか。なぜ人は舞台に立つ俳優を見て美しいと思うのか。そんな問いが同時に浮かんだ。きっとその答えもまたスポーツと同じだろう。本作に登場するキャストはこの2時間30分の特別な時間を自らの肉体を信じて完全燃焼する。誰よりも速く駆け出し、誰よりも高く跳び、誰よりも強くその場に立つ。想像するだけで酸欠を起こしそうな運動量だ。だが、それでも誰ひとりとして諦めはしない。全員がそれぞれの可能性の向こう側へOVER DRIVE=限界突破する。そのまばゆさに涙が溢れ、心が震える。舞台「黒子のバスケ」OVER-DRIVEは、そんな演劇の根源的な美しさを十分に堪能できる作品に仕上がっている。

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