Interview

Cornelius、11年ぶりの新境地を見せた話題のニュー・アルバム『Mellow Waves』を語る

Cornelius、11年ぶりの新境地を見せた話題のニュー・アルバム『Mellow Waves』を語る

Corneliusのニューアルバムがリリースされる。ついに、とか、待ちに待ったという表現はしかし、11年ぶりのアルバム『Mellow Waves』を聴くと、どこかに吹き飛び、胸の奥深くのしかるべき場所にしっくり収まるのだから驚く。
アナログの7ンチで発表された先行シングルの「あなたがいるなら」と「いつか / どこか」で受けた静かな衝撃が、アルバムでは波紋のように広がり、時空を超えてしまうような不思議な感覚に見舞われるが、今までになく「歌」に比重を置いた作品からは、Cornelius=小山田圭吾自身がぐっと近くに感じられる。
前作『SENSUOUS』以降、様々なプロジェクトで活動しながら、アルバムを丹念につくり続けていた小山田圭吾に、そこに至る過程と心境を訊く。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 板橋淳一


坂本慎太郎・作詞「あなたがいるなら」の静かな衝撃

新作は11年ぶりになりますが、2015年にリミックス/プロデュース/カヴァー/共演/共作などをまとめた『Constellations Of Music』というアルバムで、Corneliusとしての新曲を実は発表していましたね。

そうそう。まったく話題にもならず、誰にも気づかれずに地味に新曲を発表していたんだけど、ほぼスルー、みたいな(笑)。内容はけっこう良いんですけどね。

いやいや。まぁ、その前に『攻殻機動隊 ARISE』(2013年)や『攻殻機動隊 新劇場版』(2015年)のようにインパクトの強い作品を手がけていたし、昨年はMETAFIVEとしても活躍していたから。

Corneliusとしてのアルバムこそ11年ぶりだけど、この間、全然休んでないんだよね。だいたい昼過ぎからスタジオに来て、12時くらいまでというペースで作業して、土日は休んだりしたけど、普通にちゃんと働いてましたよ、この10年。

ニューアルバムの先行シングル「あなたがいるなら」を聴いた時は静かな衝撃を受けました。

地味な曲なんだけどね。アゲアゲな要素が一切ない(笑)。

シングルを7インチのアナログでリリースした理由は?

今までも7インチは出しているんだけど、最近はCDシングルってほぼ作らなくなっているし、何かしらフィジカルなものが欲しいとなると、アナログの7インチかなと。アナログ盤を聴くのって、どこか儀式みたいなところがあるでしょ。レコードに針を落として、真剣に集中して音を聴いてもらえればいいなと思って。デジタルでは精密でクリアーに聴こえるけど、アナログだともう少しアコースティックっぽい感じがするし、聴き比べるのもおもしろいんじゃないかな。あと、僕の叔父さんの銅版画家の中林忠良さんの作品を連作のように見せられたらと思って。

「あなたがいるなら」は作詞が坂本慎太郎さんですが、小山田さんが日本語で、しかも、ラブソングを歌うことに驚きました。

これをつくったのは2年くらい前で、METAFIVEをやる少し前かな。坂本真綾さんが歌った「まだうごく」(『攻殻機動隊 新劇場版』主題歌)のレコーディングが早く終わったんで、作詞をした坂本くんと飲んだんだよね。その時に、僕の次のアルバムでも歌詞を書いてほしいけど、「どういうのがいいのかな」みたいな話になり、坂本くんは「ブルース・ロックとかおもしろいんじゃない?」とか言ってたのかな。

Corneliusがブルース・ロックですか!?

まぁ、ちょっとエモいものという意味だと思うんだけど、「だったら、ラブソングやラブ・バラードもいいよね」という話になり、それをなんとなく頭に思い浮かべながらつくった曲がこれなんですよ。

今までのCorneliusがやっていなかったことを坂本さんは提案したわけですね。

そうだね。坂本くんに初めて作詞を依頼したのは、Salyuのsalyu × salyu (2011年)の時で、それがすごく良かったから『攻殻』でもお願いしたんだけど、最初に坂本くんに歌詞を頼みたいと言ったのはSalyuだったんだよね。僕もずっと一緒に何かできたらと思っていたけど、前はまだバンド(ゆらゆら帝国)があったから難しかったんじゃないかな。その後、バンドを解散して、ソロになる前にsalyu × salyuの歌詞をリハビリがてら手がけてくれて、それ以来の縁というか流れではあるんだよね。

坂本慎太郎さんという存在が、前作から今回のアルバムの間に及ぼした影響は大きいようですね。

一緒にものをつくるパートナーとしてね。ソロで、ギタリストという親近感もあるかな。ブルース・ロックではないけど、今回は今までやってなかった泣きのチョーキングみたいなちょっとエモいギターを弾いてみたりしたしね。

普遍的なラブソングに込めた想い

ニューアルバム『Mellow Waves』は、その「あなたがいるなら」から始まりますが、シンプルなようでいて非常に緻密な音につぶやくようなヴォーカルが合さり、心に沁みるラブソングに仕上がりましたね。

普通にいい歌詞でしょ。坂本くんは、相変わらず狂った世界もあるんだけど、どんどんシンプルで普遍的で、なおかつベタにならないギリギリのところを描く境地になってきているよね。

歌詞をもらった時はどう感じましたか?

仮歌も入ったほぼ完成しているトラックを聴いてもらって、書いてくれたんだけど、完璧だなと思ったし、違和感もまったくなかった。自分が歌詞を書いていないから、こういう歌を歌えるというのはあるけど、そういう距離感でしかできないことってあるからね。坂本くんもそれは同じで、自分で歌うとしたらこういう歌詞はたぶん書かないと思うんだよね。

ラブソングというテーマはどう捉えていましたか?

まぁ、でも、広い意味でのラブソングとして捉えたら、ほとんどの音楽ってそんな感じでしょ。坂本くんが言っていたのは、この頃、プリンスが亡くなったり、自分が子どもの頃に憧れていた人や身近な人が亡くなったりして、いて当たり前のように感じていた人がこの世からいなくなる喪失感がなんとなくあったみたい。坂本くんは僕と同世代だから、その辺りの感覚は共通しているんだよね。

2ndシングルで、小山田さん作詞の「いつか / どこか」もその流れを汲む曲ですね。

そうだね。去年はプリンス、デヴィッド・ボウイ、ジョージ・マイケルと僕らの世代が聴いてきた人たちが次々亡くなったからね。そんな訃報を聞くと何か心のどこあにぽっかり穴が空いたような感じになるじゃない?

今回のアルバムは、まず小山田さんの歌が非常に印象に残りますが、以前は歌うことは苦手だと言っていましたよね?

積極的に歌いたい、というタイプではないんだけど、ここ10年の間にプロデュースや作曲、YOKO ONO PLASTIC ONO BAND、METAFIVEと色々な活動をしてきて、唯一やっていなかったのが歌ものだった、と。そういう消去法的な理由もありつつ、漠然と曲はつくっていたんです。その曲のストックの中から『攻殻』やMETAFIVEの曲になったりもしたんだけど。

小山田さんの曲のファイルはひとつなんですね。

そう。その中から自分が意図的に残しておいた曲が今回のアルバムになるのかな。テンポが早い曲や、テンションが高いというか、圧が強いっていうか、ロックっぽい曲は他のプロジェクトに使ったりしたので、意図的に残しておいた曲に統一感が生まれたような気がする。「いつか / どこか」以外はテンポが遅めで、メロウな質感がどこかにあると思うし。

トレモロが醸し出すメランコリックで既視感のある音像

今作は、エレピのローズやトレモロが随所に効いているのも特色ですね。それがメロウな質感にも繋がり、既視感を呼び覚ます。

そうだね。ローズの音色って1970年代の自分が子どもの頃の記憶を呼び起こす感じがあって、そこにトレモロ感というか、浮遊感が合さったというか。トレモロは『SENSUOUS』の頃から好きで使ってはいたんだけど、今回は無意識のうちに多用していたね。去年のモリッシーの来日ステージで、ギターにトレモロがかかったスミスの「How Soon Is Now?」を聴いたこともきっかけになったかな。それ以来自分でトレモロのプレイリストをつくって、車の中で聴いてたから。

ザ・スミスといえば、小山田さんの青春を彩ったバンドのひとつでは?

そうそう。息子もスミス、好きなんだよね。ああいうセンチメンタルというか、メランコリックというか、マイナー進行の曲の雰囲気が今回はあるかもしれない。

すでに小山田さんの中で血肉となった音楽でもあるわけですよね。

そう。それを今、ちゃんと形にできるようになったってことかな。若い頃よく聴いていた音楽って、ある時期は離れたりするけど、自分の中には確実に残っていて、それを何かのきっかけで混ぜ返してみたらすごく新鮮に感じたりするんだよね。おっさんが昔を懐かしんで聴くというのもないわけじゃないけど(笑)、今聴いて分かることもたくさんあるんだよね。

「未来の人へ」も坂本さん作詞ですが、この歌で描かれた情景に切なくなりつつも、音楽の過去と未来に思いを馳せる気持ちになりました。

中古レコードを買うと、たまに誰のものだか分からないけど、書き込みがあったりするでしょ。歌詞にアンダーラインが引いてあったり、好きな曲に◎がついていたり。どこかの国の見知らぬ誰かのレコードが、縁あって自分のものになり、いずれそれがまた知らない誰かに渡ってゆく…

時空を越えて、レコード=音楽が介在する情景。こういう歌も、キャリアを重ねた人が歌うと響き方が違いますね。

うん。中年が深まってきた感があるよね(笑)。人生の後半に入った自覚はやっぱりあるし、そろそろ遠くにゴールが見えてきたような…(笑)。

いやいや、まだまだ(笑)。

アナログのレコードにはまだモノとしての色気があるんだよね。そう遠くない未来には、「CD出してたんだ?」とか言われそうだしね。でも、CDも何年か後には、今のカセットと同じように見直されるかもしれない。