【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 26

Column

TM NETWORK 最後のオリジナル・アルバムに満ちた鮮度と今こそ聴くべき音楽的な響き

TM NETWORK 最後のオリジナル・アルバムに満ちた鮮度と今こそ聴くべき音楽的な響き

SF映画の告知ポスターのようなこのジャケットを、懐かしい気持ちで眺めている人も多いことだろう。でも本作は、当時を知らない下の世代にも、すこぶる評判がいいそうだ。“古さを感じない”なんて褒め言葉があるけど、もっと積極的に、“今こそ聴くべき”と、そう個人的にもお勧めしたい内容に思う。ちなみにセールス的にも、TM NETWORK史上、もっとも成功した作品である。実は久しぶりに聴いてみて驚いた! 1988年のリリースだが、音楽制作がデジタル化されたものの、過渡期ゆえ人工的な響きになりがちだったあの頃とは思えない、実に音楽的な響きに満ちているのだ。

当時、小室哲哉が単身ロンドンへ渡り、現地でのコネクションを育みつつ、かつてビートルズも使用した「エア・スタジオ」で制作されたことも関係あるだろう。そこには新しさだけに飛びつかない気風があった。実際、この作品は60年代に使っていた真空管式の機材なども駆使され、最終的にアナログ・マスターとして残されたのだった。もしデジタル・マスターだったら、当時のフォーマット的な意味でも限界が…、みたいな話は、興味が分れるところだろうから、こんな例え話はどうだろう。

ロンドン市街の、王室御用達の老舗の傘屋さんを想像してみて欲しい。そこには妥協を許さぬ職人がいて、手間を惜しまず作業を続けてる。デザイン的には適度に流行を取り入れるが、その傘は造りが違い、一生モノだ。扱うものは「音」だけど、小室が作業した「エア・スタジオ」にも、まったく同じことが言えたわけだ。

この作品は“CAROL”と呼ばれるが、正式タイトルは『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』である。アルバムを通してひとつのストーリーが設定されており、主人公はキャロルという女の子。舞台はロンドン郊外の古都・バースで、時はアルバム・リリースの3年後の1991年。メディア・ミックスというか、メンバーの木根尚登が小説化した単行本も、同時期に出版されている。

ただ、あくまでこのストーリーは、全体のイメージとしてあったものであり、歌詞が起承転結を踏み結末へと進むわけじゃない。ミヒャエル・エンデの『モモ』や、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』あたりからインスパイアされたとおぼしき要素も感じる。

さっそく聴いてみよう。オープニングの「A DAY IN THE GIRL’S LIFE(永遠の一瞬)」が始まった瞬間、まず豊かな音像に感激することだろう。扇型に拡がる各楽器の定位と、それぞれの音の粒立ちがいい。そのまま「CAROL (CAROL’S THEME I)のメランコリックな世界観へ移行して、モータウンのような跳ねるビートの「CHASE IN LABYRINTH (闇のラビリンス)」では、一気に周囲の景色がカラフルな印象となる(サブ・タイトルは“闇の〜”、だけど)。

さらに「GIA CORM FILLIPPO DIA (DEVIL’S CARNIVAL)」は、行進しながら踊れそうなサンバのビート。カラっとしてくるわけで、そしてそして「Come On Let’s Dance」との繋がりも感じられる「COME ON EVERYBODY」には、このグループが皆を“♪カモォ〜ン!”と誘ってくれる時の有無を言わせぬ説得力がある。受けて立つ我々としてはパブロフの犬的に腰が動いちゃう。ちなみに♪ヒャヒャン♪という印象的な音(オーケストラヒット)が多様されたアレンジなんだけど、こういうことこそ時間経つと古色蒼然とするはずなのに、築地直送のように鮮度バツグンだ。「BEYOND THE TIME (EXPANDED VERSION)」は歌詞の一語一語が胸に滲みるミディアム・テンポの作品なのだけど、運命も未来されも変えられるという、とても強いメッセージが伝わる。

「SEVEN DAYS WAR (FOUR PIECES BAND MIX)」は、風が凪いでるような朴訥とした前半から、湖面に波紋が見え始めるようてコードの動きが出てきて、そして有名なサビへ至るまでの展開が印象的だ。このサビのメロディには、教会音楽的な祈りの要素がたっぷり染み込んでいて、聴く者の心をしっかり受け止める。

コーラス・ワークも凝った「YOU’RE THE BEST」を“励ましソング”と捉えた場合、でもここにある言葉はけして浮ついたものではない。宇都宮隆のボーカリストとしての矜持が感じられる「WINTER COMES AROUND (冬の一日)」は、まさに名唱と思う。この歌を聴いていると、このままこの歌の世界観に浸らせてぇ〜、と思ってしまうが、「IN THE FOREST (君の声が聞こえる)」が始まるのだった。でもイントロがたっぷり取られていて、その間、前の曲の余韻に浸れるのだった。

ここで再び主人公のテーマ曲である「CAROL (CAROL’S THEME II)」が登場し、ゆったりしつつもファンファーレ的な高鳴りも含んだ「JUST ONE VICTORY (たったひとつの勝利)」へと続いていく。この曲は、そろそろストーリーが結末へ向け、まとまっていくことを予感させる。でも最後の「STILL LOVE HER (失われた風景)」は、大団円、というわけじゃなく、ロンドンでの何気ない日常を描きつつ、今は居ない恋人にむけて歌いかける感傷的な作品となっている。このアルバムがリリースされたのは冬。この歌の景色も同じだ。なおこの曲は、木根尚登のハーモニカが実に味わい深い。

本作は、TM NETWORKのオリジナル・アルバムとしては最後のものであり、90年代に入ると、彼らはTMNの名前で活動に入る。いま、『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』は高音質CDとして出し直され、1,944円(税込)(*)で手に入る。“今こそ聴くべき”と、そう個人的にもお勧めしたいのは、それもあってのことなのだ。

文 / 小貫信昭

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